インターネットに完敗する新聞、視聴者が高齢者に偏るテレビ

総務省のレポートによると、史上初めて、40代におけるインターネットの利用率がテレビの利用率を上回ったとされています。ただ、社会の変化はゆっくりと進みます。「明日からいきなり新聞社とテレビ局が潰れてインターネット時代になる」、といった短絡的なものではないことも事実でしょう。

総務省レポート

総務省が情報通信メディアに関する報告書を公表

先月27日に総務省が発表した調査報告書によると、史上初めて、40代におけるインターネットの利用率がテレビの利用率を上回ったそうです。

「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表(2018/07/27付 総務省HPより)

今回の報告書は、総務省が平成24年(2012年)から東京大学大学院の橋元良明教授らとの共同研究により実施しているもので、今回で6回目だそうです。調査報告書によれば、テレビのリアルタイムでの視聴時間は減少傾向にある一方で、インターネット利用時間は一貫して増加しています。

とくに、今回の調査では平日のインターネットの利用率(報告書中で「行為者率」)が40代で83.5%を記録し、テレビの利用率83.0%を上回ったという点が、非常に衝撃的です。

もちろん、現時点においてメディアとしての信頼度は、、新聞、テレビがインターネットよりもはるかに上回っていますが(新聞が68.7%、テレビが63.6%で、これに対してインターネットは30.8%)それでも若年層ほどインターネット利用率が高く、利用時間も長いという傾向も、年々くっきりとしてきました。

総務省レポートの読み方

まず、総務省のレポートでは、「平均利用時間」という概念が出て来ますが、これは、調査対象期間(2017年11月11日(土)~17日(金)の一週間)のうち、休日1日、平日2日の行動を回答させて、合計の利用時間の平均値を取ったものだそうです。

一方、「行為者率」という概念も出て来ます。これは耳慣れない言葉ですが、簡単に言えば、「調査対象の期間に、実際にその行為を行った人の割合」のことであり、たとえば「インターネット行為者率」とは実際に調査の対象日にインターネットを利用した人の割合のことだと考えれば良いでしょう。

また、調査対象の年代は、13歳から69歳までであり、10代が13~19歳で少し対象が狭いですが、それ以外の年代については10歳刻みで集められており、サンプルの合計は合計1500人とされていますが、後述するとおり、「年代補正」は行われていないようです。

なお、これらの詳細についてはレポート本文P4~5あたりを参照してください。

そのうえで、この「平均利用時間」、「行為者率」という2つの軸から現代社会の情報行動を読み解くと、なかなか興味深いことが判明します。

利用時間と行為者率

平日の平均利用時間

まずは「平日の平均利用時間」です。

ただし、元資料のグラフが若干読み辛いので、「テレビ(録画)視聴時間」と「ラジオ聴取時間」を除いたうえで、「テレビ(リアルタイム)視聴時間」「インターネット利用時間」「新聞閲読時間」の3者を使い、記載されている数字を参考にグラフを書きなおすと、図表1のとおりです。

図表1 テレビ、インターネット、新聞の年代別平均利用時間(平日)

(【出所】総務省公表物P6より著者作成)

ここで、平日の利用時間で見ると、60代のテレビの利用時間が突出しているほか、40代以上で軒並みテレビの平均視聴時間が2時間を超えていることがわかります。しかし、インターネットの利用時間については、10代と20代ではテレビの利用時間を上回っていて、30代で平日の利用時間が均衡しています。

このあたりについては、「高齢者ほどテレビを見る」「若年層ほどインターネットを使う」という、当ウェブサイトでもなかば「暗黙の前提」と想定している内容が、データのうえからもはっきりと裏付けられた格好となっています。

ただ、意外と注目されていないのは、新聞の閲読時間です。

「高齢者ほどインターネット利用時間よりもテレビ視聴時間の方が長い」ということは事実として判明しますが、「高齢者ほどインターネット利用時間よりも新聞閲読時間の方が長い」のかといわれれば、少なくともこの調査結果で見る限り、答えはノーです。

よく、ブログサイトや保守論客のサイトを読んでいると、「高齢者ほど新聞とテレビに騙される」などと記載されていることがありますが、少なくとも総務省の調査からは、すでに10代から60代に限っていえば、すべての年代において、新聞の閲読時間よりも、インターネットの利用時間の方が長いのです。

休日の平均利用時間

次に、休日の平均利用時間については、図表1と同じ要領で、図表2にまとめてみました。

図表2 テレビ、インターネット、新聞の年代別平均利用時間(休日)

(【出所】総務省公表物P6より著者作成)

これは、さきほどのデータよりもさらに露骨です。

すべての年代でテレビの視聴時間数は増えるのですが、若年層(10代と20代)においてインターネットの利用時間がそれ以上に増え、テレビとインターネットが完全に逆転します。しかし、平日で均衡していた30代でテレビがインターネットを凌駕し、高齢層ほどテレビ視聴時間が長くなります。

しかし、新聞については全年代で平日とまったく傾向は変わらず、インターネット利用時間を完全に下回っているのです。私のイメージでは、休日になれば高齢者ほど家でゆっくり新聞を読むのかと思っていたので、意外感は否めません。

考えてみれば、テレビは勝手に映像と音声で情報を流してくれるので、ダラダラと「ながら視聴」ができますが、新聞の場合は文字も小さく、また、高齢層ほど手から水分が失われるので、紙をめくるのも面倒くさくなります。

つまり、テレビのメインのターゲットは「平日より休日」、「若年層より高齢層」に受け入れられていることは間違いないにせよ、新聞についてはすべての年代から見放されつつある、というのが実情に近いのではないでしょうか?

