環球時報がポンペオ氏のアジア歴訪を強く批判

マイク・ポンペオ米国務長官はアジア4ヵ国の歴訪に出発しました。今回の訪問では、まず、米印両国の外相・防衛相による「2+2会談」が予定されているほか、モルジブやスリランカ、インドネシアについても訪問するそうですが、こうした動きに対し、中国共産党の機関紙である強く反発しています。本当にわかりやすい反応だと言わざるを得ません。

米印2+2会談

マイク・ポンペオ米国務長官が10月26日以降のインド訪問を皮切りに、アジア各国を歴訪します。

また、今回のインド訪問では、米印両国が外交担当閣僚・国防担当閣僚とのいわゆる「2+2会談」が実施されるとのことであり、マーク・エスパー米国防長官もポンペオ氏とともに訪印するそうです。

これに関し、米国務省のウェブサイトに、こんな報道発表が掲載されています。

Secretary Pompeo Travels to India to Advance U.S.-India Comprehensive Global Strategic Partnership

―――2020/10/25付 米国務省HPより

とくにトランプ政権下では、米国政府によるこの手の報道発表はたいていの場合、「誰がいつ、どこの国に出掛ける」という具合に、あっさりしたものであることが多い気がします。しかし、今回の報道発表については800語弱と、「異例の長さ」(※著者主観)です。

というのも、今回の訪問の狙いについて、次の4つの小見出しを設け、その意義が延々と述べられているのです(カッコ内は著者による意訳)。

  • THE U.S.-INDIA RELATIONSHIP: ROOTED IN DEMOCRATIC TRADITIONS AND GROWING IN NEW STRATEGIC DIMENSIONS(米印関係:民主主義の伝統に根ざしつつ、新たな戦略次元で成長)
  • INDIA IS A REGIONAL AND INTERNATIONAL LEADER(インドは地域的にも国際的にもリーダーである)
  • OUR DEFENSE AND SECURITY COOPERATION IS INCREASINGLY STRONG(我々の防衛、安全保障上の協力関係は次第に強まっている)
  • OUR PEOPLE-TO-PEOPLE TIES: AN UNBREAKABLE BOND OF FRIENDSHIP(我々の人と人とのきずな:壊れない友情の結びつき)

またずいぶんと褒めそやすものですね。

異例に長いプレスリリース

では、なぜ米国はここまでインドとの関係構築に力を入れているのでしょうか。

米国務省のリンク先の記事を読んでも中国(China)の “C” の字も出て来ませんが、おそらくは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想に基づき、両国関係を根本から強化しつつ、中国を牽制するという動きでしょう。

先ほどのリンクで国務省は、今回のポンペオ氏の訪印の意義について、次のように述べます。

  • The United States and India have a strong and growing bilateral relationship built on shared values and a commitment to a free and open Indo-Pacific.(米印両国の関係は、共通の価値と「自由で開かれたインド太平洋」というコミットメントをもとに、強く成長しつつある。)
  • The recent Quadrilateral Ministerial meeting in Tokyo convened by Secretary Pompeo and his counterparts from India, Japan, and Australia, demonstrated the strong cooperative ties among Indo-Pacific democracies interested in strengthening a rules-based order in which all nations are sovereign, strong, and prosperous.(最近、東京で開かれた日米豪印の4ヵ国外相会合で、「すべての国家が主権を持ち、強くて繁栄するルールベースの秩序の強化」に関心をもつインド太平洋の民主主義国家間における強い協力関係を示した。)

この点、カースト制度などの不合理な仕組みが社会に色濃く残っているインドが、基本的人権の尊重が徹底されている日米豪などと価値観を100%共有しているとは思えませんし、米国がここまでインドを褒めそやすのを見て、少し危ういという気がしないではありません。

ただ、以前から何度か報告しているとおり、著者自身の理解に基づけば、このFOIP構想とは、まさに「法の支配が貫徹するなかで自由な交易を通じて世界の国々が一緒に豊かになりましょう」という考え方であり、それに賛同する国を増やすためのゲームのようなものです。

