鈴置論考で見る韓国大統領罷免と「いつもの左右対決」
今月、韓国で尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領が罷免され、韓国の政情不安が懸念されるなかで、待望の鈴置論考が出てきました。まず、前提として知っておくべきは、鈴置氏が韓国ウォッチングに「米中」という重要なファクターを追加したという事実です。これは間違いなく、鈴置氏の功績であり、一貫した冷静な視線で韓国観察を続ける鈴置論考の役割の重要性はますます高まるばかり。しかし、肝心の日本の政権はというと…。
目次
尹錫悦大統領、罷免!
世界中がトランプ関税の騒動に目を取られているすきに、じつは、わが国の隣国では、大変なことが発生していました。国会により弾劾訴追されていた尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領が4日、憲法裁判所から罷免を宣告され、大統領職を解かれてしまったのです。
直接の契機は昨年12月3日深夜に尹錫悦氏が発布した戒厳令ですが、これに対し、国会は即座に戒厳令の解除を要求。翌・4日未明に戒厳令は解除され、同月14日には国会で弾劾訴追案が可決され、尹錫悦氏は大統領としての職務が停止。
ことし1月には本人が戒厳令に関連し警察当局に逮捕されるなどの事態も生じています(ただし身柄は3月に釈放)。
この一連の騒動を含め、尹錫悦氏の「事績」や「功罪」などを巡っては、さまざまな評価があることは間違いありません。
とりわけわが国の(「自称」を含む)「保守論壇」は、尹錫悦氏の前任者である文在寅(ぶん・ざいいん)前大統領の対日外交があまりに酷かったことから、そことの対比で、「日本としても尹錫悦政権を全力で支え、応援すべきだ」といった声も出ていたことは間違いありません。
ことに、尹錫悦政権下で2023年、自称元徴用工問題が「解決」(?)したことを受け、日本政府も韓国に対する輸出管理の適正化措置を(国民の圧倒的多数の反対を押し切って)再び「ホワイト国への追加」などの措置を講じたりしています。
また、表面的には韓国の反日がかなり収まった(かに見えた)ことも、こうした「日韓雪解けムード」を演じる要因なのでしょう。
日本にとって朝鮮半島は鬼門
しかしながら、この一連の流れについては、尹錫悦氏個人の事績などをもとに、「日韓関係が改善する流れを作った」だの、「日本は韓国で保守政権が誕生するのを支援すべきだ」だのと安易に決めつけるべきではありません。
国と国との関係というものは、縦の文脈(歴史的経緯)と横の文脈(地政学的状況)をもとに、相手国と基本的価値や戦略的利益を共有し得るかどうか、という観点から評価しなければならないからです。
少なくとも戦後に関していえば、韓国、あるいは1948年の大韓民国建国前の朝鮮半島の38度線以南部分の地域は、日本にとっては中国やソ連(現・ロシア)といった共産圏と対峙するうえでの緩衝地帯としての役割を期待されていたことは間違いありません(彼らがその役割を果たしたかどうかは別として)。
ただ、それと同時に朝鮮半島は日本にとって、戦後も厄介なもめ事をもたらす、鬼門のような地域であったこともまた事実でしょう。
朝鮮半島の38度線以北に1948年に成立した北朝鮮は、建国直後の1950年に朝鮮戦争を起こしていますし、朝鮮戦争が長引いた要因は韓国軍による強引な北進とそれが中国義勇兵の参戦を招いたことにあった、などと指摘する戦史研究家らもいるほどです。
また、韓国は日本領である島根県竹島を1952年の「李承晩(り・しょうばん)ライン」宣言以降、不法占拠し続けていますし、自称元慰安婦問題や自称元徴用工問題といった揉め事を発生させ、それで国際社会で日本の名誉と尊厳を傷つけまくっています。
(※余談ですが、北朝鮮に至っては、日本人を含めた無辜の一般市民を大量に拉致し、世界各地でテロを起こし、核・ミサイルを開発し、暗号資産の窃盗を続けるなど、不法行為の限りを続けているのです。)
日本にとって「韓国は大事なパートナー」?それとも…
ちなみにこうした事実を指摘すると、必ず、こんなことを主張する人が出てきます。
「でも、中国やロシアの軍事的台頭、北朝鮮の拉致問題、核、ミサイル開発などに対抗するためには、韓国との連携が絶対に必要だ。韓国は日本にとって大事なパートナーだ」。
これ、注意が必要です。「現在の」日本にとって、軍事的にみて、韓国との連携が必要であることはもちろんその通りです。
ミサイル発射ひとつとってみても、日本だけでなく韓国における観測データによる監視体制が必要ですし、また、在日米軍と在韓米軍は有機的一体として機能しているため、日韓(あるいは日米韓)防衛協力が崩れるべきではありません。
ただ、なにごとも受容限度というものがあります。
日本にとって韓国は、国際法などの原理原則を捻じ曲げてでも、あるいはやってもいない「過去の戦争犯罪」を無理やり謝ってでも、良好な関係を維持しなければならない程度の重要性がある相手国ではないからです。
たとえば、案外知られていませんが、「ヒト、モノ、カネ」という側面から見て、日本にとって韓国は「最も重要な国」ではありません。
とくに「カネ」という側面からいえば、日本の銀行にとって、韓国は重要な与信相手国ではありません。
