【夕刊】「内部留保」は「溜め込んだおカネ」ではありません

昨日の朝日新聞に、少し気になる記事があったので、簡単にコメントしておきたいと思います。

内部留保という用語

日本共産党という頭の悪い組織

昨日、読んでいて思わず呆れてしまったのがこちらの記事です。

共産・小池氏「トヨタの内部留保、使い切るのに5千年」(2018年6月30日06時40分付 朝日新聞デジタル日本語版より)

日本共産党の小池晃書記局長がトヨタ自動車の内部留保について、「子会社も含めて連結内部留保は約20兆円(もあり、)毎日1000万円ずつ使っていくとすると使い切るのに5480年かかる」などと述べたのだそうです。

こんな頭の悪い発言をする方もする方ですが、まともに取り上げて記事にするのもどうかと思います。ただ、この発言をみて、「そうか、トヨタ自動車は20兆円も埋蔵金を溜め込んでいるのか」、と本気で思ってしまう人が出ないとも限りません(とくに、朝日新聞などを購読している人たちなど)。

このように考えていけば、「内部留保」なる概念について、ちゃんと解説しておくことが必要でしょう。

トヨタ自動車(米国基準)の連結貸借対照表

さて、2018年3月期のトヨタ自動車の連結貸借対照表を眺めてみましょう(図表)。

図表 トヨタ自動車・2018年3月期 連結貸借対照表(米国基準)
区分項目金額(百万円)
資産の部流動資産 合計18,152,656
投資及びその他の資産 合計12,406,302
有形固定資産 合計10,267,673
資産合計50,308,249
負債の部流動負債 合計17,796,891
固定負債 合計12,589,282
負債合計30,386,173
純資産の部中間資本491,974
資本金397,050
資本剰余金487,502
利益剰余金19,473,464
OCI累計額435,699
自己株式△2,057,733
非支配株主持分694,120
純資産合計19,922,076

(【出所】トヨタ自動車・2018年3月期有価証券報告書より著者作成)

小池書記局長が述べた「内部留保20兆円」とは、貸借対照表からは確認することはできませんが、「資本剰余金」「利益剰余金」「OCI累計額」の3項目を足せば、いちおう、20兆円を超えていますので、おそらく彼はこれらの項目を「内部留保20兆円」と呼んだのでしょう。

しかし、企業会計上、「内部留保」なる概念は、そもそも存在しません。敢えて一番近い言葉が、純資産の部に含まれる「利益剰余金」という項目ですが、これは、「この金額だけ現金で会社におカネが留保されている」、といういみではありません。あくまでも複式簿記の「計算上の概念」です。

また、「内部留保」という概念を、「純資産の部のうち、資本金や資本剰余金、非支配株主持分(昔の言葉でいう『少数株主持分』)などを除いた部分」と定義するならば、トヨタ自動車の内部留保は17兆円少々です。なぜなら、小池書記局長は、2兆円もの自己株式を無視しているからです。

また、経営分析上も、企業がいくら配当に回せるかという余力については、負債純資産比率、流動性比率などの指標によって判断しなければなりません。トヨタ自動車には流動性が高い現金・預金や有価証券などの投資残高が15兆円程度ありますが、30兆円の負債がある事実も忘れてはなりません。

初歩的な会計学の知識も持たず、「内部留保」という意味の分からない言葉を使って「とにかく大企業は憎い」と批判する姿勢には、大きな問題があるといえるでしょう。

言葉のすり替えは日本共産党の常套手段

ただし、日本共産党の常套手段は、「言葉の言い換え」にあります。テロ等準備罪を「共謀罪」、安保関連法制を「戦争法」などと勝手に呼び換え、自分たちの配下のSEALDsなる若者集団を鉄砲玉として使い捨てにして来た日本共産党ならではの戦術といえるでしょう。

たとえば、利益剰余金を「内部留保」と勝手に呼び換え、「内部留保を吐き出せ」などと言い始めるのだとすれば、私も職業的専門家の1人として、到底、看過できません。もっとも、日本共産党から見ると、そもそも公認会計士は資本主義の権化であり、存在が許されない資格なのかもしれませんが…。

いずれにせよ、小池書記局長が本気で利益剰余金を「内部留保」と呼んでいるならば、彼は相当に頭が弱い証拠ですし、もし「確信犯」としてそう呼んでいるならば、参議院議員、あるいは政治家である資格などありません。国会からさっさと出て行ってほしいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 名無しの権兵衛 より:

    利益金の処分として配当と内部留保があるわけですが、そのどちらも本来は株主のお金ですよね。
    (本来、企業とは出資者のモノです。!)

