462兆円を外国に貸し付ける日本の金融機関

当ウェブサイト『新宿会計士の政治経済評論』のセールスポイントの1つは、統計を使った客観的な数字の紹介と分析にあります。以前、『カリブ海の小国に63兆円を貸し付ける最強の日本の金融機関』という記事で、国際決済銀行(BIS)の統計データについて紹介したことがあるのですが、あれから約半年が経過したということに加え、最新データが出ているという事情もあるため、本稿では久しぶりに、日本の金融機関が外国にいくらおカネを貸しているのか、という、「ありそうであまりない基礎データ」を紹介しておきたいと思います。

最強の日本の金融機関

昨日の『「韓国企業の起債見送り」報道と国際与信統計』で少しだけ触れたのですが、日銀は先日、『BIS国際資金取引統計および国際与信統計の日本分集計結果』という統計を公表しました。

「韓国企業の起債見送り」報道と国際与信統計

これは、日本の金融機関が外国に対し、いくらおカネを貸しているかという統計であり、当ウェブサイトでは以前も、『カリブ海の小国に63兆円を貸し付ける最強の日本の金融機関』という記事で、この統計について紹介したことがあります。

カリブ海の小国に63兆円を貸し付ける最強の日本の金融機関

当ウェブサイトで好むデータは「最終リスクベースの国際与信統計」です。

日銀によると、これは国際決済銀行(BIS)が世界の主要31ヵ国・地域に本店を持つ銀行の国際的な与信状況をグローバルベースで取りまとめて四半期ごとに公表している統計ですが、日銀が公表したデータは、このうち日本に本店を持つ金融機関の動向を取りまとめたものです。

なぜ当ウェブサイトがこのデータを好んでいるのかといえば、「日本の金融機関全体の外国に対する与信」を網羅的に知ることができることに加え、「日本の金融機関が最終的にどこの国のリスクを多く取っているのか」を知ることができるという特徴があるからです。

そして、このデータを見れば、日本の金融機関がいかに巨額の資金を持てあましているか(そしていかに日本国内にカネの行き先がないか)という一面を見ることができるからです。

ここまで詳細なデータというものは、なかなかほかにはありません。

本日紹介するのは2019年6月末時点の日本の外国に対する統計ですが、1~2ヵ月もすればBISのウェブサイトにほかの国のデータも掲載されるはずですので、その際、なにか興味深いテーマがあれば紹介したいと思います。

(最近だと某国について議論するときに、「韓国は2019年3月末時点で外国の金融機関から3223億ドルを借りている」、といった具合に、この統計を使うことがありますが、残念ながら現時点でBIS統計サイトの方はまだ最新のデータがアップデートされていません。)

図表0 (参考)韓国が外国の金融機関から借りているおカネ(最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
相手国2019年3月末構成割合
米国91,34928.34%
英国79,45024.65%
日本57,22117.75%
フランス23,7967.38%
ドイツ15,8734.92%
その他54,65516.96%
合計322,344100.00%

(【出所】BIS統計サイトより著者作成)

合計約4.3兆ドル!

さて、韓国のことはどうでも良いとして、本稿で取り上げたいのは、「日本の金融機関がどの国にいくらのおカネを貸しているか」というデータです。現時点までに手に入るのは2019年6月末時点の国際的な与信統計ですが、さっそく、最新の統計データを確認しておきましょう(図表1図表2)。

図表1 日本の金融機関が外国に貸しているおカネの金額推移(グラフ縦軸:百万ドル)

(【出所】日本銀行ウェブサイトより著者作成)

図表2 日本の金融機関が外国に貸しているおカネ(最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
2019年6月末シェア
米国1,720,28240.03%
ケイマン諸島603,90914.05%
フランス217,2415.06%
英国202,9144.72%
ドイツ136,4213.17%
オーストラリア122,9892.86%
タイ97,3622.27%
ルクセンブルク94,7682.21%
中国77,1741.80%
香港75,3141.75%
その他948,59522.08%
合計4,296,968100.00%

(【出所】日本銀行ウェブサイトより著者作成)

いかがでしょうか。日本はこの15年間、一貫して外国に対する与信残高を増やし続けており、いまやトータルで約4.3兆ドル(1ドル≒107.5円と仮定すると、じつに462兆円!)ものおカネを外国に貸しているのです。