日銀が四半期に1度公表している『国際与信統計』(CBS)の日本集計分によれば、邦銀の韓国に対する与信(最終リスクベース)は2024年12月末時点で453億ドルで、これは邦銀の対外与信総額(5兆1334億ドル)の1%にも満たない額です(図表1)。
図表1 邦銀の対外与信相手国一覧(上位20件、2024年12月末時点、最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
邦銀は韓国に対する与信を絞ってきた
ちなみに邦銀にとって韓国は2011年頃をピークに金額、与信シェアともに下がり続けており(図表2)、とくに対外与信全体に占める韓国のシェアは2012年9月の1.90%をピークに低下の一途をたどっていることがわかります。
図表2 韓国に対する与信状況(最終リスクベース)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
いずれにせよ、著者自身、韓国は地政学的にみて、「現在は」関係を断絶することが難しいことは間違いないと思う反面、国際法を破る、日本の尊厳を踏みにじる、ありもしない過去を捏造するなどの不法行為を韓国がやめない限りは、必要最小限のお付き合いにとどめるのが正解だと考えています。
そして、実際、日本企業も(統計データで見る限りは)こうした付き合い方を続けているようです。
待望の鈴置論考・最新版
ただ、著者自身がこうした考えを持つに至るまでには、そこそこの試行錯誤があったことも事実です。
とくに、わが国の外交には「中国や韓国、北朝鮮などの近隣国との関係を大事にすべきだ」とする、(おそらくは外務省発の)長い伝統がありましたし、国民もマスメディアを通じ、こうした印象操作を受け続けてきたフシがあるからです。
しかし、やはり「この人しかいない」という論者は必ず出現するものです。
著者自身が2016年7月から当ウェブサイトを続けている重要なきっかけを作ったのが、韓国観察者と名乗る鈴置高史氏であり、その鈴置氏が昨日、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、待望の新論考を寄稿しているのです。
媚中か親米か…「トランプ関税」で分裂の韓国 ドタバタの大統領選に現れた“台風の目”とは
―――2025年04月17日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より
記事自体はリード文を含め約6000文字と濃厚ですが、朝鮮半島問題に関心がある方であれば、あっという間に読了でき、読み終わった後でむしろ「もっと読みたい」「続きが知りたい」という衝動に駆られるのではないかと思います。
今回のテーマは尹錫悦大統領の罷免により韓国の左右対立に火が付き、中国の顔色をうかがう左派と米国との同盟強化を模索する保守派の対決が激化しているという韓国の内情に触れたものです。
(※余談ですが、この韓国の「いつもの左右対決」、まるで李朝末期の党派抗争のようにも見えてならないのですが、いかがでしょうか。)
ただ、記事を読む前提としてお伝えしておかねばならない点があるとすれば、そもそも「日韓関係」「南北関係」などに焦点が当たりがちな韓国論に、「米国」「中国」という、極めて重要な2つのファクターを導入する重要なきっかけを作ったのが鈴置氏その人だった、という点です。
正直、この視点は「目からウロコ」モノです。
一見すると韓国の奇妙な行動も、結局は同国内の左右対決という文脈で驚くほどスッキリと整理・説明ができるのであり、その意味では鈴置氏の主張の一貫性と説得力の高さには納得せざるを得ません。
尹錫悦氏罷免といつもの左右対決、そしてトランプ氏のディール
そんな鈴置論考が今回扱うテーマは、尹錫悦氏の罷免だけでなく、トランプ大統領のディールです。
鈴置氏によると、いちおう、現時点において韓悳洙(かん・とくしゅ)首相も米国との関係を重視し、自身のFacebookに次のように書き込んだのだそうです。
「報復関税で強硬対応する国もあるが、韓米同盟を安保同盟から経済同盟へと格上げしていくことの方が賢明な解決策」。
ただ、いつものとおり、韓国の左派側からは、こうした姿勢に異論がいるのだそうであり、たとえば韓国の左派紙『ハンギョレ新聞』からは、いわば、米国に対し「中国側に行くぞ」と脅して譲歩を引き出すべし、などと主張する論説が出てきた、などとも記載されています。
まったく、頭が痛い限りです。
ちなみに韓国の態度について、私たち日本人も無関心ではいられない理由は、他にもあります。それが、この記述です。
「米中激突が貿易戦争に留まらないからと思われます。米国は中国との本当の戦争にも着々と備えている。米軍関係者の間からは、台湾有事の際には韓国にも協力させるべきだとの声が上がり始めています」。
…。
はて。
「台湾有事に際し、韓国も協力しろ」と要求し、韓国がそれに応じるモノなのでしょうか。
想像するに、鈴置氏自身もこの文章を書いていて、「協力しろと要求してやすやすと協力する」ほどに韓国が甘い国だと考えていることはないでしょう。
実際、鈴置論考では韓国国内の空気について、こんな描写があるからです。
