高齢化社会と生活の再構築

本日は普段と趣向を変えて、高齢化社会において想像される問題点について述べたいと思います。なお、私自身の親族の話ですので、少しフェイクを入れて説明します。

家が2軒、無理した生活

日本は「少子高齢化」が進んでいるといわれていますが、具体的に日本で何が生じているのでしょうか?

本日は私の親族の事例を紹介したいと思います。

あるご夫妻の概略

ご夫妻は同い年で今年67歳になります。30年前、近畿圏にある、山を切り開いて造成された某ニュータウンに、自宅(一戸建て)を購入しました。このニュータウンは、最寄りの私鉄の駅までバスで20分であり、そこからさらにご主人の勤務先(大阪)まで電車で1時間程度、奥様の勤務先(京都)まで電車で30分程度だったのだそうです。

ご夫妻は育ちざかりの子供を3人抱えていたという事情もあり、子供たちに自分の部屋を与え、ご主人は週末に趣味のガーデニングを楽しむこともできるという意味で、当時は彼らなりに最善の場所だと考えていたそうです。

ところが、いまや子供たち3人は全員巣立ってしまいましたし、ご夫婦そろって定年退職した現在、山を切り開いてできたニュータウンは生活するには若干不便です。とくに、奥様はもともと運転免許を持っておらず、また、ご主人は最近、運転免許を返上しようとも考えているそうで、そうなってくると、このニュータウンの自宅に暮らすには、相当に不便になるのではないかと想定されます。

こうした中、ご主人は3年前に、一人暮らしをしていた実家のお母様が亡くなり、ご主人は一人っ子だったという事情もあり、四国・徳島県にあったお母様の自宅を相続することになりました。つまり、この方は自宅を2つも持つことになってしまったのです。

さらに、奥様はもともとアクティブな方で、退職後も趣味のコーラスの練習で週に1回は京都に出掛けるなど、多趣味な暮らしを楽しんでいました。しかし、実家のお父様に認知症が出てきたため、様子を見るために岡山県にある実家に頻繁に帰るようになりました。

本日は、このご夫婦を例にとって、「これからの日本社会の問題点」について考えてみたいと思います。

何かと問題の多いこのご夫妻

本日の記事にご登場いただくご夫妻、私自身との関係については伏せますが、私と非常に近い関係だとだけ申し上げておきます。なぜこのご夫妻について取り上げるのかといえば、このご夫妻は、早ければ数年後に生活が破綻してしまう可能性が極めて高いからです。

今のところ、このご夫妻は特に問題なく生活を続けていらっしゃるようですが、いろいろと無理をしている部分もあります。冷静に考えてみましょう。

  • ご夫妻は同い年で今年67歳、2人とも数年前に定年退職している。
  • ご主人にはガーデニング以外にこれといった趣味はないが、奥様は趣味のコーラスの練習で週1回は京都に通っている。
  • ご主人は3年前にお母様を亡くし、遠方の徳島県あるお母様の自宅(つまり実家)を相続した。
  • 奥様は最近、認知症が出てきたお父様の様子を見るために、遠方の岡山県の実家に頻繁に戻っている。

ニュータウンに暮らすなら自動車は必須

まず、大前提として、ニュータウンに暮らすなら、生活をするための自動車は必須でしょう。

山を切り開いたようなニュータウンは、それこそ昭和中期から平成初期にかけ、日本中で造成されました。その時代にはすでに日本では各家庭に自動車が普及しており、郊外の大型スーパーなどで日用品はを買うというライフスタイルが確立していました。

しかし、奥様は運転免許を持っていません。どうやって買い物をしていたのでしょうか?子育て中は週末ごとに、ご主人が運転する車でショッピングセンターに出掛けていたのでしょうか?あるいは奥様が勤務先(京都)から帰宅する途中で、スーパーとかに寄っていたでしょうか?

