米国が対北朝鮮制裁の強化に出るも「力不足」である理由は?

日本時間の本日午前10時ごろ、米国メディア『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)に掲載された記事によれば、米国は中国の船舶会社2社を北朝鮮制裁違反として指摘するとともに、北朝鮮による「瀬取り」などの違法な貿易活動が広まっていることに危機感を示したそうです。ただ、不思議なことに、WSJによればトランプ政権は北朝鮮との「対話姿勢」については維持する姿勢を示しているとしているのですが、こうした報道を眺めていると、現在の米国は真綿で首を絞めるように北朝鮮制裁を強化し、あわよくば北朝鮮を暴発させることを狙いつつも、時間稼ぎをしている、というようにも見えるのです。

WSJレポート「米国が北朝鮮制裁追加」

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、米政府は現地時間の木曜日、北朝鮮に対する制裁を追加する措置を講じると発表したそうです。

U.S. Tightens North Korea Sanctions After Failed Trump-Kim Summit(米国時間2019/03/21(木) 20:13付=日本時間2019/03/22(金) 10:13付 WSJより)

具体的には、北朝鮮制裁違反を行っていたとして、米国財務省が北朝鮮制裁を巡り、中国の船舶会社2社に加え、船舶などを制裁リストに加えるというものであり、いわば、一種の「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」だといえます。このうち制裁対象の中国企業は、次の2社だそうです。

  • Dalian Haibo International Freight Co.Ltd.
  • Liaoning Danxing International Forwarding Co.Ltd.

この2社は、前者が北朝鮮の情報機関の関連会社に対して製品を販売し、後者は欧州を拠点に、北朝鮮高官らに対して北朝鮮の「体制維持に使われる製品」を提供する際に詐欺的手法に関わったのだとか(これって贅沢品のことでしょうかね?)。

また、米財務省は違法な「瀬取り」による石油製品の北朝鮮輸出に関わっていた疑いがある18隻、北朝鮮産の石炭の違法な輸出に関わっていた疑いがある49隻の船舶も特定し、国連経済制裁決議の実施状況について危機感を示したのだとか。

米国は北朝鮮の「暴発」を望んでいる?

こうした今回の措置の狙いについて、「トランプ政権の複数の高官」は「北朝鮮が核放棄に応じるまで経済的な圧力を強化すること」だと述べたそうですが、問題は、「今後、どこまで北朝鮮制裁を拡大するか」、という点でしょう。

WSJによれば、これらの「政権の高官ら」は、現在のところは「これ以上北朝鮮に対する経済的な圧力を高めるつもりはない」と述べたのだそうですが、先週は国連安保理向けの報告書で北朝鮮が制裁逃れに成功していると指摘されたばかりでもあります。

「北朝鮮制裁は強化されない」との報道を、どう考えるべきなのでしょうか?

これについて、WSJの記事には続きがあります。

  • トランプ政権は北朝鮮との外交交渉を打ち切らず、継続すると繰り返し表明している。
  • 北朝鮮は米国に対し、ハノイ会談で制裁の部分的緩和を期待していた。
  • 北朝鮮側は米国に対し、核開発、ミサイル実験の凍結を解除する可能性があると警告している。

つまり、米国の今回の姿勢も、「北朝鮮との対話は継続する」と言いながら、真綿で首を絞めるように、徐々に経済制裁を強化するというものであり、「北朝鮮制裁のさらなる強化については考えていない」とする「政権高官らの発言」については、額面通りに受け取るべきではないのかもしれません。

いや、極端な話、米国は口先では「我々は北朝鮮との対話を望んでいる」などと温厚な姿勢を示しておきながら、その実際のところ、北朝鮮が音を上げて、再びミサイル発射実験に踏み切ることを望んでいる、ということかもしれません。

北朝鮮の違法な瀬取りは広がる

それはさておき、北朝鮮が国連安保理制裁決議逃れを巧妙化させていることは間違いありません。

WSJの報道をベースにすると、米国政府は北朝鮮による瀬取り行為などについて、

  • 昨年を通じて、少なくとも263隻のタンカーが北朝鮮に対する違法な瀬取りを通じた石油輸出に関わった
  • 北朝鮮が(国連安保理制裁決議で定められた)年間50万バレルの上限値を超える石油を輸入していることは明白だ

