韓国に対する「セカンダリー制裁」が現実味を帯びてきた

米国がついに韓国に対し、「北朝鮮制裁への足並みを乱すな」との露骨な警告文を出したようです。

米国の韓国への不信感

朝鮮日報「米国が韓国語で警告文」

韓国メディア『朝鮮日報』はとくにここ半年ほど、文在寅(ぶん・ざいいん)政権に批判的な記事や社説を掲載しています。もともと朝鮮日報は『東亜日報』、『中央日報』などと並ぶ「保守系メディア」とされていますが、文在寅氏を持ち上げる傾向が強い中央日報と比べると、朝鮮日報のスタンスは特異です。

そんな朝鮮日報の日本語版に、先週金曜日、こんな記事が掲載されました。

米国務省、韓国の対北制裁破りに韓国語で警告(2018/08/03 10:09付 朝鮮日報日本語版より)

(※ただし、朝鮮日報の記事は数日経過すると閲覧できなくなりますのでご注意ください。)

リンク先の記事はウェブページで3ページに及び、文字数では2000字を超える長文ですが、私の文責において要旨を示すと、次のとおりです。

米国の国務省が北朝鮮制裁に関する詳細なガイドブックをわざわざ韓国語に翻訳してウェブサイトに掲載した/これは、現在の米国が韓国を北朝鮮制裁の抜け穴とみなして警戒している証拠だ/おりしも米国の議会は超党派で韓国政府に対し、開城工業団地の再稼働は制裁違反になるとの警告を発している/また、北朝鮮産の石炭が韓国の港に水揚げされた疑いが持たれており、問題の石炭が北朝鮮産と最終確認されたら、韓国最大の公企業である韓電も制裁対象になりかねないとの懸念もある

これについて米国務省のウェブサイトを実際に確かめてみたのですが、確かに “Democratic People’s Republic of Korea Sanctions” (朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁)のページに、『北朝鮮への制裁と執行措置に関する勧告:北朝鮮とのサプライ・チェーン上の関連性に関するビジネス上のリスク』(原題:“North Korea Sanctions and Enforcement Actions Advisory: Risks for Businesses with Supply Chain Links to North Korea”)という文書が掲載されており、わざわざ韓国語版のPDFファイルも併記されています。

日本語バージョンがない理由

米国務省のウェブサイトを見れば、英語、韓国語以外にも中国語、ロシア語、フランス語、スペイン語のバージョンが掲載されていますが、日本語バージョンはありません。なお、朝鮮日報によると、韓国語バージョンは最近、追加されたのだそうです。

朝鮮日報が「韓国語はあるのに日本語がない!」「(だから)日本に勝った!」などと能天気に大喜びしたりしていないこと自体、朝鮮日報がこのことの深刻さを重く受け止めている証拠といえるかもしれません。

まず、フランス語とスペイン語はともかく、わざわざ中国語とロシア語の文書が作成されている理由は、中国とロシアの個人・法人が制裁破りをする可能性が高いと米国が見ている証拠でしょう。これに韓国語版が付け加わった理由は、まさに朝鮮日報の指摘通り、米国の韓国に対する不信感の表れでしょう。

一方で、そもそも日本版がない理由は、その裏返しとして、すでに日本政府が北朝鮮に対するかなり厳格な独自制裁を実行しており、米国は日本が国を挙げて制裁破りをするとは考えていない証拠であると言い換えても良いでしょう。

いや、もう少し厳密に言うならば、むしろ北朝鮮に対する制裁に力を入れているのは、米国よりも日本です。日米両国は「北朝鮮のCVID ((CVIDとは、CVID、つまり、「完全な、検証可能な、かつ不可逆な方法での廃棄」(Complete, Verifiable and Irreversible Dismantlement)のこと。)) 方式による非核化」という共通目標を持っていますが、これに加え、日本は「拉致問題の完全な解決」という独自目標を持っています。

