開城連絡事務所巡り、米国は韓国を「金融」で締め上げるのか?

今さら指摘するまでもありませんが、米韓関係が危機に瀕しています。その大きな理由は、米国の同盟国という立場にありながら、韓国が米国を裏切って、北朝鮮の利益になるようなことばかり行っているからです。私はごく近い将来、米国の堪忍袋の緒が切れることは間違いないと見ているものの、「堪忍袋の緒の切れ方」については現段階で予想しておく価値があると考えています。

危機に瀕する米韓関係

軍事同盟破棄の前に:経済制裁が実現?

以前から私は、「米国が韓国に対して激怒しているのではないか」とする仮説を立てていて、近いうちに米国が韓国に対し、何らかの経済制裁を適用する可能性は、それなりに高まっているのではないかとも考えています。

議論の前提として、米国と韓国は軍事同盟を締結しているという事実があります。軍事同盟が存在している以上、「米国が韓国との同盟を破棄して朝鮮半島から撤収する」というのは、そう簡単に実現するものでもありません。

もちろん、日本を代表する「コリア・ウォッチャー」である鈴置高史氏(日本経済新聞社の元編集委員)のように、「米国にとっては韓国の同盟がお荷物になっている」と指摘する識者もいます。次の記事が、その典型例でしょう。

米中貿易戦争のゴングに乗じた北朝鮮の「強気」/北朝鮮は誰の核の傘に入るのか(2018年7月10日付 日経ビジネスオンラインより)

鈴置氏はこの論考の中で、米国にとっての韓国の意義付けを、次のように指摘します。

そもそも米国にとって、戦略的な要衝ではない韓国との同盟は価値がありません。それどころかカネがかかるし、余計な紛争に巻き込まれるリスクもある。/朝鮮戦争で韓国を助けたために米国はこの半島にはまり込んでしまった。もともと朝鮮半島は米国の防衛線の外にあるのです。/2010年頃から米軍関係者は「米韓同盟は長続きしない」と日本の安保関係者に非公式に通告してきています。

つまり、「鈴置説」を取るのならば、米国にとって韓国とは戦略的要衝でないだけでなく、カネもかかるしリスクもある、まことに厄介な無用の長物だ、ということです(もっとも、「米軍関係者が米韓同盟破棄を示唆している」という下りについては、私自身がその裏取りをしたわけではありません)。

しかし、私自身は、「米国としては米韓同盟を破棄する前に何らかのアクションを起こす」と考えています。もちろん、「米国が米韓同盟を終了させたがっている」という鈴置氏の指摘はかなり正しいのだと思いますが、それと同時に、同盟を終了させるのにもコストが掛かるという点を無視してはなりません。

そこで、米国が採用する方法が、「経済面での締め上げ」だと思うのです。

経済制裁の名目

どんな国であっても、軍事面と経済面は死活的に重要です。

仮に軍事的には戦争状態とならなかったとしても、経済制裁を加えることで、相手国経済を締め上げ、場合によっては国家破綻寸前に追い込むこともできます。現在、日米両国が北朝鮮に適用している経済制裁も、核放棄を強制させるために有効な方法であることは間違いありません。

ただし、この経済制裁は、必ずしも「敵対国」に対してだけ適用されるものではありません。歴史上も、友好国ないし同盟国に対して経済制裁が適用された事例など、いくらでもあります。

これに関連し、当ウェブサイトでは先月末、『「米韓同盟破棄」の前に、米国は韓国に経済・金融制裁実施?』や『経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ』のなかで、米国による韓国に対する経済制裁自体が、決して非現実的なものではないと議論したばかりです。

「米韓同盟破棄」の前に、米国は韓国に経済・金融制裁実施?

経済制裁を受けたとしても、国家観を持たぬ韓国の自業自得だ

改めて振り返っておきますと、米国は6月12日の米朝首脳会談にも関わらず、北朝鮮による非核化がまったく進まないことに業を煮やし、マイク・ポンペオ米国務長官の4回目の北朝鮮訪問をキャンセル。対話を「棚上げ」にした状態となっています。

それなのに、韓国は米国から何度も警告を受けているにもかかわらず、北朝鮮・開城(かいじょう)市に「南北連絡事務所」の設置を強行しようとしています。米国の堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題ではないかと思うゆえんです。

韓国さん、正気ですか?