    一方、この国の税制では法人事業税課税後の利益配当にも、更に配当課税しています。
    つまり二重課税ですね。

    株主は二重課税されるより内部留保して再投資した方が投資効率が良いので、
    配当性向を下げているだけです。

    問題の本質は株主への二重課税です。
    配当課税を無くせば、企業は配当性向を上げて内部留保を減らすでしょう。

    (但し貧富の格差は拡大し、社会不安が起こるかもしれませんが・・・www)

  2. 非国民 より:

    かなり、昔、経理の知識を買われ、農事組合法人の経理をほぼ無料で引き受けたことがある。田舎で農家だから、経理の知識はほとんどない人たち。借入金の返済で「なぜお金がでていくのに借入金の返済は経費にならないのか?」という質問があった。懇切丁寧に説明したが、共産党はこれと同じレベルの思考だね。共産党は割と学歴の高い人が多いように思うが、いったいどうなっているのか。課税できるなら理由などはいらないという感じ。よっぽど大企業がきらいなんだな。

    1. 匿名 より:

      それは田舎の農家の方に大変失礼なのでは?
      少なくともその方達は無知なりに理解しようとする努力をしているだけ共産党の赤匪どもより人間としてのステージは数段上でしょう。

      だいたい共産党の政治家は社会経験なんざ皆無の学生運動家からの純血か、せいぜいが生協職員ていどの連中です。
      これと同じレベルなのが、松下政経塾出身の政治家ですな。

      1. 非国民 より:

        その農家の人は近所で、飲みに行ったりする。経理とかはもともと知識はないのは知っているので失礼ではない。そのかわり農業の知識はすごいよ。よく会社が農業に進出なんてニュースにでたりするけど、農業はそんな単純な仕事じゃない。いままで農業をしてこなかった会社が簡単に進出できる分野ではないよ。農家の人が経理を知らなくても、それは全く問題にならない。お金を誰かに払えばやってくれるからね。それよりもなぜ農事組合法人が私に依頼してきたかというと、収入を構成員に分配するのだが、そのさい、利害関係がなく、かつ信頼できる人にまかせたいという点も大きい。農協も私なら大丈夫と思ったのでまかせてくれた。私も農協に出入りしている大きな税理士法人と共同作業ができて勉強になった。それで友人の会社の法人税の計算もまかせてもらっている。問題はどちらもほぼ無報酬ということかな。

        1. 名無しの権兵衛 より:

          横やりで失礼しますが、

          経理の知識はないとか、農業の知識はすごいとか、そういう超ミクロの問題はちょっと端に置いといて・・・

          日本ではなぜ大規模農業法人が育たないのか?
          ここが問題の本質かと思いますが。

          安倍内閣が企業による農業生産法人への出資規制を多少緩和しましたが、
          それでも大規模農業法人は全くと言ってよいほど少ないのが現状です。

          農業就労者の高齢化はますます進み、耕作放棄地は増える一方なのに、
          国家の食糧自給率は40%程度しかありません。

          一部の官僚や政治家が、現農業従事者を守るために各種規制でがんじがらめにして、
          国防を脅かしているという構造=
          これこそ些末な超ミクロ問題ではなく、
          考えるべき大問題ではないかと思いますが、違いますでしょうか。

  3. 名無しの権兵衛 より:

    自己レスで失礼します。

    本題である企業の内部留保がどうとか・・・
    ってな話は全てにおいて、

    企業は本来出資者のものであって、
    企業の成功=出資者の利益追及が善であり、
    その利益を更に増やそうと新たな投資をし続けるという構造
    =資本主義システムが、
    社会主義や共産主義などの他の経済システムよりも機能し、
    国を繁栄させ、より多くの人々が幸せになりやすい方法であるという、
    20世紀までの人類の得た一つの結論という点を解っていない人間が多いことから
    起こっている誤解・曲解と思います。

    日本の食糧需給率の低さを解消したければ、
    普通に農業において資本主義システムが機能するように規制を無くせばよい、
    ただそれだけと思うのは私だけなのでしょうか。

    にもかかわらず、出資者の利益を二重課税までして奪い、
    出資利益を再投資しようにも「あれはだめ、これはだめ」って規制することが
    国や国民の将来のためになることなのでしょうか?

    もちろん資本主義経済システムにも欠陥はあります。
    貧富の格差の拡大などがその代表でしょう。

    そして民主政という政治システムは基本的に貧富の格差の是正という方向に進みやすいので、
    (なぜなら人の社会は一握りの有能者=資本家 と 多くの無能者=労働者で形成されているから)
    経済システムとしての資本主義とは余り相性の良いものではないのでしょう。

    じゃあどうしたらよいのか?
    そんな難しいことは小生にはわかりませんが、
    少なくとも些末な話ではなく、マクロな観点で本質を見ることが重要かと思います。

    1. 匿名 より:

      なるほどね。ここのブログって読者コメントもマニアックだな。まー割と嫌いじゃないけどねww

    2. 京都の資格マニア より:

      食料自給率40%という数値は官僚が危機感を煽るために低いカロリーベースの方を発表しているだけであって、重量ベースだと60%はあるそうです。

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