結果的に、まさに日本と米国は「北朝鮮に対する最大限の圧力」という政策を共有しているのです。もっと言えば、この「最大限の圧力」を米国に採用させた国こそが日本であり、安倍晋三総理大臣はドナルド・J・トランプ米大統領にかなりの「入れ知恵」をしているようなのです。

北風と太陽:失敗に終わった「太陽政策」

ただ、世の中には「北朝鮮に対して圧力一辺倒ではいけない」「北朝鮮が段階的な核放棄をするために、段階に応じて少しずつ支援を行うべきだ」、といった議論をする人がいることも事実です(とくに日本共産党などがそのような主張をしています)。

これについてはどう考えれば良いのでしょうか?

「太陽政策」といえば金大中(きん・だいちゅう)元韓国大統領が開始し、盧武鉉(ろ・ぶげん)政権に引き継がれたものですが、これは「どんな厳しい北風でも絶対に上着を脱がなかった旅人が、太陽のポカポカした光で上着を脱いでしまった」とするイソップ寓話『北風と太陽』から名付けられたものです。

要するに、北朝鮮に核放棄を迫るためには、厳しい圧力ではなく、国際社会が寛容な姿勢を示すことが近道だ、とする発想であり、「北朝鮮に経済支援を与えれば核開発を自然に放棄するだろう」という期待感があったことは間違いありません。

この「太陽政策」がたとえ話として分かりやすかったためでしょうか、米国を含めた世界各国が「それもそうだ」と騙されたことは事実です。実際、過去に国際社会は北朝鮮に核放棄の代償として燃料支援などを申し出たという実績があります。

では、国際社会が「北風と太陽」のたとえ話よろしく、北朝鮮に対してせっせ、せっせと支援を行ったことにより、北朝鮮の非核化とやらは、達成されたのでしょうか?その答えは、述べるまでもないでしょう。

実際、複数のメディアの報道によれば、北朝鮮の核開発は明らかに継続されているようであり、これに加えて国連安保理報告書にも「北朝鮮が核開発を継続している」と明記されたとの報道もあります。

北朝鮮、ICBM製造継続か 米紙報道(2018年7月31日 13:18付 AFPBBニュースより)
北朝鮮、過去にICBM製造した施設で活動再開のもよう=米高官(2018年7月31日 09:11 付 ロイターより)
北朝鮮の核開発「継続」と明記 安保理報告書(2018/8/4付 日本経済新聞電子版より)

いやむしろ、この「北風と太陽」のたとえ話に基づく「太陽政策」が、北朝鮮の核開発を助長してきたという言い方の方が適切ではないでしょうか?

もっと言えば、「北風と太陽」のたとえ話の間違いは、「圧力」を「北風」に例えた部分です。もういちど「北風と太陽」のたとえ話をよく思い出してみるとわかりますが、旅人が上着を脱いだ理由は「暑いから」であり、「暑すぎて上着を脱がざるを得ない状況に追い込まれたこと」です。

本来のイソップ寓話に照らした「太陽政策」とは、「北朝鮮が核兵器を放棄せざるを得ない状況に追い込むこと」であり、金大中らが唱えた「太陽政策」は意味が真逆なのです。

米国の本気度

ロシア、中国に対する警告

いずれにせよ、現在、日米両国を中心とする国際社会が採用している政策は、「北朝鮮に対する最大限の圧力」であり、その目的は、北朝鮮を核放棄に追い込むことです。

6月12日の米朝首脳会談では抽象的な美麗字句でちりばめられた共同宣言が採択されましたが、注目すべき点があるとすれば、米国は北朝鮮に対する経済制裁をまったく解除していないということです。

そして、北朝鮮に対する「最大限の圧力」という国際社会の足並みを乱す者に対しては、米国は容赦なく「セカンダリー・サンクション(二次的制裁)」を課すと警告しています。その証拠の1つが、日本時間土曜日時点の次の報道でしょう。