また、今回のFOIP自体、画期的な部分があるとすれば、まさにこの構想自体、日本が強く関わっているという点でしょう。

日本政府はこのFOIPを巡って、表向きは(中国などの)「特定国と敵対するための構想ではなく、このFOIPに賛同してくれる国と連携しようとする構想」だと述べているのですが、理念を掲げてそれに賛同する国を募るというやり方は、まさに人間関係におけるリーダーの仕事と同じことです。

そして、ポンペオ氏の訪印に関連し、米国が日本と豪州を名指ししたとうい事実こそ、日本の役割がいかに大切なものになっているかという点を象徴しているように思えてなりません。

環球時報「ポンペオ氏のアジア訪問は『ビクトリーラン』ではない」

こうしたなか、中国共産党系のメディア『環球時報英語版(グローバルタイムズ)』は昨日、ポンペオ氏のアジア歴訪を巡って、「ビクトリーランではない」とする論評を掲載したようです。

Pompeo’s last foreign tour will be no victory lap: Global Times editorial

―――2020/10/25 20:04:14付 環球時報英語版より

リンク先記事は800文字弱とさほど長くなく、使用している英単語も難しくないので、英語が得意な方であれば辞書なしで読めるかもしれません。

環球時報の主張の前半部分を、当ウェブサイトなりに日本語で要約しておきましょう。

  • ポンペオ長官は日曜日以降、インド、モルジブ、スリランカ、インドネシアの4ヵ国を訪問するが、その最大の目的はこれらの国を動員して米国とともに中国に対峙させることにある
  • インドでは2+2会合が開かれ、軍事情報の共有に関する基本協定に署名する可能性もあるし、モルジブやスリランカに対しては中国に対する経済的依存を低下させ、「経済的自立」を求める可能性が取りざたされる
  • さらに、インドネシアでは米国との関係を裏付けに、南シナ海問題を巡って中国により厳しい姿勢を取るように求める可能性もある。今回の訪問は「反中統一戦線」を構築してきたポンペオ氏にとって3年に及ぶ任期の総仕上げでもあるからだ
  • しかしながら、彼は確かに多くのことを成し遂げたかもしれないが、巨大な中米間の経済協力関係という現実を無視したものであるとともに、各国は自国の利益に基づいて政策を打ち立てるという国際的な常識にも反したものであるため、得られた果実は限られている

…。

読んでいて、思わず「中国共産党にとってポンペオ氏のアジア歴訪はよっぽど都合が悪いのだろうな」、と感じてしまいます。

「各国は自国の利益に基づいて政策を打ち立てる」というのはそのとおりなのですが、それでは中国は現在、アジア諸国との間で、彼らが自国のためになるような外交を打ち立てるのに成功しているとでもいうのでしょうか。

よっぽどトランプ政権が嫌いな中国共産党

ところで、環球時報は最近、中国共産党がトランプ氏の落選を望んでいるであろうということを、あえて隠さなくなってきているような気がします。その証拠でしょうか、リンク先記事にはこんな記述もありました。

The visit to four Asian countries will be a gloomy closing tour for Pompeo. As the secretary of state of the country hit hardest by COVID-19, Pompeo has traveled more frequently than his counterparts from other countries. This has increased the risk of spreading the coronavirus. Meanwhile, he has been spreading political viruses and fanning the flames of antagonism in the world. It is believed that many countries have ambivalent feelings about receiving him, because he brings no constructive outcomes but instead hegemonic demands to which the host countries can hardly respond.