こうした中、私が発見し、驚いた記事が、これです。

青瓦台安保室長「南北共同連絡事務所、今月初めに開設」(2018年09月02日11時51分付 中央日報日本語版より)

タイトルにある「青瓦台」とは韓国大統領府のことです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)によると、その大統領府の鄭義溶(てい・ぎよう)国家安保室長は1日、「南北共同連絡事務所が今月初めに開設される予定」と明言したそうです。

中央日報によれば、文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の主宰で開かれた政府・与党・大統領府の会議で、鄭室長は

4月27日の板門店宣言と6月12日の米朝首脳会談宣言がつまづくことなく履行されるよう最善の努力をしなければならない

と述べたのだそうですが、この時点で認識がおかしいと誰か気付くべきでしょう。なぜなら、「共同宣言」をつまづくことなく履行するよう最善の努力をしなければならないと主張するなら、その主張は北朝鮮の方にこそ向けられるべきだからです。

鄭室長は

  • 「韓半島の非核化と平和定着に向け非常に厳重な時期」
  • 「最近南北間の軍事的緊張緩和と関連合意がしっかり履行されている」
  • 「板門店周辺で相互非難中止と軍通信線復旧が行われた」

などと述べたのだそうですが、北朝鮮による非核化に向けた進展が何1つとして見られないなかで、むしろ韓国がやっていることといえば、一方的な武装解除であり、米国にとってみれば「利敵行為」にほかなりません。鄭室長は

韓半島平和の当事者として主導的役割をし、堅固な韓米同盟を基に緊密な協力を維持して国際社会の支持を確保する一方、国民的合意と支持に基づいて政策を推進する。このために板門店宣言の国会批准が重要だ」(※下線部は引用者による加工)

と述べたのだそうですが、自分自身で米韓同盟を危機に陥れておきながら、いったい何をおっしゃっているのかと呆れてしまいます。

米国の「次」を読む

米国はいきなり同盟を破棄するわけではないはず

こうした状況に対し、米国はどう反応するのでしょうか?これについては先月、韓国メディア『東亜日報』(日本語版)が「米国務省が制裁違反を検討」と報じています。

米国務省、南北の連絡事務所設置に「制裁違反を検討」(2018/08/25 08:06付 東亜日報日本語版より)

もちろん、この記事もよく読むと、「韓国の行動が北朝鮮に対する制裁違反ではないか」との記者の質問に、ヘザー・ナウアート米国務省報道官が「否定しなかった」というだけの話であり、米国政府が公然と「韓国をセカンダリー・サンクションの対象にする」と述べたわけではありません。

つまり、米国政府としては、現時点で韓国の動きへの対処方針を明らかにしたわけではありませんが、ナウアート報道官らの反応を見るまでもなく、少なくとも米国政府が韓国政府の開城南北連絡事務所設置を歓迎していないことだけは間違いありません。

ただ、だからといっていきなり米韓同盟が破棄される、というものでもありません。

たしかに、ドナルド・J・トランプ大統領本人が何度も強調しているとおり、米韓合同軍事演習は次々と中止・延期となっており、トランプ氏の発言からは、「カネのかかる同盟は将来的に破棄したい」という思惑が見て取れることも事実です。

しかし、米軍はさまざまな装備品を韓国軍に提供していますし、軍事機密の共有なども行っており、今すぐ米韓同盟が消滅すれば、それはそれで米国側にも大きな打撃が生じます。現時点では、日本と米国が、何とか韓国をなだめすかして、「海洋同盟」側に慰留している状態だともいえるでしょう。

言うことを聞かなければムチをふるう

ただ、いきなり米韓同盟を破棄するという可能性はそれほど高くないにせよ、米国がある国に懲罰を加える手段は、別に軍事的なものに限られない、という点を忘れてはなりません。ずばり、米国は経済的な手段をもって、韓国に大きな打撃を与えることができるのです。

ただし、トランプ政権が中国に対して仕掛けているのと同じ制裁関税を韓国に適用することは、米韓FTAの関係もあり、簡単ではありません。米国も法治国家であり、外国との条約に公然と違反することは難しいからです。

しかし、米国にはもう少し簡単に、韓国経済を破綻させる手段があります。それが通貨を通じた制裁です。

米国財務省は半年に1度、「為替操作の実施状況に関する監視レポート(※英語)」を公表しています。このなかで、

  • 米国に対する200億ドル以上の貿易黒字(a significant bilateral trade surplus with the United States is one that is at least $20 billion)
  • GDPの3%を超える経常収支黒字(a  material current account surplus is one that is at least 3 percent of gross)
  • 12ヵ月間でGDPの2%以上の金額に相当する一方的な為替介入を継続的に繰り返していること(persistent, one-sided intervention occurs when net purchases of foreign currency are conducted repeatedly and total at least 2percent of an economy’s GDP over a 12-month period)

という3つの基準を設け、これらの要件に照らし、中国、日本、韓国、インド、ドイツ、スイスの6ヵ国を継続的な監視対象に指定しています。

金融政策を封じられる!