「韓国では「台湾有事の際の助っ人は日本に任せておけばいい」とほとんどの人が考えている。韓国は北朝鮮と対峙していることで韓米同盟の義務は十分に果たしている、との理屈です」。
おそらくは、これが実情に極めて近いのでしょう。
肝心の日本の政権がこれでは…
もちろん、尹錫悦政権以降は、(韓悳洙・現首相なのか、それとも左派政治家なのかを含め)誰が韓国の大統領としてあの国をハンドリングするのかはわかりませんが、誰が次の大統領になっても右往左往という状況はあまり変わりそうにありません。
しかも、とても残念な話、現在の日本の首相も求心力の低下が激しく(※これは首相自身の自業自得のようなものです)、こうしたなかで中国の暴発を契機とする台湾有事が生じることは、本当に由々しき事態でもあるのです。
その意味では、一貫した視線で韓国観察を続ける鈴置氏の論考の重要性はますます高まっているのですが、それを政権関係者が読み、適切な措置を講じることができる状況なのかといえば、それも非常に微妙ではないか、などと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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日本の政治も、米中という重要なファクターが追加されるのでしょうか。
石(日本)を叩いて破壊する首相だったということ。
本人は、いろいろなところが極めて軽いのに、一撃は重い。
何というチート。
石破首相も操ってる岸田前首相も親中韓ですから、日和ろうとするでしょうね。
トランプは関税を韓国に25% 日本は24%と設定しましたが、これは親中を意識したと思います。
いかに中国に影響を受けているかが関税に反映された結果と思います。そんなこと考えない石破政権は岩屋と組んで親中を進めていく方針のようです。
韓国の次の大統領選挙で反米、反日的な左派系の大統領が誕生すれば、面白いことになるのかもしれません。トランプ政権が強力な波動砲を発射すれば、韓国なんて木星の浮遊大陸のようにあっという間に粉々に粉砕されるとおもうのは、わたしだけでしょうか?米中が争っているときに日本は恩恵を受けるのが歴史の法則です。韓国たたきは米国に任せて、日本は国益重視のが外交をすればいい。
まぁ他国より自国の心配をした方がいいと思う
しょせん他国のことはどうにもならない
>――見出し通りに韓国はワンチームになるのでしょうか?
確かに、そのようであれば、彼は名実ともに「ワイルド・カード」なのかと。
けれども夢物騙りの作者は、いつだって「ジョーカー(冗談を云う人)」です。
*解かってて書いてる(確信犯)んですものね。
4月5日付日経新聞の春秋欄に、韓国人の思考方法について以下の事が書かれていました。
「韓国社会は理(ことわり)を糾(ただ)して是非を論じることを基調とし、抽象的な思考にたけた指導力を競う。論理的な説得力が求められるグローバル化やデジタル化で、彼の国が日本の先を行く一因であろう。」
韓国人は論理的な思考力に優れているかのような表現ですが、韓国人にはそれぞれの理(ことわり)が無数にあって、それぞれの個人の頭にも色々な理(ことわり)の引き出しが幾つもあるようです。
特に相手が権力者であったり格下であったり、ウリかナムかとかで都合よく理(ことわり)を自在に使い分けるという特技があります。
他人に対する警戒心が薄い日本人は、今までさんざん韓国式理(ことわり)に翻弄されてきました。次の有力な大統領候補である左派系の方も最近私は日本が好きだなどと世迷言をおっしゃっているようですが、ネバネバ総理は簡単に引っ掛かりそうです。
韓国の大統領選挙が6月、日本の参議院選挙が7月ですから何とか間に合いそうですね。
自民党が惨敗して石破政権が崩壊すればの話ですが。
しかし、次の首相候補も宏池会主導で決まるようでしたら、韓国式理(ことわり)に引っ掛かる予感しかしませんね。
日経のコラムを担当している人は韓国式理(ことわり)に洗脳されてしまっているのでしょうか?
日経は、日本と日本人を愚弄するのが習い性になった不愉快なメディアです。
>韓国社会は理(ことわり)を糾(ただ)して是非を論じることを基調とし、
世迷い言ですね。彼らはウリナムと利益と格から屁理屈をこねているだけなのですけどね。
それって、マスコミ自身の思考方法ととても似てるんですよね。
なので、日経が彼らの論理思考を絶賛するのはよくわかります。(笑)
マスコミ内に彼らがたくさん入り込んでいるのでは、と邪推する理由でもあります。
韓国人は理というものを根本的に履き違えてるだけですわな。
なにかと韓国を無理やり持ち上げてる輩の気が知れませんな。
日本に生まれて日本の義務教育受けて順当に成長すれば、コラムに書かれた韓国社会の理念なんぞ他のコメント通り世迷言、屁理屈に過ぎない、の一言で終わります。
理を糾す、までは科学として正しいありようではあるが、抽象的な思考に長けた指導力を競うってのは耳障り良いこと言ったもの勝ちになるという道を辿るのに気づかないのか?
耳障りのいい言葉に踊らされる民が多数派だから韓国があの様なのがなぜわからない?
雑に集まってデモやって、何百年か前に欧州でやってきた政治が先進国の政治だと思っていますってコラムで表明してることに気付いているんだろうか?