Pompeo Warns Russia, China Over Violating North Korea Sanctions(2018年8月4日 19:27 JST付 Bloombergより)

リンク先は英文ですが、日本語訳したうえで私の文責で簡単に要約すれば、

  • マイク・ポンペオ米国務長官は土曜日、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議に出席するために訪問したシンガポールで、北朝鮮が核兵器を放棄するまで北朝鮮に対する圧力を緩和すべきでないとする見解を示した
  • ポンペオ長官は中国とロシアの2ヵ国を名指しして、両国が北朝鮮に対する国連安保理制裁に違反していると警告した

といったものです。ちなみにリンク先の記事によれば、ASAEAN関連会議でポンペオ長官と同席した北朝鮮の李容浩(り・ようこう)外相はポンペオ長官がシンガポールを去った後で、米国が北朝鮮制裁を解除しないとする考えを堅持している点を批判したそうです。

本人を目の前にして批判できないあたりが、しょせんは北朝鮮の「ヘタレ」な部分だと思うのですが、ここで重要なポイントは「ポンペオ長官が中国とロシアの2ヵ国を名指しした」という点でしょう。先ほど指摘した、米国務省がわざわざ中国語とロシア語の文書をウェブサイトで公表していることを思い起こします。

制裁はときどき発動されている

しかも、米国の警告は別に「口先だけ」のものではありません。現実に、米国政府は「セカンダリー・サンクション」をときどき発動しています。たとえば、今月3日にも、米国財務省はロシアの銀行1行、1個人、2法人を新たな経済制裁の対象に加えています。

米、対北制裁違反でロシア銀行を制裁対象に(2018.08.04 Sat posted at 10:26 JST付 CNN日本語版より)

CNNによると、今回、制裁対象となったのはロシアの「アグロソユーズ商業銀行」であり、北朝鮮の「朝鮮貿易銀行」の代表者(モスクワ在住)の取引を助けたとして制裁対象に指定されたものです。

このように考えていくと、現実に米国による経済制裁はときどき発動されていて、それこそサラミをスライスするように、徐々に制裁の輪は絞られつつあるのです。中国やロシアが制裁逃れをしようとしても、金融取引において米国や日本の監視力を甘く見ない方が良いでしょう。

次の制裁対象は?

しかし、北朝鮮に対する経済制裁を逃れようとする意外な国が、中国とロシア以外にもう1ヵ国あります。

それが韓国です。

もちろん、現時点において米国は韓国と軍事同盟を締結していますし、(見た目は)友好国です。しかし、「米国の同盟国」という立場にありながらも、文在寅政権は平昌(へいしょう)冬季五輪の北朝鮮代表団の参加を含め、北朝鮮に対してさまざまな便宜を提供してきました。

そして、冒頭で引用した朝鮮日報の報道にもあるとおり、韓国が密かに北朝鮮を支援しているとの疑いは濃厚であり、米国は韓国にたいしてさまざまな不信感を抱いていることは間違いありません。だからこそ、米国務省に「わざわざ」韓国語で文書が掲載されたのだと思います。

当然、米国の「本気度」を踏まえるならば、米国が「同盟国だ」というだけの理由で韓国を経済制裁の対象から外すとは考えない方が良いでしょう。

自ら勝手に武装解除する韓国

さて、当ウェブサイトでの以前からの人気コンテンツが「韓国の将来シナリオ」です。

この「将来シナリオ」とは、私自身が予想する朝鮮半島の将来シナリオを8つほど示したものであり、その最新版については図表のとおりです(各シナリオの詳細については『予想通り、韓国では朴槿恵政権時代に戒厳令が検討されていた』をご参照ください)。

