雇用政策の失敗は経済の自殺:民間経済潰す韓国の最低賃金

雇用政策は重要であり、昨日の『失業率対策を致命的に失敗する文在寅大統領の経済オンチぶり』や先週の『【朝刊】米中貿易戦争はルール主義を無視する中国への鉄槌』など、最近、当ウェブサイトでは「雇用」に注目することが増えています。なぜなら、雇用政策を間違えると、一国の経済が崩壊しかねないからです。

最低賃金規制の続き

最低時給835円、もはや日本と変わらず

昨日、『失業率対策を致命的に失敗する文在寅大統領の経済オンチぶり』という記事のなかで、雇用について考察しました。内容を簡単に振り返ると、雇用を最大化するには「最低賃金規制」などではなく、利下げ、金融緩和などの金融政策によりインフレ誘導を目指すのが正しい、という議論です。

ただ、昨日の記事を公表する直後に、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな報道が掲載されていたのを忘れていました。

来年の最低賃金8350ウォンに決定…10.9%引き上げ=韓国(2018年07月14日09時10分付 中央日報日本語版より)

中央日報によると、韓国・「最低賃金委員会」は14日(土)午前4時30分ごろ、来年度の最低賃金(時給)を8350ウォンに決議したとするものですが、これは今年(7530ウォン)と比べて10.9%も高い水準です。

1円≒10ウォンだとすれば、日本円に換算すれば、最低時給が835円ということでしょうか。ここまでくれば、日本と韓国の賃金水準は、もはや大差ない、というレベルだと思います。

よく日本でも「ベア」(賃金のベースを上昇させるという和製英語 “base-up” の日本語発音「エス・ップ」の「ベ」と「ア」を略した用語)というものが話題になりますが、安倍晋三内閣総理大臣が経済界に「3%のベア」を要請したことが話題になりました。

しかし、今回の韓国の決定は、3%どころではない、10.9%も一気に賃金水準を引き上げる、とするものです。文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領は政権公約として、「2020年までに時給1万ウォン」を掲げているそうですが、それにしても11%上昇とは、凄い話です。

中央日報によれば、今回決定した最低賃金の引き上げ幅は昨年(16.4%)よりも5.5%ポイント低いとしていますが、それにしてもなかなか大した決断をしたものです(※褒め言葉ではありません)。この決定が経済のファンダメンタルズ面に照らして判断されたのではなく、「政権公約ありき」だからです。

さて、これからいったい何が発生するのでしょうか?

経済全体の余力は限られている

非常に当たり前の話ですが、おカネは天から降ってくるものではありません。自力で稼ぐものです。経営者は経営努力により、労働者は労働により、資本家は投資により、それぞれおカネを稼がねばなりません。放っておいてもおカネが入ってくるのは役所くらいなものでしょう。

そうなってくれば、経済全体で競争原理を働かせながら、さまざまな創意工夫を凝らし、人々はおカネ儲けをしていく必要があります。そして、企業経営者にとっては、売上高からさまざまな経費、人件費、税金などを支払った残りが最終利益です。

最終利益を増やしたければ、「①売上高を増やす」か、「②経費を削減する」か、そのいずれかしか方法はありません(ちなみに「③粉飾決算をする」という選択肢もないわけではありませんが、ここではその選択肢は無視します)。

しかし、不景気になれば、「①売上高を増やす」というのがなかなか難しくなります。そこで、多くの経営者は手っ取り早く、「②経費を削減する」という選択肢を採用する傾向にあります。これは、古今東西を問わず、常に見られる現象です。

こうしたなかで、たとえば法律や規制によって、「②経費を削減する」という選択肢を制限されたならば、いったい何が生じるのでしょうか?

その答えは非常に簡単で、「事業を継続するよりも廃業して残余財産を分配する方が楽だ」と思う経営者や資本家が増える、ということです。現在、韓国で発生しようとしているのは、まさに「規制が民間経済を潰す」という、古今東西で一般的に見られる現象です。

外国企業も逃げていくよ

それだけではありません。

韓国に進出している外国企業にとっては、人件費が上昇し、採算性が悪化すれば、韓国における事業を畳む、という選択肢も視野に入ります。たとえば、日本でも有名な某衣料チェーン、某ファーストフードなどにとっては、人件費が上昇し、価格転嫁が難しければ、韓国事業の閉鎖を決断するかもしれません。

しかも、この場合は自国内で起業しているというケースではないため、事業の閉鎖はより簡単に決断できます。

さらに、韓国の場合はサムスンなどの多国籍企業も所在していますが、すでに海外展開している企業にとっては、コスト抑制を求めて、韓国内の工場を畳み、韓国外で生産しようとする動きも活発化する可能性もあります。

こうした私の予測が正しいのかどうかは、今後数分の韓国の雇用や韓国への対外直接投資(FDI)、韓国からのFDIなどの指標を見てみなければ判断できませんが、一応、現段階では