いずれにせよ、奥様が運転免許を持っていないのに、坂道の多いニュータウンに暮らすというのは、相当に不便だったのではないかと思います。

使わない家を持っていると大変なことになる

次に、私が不思議に感じるのは、ご主人の行動です。

ご主人は、京阪間のご自宅以外に、亡くなったお母様が所有されていた徳島県の実家を所有しています。しかし、一人っ子であるため兄弟がなく、徳島県の自宅には誰も住んでいないようなのです。

聞くところによると、ご主人はこの自宅を誰かに貸すつもりもないし、売るつもりもないのだとか。そして、年1~2回、墓参の時に徳島県に戻る際、宿泊するためだけに、自宅を保有しているのです。

ただ、だれも住んでいない家は、すぐに劣化してしまいます。

たとえば、このご主人の相続した家でも、水道管が破裂しているのを近所の人が発見し、市役所に通報されたという事件もあったそうです。

無理をすることを前提としたライフスタイル

さらに、奥様は最近、認知症が出てきたお父様の様子を見るために、頻繁に岡山県のご実家に戻られているそうです。

奥様には岡山県内にご兄弟(兄と弟)がいらっしゃるのですが、奥様曰く、

親の面倒を見るのは娘の役割でしょ?だから私が見に行かないといけないのよ」。

しかし、自動車の運転ができるならば話は別ですが、先ほど申し上げたとおり、奥様には運転免許証がありません。ということは、京阪地区のニュータウンにある自宅から岡山の実家に戻るためには、いったん京都まで出て、そこから高速バスで岡山県まで移動し、さらに駅前から実家までタクシーで移動するのだそうです。

考えてみればこれも大変な話です。

高速バスの便数も限られていますし、また、交通費負担もバカになりません。

生活の再建を提案したが…

このご夫妻は私の親族であるという事情もあり、また、私自身が公認会計士であるためでしょうか、ある日、このご夫妻から生活についての相談を受けました。

最近、ご実家と自宅を何度も往復しているためか、奥様がお疲れになっているご様子。また、ご主人も「ガーデニングが趣味だ」と言いながら、最近では庭に出るのが億劫になり、ご自慢のお庭も雑草が目立ってきています。

このご夫妻は、今はなんとか生活が回っているものの、奥様のお父様のご体調次第では、奥様のご負担がさらに増えてしまいかねません。あるいは、ご主人も奥様も、いずれさらに高齢になりますから、今のうちに生活の再建をしておくべきではないかと思い、私は次のように提案しました。

  • 京阪神の自宅、徳島の自宅のいずれかを売却するか、他人に貸し出す
  • 広すぎる家を引き払い、駅前の便利な場所にあるマンションに入居する
  • 生活パターンを見直す

しかし、結果的にはいずれの提案も拒絶されました。

ご自分で「相談に乗ってほしい」と言っておきながら、私の提案については「言い訳ばかり」で拒絶されたため、私は「残念ながらこれ以上力にはなれない」と申し上げてしまいました。

京阪間の自宅、徳島の自宅のいずれかを売却するか、他人に貸し出す

まず、家を2軒維持していて、しかも1軒は空き家という状況になっているのは非常にまずい状況です。

私は、少なくとも1軒については売却するか、他人に貸し出すことを強くお勧めしました。しかし、ご主人はこれに対し、

いや、別に困ってないし…。

と述べて拒絶。結局、このご夫妻は、今でも徳島県にある家を、売りもせず、貸しもせずに維持しているのだとか。

広すぎる家を何とかしては?

次に、ご夫妻が徳島県に移り、近畿圏にある自宅を売却することも一案だと申し上げました。

実際、現在このご夫妻が現在居住する近畿圏の自宅は、子供を3人育てていた頃に建てたものであり、少し広すぎるように思えたからです。また、広すぎる庭も、手入れが行き届いているとはいえない状況になってしまっています。

ただ、ご夫妻の生活基盤は近畿圏にあり、友人も多いため、いまさら近畿圏を離れるわけにはいきません。そこで私は、売れるうちに自宅を売却し、ご夫婦で住むことを前提にした、駅前などにある小ぶりなマンションに転居することを勧めました。

私が「駅前の便利な場所に移られてはどうか」と提案した理由は、もう一つあります。それは、奥様はお父様の様子を見るために、頻繁に遠方の実家に戻っているからです。自宅が便利な場所にあれば、それだけ移動時間の節約が可能です。

奥様はこのアイデアに乗り気でしたが、ご主人はこれにも反発。

「子供が将来帰ってくるかもしれないし…」

「息子が将来結婚したら、嫁や孫と同居できるかもしれないし…」

など、あくまでもこの不便な場所にある自宅にこだわる姿勢を示したのです。

生活パターンを見直しては?

