マスコミの現状は専門性の欠如と無策の「当然の帰結」

新聞、テレビが情報発信の世界において圧倒的優位を握っていた時代は、もう完全に終わりを告げたと考えて良いのではないでしょうか。情報発信を誰でも低コストで始められるネット空間において、ウェブ評論サイトが次々と立ち上がっていることなどを踏まえると、独占競争を前提に殿様商売を続けて来たオールドメディアに付加価値はもたらせない時代が到来しているからです。

数値化できるものは数値で

当ウェブサイトは「読んでくださった方々の知的好奇心を刺激することを目的とする金融評論サイト」と名乗っているとおり、基本的には金融に主軸を置きつつも、国内政治や経済、外交、税制など、さまざまな分野をテーマに選んで研究しているサイトです。

ただ、テーマが何であれ、アプローチ自体は共通しています。

それは、「数字」です。

当ウェブサイトが類似の評論サイト、ブログサイト等と異なる点のひとつは、当ウェブサイトにおける議論では可能な限り、数値化できるものは数値化しようとすると努力する、という点だと思います(といっても、これは「努力目標」のようなものであり、常にそれが可能なわけではありませんが…)。

こうした観点からは、先の選挙で国民民主党が大躍進したことによる「所得税法上の年収の壁」問題などは、当ウェブサイトにとっては得意分野のひとつであり、たとえば『公約にない?立憲民主党の「国民年金相当額給付」法案』などでも触れた「年収と手取りの関係」に関するシミュレーションなどもその一例でしょう。

新聞、テレビの専門性の欠如

なぜ著者自身がこんなサイトを運営しているのかといえば、もともとは、情報媒体としての新聞、テレビに強い不満を持っていたからです。

その最たるものは、「専門性の欠如」でしょう。

(読者の皆さまに信じてもらえるかどうかは別として)著者は(いちおう)公認会計士であり、専門書籍の執筆経験もありますが、こうした立場からすれば、新聞やテレビが2000年代前半にしきりに流していた不良債権問題の報道には、強い不満を抱いていました。

用語がデタラメでハチャメチャだったからです。

とりわけ税効果会計に関連し、繰延税金資産のことを「納め過ぎて将来還付される税額」などと報じているメディアが多かったのにも驚きます(ちなみに税効果会計とは、わかりやすくいえば、「会計上の利益と課税所得額を適切に対応させる会計上の手続」です。本当の定義はもう少し厳密ですが…)。

余談ですが、著者自身がウェブ評論活動を本格化させる契機となったのが、日経新聞による2008年10月の「時価会計停止」という盛大な誤報事件なのですが、これについてはまた随時、機会があればどこかで触れていきたいと思います。

社会学者の西田亮介氏が新聞、テレビ業界を批判

さて、こうしたなか、「数字を扱う」という意味において当ウェブサイトのカバー範疇に含まれるのが、新聞業界やテレビ業界を含めた、「マスコミ業界自体の経営」という話題です。

新聞部数減少続くも電子契約増えず=朝日メディア指標』などでも取り上げてきたとおり、あるいは『無限スパイラルのTV業界を見限る優秀なクリエイター』などでも取り上げてきたとおり、新聞、テレビを中心とするマスメディア業界の凋落が止まりません。

これなど著者自身に言わせれば、これまでの専門知識の軽視、事実関係の軽視、意見の押し付け、といった、新聞、テレビ業界の長年の報道姿勢がインターネットの発達により可視化され、一般の読者、視聴者から見放されているだけではないか、という気がします。

じっさい、新聞業界は現在、部数が最盛期の半分以下に減少し、いくつかの主要紙が夕刊事業からの撤退を始めるなど、音を立てて崩れ始めていますし、テレビ業界はテレビ業界で視聴者層の若返りに失敗し、徐々に衰退に向かっているわけです。

これに関連し、『Yahoo!ニュース』に15日付で、こんな記事が配信されているのに気付きました。

驚くほど無策な新聞業界と、報道を捨てたテレビ情報番組に思う…新聞・テレビが「マスメディア」でなくなる日

―――2024/11/15 11:26付 Yahoo!ニュースより【JBpress配信】

執筆したのは日本大学危機管理学部教授で社会学者の西田亮介氏です。

今日の状況は、マスメディアの自身の無策がもたらした

西田氏は例の「103万円の壁」問題を巡る、テレビ朝日系『羽鳥慎一 モーニングショー』を「チラ見」したとして、こう述べます。

パネルはそれなりにわかりやすくできているものの、ゲスト専門家を除くと、玉川徹らレギュラーコメンテーターたちは現状の所得税の控除と社会保険料の被扶養者などを混同するなど、あまり正確ともいえない『自説』をやたら早口で開陳しているが、最初からよほど一生懸命見ているような場合を除いて内容はほとんど視聴者の記憶に残らないだろう」。