平日の行為者率

次の論点が、「行為者率」、つまり「その行為をする人の割合」です。これについても、「テレビ(録画)」、「ラジオ」の両者を割愛したうえで、グラフを作り替えると、平日の行為者率は図表3のとおりです。

図表3 テレビ、インターネット、新聞の「行為者率」(平日)

(【出所】総務省公表物P6より著者作成)

これは、平均時間ではなく、実際にそのメディアにアクセスする人の比率を示したものであり、報道でも触れられているのは、「40代におけるテレビとインターネットの行為者率が逆転した」という点です。これについては確かに、40代においてインターネット(83.5%)がテレビ(83.0%)を上回っています。

考えてみれば、調査対象となる人々は毎年必ず1歳、年を取るので、年々、インターネットの利用率がじわじわ上がっていくのは当然のことといえるかもしれません。しかし、意外なことに、「行為者率(利用率)」で見れば、50代もインターネットの利用率が76.6%と、全体の4分の3に達しています。

インターネットの利用率が50%を割り込んでいるのは60代だけですが、それでも45.6%の人が利用しているのです。図表1と照らし合わせて考えるならば、利用時間自体はまだまだ短いかもしれないものの、高齢者であっても半数近くの人がインターネットにアクセスしている、ということです。

それだけではありません。先ほどの平均利用時間のところでも見られたのと同様、新聞は「行為者率」でもインターネットに敗北しつつあります。唯一、60代で逆転していますが、それ以外の年代になると、インターネットの「行為者率」が常に新聞の「行為者率」を上回っています。

つまり、新聞の「行為者率」は社会の中堅層である30代から40代で20~30%に過ぎず、10代、20代に至ってはヒトケタ台に沈んでいる格好です。

休日の行為者率

図表3と同じ要領で示した休日の行為者率が、図表4です。

図表4 テレビ、インターネット、新聞の「行為者率」(休日)

(【出所】総務省公表物P6より著者作成)

といっても、行為者率のデータについては、休日と平日で顕著な差異は見られません。図表2で休日になればテレビやインターネットにアクセスする時間数が増えていることを確認しましたが、図表4でも平日と比べれば全体的にやや行為者率が上昇するものの、傾向としては平日と大差ありません。

考察

「高齢者=テレビ」の構造は弱まっている?

ここから先は、あくまでも私自身の考察です。

まず、「高齢者ほどテレビの視聴時間が長い」、「若年層ほどテレビの視聴時間が短い」という点については、今回の総務省の調査からもはっきりと確認することができます。また、インターネットの利用時間についてはその逆になっている、ということです。

しかし、「若年層と高齢者で情報行動は真逆だ」、という単純なものでもありません。

若年層は、とくに平日はテレビにもインターネットにもアクセスしている時間が短いのですが、これは、若年層ほど仕事や学校などで忙しく、テレビを見ている暇もなければ、インターネットを見る暇もない、ということではないかと思います。

逆に言えば、高齢者層がテレビを長時間、視聴している理由は、時間的な余裕があるからなのか、それとも単に昔からの習慣でテレビを見続けているのか、そのあたりについては見極めが必要です。言い換えれば、高齢者ほど、テレビではなくインターネットを利用する可能性もあるのではないでしょうか?

もちろん、「高齢者がテレビを長く視聴している」という点は事実ですが、だからといって、「高齢者はテレビに騙されている」、「高齢者は情報弱者だ」、などと決めつけるのは、少し議論の飛躍があるようにも思えるのです。

新聞は全世代から見放される?

その一方で、今回の総務省の調査で意外だったのは、新聞がほぼ全世代から見放されている、という点です。「平均利用時間」、「行為率」ともに、新聞は低下傾向にありますが、とくに「平均利用時間」で完全にインターネットに追い抜かれたことは、1つの象徴的な事象です。

そういえば、私自身も首都圏に居住していますが、2013年3月21日から東京メトロの全線で携帯電話が使えるようになりました。あれから5年が経過したのですが、地下鉄に乗っていると、スマートフォンを触っている人はたくさんいるのですが、新聞を読んでいる人の数はめっきり減ったように思えます。

また、新聞のデメリットを挙げればきりがありません。文字が小さく読み辛いこと、紙に印刷されて宅配されるまでにかなりの時間がかかる(=情報の鮮度が古い)こと、紙に印刷されているのですぐに古新聞が溜まってしまうことなどを考えると、すでに新聞そのものが時代遅れなのかもしれません。

偏向報道メディアの終焉は近い…のか?