意訳しておくと、次のような内容です。

今回のアジア4カ国歴訪は、ポンペオ氏にとっては悲観的なクロージング・ツアーだ。COVID-19により最も深刻な打撃を受けた国である米国の国務長官として、ポンペオ氏は外相と会談するために外国を訪問したことで、それ自体、コロナウイルスをばらまくことにつながった。その一方、彼は世界中に敵対的な炎という政治的なウイルスについても拡散している。彼は諸国に対し、反応に困るような対応を一様に求めているが、そのことによって建設的な結果はなにももたらされないため、多くの国は彼の行動に相反する感情を持っているのが実情だ。

…。

中国共産党はよっぽどポンペオ氏が嫌いなのだということがわかる記述ですね(笑)

もちろん、トランプ氏の再選の可否は、日本が今後、FOIPを進めていくかどうかを判断するうえでの一種の政治的なリスクでもあります。しかし、アジアを歴訪するポンペオ氏に対する環球時報の反応を読んでいる限りは、FOIPを掲げること自体が中国に対する強い牽制であることは間違いないでしょう。

読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    >多くの国は彼の行動に相反する感情を持っているのが実情だ

    では、中国に対して諸国がどういう感情を持っていると思うのか、執筆者に聞いてみたいものです。

  2. gommer より:

    「建設的な結果はなにももたらされない」
    時間的な視野が狭い国にとってはその通りなのではないかと。

    中国依存の強い国々にとって、アメリカに同調すれば今より良い条件が得られるのかといえば、そうでもないわけで。

    アメリカや日本からしたら、関係国に「建設的な結果」を与えるためには中国より多額の援助をしなければならないし、でも中国のようなアコギな手段で回収する訳にもいかない。

    中国封じ込めは日本にとっては良い事だけれど、他の国にとっても同じとは限らない。少なくとも冷戦中とは異なり、冷戦後にアメリカのお陰で良い思いを出来た国がそう多いわけではなく、最近良い思いをさせてくれたのが中国ともなれば。

    まあ、援助・投資で依存症にされて、これから回収フェイズが本格化する訳ですが、それが見えてても「中国による投資」は「投資しないアメリカ」より魅力的なんじゃないですかね。

  3. 夕刻 より:

    会計士様,いつも貴重な情報をご提供いただき,ありがとうございます。
    冒頭文で「…中国共産党の機関紙である強く反発しています。」,は,おそらく「中国共産党の機関紙である『環球時報が』強く反発しています。」との抜け落ちかと存じます。検索結果で冒頭文が紹介される例が多く,老婆心ながら,ご指摘させていただきました。かしこ。

  4. 引きこもり中年 より:

     独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (なにしろ、自分でも『マサカ』と思うので)
     「アメリカのバイデン前副大統領が中国に甘い」との批判を払しょくするために、オバマ前大統領が台湾を電撃訪問する可能性は、ないのでしょうか。
     駄文にて失礼しました。

  5. 伊江太 より:

    いかなる国も基本方針は自国の国益を計算して決めるもの。アメリカの側に立って、とくにもならぬ中国との対立に舵を切る国などあるものか、という、強がりなのか、半ばそう信じているのか。環球時報の記事はそういう中国指導部の現状認識を反映したものなんでしょうね。

    もちろんどの国だって自国ファーストであるのは確かなんでしょうが、今の世界がその国に実害さえ与えなければ、何やっても知らぬ顔していてくれる国ばかりというほど甘いものだと、この国の指導者は本気で考えているのでしょうか。

    あのクリミア併合など、ロシアにしてみれば自らのテリトリー内のいざこざくらいの認識しかなかったんでしょうが、結果としてエネルギー供給を依存しているはずのEU諸国を先頭とした主要国の経済制裁によって、じり貧の途しかないところに追い込まれた。香港の民主化の圧殺が、自国の国際的地位をいかに毀損しているのか、この上南シナ海の占有や台湾への武力侵攻など、実行すればもちろんのこと、口にし続けている現状でさえ、対中包囲網の強化を招来しているだけということを、なぜ理解できないのか。このまま国際情勢が自国有利に傾いていけば、アメリカは遠慮なく中国のドル経済圏からの締め出しに動くでしょうし、そうなれば対外的軍事力など役に立たない。待っているのは国内暴動による共産党政権の自壊となる可能性も出てくるでしょう。

    経済成長が真の意味での近代化をもたらさず、逆に得手勝手な理屈を振り回し、強権的手法への批判には耳を貸さない姿勢をますます強めている今の様は、時代錯誤の中華思想の復権、専制政治への回帰にしか見えません。