簡単にいえば、中央銀行が為替介入を行っていても、米国財務省としてはそれを把握しているぞ、という警告のようなものですね。

韓国は現在、失業率水準がジワリと上昇していて、経済的にも行き詰まりを見せ始めています。その原因といえば、文在寅政権が行っている「最低賃金規制」によるところが大きいのですが(詳しくは『雇用政策の失敗は経済の自殺:民間経済潰す韓国の最低賃金』)、雇用が崩れれば経済は失速します。

雇用を増やすためには金融政策(たとえば、利下げをしたり、おカネを増やしたりすること)が有効ですが、金融緩和をすれば韓国の通貨・ウォンの価値が下がり、為替相場では「ドル高・ウォン安」となってしまいます。そうなれば、米国から見て「それは為替操作だ!」とイチャモンを付ける材料となってしまうのです。

また、逆に韓国経済に対する信認が低下すれば、外国資本は韓国からおカネを引き揚げる可能性もあります。とくに、パニック的な「韓国ウォン売り」が発生すれば、それはキャピタル・フライトにもつながりかねません。

まずは文在寅政権を「倒す」?

米国から見て、韓国は軍事同盟の相手国であり、かつ、北朝鮮と対峙しなければならないときに、直ちに韓国との軍事同盟を破棄するというのは、非現実的ではあります。しかし、それと同時に、金融という手段を使って非公然と韓国を「締め上げる」ことであれば、それほどハードルは高くないという点も事実でしょう。

実際、米国は世界の基軸通貨である米ドルを握っていますし、韓国のような「ソフト・カレンシー国」が米国の債券市場から締め出されれば、最悪の場合、国際的な生産活動が滞って、企業倒産が相次ぎ、経済はたちまち行き詰ってしまいかねません。

私が米国の大統領ならば、まずは金融面から韓国経済を締め上げるような軽い「ジャブ」を放つと思います。その意味で、韓国が開城連絡事務所の開設を強行するならば、10月に発表される「為替監視レポート」で韓国を「為替操作国」と認定するのは1つの可能性として考慮する価値はあるでしょう。

もちろん、いったん「為替操作国」に指定されてしまえば、その後、さまざまな分野に影響が波及するため、この「為替操作国認定」は、一種の「伝家の宝刀」であり、米国がそれを抜刀する可能性はそこまでは高くありません。

しかし、何も「為替監視レポート」で締め上げる必要はありません。たとえば、米国政府「子飼い」(?)の格付業者に韓国のソブリン格付を格下げさせれば、それだけで韓国の資金調達コストが急騰します。

何より、国民生活が苦しくなって、韓国国民が2016年に朴槿恵(ぼく・きんけい)政権を倒したような「ろうそく革命」で文在寅政権を倒してくれるようならば儲けものでもあります。

その意味で、当面の米韓関係については、「韓国が9月に開城連絡事務所設置を強行するかどうか」という点に1つのポイントがあることは間違いないといえるでしょう。

読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 青瓦台の言う『南北共同連絡事務所を今月初めに開設する』つて、ナント今の話ですよね?鄭室長は完全に自由主義陣営を舐めてるな。それとも文に言わされ、本人もその気か。

    < 米国の子飼いの格付け屋が、韓国のソブリン格付けを格下げさせればいい。韓国への「為替操作国認定」はもっと効く(笑)。そうなれば失業率上昇中の文政権は、ローソクデモで倒れます。一度味をしめた愚民は、民意こそ至上だとばかり、憂さ晴らしのためにやるでしょう。とても見ものです。でも、日本の親韓派議員や企業、また元財務省山崎国際局長みたいなのが出てきて、『スワップは日韓双方にメリットがある』などと妄言を言わないか不安です。

    < 何度も言ってますが、『韓国に対しては関知しない』を貫いて欲しい。友邦、同盟、国益を共有する相手でも無いから、泣こうが纏わりつこうが、振り払う。関与すればきっと、日本の不利益になる。これを忘れないで欲しい。ま、安倍首相なら大丈夫か。

  2. 牛島 より:

    攻められやすく守りにくい半島の宿命はインテリジェンスの分野も同じなんでしょうか。米軍基地のハードしかアメリカにとって意味がないのかも。

  3. ossan より:

    38Northなるシンクタンクは御存知でしょうか?北朝鮮の調査シンクタンクで、最新情報を頻繁にアップしてくれます。これによると新しいミサイル製作工場を作ったり、打ち上げ場も作っているようです。
    さてアメリカですが、分際虎への圧力よりも、彼らは遼東半島の中に米軍があるのを嫌がっており、済州島に映らせたいとの事です。つまり「韓国は早晩不安定になる」と思っての事でしょう。また、次に北朝鮮との戦いが始まった場合、アメリカは「戦う義務」を強制されない立場を求めており、その前提での北嘲賤攻撃が当座の政策誘導かと思います。恐らくこれも安倍総理大臣との会談で決めた事でしょう。ただ話によると、北の豚は、どうも虫獄からの難民(環境汚染難民)が来て、北朝鮮が不安定になるのを恐れているとか?実際今虫獄の飲水は海水からの濾過で賄われており、GDPの低下は「水の供給量」を減らす事となります。また主水源の海を見ると渤海での取水は早晩無理と思われます。虫獄16億は意外と1ヶ月の内に渇水死で1/10になるかもしれませんね。

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