文部科学省の汚職捜査は「芋づる逮捕」を狙ったものなのか?

文部科学省の汚職事件を巡って、検察当局からいくつかのリークが出ているようです。ただ、冷静に考えてみると、今回問題になっている事件は、容疑者にとって、検察などから逮捕されるリスクを冒してまでも実行すべき価値があるのかと問われると、そこは大いに疑問です。

東京地検への疑問

文部科学省の汚職事件については、以前から当ウェブサイトでも注目しています。

文科省局長逮捕:玉木、前川の両氏こそ疑惑に答えよ

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前川喜平氏がやってきたことは「面従腹背」どころではない

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これは、文科省の現役局長が「私立大学研究ブランディング事業」で東京医大に便宜を図ることを約束した見返りに、自身の息子に点数を加算して不正に合格させるように依頼したという「受託収賄」が疑われているものです。

このスキャンダルでは、すでに文部科学省の科学技術・学術政策局長だった佐野太(さの・ふとし)容疑者(58)が東京地検特捜部に身柄を拘束されており、また、臼井正彦前理事長(77)、鈴木衛前学長(69)は在宅で捜査を受けているのだそうです。

こうしたなか、事件の続報がいくつか出て来ました。

【文科省汚職】/東京医大、裏口入学毎年10人 東京地検特捜部がリスト入手(2018.7.15 05:00付 産経ニュースより)
東京医科大、不正合格リスト作成 過去も「裏口」か、文科省汚職(2018.7.16 16:09付 共同通信より)

このうち産経ニュースは、東京医大が毎年10人前後の受験生を不正に合格させていた疑いがあると報道。また、共同通信はより踏み込んで、「過去に点数を操作して不正に合格させる受験生の氏名などを記したリストが作成されていた」と報じています。

これらの報道が事実であれば、まことに「けしからん話だ」と思う人が多いことは間違いありません。しかし、こうした一連の報道について、私は強い違和感を抱きます。

まず、いずれの記事も「東京地検によると」とありますが、捜査中の事項を報道機関にばら撒くのはいかがなものかと思います。国家公務員には厳格な守秘義務が課せられており、こうした情報の漏洩は捜査を不正に歪める可能性があります。

以前、『【夕刊】山本真千子氏を「容疑者」として逮捕してはどうか?』でも取り上げましたが、大阪地検特捜部の山本真千子部長は「森友学園問題」を巡る捜査情報を朝日新聞にリークしていた疑いが濃厚です。

東京地検が先週時点で臼井前理事長、鈴木前学長の身柄を拘束していないことも謎ですが、今回の捜査を巡っては、何やら不透明感が払拭できないのです。

不自然な「みみっちさ」

最大1.5億円のためにそこまでやるか?

そもそも論として、今回の佐野容疑者の逮捕容疑は斡旋収賄であり、佐野容疑者、「東京医大」という学校法人、そして臼井前理事長や鈴木前学長などの個人犯罪と見て良いのか、という問題があります。

私は以前から申し上げてきたとおり、今回の問題の本質は東京医大の話に留まらず、文部科学省全体が絡んだ壮大な腐敗・汚職の利権構造にあるのではないかと考えています。私学に対する許認可権を握る文部科学省と、モラルの低い職員、そして利権に群がる私学関係者、という構図ですね。

ただ、今回の事件について、今ひとつ腑に落ちないのは、「私立大学研究ブランディング事業」について、です。文部科学省のウェブサイトによると、今回問題となっている「私立大学研究ブランディング事業」とは、

学長のリーダーシップの下、大学の特色ある研究を基軸として、全学的な独自色を大きく打ち出す取組を行う私立大学の機能強化を促進する

とありますが、何やら今ひとつよくわからない制度です。

この事業自体は平成28年度(2016年度)から開始され、予算は初年度のみ72.5億円でしたが、昨年と今年は55~56億円ていどです。これらの財源を用いて、「経常費・施設費・設備費を一体として重点的に支援」するとされています。

  • 2016年度:72.5億円
  • 2017年度:55億円
  • 2018年度:56億円

また、すでに実績が出ている平成28年度にかんしていえば、選定された学校の数は40校で、単純計算すれば1校あたり1億円少々といったところでしょう。「経常費は最大5年にわたり1校あたり年額2~3千万円程度」を支給するとされているため、これでだいたい計算は合います。

ただし、「各年度の申請は1大学あたり1件限り」とされています。そして、仮に文科省と癒着し、毎年度、別件で申請し、その都度それが認められれば、5年目以降は同時に5件分、つまり最大1.5億円程度の補助を国から受け取ることができるという計算です。

ただ、いくら「毎年最大1.5億円の補助金が受け取れる」からといって、「文部科学省の幹部の息子に点数を水増しして合格させる」という危ない話を、大学側も渡るのでしょうか?