あるいは、いっそのこと岡山県に居住するお父様を、近畿圏に招いて面倒を見てはどうか、とも申し上げました。現在のご自宅は比較的広く、また、お父様を介護するだけの部屋も十分にあるからです。

しかし、これについても、やはりご主人はこれに乗り気ではありませんでした。

私はこの時点で匙を投げてしまったのです。

日本中で生じる問題点

実は、このご夫妻の事例は、日本全体から見れば氷山の一角に過ぎません。

全国的に造成されたニュータウンの中には、都心から離れすぎているためでしょうか、いまや「ゴーストタウン」と化している場所もあると聞きます。

なにより、このご主人の事例のように、「煮え切らない態度」を取っていると、あっというまに時間が経ってしまいます。先ほど紹介したご夫妻の事例では、徳島県にあるご主人の実家は、誰も住んでいないため、朽ち果てるに任せている状況にあります。

私は前職時代、頻繁に地方出張をしていましたが、地方によっては各地に「シャッター街」が出現してしまっています。その大きな理由は、このご夫妻のように、「空き家なのに自分で住もうともしないし人に貸そうともしない」人たちのせいではないかと睨んでいます。

私は、「誰も住んでいない家や誰も使わない店舗が増えている問題」を放置すれば、日本全国がゴーストタウン化する恐れもあると考えており、早急な立法措置が求められると考えます。具体的には、「誰も住まず、売りにも出さずに放置されている家」については、固定資産税の額を100倍にするなり、自治体による強制執行を可能とするなりして、こうした物件が出現することを防ぐべきでしょう。

本日紹介したご夫妻だけでなく、私には他にも「高齢化社会の困った事例」をいくつか存じ上げており、今後もこうした事例とそれにともなう問題点を指摘していきたいと思います。

 

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    新宿会計士様
    いつもご愛読させていただいてます。
    これは私の家族と親族ですが、ほとんど実話です。
    私の両親は既に亡くなり、妻の両親が神戸市東部の高級住宅地のマンション、私が西部にマンション、私の兄が西部の1戸建(元両親の家)にそれぞれ2人ずつ住んでいます。義父の具合が悪く介護付ホームに単身入居、もう先は短いとの宣告です。義母は体の調子はいいですが、一人用のケア付マンションに移るつもりです。妻はひとりっ子の為、義父のマンションは妻が相続します。私の兄も体が弱く、65歳以下ですが車の免許を返上しデイサービスを受けてます。兄嫁は車に乗ってましたが、3年前にやめました。この家は私も昔少し住んでたので、愛着はありますが一戸建は修繕とかメンテに物入りで、庭の世話も大変です。ちなみに子供はいません。私は男子2人と妻の4人家族でしたが、子は上が東京(市ヶ谷の印刷業)、下が大阪(梅田で道路・トンネル等の設計会社)で就職、まだ独身です。
    このまま私らの年の人が全員亡くなれば、家が3つあり、相続者は2人だけです。二人には「行く行く住む所はあるから、安易にマイホームを買わないように」と伝えてます。でも東京神奈川お気に入りの長男はまず、帰って来ないでしょう。
    それぞれの物件を比べると、
    ① 義父母のマンションは小綺麗、ハイソで超便利、しかし3階建の為エレベーターがない(2階住み)義父が住めなくなった理由です。
    ② 私のマンションは西部の小高い丘の上にある為、やや不便。右手目の前に明石大橋、淡路島、真ん中に大阪湾、左手に紀伊半島が見えて、とても景色だけはいいです。夜は関空のライトが見え、お客さんは喜びます。
    *伊丹、神戸空港は山が邪魔で見えません。
    ③兄の家はニュータウンですが比較的便が良く、土地も広いためペットも飼ってますが、庭の世話が行き届かず、都心のもっと交通アクセスの良いところを考えてます。
    ーーーでこの3世帯でクルマがある(乗っている)のは私だけで、通院に買い物に大活躍です(笑)。
    と、一長一短です。10年後、20年後を考えれば一つ二つは整理することになるでしょう。でも、少子化が言われて久しいですが、このうち西2軒界隈は乳児、幼稚園児、小中学生がとても多いです。都心回帰と言いますが、小さい子達を育てるにはちょっと田舎の方がいいのでしょうか。でも高齢者には便利で、クルマを使わず何でも揃う都心の方がいいですね。

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