  • 韓国の雇用者数は減少する
  • 韓国へのFDIは減少する(純流出に転じる)
  • 韓国からのFDIは増大する

という流れを予想しています。

経済拡大局面と縮小局面の違い

ところで、昨日も述べたとおり、雇用政策は社会の様々な政策の中で、もっともダイナミックな分野であることは間違いありません。

経済合理性という観点からは、経営者側には常に「コストカット」という圧力が掛かっています。この点、労働者に支払う賃金もコストの一種ですから、企業としては「安ければ安いほど良い」という発想に行き着きがちです。

しかし、労働者にとっては常に賃下げ圧力が働きやすいため、労働法は「強行法」として、過度な賃下げや不当解雇等に歯止めを掛けています。こうした労働法自体の枠組みは、必要なものです。

ただ、それと同時に、経済合理性という観点からは、企業が「少しでも賃金が安い国」を目指すという動きを止めることはできません。そこで、とくに後発国では法人税優遇を行ったり、優れたインフラを提供したりして、企業を誘致しようとする力学が働きます。

そこで、先進国と後発国との間で、企業誘致を巡って激しい綱引きが繰り広げられるのです。

このように考えていくと、『【朝刊】米中貿易戦争はルール主義を無視する中国への鉄槌』でも述べたとおり、米国が仕掛けた米中貿易戦争の本質は、国際的なトレード・ルールを無視する中国に対する鉄槌であるという性格があるのかもしれません。

いずれにせよ、日本でも「3%ベア要請」があったほどですから、社会全体で賃上げしようとする主張は一般的に全世界で見られるものですが、だからといって国内の経済が縮小局面に入っているときに、大胆に最低賃金を引き上げようとする動きは、経済にとっては一種の自殺行為ではないかと思うのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 更新ありがとうございます。

    < もう韓国は相撲で言う『死に体』、ボクシングならタオル投げ入れられてTKO負けの状態ですね。来年の最低賃金11%近いアップ。昨年も16%アップ(笑)。ナニがしたいか分かりません。賃金だけ引き上げて企業の新規雇用拡大意欲を削減、正規労働者対策は公務員を増やすだけ。民間へは財閥大企業(ココは散々甘い汁吸って来たから因果応報だが)への圧力をかける。

    < 文は一国の経済政策としては悪手のオンパレードです。ホントにどシロート、いや全くチンプンカンプンなのでしょう。盧武鉉の参謀時も、左派陣営で策略ばかり建てて、何も学んでない。

    < 最近の発言でも、対北問題で『北朝鮮は非核化に動いている。次は米国が行動を起こすべきだ』なあんて、ルーピーなお花畑コメント出してるから、一応同盟の米国と日本は既に路線決定(どういう事態になろうが、韓国は要らん)だが、そろそろ愚民も見方を変えるのでは。

    < 中小零細商工人が『私達を逮捕しろ』とデモったり始めてます。意外に支持率80%超えの大統領も、またもやローソク集会で餌食になるかも。結局、誰がやっても反日だけが拠り所で、リーダーとしてはスカタンやったというオチです。日本は早よビザ免除プログラム15日に短縮→行く行く廃止へ切り替え希望です。

    < 済州島に難民500人来て、迷惑顔してますが、そら日本としてはオタクラを仮装難民と見做してますよ!今いる在日、不法滞在人含め準備しないと。 以上。

  2. りょうちん より:

    外国企業が逃げていくで思い出したのですが、

    http://world.kbs.co.kr/japanese/news/news_Ec_detail.htm?No=68684&id=Ec
    韓国政府に8654億ウォンの賠償請求 米投資会社

    この外国資本が逃げていくときにISDで助走を付けて全力で殴っていく事例がなぜかここでは取り上げられませんね。
    結構面白い事象だと思うんですが。

  3. 名無しの権兵衛 より:

    これは対岸の火事とは言えないのではないでしょうか?

    管理者様ご指摘の通り、

    前略>経済合理性という観点からは、企業が「少しでも賃金が安い国」を目指すという動きを止めることはできません。そこで、とくに後発国では法人税優遇を行ったり、優れたインフラを提供したりして、企業を誘致しようとする力学が働きます。

    当たり前ですね。
    グローバル資本主義が席巻している現代において、
    一国だけがいつまでも社会主義を続けられる道理はないかと思います。

    野党批判に血道をあげるのも結構ですが、日本は与党すら経済問題では社会主義的政策を掲げています。
    本来、「ベア3%上げ!」なんて、野党(特に連合)が言うべき政策でしょう。
    それを与党、首相が言うなんて、私めからすればポピュリズムによる社会主義の極致かと。。。

    我が国は先進国だから大丈夫だなんて思っていたら、あっという間に取り残されます。
    厳しいことを言う様かもしれませんが、
    グローバル資本主義をあまり舐めてかからない方がよろしいかと・・・

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