    1. だんな より:

      伊江太さま
      アメリカは、ドルが基軸通貨である事が、国益なんじゃないかと思うんですが、どうでしょう。
      それを守る為に、中国包囲網何だと思うんですけどね。

      1. 伊江太 より:

        だんな様

        そりゃその通りなんでしょうね。イギリスから基軸通貨国の座を奪ったことで、世界の覇権国に駆け上ったことは、アメリカ自身が何よりも強く意識しているはずです。ジャパン・アズ・ナンバーワンなどと浮かれていて、日本は過去に痛い目に遭いましたが、あのときも世界に頼りになる味方はいなかった。今度はターゲットは中国。どこを突けばその挑戦を叩き潰せるか、シナリオは多数用意してるでしょうが、本格的発動は国際的包囲網の完成を待ってというところではないでしょうか。

    2. gommer より:

      先進国に限ればその見方はセオリーだと思います。
      でも先進国が安易にその経済力を振りかざせば、先進国以外の国の目にどう映るのか。

      アメリカって国は嫌われ具合では中国とタメ張ってますからね。日本はアメリカと歩調を合わせつつも、少し違った思惑を持ってないとババ引きますよ

  6. だんな より:

    中国、朝鮮を見て思うのは、困った時に声を出して強く反応し「強がる」という所です。
    中国は、大きな国で国力も付いたと思います。
    それでも虚勢を張るのは、中華文化の為なんでしょうか?
    お分かりの方が、いらっしゃいましたら、ご教示下さいませ。

  7. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    よほど中国にとって、ポンペオ国務長官の行動は目障り、気に入らないのでしょうね。前任のティーラソン氏にはここまではっきり言った記憶が無いです(だからトランプ大統領は更迭したのでしょうが)。

    環球時報は、韓国など属国にはありえない反応をしてます。三下には適当にあしらえば済みますから。それほど正面敵の米国は怖いという事でしょう。

    これまで中国にクスリを打たれ、言いなりになっていたような国でも、あるいは中国は東洋の遠い国だと思っていた国でも、コロナ禍によって見方が変わってきていると思います。今、中国の肩を持つ国が幾つあるでしょうか?

    絶望的なぐらいの感染者数、死者。どう他国のせいにしようとも、中国の罪は多き過ぎます。これはジェノサイドと言っても過言ではありません。中国と半島勢力は大袈裟に言えば世界中を敵に回しました。

    うやむやにせず、武漢での真実を中国がどれほど抵抗しようが自由主義国側はメスを入れ、徹底解剖すべき。しかし、それが簡単に出来ない2020年なんですよね~。19世紀や20世紀の末迄なら何とか出来たかも知れませんが。ウ~ン、残念!

  8. 福岡在住者 より:

    大きくなり過ぎた中国を牽制する目的で、安倍首相はインドを選び、現在に至っていると思います。

    これは「敵の敵は味方」という苦渋の選択が出発点と思うのですが、インドもそれに乗っかって今のところWinWinですが、、、。 それとインドの他国への侵略は あまり聞いたことが無い地域と思うねですが、、、。(御批判あったら御指摘有難いです)

    中国は第二次世界大戦後 新たな侵略を進めました。

    たぶんインドも調子こいたら それをやるんでしょうが、私的には南なら「インドさん 日本はイヤですよ」の意思表示で良いかも、、、。 世界は 江戸時代経済の貧民地域だらけの明治維新待望地域だらけですから、、、。

    下劣な肉弾戦で対抗できるのは この国しかありません。 次はインドネシア(多数の島国で人口2億人以上のイスラム教優勢国)。 ジョコをどう料理するかが、これからの数十年が決まるのかも知れませんね。

  9. くろくま より:

    中共は、ポンペオ長官を非難ですか。日本を非難はしないんですね。まだ未練があるのかな。
    工業ロボットを日本から輸入しないと工場が動かなくなる中国という国は、日本を自ら切ることはできないのですかね。

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