出演者である玉川徹氏が番組で何を話しているのか、著者自身は番組自体を逐一視聴していないので(というよりも自宅にも職場にもテレビを置いていません)、西田氏がいう「玉川徹(氏)ら」が「あまり正確ともいえない自説をやたら早口で開陳」している、の部分は検証のしようがありません。

ただ、それ以上に興味深いのが、業界について述べた、こんな部分でしょう。

新聞社は名実ともにマスメディアであった2010年代に手を打つべきだったが、英『Financial Times』を買収し、デジタル化を推し進めるなど試行錯誤を続けている日本経済新聞を除くと2010年代は業界全体が驚くほど無策のままに過ぎ去ってしまった」。

テレビはどうか。テレビはかろうじて規模で維持しているが、在京キー局、在阪局、在名局くらいまではなんとかやりくりできている。だが、新聞と同じく十年一日で、デジタル化が遅れている」。

これらには、おおむね賛同します。

結局のところ、新聞業界にしても、テレビ業界にしても、これまでに持っていたパワー(社会的影響力)が大きすぎ、それらが徐々に衰退していたにもかかわらず、業界を取り巻く動き、そしてなにより人々のニーズに鈍感だったのではないでしょうか。

ネット空間のオープン・ソース分析の威力

そして、インターネット空間の特徴とは、「誰でも低コストで情報発信ができる」ことにあります。

著者の場合は独自ドメインを持つ当ウェブサイトに加えてX(旧ツイッター)にフォロワー約12,345人のアカウント(@shinjukuacc)を保持しており、独自プラットフォームとSNSの2つを使って情報を流しているのですが、べつに著者はジャーナリストでもなんでもありません。

「金融評論家」を名乗る、ただのビジネスマンです。

しかし、こうした立場であっても、完全にオープン・ソースベースの情報分析などの手法を使い、何らかの結論を導き出していくという手法であれば、(最初はそれなりに大変でしたが)継続的に数値を追いかけ続けるなどすれば、マスメディアが報じないさまざまな話題を提供することもできる、というものです。

そして、当ウェブサイトのみならず、世の中にはこの手の「オープンソース」系のウェブサイトが増えているようですので、新聞やテレビが情報発信において圧倒的優位を握っていた時代はもう終わりを告げたと考えても差し支えないのではないでしょうか。

オールドメディアはとりわけ、伝播利権や再販価格維持制度、宅配網利権や税制優遇、さらに記者クラブといった具合に、独占競争を前提に殿様商売を続けて来たわけですが、オープン・ソースベースで加工されていない情報が低コストで手に入る時代において、付加価値をもたらすのは困難でもあるのです。

とりわけ、官僚組織と結託して減税に反対し続けている現在のオールドメディア業界の姿を冷ややかに眺めていると、その思いを新たにする次第です。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    ブログ記事はテレビの情報・コンテンツの価値についての論評ですが、以下ではコンテンツ自体の価値を考慮せずに広告媒体としての価値のみを考えています。
    「詳しくはネットで検索」というようなテレビ広告がある間はテレビに一定の価値があるということではないでしょうか。ネット広告だけで十分であればそのようなテレビ広告を打つ必要がありません。ネット広告だけでは不十分だからテレビ広告で補完するのでしょう。30秒のテレビ広告では消費者に十分な情報が伝達できないので、詳細な情報を伝達するためにはネット広告の方が各段に有力ですが、自己の広告サイトに誘因する手段としてはテレビ広告にも価値があるものと思われます。
    このようなサイトに誘因するための広告すら無くなったときにはテレビに広告価値が無くなった物と考えてよいでしょう。

  2. 庭師 より:

    最近非常に気になることとして、新聞社のニュースサイトに掲載されているニュース記事に貼られている画像が、事件事故とは直接関係のないものなことが多いことです。
    例えば、事件事故のあった土地を管轄する警察署や警察本部の建物外観の写真を載せているだけ、というパターン。
    どう考えてもその事件事故とは無関係であり、取材能力の低下、それ以前に取材すらしていないいわゆる「コタツ記事」臭がとても強い記事が多くなっています。
    日本最大の発行部数を誇る全国紙のニュースサイトを見ても、ニュース見出しの脇に「○○警察本部」の類の画像がサムネイルで貼られているのを見ない日はありません。

    1. 裏縦貫線 より:

      紙新聞のいわゆる「ベタ記事」にも写真は無かったですし、
      Webではなまじ”絵や画像を入れる枠”が有るばっかりに、警察署の画像や都道府県の絵などの「埋め草」を貼らざるを得ないのかも知れません。

      もっと悲惨なのは紙新聞の地方版かと。特に日曜日などは殆ど”関東一円版”の様相で、自県の記事が見つからなかったりします….

