米中貿易戦争とは、純粋に経済学的に見れば、米国経済にある程度の打撃を与えかねないものですが、もう少し深い効果で見るならば、「ルールを無視した中国に対する鉄槌」という側面も見えてくるのではないでしょうか?

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2018/07/15 13:14 追記

「ノブくん」様からの次のご指摘で、記事本文を修正しております。

11日の時から気になってましたがアメリカの経済制裁は340億ドルだと思います

まったくご指摘のとおりです。記事本文の間違いをご指摘くださった「ノブくん」様には、心の底から御礼申し上げたいと思います。大変ありがとうございました。

数字で見る「米中貿易戦争」

米中貿易戦争の概要

米中貿易戦争が本格化しはじめました。

各種報道から事実関係をまとめておくと、制裁措置は7月6日(金)に発動され、米国側は中国の輸出品として、ハイテク分野に関する818品目(約340億ドル)を指定し、これらについては「制裁関税」として25%を課すとしています。

一方、中国側はこれに対抗して、同様に農産物などを中心とする545品目(金額は同規模)を対象とする報復関税を発動しています。ただ、米国が制裁を発動した品目は、いずれも中国にとっての「戦略分野」ですが、中国が発動した報復関税の対象品目は、食料品などの生活物資が中心です。

一般論でいえば、どちらも自国の消費者に最大の打撃を与える措置です。なぜなら、関税をかければ、その分、輸入品の価格が上昇し、自国の消費者に負担が転嫁されるからです。このため、経済合理性に照らせば、このような関税など、本来であれば「非常に愚かな行動」です。

効果は同じではない

ただ、ここで重要な点が1つあります。それは、中国と米国、より大きな打撃を受けるのは、中国の方だ、という点です。

まず、米国が制裁を導入したのは工業製品・半製品・ハイテク製品が中心であり、輸入代替(中国から輸入せず、代わりの国から輸入すること)が容易な品目ばかりです。というのも、中国が基幹技術を握っている製品はほとんどなく、818品目の多くは、中国以外も生産されているものばかりだからです。

しかし、中国が報復関税を発動した品目は、農産物などの生活物資が中心です。「農産物も米国以外の国から輸入すれば良い」という発想もありますが、実は、そこまで単純ではありません。なぜなら、「米国は世界に冠たる農業国」だからです(意外ですが…)。

中国の人口は14億人弱とされていますが、これだけの人口の需要に対応できる農産物を産出している国は、実は、それほど多くありません。たとえば、今回、中国が制裁措置を発動した品目の1つに、大豆があります。農林水産省によれば、生産量のトップは米国、消費量のトップは中国です。

図表1 大豆生産量(2016年、単位:千トン)
ランク 生産量
1位 米国 106,934
2位 ブラジル 100,000
3位 アルゼンチン 59,000
4位 中国 11,800
5位 パラグアイ 8,800

(【出所】農林水産省が発表するパンフレット

図表2 大豆消費量(2016年、単位:千トン)
ランク 消費量
1位 中国 95,250
2位 米国 54,425
3位 アルゼンチン 50,500
4位 ブラジル 43,000
5位 EU 15,320

(【出所】農林水産省が発表するパンフレット

生産量のダントツトップは米国であり、これはブラジル、アルゼンチンを上回っています。一方、米国、ブラジル、アルゼンチンはいずれも大豆の消費量も多いのですが、これらの多くは搾油、飼料などに使われており、「人々が食べている」というものとは限りません。

つまり、中国は米国からの大豆に報復関税を掛けてしまったものの、大豆自体の世界最大の供給国は米国です。ブラジル、アルゼンチンなど、ほかの主要生産国においても、少なくとも今年の大豆の販売先は確定しており、中国が米国からの大豆をキャンセルしてブラジルから大量に輸入することはできません。