などとする声明を出したとのことであり、また、違法な石炭輸出取引が行われている地点はベトナム北部のトンキン湾などにも広がっている、などとしています。また、偵察衛星の画像解析などによれば、こうした国連安保理制裁決議に漏れた取引は、とくに中国で観察されているのだとか。

さらに、民間の商業衛星の画像をもとにした「38ノース」というウェブサイトの情報によれば、東倉里(とうそうり)にあるミサイル発射施設で最近、いくつかの建物が修繕されていることが判明したとしています(※ただし、3月中旬以降は作業は停止しているようですが…)。

平和の祭典とトランプの再選

さて、当ウェブサイトでは『日本の「韓国外し」は急速に進むのか?安保から見た日韓関係』のなかで、次のように申し上げました。

ドナルド・J・トランプ米大統領が再選されるためには、有権者に訴えかける「強力な成果」が欲しい。しかも、有権者の記憶にしっかりと残るよう、大統領選のできるだけ直前に決着が付く大きなイベントであることが望ましい。

この点、来年、つまり2020年には、7月から9月に掛けて、東京オリンピック、パラリンピックが行われます。次に、11月3日には、アメリカ合衆国大統領選が行われます。

  • 東京オリンピック(7月24日~8月9日)
  • 東京パラリンピック(8月25日~9月6日)
  • アメリカ合衆国大統領選(11月3日)

「平和の祭典」(?)である東京オリパラが終了し、米国大統領選の投票日まで、2ヵ月弱の時間があります。可能性が高いか低いかは別として、米国はこの「平和の祭典」あけまでの間、モグラ叩きのように制裁逃れの穴をふさぎつつ、わざと北朝鮮を泳がせるのではないか、とする仮説です。

もちろん、トランプ氏がこんなわかりやすい行動を取るという保証はありませんし、オリパラと米大統領選が何事もなく過ぎていくかもしれません(あるいはそれより前の段階で北朝鮮攻撃が実施されるかもしれません)。

しかし、何事も、何か行動を起こすためには時間がかかるものですし、物事には段取りというものがあります。「北朝鮮制裁をこれ以上強化しない」とする米国の姿勢はあくまでもポーズに過ぎず、現実には「北朝鮮の暴発を期待しつつも時間を稼いでいる」、というのが実態に近いのではないでしょうか?

いずれにせよ私は、「北朝鮮制裁についてはこれ以上強化しない」とするWSJなどの報道についても、額面どおりに受け取るべきではないと思うのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 鞍馬天狗 より:

    更新お疲れ様です

    瀬取り監視強化っても、日本海側だけで
    黄海側はやり放題な訳で
    狙いは、中共へのセカンダリー
    米国は、北を眼中に無いでしょ

  2. カニ太郎 より:

    これは、ビッグニュースかもしれません。

    私は最初、いま、大詰めを迎えている、米中貿易協議における、アメリカ側の交渉カードの一種だろうと思っていましたが、この中国の海運会社2社を調べてみたところ・・・

    Dalian Haibo International Freight Co.Ltd.(大連海博国際貸運有限公司)
    Liaoning Danxing International Forwarding Co.Ltd.(遼寧丹興国際貸運有限公司)

    という会社で、この両社、大連海博国際貸運有限公司の方は、ネット検索でも出てきませんでしたが、遼寧丹興国際貸運有限公司の方は、中国語でしたが、ちゃんとHPがありました(驚き👀‼️)

    どうやら、いつもの、ダミー会社、じゃないみたいです(笑)

    つまり、中国側に、金銭的な実害が出たということです。

    米国資産凍結に米国貿易禁止措置ですから。

    やはり、米国は凄い。

    ちゃんと制裁するときはしますね。

    日本みたいに形だけじゃない。

    ちゃんと実害が出ることをする(偉い!)