  3. CRUSH より:

    テレビのコメンテーターが聖人君子の博覧強記である必要はまったく無いのですが、話題に応じて誰に訊けばよいのか?を広く浅く知っているとこが必須スキルですね。

    現状は、無知なくせに知ったかぶりで聞いたような事をほざき、なおかつ公平中立から程遠い自分の意見をゴリ押しするような人たちばかりなので、見る気がしませんね。
    (だから見てません)

    メディアがアホでも問題ない!論の証拠という訳でもないですが先ほど配信されてた記事。

    https://news.yahoo.co.jp/articles/957d333db0cd8327049a44a819fa0b7c2a2b9d67

    財務省の思うつぼ「年収の壁」議論
    本筋は29年放置の「ステルス増税」停止だ 代表の不倫報道も国民民主党に公約実行の責務
    夕刊フジ11/15(金) 17:00配信

    おっと、この一週間で新宿さんとこで飛び交った意見に近いですね。
    新宿さんブログとコメントだけ読んで鵜呑みにしたコタツ記事かと。(笑)

    冗談はさておき、専門的なブログは多々ありますから、それらを読んで勉強して偏見なく中庸な記事に仕立て上げるだけでも、読者からすればとても時間の節約になって助かるのですがねえ。

  4. Sky より:

    テレビ放送の将来。
    資本を投下できないBS放送やCS放送の番組表をみると地上波の未来は概ね想像できます。
    https://bangumi.org/epg/bs
    https://bangumi.org/epg/cs
    どうでしょう?
    観たい番組があるでしょうか?
    地上波すら殆んど観ない自分の印象としては、事業が今現在継続できていること自体が驚きです。

  5. sqsq より:

    あまりワイドショーの類は見ないのだが、チャンネルを変えている最中に偶然見ることはある。
    専門家でもなんでもない人(例えば吉永みち子や医者の宮田祐章)がなぜウクライナ戦争やガザ情勢を語れるのか? そんなバックグラウンドないはず。視聴者バカにしてるんだろう。「誰がしゃべったってどうせわかりゃしないだろう」と。
    もっとすごいの;
    昔「オールスター家族対抗歌合戦」という歌手やタレントの家族が一緒に出てきて歌合戦する番組があった。あの番組に出てきてた「家族」は実は赤の他人だった。どうせわかりゃしない。面白きゃあいいんだ。

    今なら大炎上でフジテレビ丸焼けだね。

  6. sqsq より:

    今DAZN(無料)でワールドカップ3次予選、インドネシア戦見てるんだけど。
    スポンサーが番組制作費(この場合はFIFAの放映権)を負担してその中でコマーシャルを流すというビジネスモデルは終わってるんじゃないの?
    井上尚弥の試合もテレビ放映ないし。

    1. 簿記3級 より:

      テレビの最盛期、全盛期はボブサップ対曙戦です。
      終了のゴングを境に曙が如くテレビは衰退に向かっていると思います。

  7. ちょろんぼ より:

    テレビ・ラジオは速報性、新聞等紙媒体は速報性より
    専門性に力を入れるべきだったにも関わらず
    新聞等紙媒体に専門性が無いとすれば、それに対し
    金銭を支払いする必要性をまったく感じられなくなってしまいました。
    以前は新聞はともかく週刊誌は専門性があった思いましたが
    それも私の思い込みだと気づかされる事ばかりではね。
    広告のチラシと妄想(僕の・私の考えた…)だけでは
    どうしようもありません。 注)キレイなお姉さんだけは好きです。

    1. 名古屋県民 より:

      新聞が勝りうるとすれば一覧性になるのでしょうが、
      多様な立場の人の意見を載せようともしないのであればもはや優位点は存在しませんな。
      「我々は非差別者だー!」とがなり立てるような人の声だけ書き立てるとかね。

  8. 一国民。 より:

    既存マスメディアの規模の大きさを考えればニュースの速報性で個人プログに叶う訳が無い。勝てるのは規模や予算の大きさを活用した専門性。同意します。そして何故出来ないのか?これは外部の私には解りませんが、外部から見れば十分な給与を貰いながら専門性を学ぶ努力を怠ったとしか見えない。そしてそれを否定する実績を何ら提示しない。これで購読者の信頼を失った。此処が問題なのに今も尚、その努力を行わない所から、崩壊の速度は他業種より早いのでは無いでしょうか?

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