つまり、中国は米国から制裁を課されながら、これに加えて、自分で自分に制裁を課してしまったようなものであり、一種の「ダブル・パンチ」となっているのです。

米国にもダメージは当然ある

その一方で、今回、米国が仕掛けた貿易戦争は、当然、米国にも悪影響をもたらします。とくに、その最大のものは物価上昇でしょう。

米国では2008年のリーマン・ブラザーズ経営破綻以降の景気後退局面で失業率が急上昇し、インフレ率が鈍化しました。こうした状況から脱出するため、米国の中央銀行にあたるFRBは金融緩和政策を採用。いまや、米国では失業率は史上最低水準にまで低下。インフレ目標もほぼ達成されました。

(※どうして金融緩和をやれば失業率が緩和するのかについては、『【昼刊】米国経済の「メガクラッシュ」に警戒する』のなかで、フィリップス曲線の議論などと関連付けて説明してあります。)

現在のFRBのパウエル議長は、逆に、インフレが加速することを懸念しており、今年は合計4回、来年も3~4回の利上げを行うと示唆しています。そうなれば、米国の金利が上昇し、米国外に投資されている資金が、米国に逆流し始めます。

こうしたなかで行われるトランプ減税は、いわば、好景気の米国の景気をさらに過熱させかねないものであり、資産バブルの発生を招きかねません。そうなると、利上げのペースが年4回、25ベーシス・ポイントずつだと、利上げが間に合わない可能性すらあります。

これに加えて、経済学的には、中国からの輸入品目に関税を課すことは、輸入品価格を押し上げるという効果がありますが、これは同時に米国内に輸入代替としての国産品需要を創出するという効果も発生します。つまり、米国内で工場等の新設需要が高まる、ということです。

いずれにせよ、「トランプノミクス」はただでさえ景気過熱が懸念されている米国経済の景気をますます加速させ、これに今回の関税が加わることで、米国のあちらこちらでバブルが発生する可能性だって否定できないのです。

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「技術を守れ」

中国の経済発展の正体

ただ、こうした危うい米国の経済運営にも、「米国の国益を守る」という観点からは、また違った姿が見えてきます。トランプ大統領がこんな経済政策を打って来る背景には、長期的に見て米国の景気の過熱という「コスト」を払ってでも、米国の虎の子の技術を守る、という意思が垣間見えるのです。

考えてみれば、中国は国内に外国企業の進出を許すに際して、原則として「合弁会社」形式を求めて来ます。そして、その外国企業が中国に工場を作れば、合弁会社を通じて技術、生産ノウハウなどが中国側に漏洩する、という仕組みです。

中国はこの「合弁会社」という仕組みに加え、中国国内の安価な労働力を背景に、それこそ西側諸国の大部分の国から企業を招いてきたのです。つまり、中国が「世界の工場」となったのは、中国の技術革新によるものではありません。「安価な労働力」を求めるという、経営者のデフレ脳が主犯の1人です。

こうした中国の「泥棒的な経済発展」を支えてきたのは、1990年代から2000年代前半にかけては日本企業です。いわば、日本の「失われた20年間」は、言い換えれば、「経済成長の原資を中国に吸い取られてきた20年間」だったのです。

(※余談ですが、無責任な中国進出を煽ってきた日本経済新聞、消費増税を煽ってきた財務省という、2つの組織の責任は極めて重いと言わざるを得ません。)

今度はドイツが中国とズブズブに

日本は人に対する投資を行わず、1990年代から2010年まで、ひたすらデフレ経営を続けて来たのですが、こうした「コストカット」経営の行き着く先が無謀な中国進出であり、そして、日本という国全体が中国リスクにドップリ漬かっていたのです。

某ファーストフード大手のコストカットなどで有名になった人物が、「カリスマ経営者」などともてはやされていたという狂った時代でもありました。しかし、日本は2010年の「レアアース・ショック」、2012年の「反日暴動」などをきっかけに、中国とお付き合いすることの危険性を、国民レベルで理解しました。

さらに、アベノミクス(というよりも黒田緩和)の影響で毎年80兆円規模でマネーの供給量が増加しており、少なくともデフレ状態からは脱しつつあります(といっても、その増えたマネーは実体経済にあまりまわっておらず、現状では、市中銀行の日銀当預に蓄えられているだけの状態ですが…)。