    ちょっとファーウェイのCFOをカナダに逮捕させたときと比べたら、インパクトは小さいですが、他にもムニューシン財務長官は67隻の船舶リストを公開したそうですから、この中には大物(中国や韓国の海運会社大手)もいるかもしれません。

    残念ながら、67隻リストがありませんので、調べられないのが残念です。

    ただ、三菱子会社(上海菱華倉庫運輸有限公司・上海菱運国際貨運有限公司・菱陽国際貨運代理(深圳)有限公司)とか、日本の大手海運会社の船舶がないことを祈ってます(あったら洒落にならん笑)

    でも、米国が中国へのセカンダリーサンクションを、たとえ米中貿易交渉のカードだとしても、実際に使ったのですから、これは中国、韓国、への、大きな圧力になるでしょう。

    私は、米国は北朝鮮への制裁強化はないだろう、と予想してたのですが、ちょっと考えを改めないといけないですね。

    もしかしたら今後の流として、北朝鮮への経済制裁が厳格化されて、北朝鮮がその対抗手段として、再びミサイル実験など威嚇行動を再開するかもしれません。

    そうなると、私が思っていた、なし崩し的な、米朝合意はなくなりますね。

    う~ん、国際情勢は難しい。

    いずれにせよ、来月中旬の米中貿易交渉の結果次第だと思いますので、まだ楽観はできないと思います。

    1. 鞍馬天狗 より:

      カニ太郎さんへ

      北朝鮮制裁の名を借りて、
      黄海封鎖して、
      大連潰しに出たら面白いコトになる

    2. 門外漢 より:

      トランプ氏は「北への制裁強化は無い」とのことですが、制裁破りは容赦しないということなのでしょう。
      制裁項目だけを増やしても尻抜けなら何にもならない訳で、こうして中韓あたりを締め付けて行けば、結果として制裁強化になります。
      北に対しては協議を諦めていないと言うポーズを取りながら(暴発待ち?)であり、他方では締め上げている。
      実に上手い手じゃないでしょうか。

  3. 匿名 より:

    韓国と北朝鮮をセットにできれば、まとめてやっちまえるのに・・・

    なんとかならんもんか。

  4. めがねのおやじ より:

    更新ありがとうございます。

    とうとう米国は中国にペナルティーを課しましたね。中国企業2社(大連海博国際貸運有限公司、遼寧丹興国際貸運有限公司)が制裁受けた。

    WSJは『偵察衛星の画像解析などによれば、国連安保理制裁決議に漏れた取引は、特に中国で観察される』とも。これら以外にも悪質な制裁逃れがあるようで、米中貿易交渉の切り札として使って来ます。

    北朝鮮に対しては米国は『継続して制裁を行う』。意訳すれば『強化する』です。日米はじめ豪英仏の護衛艦、駆逐艦、フリゲート、警備艦が網の目のように進出しているのも、その一貫でしょう。

    北朝鮮は、、、暴発はまだ確率低いと思いますが、南北(ほぼ)同時暴発になると半島全部が火ダルマになる。まずは中国が困るでしょうね。日本も他人事ではないですが。

  5. 心配性のおばさん より:

    現在、米中貿易交渉が続けられていますが、アメリカは中国が約束したことを守ることが確認できるまで、関税は続行するそうです。
    国際経済は複雑なネットワークで構成されており、中国経済を締め付けることは、その返り血はアメリカにも降り掛かりますが、アメリカは覚悟の上で進めているようです。
    それだけ、中国がアメリカや同盟国の安全保障上の脅威になっているということです。英独仏などは、地理的に離れていることもあって、なかなか、本気になれないようですが、アメリカの対中強硬姿勢は日本の国防にとっても大切なことです。

    今回、Web主さんが、記事にされている対北朝鮮制裁ですが、日米ともに、北朝鮮の先に中国を見ているはずです。
    Web主さんは、アメリカが北朝鮮暴発を狙って攻撃するのではないか。と読んでみえますが、攻撃の後をどう処理するのでしょうか?金正恩氏の逮捕や軍部の解体、治安維持はどうします?
    中露が介入してくるかもしれませんし、アメリカが半島に気を取られている隙をついて、中国による台湾侵攻があるかもしれません。
    私たちは、それらの可能性に、準備しておかなければいけません。そして並行して、中国経済や韓国経済を追い詰めて、その国力を弱らせておくことが必要です。この国々を民主主義陣営の経済ネットワークから外すことが安全保障上必要な事だと思います。時間が掛かっても、自国経済に影響が出るとしても怯んではいけない。と思います。
    私はトランプさんを信頼してはいませんが、今回の中国に対するアメリカの覚悟は見事です。日本も対中国、対韓国で倣うべきですね。

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