IPEF会合とクアッド会合「東京で」開催される意義

昨日は米国が提唱する「インド太平洋経済フレームワーク」(IPEF)の立ち上げに関する宣言が「東京で」行われました。また、バイデン氏は昨日の会見で、中国による台湾侵攻が行われた場合には武力行使を行うと明言したとも報じられています。さらに本日は、安倍晋三・菅義偉両総理が主導した日米豪印「クアッド」の第2回目の対面首脳会合が東京で行われます。こうした状況は、日本が米国にとっていかに重要な国に浮上したかという点で象徴的な出来事でしょう。

バイデン氏は台湾防衛にコミット

日本を訪問中のジョー・バイデン米大統領は昨日、東京で天皇陛下を訪ね、岸田文雄首相との首脳会談を行い、共同声明を発しました(声明の内容自体は『大変濃厚な日米共同宣言と「新時代」を迎えた日米関係』でも取り上げたとおりです)。

こうしたなかで、バイデン氏が「台湾防衛」に明言し、これに中国が反発するという局面もありました。

Biden says he would be willing to use force to defend Taiwan against China

―――2022/05/24 2:27 GMT+9付 ロイターより

ロイターによると、バイデン氏は月曜日、中国による台湾侵略が行われた場合には、武力行使を辞さないと述べたそうです。

また、このバイデン氏の発言を巡って、ホワイトハウスの高官は「米国の政策が変更されたものではない」と釈明したものの、中国の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官はこれに対し「中国の主権と領土保全に関連する問題について妥協や譲歩の余地はない」と反発した、などとしています。

アメリカ合衆国大統領が東京を訪問し、台湾海峡防衛についての揺るぎないコミットが出てきたことに対し、中国が心底嫌がっていることが、よくわかります。

IPEF立上げの会合が「東京で」開催される

ただ、昨日の「成果」は、日米首脳会談と共同声明だけではありません。バイデン大統領が掲げる、「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の立ち上げに関する首脳級会合、閣僚級会合が、東京で米国主催により行われました。

「インド太平洋経済枠組み」の立上げについて

萩生田経済産業大臣は、5月23日に米国主催で開催された「インド太平洋経済枠組み(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)の立上げに関する首脳級会合」及び、「IPEF関係閣僚会合」に出席しました。<<…続きを読む>>
―――2022年5月23日付 経済産業省HPより

経産省のウェブサイトによると、まずは首脳級会合が開催され、IPEF立上げに関する共同声明が発せられ、将来の交渉に向けた議論が開始されました。また、日本からも岸田首相と萩生田光一経産相が参加してIPEFへの支持・参加が表明されました。ちなみにIPEFの参加国は13ヵ国です。

IPEFの参加国

米国、日本、豪州、ニュージーランド、韓国、インド、ASEAN7ヵ国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)

(【出所】経産省HP)

また、この首脳会合後には米国のジーナ・レモンド商務長官とキャサリン・タイ通商代表が主催するIPEF関係閣僚会合に萩生田氏を含めた13ヵ国の閣僚が参加し、今後の進め方について議論した、などとしています。

IPEF自体はFOIPよりも多くの国が参加か

繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する声明(仮訳)』(※PDFファイル)の概要は、こんな具合です。

繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する声明(抄)
  • 我々13ヵ国は我々の活力ある地域経済の豊かさと多様性を認識する
  • 我々は、持続可能かつ包摂的な経済成長を実現する潜在力を有する、自由で、開かれ、公正で、包摂的で、相互に結び付き、強靭で、安全で、かつ繁栄したインド太平洋地域へのコミットメントを共有する
  • 新型コロナウイルス感染症の拡大によって<中略>重要なサプライチェーンを確保することの重要性も明らかになった
  • この枠組みは、我々の経済の強靱性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性、競争力を高めることを目的としている。このイニシアティブを通じて、我々は、地域における協力、安定、繁栄、開発、そして平和に貢献することを目指す
  • 我々は、インド太平洋地域における我々の目標、利益、野心を共有する更なる地域のパートナーの参加を招請する

…。

そのうえで、「貿易」、「サプライチェーン」、「クリーンエネルギー・脱炭素化・インフラ」、「税・腐敗防止」の4分野に関して理念や方針の詳細が列挙されている、というわけです。今後は13ヵ国を中心に、IPEFの具体化に向けた議論が進められます。

IPEF、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)と比べれば、参加する国は多く、また、理念もかなり抽象的なものです。したがって、よりイデオロギー色を薄め、多くの国が参加しやすい環境が作られたものと認識するのが正確な理解でしょう。

ちなみにFOIPの場合は参加国が日本、米国、豪州、カナダ、インドなどに限られていますが、IPEFには韓国、ASEAN諸国などが参加していますので、実際、FOIPと比べてIPEFはより中国牽制色を薄めたものと考えられます。