つまり、日本が「中国ショック」、「黒田ショック」という2つのショックで脱中国の流れを進め始めたところ、今度は日本に代わって中国とズブズブの関係になり始めた国が、2ヵ国あります。それが、韓国とドイツです。このうち、韓国については、私自身にとってはわりとどうでも良い国なので、ここでは一旦割愛します。

しかし、ドイツについては、数年前にAT1証券の利払い停止騒動を発生させたドイツ銀行の経営不安が取りざたされていますし(『WSJ「ドイツ銀行の米国事業にトラブル」報道に嫌な予感』参照)、日本で最も経済オンチとして知られる日経が先ほど、こんな報道を流しています。

長城汽車、BMWと合弁会社 中国でEV年16万台生産(2018/7/10 20:47付 日本経済新聞電子版より)

ドイツと中国、まことにお似合いだと思います。

ドイツはユーロの創設により、為替競争力を排除して、南欧などの周辺国に対し、無限に貿易黒字を積み上げる仕組みを作り上げました。また、それだけでは飽き足らず、「アラブの春」を契機に中東から流入してきた難民の受け入れを表明しました。安価な労働者のつもりであることは明らかです。

国内の人民を労働力として奴隷のように使役している独裁政権・中国共産党と、「財政再建原理主義」を掲げ、もう13年もドイツの首相として居座っているメルケル首相は、本質的にいったい何が違うというのでしょうか?

ルールを守らない国に技術を渡すな!

つまり、ドイツと中国は、何らかの不正な仕組みで安価な労働力を手に入れ、ひたすら安いコストで大量にモノを作り、全世界に売り捌くという意味で、まことに似通った国なのです。それに、米国財務省は長年、「為替操作監視国」として、日本、韓国、中国などと並んで、常にドイツを対象に挙げています。

もちろん、ドイツは自国通貨を持っておらず、フランクフルトにある欧州中央銀行(ECB)が発行しているユーロを使用している国です。しかし、ユーロという仕組みを悪用し、ギリシャ、イタリアなどの南欧諸国に対して無限に貿易黒字を積み上げるというモデルに問題がないはずなどありません。

一方、中国も人民元の為替相場を恣意的に操作しつづけて来ました。近年でこそ、2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に組み込まれるために、オフショア人民元(CNH)市場を創設したりしていますが、いまだに人民元は国際的に流通し辛い通貨です。

つまり、「為替」という基本的なルールを悪用しつつ、コストカットを併用することで製品の競争力を不当に高めるという技を使い続けてきたのが、ドイツと中国の共通点なのです。

当然、「自由貿易」を旗印に掲げていれば、放っておけば民間企業はどんどんと中国に工場を構えます。つまり、米国や日本から最新の技術が中国に流出してしまうのです。トランプ政権の貿易戦争の目的とは、この技術流出を食い止めるためだと考えれば、非常にすっきりと説明が付くのです。

――↓本文は以下に続きます↓――

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価値を共有しない国は去れ!

ところで、日本と米国は、さまざまな「価値」を共有しています。

まず、自由主義、民主主義を採用しており、国内のメディアは報道の自由を駆使していますし、なかには日本だと朝日新聞やNHK、米国だとニューヨーク・タイムズやCNNといった具合に、「報道しない自由」「ウソを報道する自由」などを好き勝手に乱用しているメディアもあります。

安倍晋三総理大臣とドナルド・J・トランプ米大統領の両名は、フェイク・ニューズ・メディアの攻撃に耐え続けているという共通点がありますし、両国ともにインターネットが非常に発達しているという共通点があります。

なにより、法治主義、あるいはルール主義については、日米ともに非常に重視します。「ルールを無視し、犯罪すれすれでもよいから、とにかく大金を稼ぐべきだ」と主張する人物がいたとしても、日米ともに、そんな人物は尊敬されません。

ところが、中国の場合は、とにかく中国共産党という「絶対権力者」がいて、中国共産党と癒着した者が勝ちです。創意工夫など関係ありません。とにかく「権力者と仲良くすること」が最も大切なのです。

そして、中国が全世界に向けて、安価な労働力を提供し、自国を「世界の工場」にすることで、全世界から技術を集め、それを悪用して中国人民解放軍を強化し、国際法を無視して東シナ海、南シナ海、さらにはスリランカやジブチなどの海外に租借地を作るという行為は、まさに「遅れて来た植民地主義」です。