ところで、当ウェブサイトでは新聞やテレビの偏向報道体質をずいぶんと批判して来ました。

私が考える「偏向報道体質」の問題点とは、事実上、8社・グループが新聞・テレビを完全に支配しているという点に尽きます。このような寡占状態となれば、マス・メディアにとって都合が悪い情報が無視され、印象操作がまかりとおるのも仕方がありません。

しかし、日本の場合は2009年8月の衆院選がマス・メディアによる情報統制を完全に崩すきっかけになったのではないかと思います。というのも、2009年8月の政権交代の原動力となったのは、明らかに新聞とテレビの報道を信じた有権者だったからです。

そして、2009年の政権交代も、有権者が「マス・メディアの報道を鵜呑みにしてはダメだ」ということに気付くきっかけになったことは、ほぼ間違いないと思います。折しも、2009年8月の衆議院議員総選挙から、来年はちょうど10年の節目です。

今のペースを維持すれば、インターネットの社会的影響力が強くなることはあっても弱くなることはありませんし、新聞・テレビの社会的影響力は低下していくと思いますが、ただ、今回の総務省のレポートを読む限りにおいては、新聞はともかく、テレビの利用時間は依然として長く、利用率も高いのが実情です。

このように考えていくと、単純に、「今すぐ新聞もテレビもなくなる」「これから完全にインターネットで情報を得る時代になる」と考えるのは性急でしょう。

当ウェブサイトとしても、「読んで下さった方の知的好奇心を刺激するような記事」を配信するよう、努力を続けて参りたいと思います。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < 総務省の複雑な報告書を簡易にまとめられて、見やすくありがとうございます。総務省のだけなら、いちいち見る気しませんでした(笑)。

    < 情報弱者層の私としては、とても肩身の狭い結果です(大笑)。さもありなん、知り合いなど1日中、テレビを付けっ放しですもん。見てもないのに、付いている。友人には『ちょっと、見てないなら消したらどう?』『いや、音が無い生活は寂しい』なんて言ってます。

    < もうテレビ漬けで治らない人もいます。私は何が楽しいのかが分かりません。でもさすがにこのデータでも、新聞は少し見る程度。手を伸ばさない。文字の級数を上げたのに、やはり見えにくいんでしょう。ページをめくる時も指に唾を付ける。汚ね〜。『君も読むか?』『いや、ええわ』(笑)。

    < 但しスマホは皆さん使えます。それなら、ネットでも情報取れるのに、、、。やはり文字が見えにくいんでしょうね。それと操作法。特になまじ若い頃、目が良かった人ほど、眼鏡に抵抗がある。カッコ悪いと思っているのか?いちいちかけるのが、煩わしんですね。

    < しかし、新聞の凋落は酷い。全世代から配達後チラ見して、ゴミ箱行き。これなら昨日の毎日新聞など、5年は持たんな。『平均利用時間』は10〜20代でネットの圧勝、30代でイーブン、40代以上でテレビなら、今後、テレビは加速度的に数値、落とします。

    < 正直、変わり者の私など、テレビを見る時間、もったいない。(笑) 以上。

  2. りょうちん より:

    >有権者が「マス・メディアの報道を鵜呑みにしてはダメだ」ということに気付くきっかけになったことは、ほぼ間違いないと思います。

    ただ、「マスゴミに騙される人たち」が減っても、「ネットに騙される人」に変身するだけじゃないのかなあという感想を、最近の「パヨク」「ネトウヨ」と呼ばれる人の行動を見ていると思いますがね。
    ほんの少しだけ、「騙されていた!これからはちゃんと考えよう・・」・という自省の念を持てた薄い層はいることでしょうけど。
    「マスゴミに騙されていた人がこれからはネットで情報収集しよう」と考える人が、「ネットで騙された。これからネットを使うときは気をつけよう」となってくれないと、余計に変な人が増えそう。

    1. あいあい。 より:

      はずかしながら、私は2009年に民主党に投票しました。
      で、その後「これはアカン。ちゃんと理論武装しとかんとエラいことになる」と思ったクチです。
      (その過程では三橋貴明氏のブログにお世話になりました。今の三橋氏を見ると悲しくなりますが)

      これでネットで情報を集めるようになった人はネットといえど情報は疑ってかかるべし、と考える方が多いと思います。

      一方、若い方には、最初からネットありきで、目の前にある情報が正しいと考えてしまい、パヨクになったり、ネトウヨになったり、ということでしょう。

      自分で意識してネットで情報を集めるようになった人は同じ轍を踏まないと信じますし、そういう方は決して薄い層ではないと、自身の経験を通して思います。

  3. 便所神 より:

    NHK 2015年国民生活時間調査報告書 5年毎調査
    (5) 新聞
    ■新聞(電子版も含む)の国民全体の行為者率は平日と日曜は33%、土曜は35%
    ■行為者率を男女年層別にみると、男女60代以上では平日・土曜・日曜で半数を超えているが、
    男女20代以下では1割に満たない。

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