【参考】FOIP

(【出所】防衛白書。FOIPからは中国、ロシア、韓国、北朝鮮などが露骨に除外されていることが分かる)

中国はIPEFを「米国の経済植民地」と批判

ただ、中国はそう考えていないようです。

韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。

中国、IPEFを連日批判「米国の経済的植民地」

―――2022/05/24 07:59付 朝鮮日報日本語版より

朝鮮日報によると、バイデン氏が韓国と日本を訪問し、「台湾など中国が神経を尖らせる問題」で「ためらうことなく自らの考えを表明した」ことに対し、中国が連日強く批判を続けているのだそうです。

たとえば、王毅(おう・き)外相は22日、IPEFを巡っては「結局は失敗する戦略だ」と強く批判し、翌・23日にはクアッドを巡り、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の年次総会のオンライン演説でも、「アジア・太平洋地域は歴史の分岐点にある」としたうえで、次のように述べたのだそうです。

アジア・太平洋地域にいかなる軍事集団や陣営対決を引き込む試みも明確に拒否する」。

よっぽど気に入らないのでしょう。

また、朝鮮日報は上海国際問題研究院中国東南アジア研究センターの劉宗義(りゅう・そうぎ)所長が中国メディア『観察者網』への寄稿のなかで、IPEFについて、「全世界のサプライチェーンで米国の核心的な地位を維持するため他国を経済的植民地にすることが目的」と批判した、とも指摘しています。

いわば、ASEAN10ヵ国のうち、ミャンマー、カンボジア、ラオスを除く7ヵ国がIPEFに参加したことが、「中国に外交面で一撃を加えた」格好です。

これを朝鮮日報が詳しく報じるというのも非常に興味深い点ではあります。

いずれにせよ、IPEFの立ち上げに関する会合が「東京で」行われたこと、そして本日は安倍晋三・菅義偉両総理らが主導して発足した枠組みである日米豪印「クアッド」の会合が東京で行われることは、日本が米国から見ていかに重要な国に浮上したかという証拠そのものではないでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 理系初老 より:

    昨晩のお茶会と夕食会、全参加者が映っている写真を米国大使館SNSでようやく見つけました。日本のオールドマスコミからは玄関先の映像とか他に誰が出席していたか不明なお茶会写真だけでしたので、この写真は出たがり出しゃばりの大使に感謝です。
    https://pbs.twimg.com/media/FTeuSq2WUAAMDpG?format=jpg&name=4096×4096
    https://pbs.twimg.com/media/FTeuTCCXwAAnCCb?format=jpg&name=4096×4096

    1. 元ジェネラリスト より:

      いい写真ですね。
      1枚目、6人が「座らされてる感」がいいです。茶会ならでは。

      1. JJ朝日 より:

        できれば畳の上で胡坐をかいてでも。
        これでは和室でやる必要性がないでしょうに。
        おもてなしを勘違いしているような気がしますなぁ。

        1. Yさん より:

          久々に投稿します。これは立礼式の変形と考えて良いでしょう。立礼式は裏千家 11世玄々斎宗室が,明治4 (1871) 年に京都で開催された第1回京都博覧会の際,外人客用に腰掛けて茶を飲めるようにと試みたのが始りで,各流派もそれを取り入れて現代に至っています。決して失礼な扱いではありません。

  2. 理系初老 より:

    元ジェネラリスト様、JJ朝日様、リプライありがとうございました。
    話変わってさきほどまた写真関連で特ダネ見つけました。出典はフォーカス台湾です。
    「ハリウッドが中国におもねって消していた日本と台湾の国旗が、最新作で復活しました」
    暗黒時代のトムクルーズ後ろ姿
    https://pbs.twimg.com/media/D_2Vq1zWsAEnHPh?format=jpg&name=900×900
    初期および最新のトムクルーズ後ろ姿
    https://pbs.twimg.com/media/D_2Vq11XkAI4B1d?format=jpg&name=900×900

    1. 迷王星 より:

      >初期および最新のトムクルーズ後ろ姿

      その画像は最新とは関係のない単なる36年前の第一作における教官役のケリー・マクギリスとのキスシーンの画像では?

  3. 匿名 より:

     クアッド首脳会合は昨年秋にアメリカ高官が来年(2022年)は日本で開催する旨を公表してます。合わせバイデン大統領と岸田総理との日米首脳会談も行いたい(日本に来るなら当然そうなるでしょうけれど)とも。
     昨年の初会合で、以降首脳会談は毎年開催することで合意しているので、2回目に日本政府が日米首脳会談とセットで手を上げてアメリカも同意し、その後のアメリカ政府の対中政策の進展と国際情勢の変化も踏まえて今回の外交日程になったということでしょう。来年以降のクアッド会合は印豪で開催されるのでは。4カ国の結束をプレアップし中国に見せつけるために。

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