ただし、ここでいう「貸している」というのは、証書貸付金・手形貸付金などのいわゆる融資だけでなく、金額から判断して、債券(サムライ債やユーロ円債、外債など)やオフショアSPC投資(いわゆる仕組債、仕組ローンなど)も含まれていると考えられます。

しかし、相変わらず凄い金額ですね。

内訳をみると、約4.3兆ドルのうち1.7兆ドル、つまり全体の約40%が米国に対する与信ですが、カリブ海に浮かぶケイマン諸島に6039億ドルというおカネが流れています。これがいわゆる「オフショア投資」と呼ばれるものです。

ただし、「オフショア投資」といってもべつに違法なものではありません。

日本とケイマン諸島では税制が異なるため、たとえばケイマン諸島のペーパーカンパニーなどが日本国債(JGB)を保有していても、その利金に対する源泉徴収が適用されないなどの理由で、オフショア投資に使ううえではケイマン諸島が何かと便利なのです。

また、オフショアを除けば、米国以外の融資先は、3位がフランス(2172億ドル)、4位が英国(2029億ドル)、5位がドイツ(1364億ドル)、6位が豪州(1230億ドル)と続きます。

しかし、「日本といえばアジア諸国との関係が深い」と盲信している人が多いのですが、日本の金融機関の融資先シェアでは7位になってやっとタイ(974億ドル)が出てきて、中国は9位の772億ドルに過ぎないのです。

なお、8位のルクセンブルク(948億ドル)、10位の香港(753億ドル)は、いずれもケイマン諸島と似た「オフショア」に近い位置付けの国と考えられます。

約15年前はどうだったのか?

さて、ここで気になるのは、「なぜ日本の金融機関はここまで多額のカネを外国に貸しているのか」、という点です。こうしたなか、日銀の「最終リスクベース与信統計」では、2004年12月末、つまり今から約15年前のデータまでさかのぼることができます(図表3)。

図表3 日本の金融機関が外国に貸しているおカネ(最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
2004年12月末シェア
米国556,24441.66%
ケイマン諸島134,84810.10%
ドイツ101,7707.62%
英国91,1126.82%
フランス82,9936.22%
イタリア38,3892.87%
オランダ35,5992.67%
ルクセンブルク32,8392.46%
カナダ21,5841.62%
オーストラリア21,4911.61%
その他218,46016.36%
合計1,335,329100.00%

(【出所】日本銀行ウェブサイトより著者作成)

いかがでしょうか。

図表2と比べて、日本の金融機関全体が外国に貸しているおカネは134兆円で、たしかに凄い金額ではあるものの、現在の約3分の1以下に過ぎません。

ただし、融資シェアで見ると、米国が相変わらず全体の40%前後、ケイマン諸島が10%前後を占めていて、日本の金融機関の投資行動は基本的にまったく変わっていない、ということでしょう。

また、2004年12月と2019年6月を比べると、ドイツに対する与信は伸びているものの、8%弱にも達していたドイツに対する融資シェアが、2019年6月時点では3%少々と半減していることがわかります。

また、2004年時点ではランキング上位にアジア諸国が出てこなかったというのも興味深いところです。

アジア諸国だけで比較してみる

さて、図表2と図表3で使ったデータについて、アジア諸国に限定して並べ替えたものが、次の図表4図表5です。

図表4 日本の金融機関がアジアに貸しているおカネ(最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
2019年6月末シェア
タイ97,3622.27%
中国77,1741.80%
香港75,3141.75%
シンガポール70,0891.63%
韓国56,0681.30%
インド46,2211.08%
インドネシア36,9310.86%
台湾36,0840.84%
合計4,296,968100.00%

(【出所】日本銀行ウェブサイトより著者作成)

図表5 日本の金融機関がアジアに貸しているおカネ(最終リスクベース、金額単位:百万ドル)
国(アジア)2004年12月末シェア
香港17,5101.31%
韓国13,4701.01%
中国11,0930.83%
シンガポール8,8910.67%
タイ8,5250.64%
台湾5,6100.42%
インド2,2740.17%
全体1,335,329100.00%

(【出所】日本銀行ウェブサイトより著者作成)

いかがでしょうか。

図表4、図表5を見比べてみてわかるのは、おもに、次の3点です。

  • ①香港が首位から陥落する一方、タイが日本の金融機関の融資先として急浮上したことと
  • ②中国や韓国は依然としてアジアの中では重要な融資先だが「最大の融資先」ではないこと
  • ③全世界に対する融資に占めるシェアは最大でも2%少々に過ぎないこと