だいいち、佐野太氏がいくら文部科学省の高官という立場にあるからといって、「私立大学研究ブランディング事業」の個別事業の選定に、そこまで強い権限を発動することができるのかと言われれば、それも非常に不自然です。

巨大な氷山が存在する?

冷静に考えてみると、56億円といえば、97.7兆円という国家予算に比べて0.006%に過ぎず、文部科学省の汚職にしては、随分とみみっちい気がします。また、文教・科学技術予算の総額は約5.4兆円であり、うち文教関連費が4兆円少々ですが、これと比べても0.1%少々です。

このように考えていくと、今回の事件は明らかに「氷山の一角」に過ぎず、裏には莫大な不正が隠れているように思えるのは、私だけではないでしょう。もちろん、現段階では佐野容疑者はあくまでも「容疑者」に過ぎず、有罪と確定したわけではありません。

当然、現段階で佐野氏を「犯罪者だ」と断定すれば、佐野氏に対する名誉棄損が成立するおそれもあります(もっとも、佐野氏は逮捕された時点で高級官僚という権力者ですから、権力者に対する名誉棄損はそもそも成立しないという考え方もあるかもしれませんが…)。

叩けば埃が出てくる?

官邸による「文科省解体の布石」説

ここから先は、あくまでも私の勝手な推察ですが、もしかして、今回の佐野氏の逮捕劇は、官邸側による、文科省を解体するための布石ではないか、という可能性はゼロではありません。

私はあまり陰謀論めいたことは好きではないのですが、要するに「安倍官邸が検察と協力し、文部科学省の小悪を手掛かりに、芋づる式に文部科学省の不正を摘発する」、というストーリーです。もしそうであれば、検察当局が政治と結託しているという話であり、このこと自体は好ましくありません。

ただ、違法天下り(国家公務員法違反)などを常態化させていたという点でもそうですが、前川喜平氏のような人物が事務次官になるような役所ですから、文部科学省も叩けばいくらでも埃が出てくる役所であることは間違いありません。

もしそうであれば、今回の捜査が佐野氏の不正に留まらず、政治家(とくに獣医師の関連団体から巨額の政治献金を受け取っていた、国民民主党の玉木雄一郎氏あたり)を含めて、どこまで波及するのかについては慎重に見守る価値がありそうです。

最後は有権者による監視が重要

また、そもそも文部科学省は官僚の違法天下り問題や事務次官の少女買春疑惑など、さまざまな問題が頻発している役所でもある、という事実を、私たち有権者は重く受け止める必要があるでしょう。

いや、巨額の予算の執行を管轄する役所であれば、国土交通省しかり、厚生労働省しかり、大なり小なり、不祥事が生じるおそれから逃れることはできません。とくに、私立大学の許認可権限は絶大であり、役所が「絶対に腐敗しない」と考える方が不自然です。

犯罪捜査は検察当局の仕事ですが、公表されている予算書や行政機構などを調べ上げ、何らかの不正が存在するかどうかを監視するのは、私たち一般国民にもできることです。さらには、現代社会にはインターネットという情報発信手段もあります。

インターネット空間と「言論の自由」を最大限に活用し、官僚、マス・メディア、国会議員などの権力者の監視を続けるのが有益でしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. りょうちん より:

    前川みたいな不心得者を排出した(あえて皮肉の誤字)文科省に対する官邸の報復の可能性は確かにあるかもしれませんね。
    おそらく、この事業に関しての直接の因果関係はともかく、この程度の「忖度」は日常茶飯事だったのかのかも。
    天下り規制後の文科省の天下り問題を受けて、全省庁に対する調査が行われています。その報告書。

    https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/h290614hokoku_hontai.pdf
    なぜか文字化けして引用できないのですが、他の省庁に比べて、文科省は特に悪質だったと記載されています。
    いや別に文科省だけが天下り規制を出し抜こうとしたわけではないとは思います。
    他の省庁もあらゆる抜け道を探して骨抜きにしようと努力wしていたのに対して、文科省は何の工夫も無く、ストレートに違反していた様なんですね。だからこそ、みせしめとして前川を始めとして大量の処分者を出した。
    そして自分達の非や、規制をかいくぐるくらいの機転の無さを棚に上げて、政権に逆恨みをしたのが、モリカケのはじまり。
    いやあ、文科省が三流官庁だというのがよくわかります。
    でもって、こうした構造を理解している政権側も、お得意の東京地検特捜部による国策捜査で文科省に更なるお仕置きをしようというのがいまここ。

    東京地検特捜部のリーク体質は国策捜査としてのスキームの一部で、鈴木宗男氏などが追求していましたが、蛙の面にションベンです。
    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171314.htm
    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171248.htm
    http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171281.htm

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