中国は発展途上国などに採算性を度外視して巨額のカネを貸しつけてインフラを整備し、相手国がカネを返せなくなったらそれを取り上げる、という手口で、たとえばスリランカ南部のハンバントタ港を事実上、占領してしまいました(詳しくは『【夕刊】AIIBと中国に開発援助の資格はあるのか?』参照)。

こうした手口を、絶対に許してはなりません。

おりしも、つい先日、マレーシアが中国の主導する鉄道構想を中止したとの報道が入ってきました。

マレーシア東海岸鉄道事業中止、広がる反一帯一路/中国主導の2つのパイプライン事業計画からも撤退の公算(2018.7.9付 JBプレスより)

私は、こうした報道を歓迎したいと思います。中国が強引に各地のインフラ事業に割り込み、各地を支配しようとする行動については、まさに国際インフラ金融のルールを無視したものですが、マレーシアのような賢明な国が増えてくることを、私は深く期待したいと思います。

余談ですが、中国とズブズブに癒着しているインドネシアのジョコ大統領は、来年(2019年)4月の大統領選を控え、再び日本に近寄ってきているようですが、日本は冷たくあしらうくらいでちょうど良いのではないかと思います。

※本文は以上です。

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    「アベ政治を許さない」?許されないのはむしろあなた方だ! (5コメント)
  • 2018/06/27 00:00 【時事|外交
    産経・田北氏の安倍政権外交論を捏造・歪曲する中央日報
  • 2018/06/26 11:00 【時事|国内政治
    【昼刊】共産党・小池氏「新聞読めば自民不支持」 (7コメント)
  • 2018/06/26 07:00 【時事|経済全般
    サッカーW杯:日本のフェアプレイの精神はビジネスに通じる (3コメント)
  • 2018/06/26 00:00 【時事|外交
    「北朝鮮制裁継続」のトランプ政権、目的は対中封じ込め? (2コメント)
  • 2018/06/25 17:00 【時事|雑感オピニオン
    【夕刊】「日本憎し」も良いのですが… (5コメント)
  • 2018/06/25 11:30 【時事|国内政治
    【昼刊】国民民主党、政党支持率ゼロ%の衝撃
  • 2018/06/25 07:00 【雑感オピニオン
    開設22ヵ月で月間16万PV、「三方よし」の記事 (10コメント)
  • 2018/06/25 00:00 【マスメディア論|時事
    毎日新聞の「軌道修正」と「もりかけ問題」の限界 (2コメント)
  • 2018/06/24 12:00 【マスメディア論|時事
    【夕刊】朝日新聞記者、ウェブ広告のトラップにかかる? (3コメント)
  • 2018/06/24 00:00 【時事|外交
    北朝鮮核問題、「日米両国が裏で役割分担」という仮説 (6コメント)
  • 2018/06/23 12:00 【雑感オピニオン
    【夕刊】快便アドバイザーからの怪コメントとの戦い (2コメント)
  • 2018/06/23 00:00 【時事|外交
    北朝鮮を崩壊させるための人道支援はいかが? (7コメント)
  • 2018/06/22 16:00 【経済全般
    【夕刊】NHKが潰すワンセグ携帯 (6コメント)
  • 2018/06/22 10:45 【時事|金融
    【昼刊】韓国で「トリプル安」は発生するのか? (1コメント)
  • 2018/06/22 07:00 【マスメディア論
    押し紙、再販、記者クラブ。今に通じる過去の議論 (1コメント)
  • 2018/06/22 00:00 【時事|韓国崩壊|外交
    日本は北朝鮮復興に関してはむしろ「蚊帳の外」を目指せ (4コメント)
  • 2018/06/21 15:00 【政治
    【夕刊】既得権にまみれたNHKと「NHKの映らないテレビ」 (12コメント)
  • 2018/06/21 11:10 【時事|外交
    【昼刊】金正恩訪中の2つの目的と日本批判の真意
  • 2018/06/21 08:00 【外交
    危なっかしい米国の北朝鮮外交 (1コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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