ひと昔前だと、「日本はアジアのなかで生きていく」、という掛け声をよく聞きましたし、「これからはアジアの時代だ」、「日中韓+ASEANでやっていく時代だ」、といった意見も見られたのですが、こうした掛け声の結果が、これです。

やはり、金融という観点からは、日本にとって一貫してもっとも重要な国は米国であり、次いでケイマン諸島であり、そして欧州主要国(とくに仏英独)である、という構図は大きく変わっていないと考えて差支えないでしょう。

そして、やはりひと昔前、欧州共通通貨のユーロにならって「アジア共通通貨を創設しよう」という夢物語を騙っていた首相もいましたが、日本とアジアは金融面での結び付きが非常に弱いという事実を踏まえれば、「アジア共通通貨」など「夢のまた夢」といえるでしょう。

もっとも、経済発展の段階も社会制度も文化もなにもかもまったく違う国と共通通貨を使うというのは極めて非現実的ですし、もしそれが実現するにしても「夢」というよりは「悪夢」という方が適切な表現だと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. wataken より:

    こういう記事いつも期待しています。特に経済に関しては「数字」が物事を雄弁に語りますので。
    なるほど、融資(投資といってもいいんでしょうか)という目で見ると、アジア特に中国や韓国との結びつきは欧米とは比べ物にはならないんですね。
    通常のマスコミは、輸出入などの貿易の数字で日本と他国との関係を語ることが多いんですが、モノでなくカネの概念だとアジアはまだまだ「遠い国」なんですね。

  2. カズ より:

    アジアの国々から見た「日本からの融資ウエイト(影響力)」も気になります。
    欧米諸国とは経済規模が違うのだから、アジア諸国とのつながりの強さを計るのならば、単に融資額だけを見るのではなく、相手国から見た影響力こそが肝要だと思うからです。

    *個人的には【相手国での日本からの融資シェア/日本から相手国への融資シェア】で算出できる融資影響力の非対称リストを見てみたい気もします。

  3. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    462兆円を外国に貸し付ける日本の金融機関、経済力って、やはり凄いですね〜。米国やケイマン諸島、英、仏、独、豪はなるほどです。しかし、アジアは15年前と比べても桁は一つ上がってますが、タイやら香港以外は、シェアも1〜2%程度で存在感ありません。

    中国と韓国の合算では2004年がシェア1.84%、現在は3.1%。両国の経済成長を勘案すると、ほとんど伸び無しではないですか。オカシイですね〜。日本への挑発や歴史戦、道徳的優位(なんてのがあるのかどうか知らないが)でカウントするなら、シェア50%超えでも不思議じゃないのに(笑)。

    しかし欧米への偏りは経済規模から見て仕方ないとしても、アジアのタイ、香港、シンガポール、インド、台湾、インドネシアらがアジアでランクインしているのは、良い事です。

    あ、ASEAN嫌いな国、馬鹿にしている国、どこかあったなぁ〜。ま、朝から詰まらん事、考えないようにしよう(笑)。

  4. カニ太郎 より:

    むか~し昔、あるところに堅実な質屋さんがありました。

    そこの従業員は安い賃金でも一生懸命働いたとさ、

    お陰でこの質屋さんは、大変大きくなったそうな、

    しかし、なぜか質屋さんの従業員への給料は上がりません、

    それは、いくつかの悪い客筋があったからです。

    それらの客筋は、何やらわけのわからぬ品を持ってきては、これを質草に金を出せと言ってきます。

    店の主人が「このような商品にお金は貸せません」と断ると、腕を間繰り上げ、太い上腕の鷲の刺青を見せ、脅してきます。

    仕方ないから、持ち込まれる商品を向こうの言い値で預かるはめになり、それがどんどん膨らんでいき、今では462兆円にもなったとさ。

  5. りょうちん より:

    何度か指摘されていますが、ケイマン諸島の場合は、その先がブラックボックスになっているだけなのでは。

    1. 新宿会計士 より:

      りょうちん 様

      いつもコメントありがとうございます。

      ケイマンの場合、実質的には資金は日本に戻って来ています。あまり詳しく書くと身バレしてしまうのですが、簡単に言えば、ケイマン法人が日本国債だの、邦銀向け融資だのを実行しているだけなのです(これに金利スワップや通貨スワップ、オプションなどを組み合わせることもあります)。

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