図表 朝鮮半島の8つのシナリオ
シナリオ名称概要予想確率
①赤化統一北朝鮮主導で南北朝鮮が統一される(いわゆる「高麗連邦」シナリオ)30%
②韓国の中華属国化北朝鮮という国が存続したまま、韓国だけが中国の属国となる20%
③南北クロス承認北朝鮮を日米両国が国家承認し、韓国が中国の属国となる25%
④統一朝鮮の中華属国化朝鮮半島統一が実現し、かつ、その統一朝鮮が中国の影響下に入る10%
⑤北朝鮮分割中国やロシアが北朝鮮に軍事侵攻して分割占領し、韓国が中国の属国となる10%
⑥現状維持とりあえず朝鮮半島の現状が維持される5%
⑦米国による斬首作戦米国が北朝鮮に全面攻撃を仕掛け、国家崩壊した北朝鮮を韓国が吸収する0%
⑧軍事クーデター韓国で軍事クーデターが発生して極左の文在寅(ぶん・ざいいん)大統領を拘束・排除し、日米との友好関係を回復する0%

(【出所】著者作成)

このなかで、韓国にとっての一番理想的なシナリオとは、⑧の「軍事クーデター」だと思います。というのも、このまま文在寅政権が続けば、ほぼ間違いなく米韓同盟が終焉を迎えると思いますが、それを止めるシナリオとして現実的に考えられるのは⑧しかないからです。

しかし、私が「一番可能性が高い」と考えるシナリオは①の「赤化統一」、すなわち韓国が勝手に武装解除し、北朝鮮主導で朝鮮半島に統一国家が出現するシナリオです。

もちろん、韓国は民主主義国家ですから、韓国国民が自らの判断で北朝鮮との統一を選択するならば、私たち日本としてもそれを尊重するしかありません。しかし、それと同時にこのようなシナリオが実現した場合、当然、米国や日本は韓国を見捨てることになるでしょう。

私が約2年前にこの「赤化統一シナリオ」を提唱した際には、「何を非現実的なことを言っているのか?」とばかりに、一顧だにされなかった記憶があります。しかし、現実には、文在寅政権下で韓国の「武装解除」は着々と進んでいるようです。

韓国、軍事境界線から兵員の一部撤収を検討「信頼醸成措置」で(2018年7月24日 20:32付 AFPBBニュースより)

果たして韓国はこのまま「あちら側」に行ってしまうのでしょうか?

残念ながら、現在の情報を統合する限り、「米韓同盟の破棄」と「赤化統一」は、日々、少しずつ実現に向けて動いていると言わざるを得ないのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ラオス経済 より:

    夏休み=現実逃避?
    写真:読書に没頭する文在寅大統領

  2. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 北朝鮮の石炭が、他国籍船を装い、韓国港に堂々と入港は、2隻だけじゃなく大量に入ってるでしょうね。また瀬取りなど常に見張らないと無理です。逃げても小銃1発撃てないんだから、やりたい放題です。まず、悪気がないのだから始末に負えない。ツーカー。ズブズブ。

    < 親北朝鮮の金大中の『太陽政策』は、無駄に時間を与え、資金も呉れてやったので、金正日など笑いが止まらなかったでしょう。いっそのこと日本のホテルで暗殺されときゃ良かったのに、と思います。盧武鉉も文在寅も同じこと繰り返してますが、文が一番の信者ですね。韓国は北にシンパシーを感じる勢力が一定居る。今は更に朴がつまずいたので、保守系は弱り左傾人が勢いありますが、支持率は最近やや下がった。

    < 韓国はホントに一人で考えて行動出来ない国です。韓国軍の縮小、合わせて師団数の縮小が言われているし、板門店付近の最前線部隊も減らすとか(笑)北が攻めて来ても、多分武装解除されるでしょう。で、統一高麗国かなんかネーミングはどうでもいいですが、金正恩に吸われる(笑)。悲しい結末です。

    < あまりそうなって欲しくないが、やはり北に吸われそうです。文をクーデターで倒す軍人もいないだろうし、このまま進んで米韓同盟決裂まで行くのは、日本としては時期尚早、ノーガード。でも、そうなれば一般国民も改憲による交戦権を認めると思います。 以上。

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