最新版・2018年5月の観光統計を読む

日本政府・安倍政権は現在、2020年までに訪日観光客を4000万人にしようとする野心的な目標を掲げています。しかし、こうした目標に「落とし穴」はないのでしょうか?

訪日客4000万人目標

日本政府観光庁(JNTO)は毎月、訪日外国人の人数などの統計データを公表しています。少し前にニュースになっていたのでご存知の方も多いと思いますが、日本にやってくる外国人の人数は増え続けており、この傾向が続けば、今年の入国者数は3000万人の大台を超えることは間違いありません。

ただ、安倍政権は2020年までに訪日観光客4000万人という目標を掲げていますが、この目標については、達成できるかどうかは微妙です。いちおう、現在の増加ペースを維持すれば、辛うじて達成できるかどうか、といったところでしょう。

しかし、この観光統計を眺めていると、さまざまな問題が浮かび上がりますが、そのなかでも最大のものといえば、訪日外国人の過半がごく一部の国からやってきた人たちで占められていて、上位4ヵ国で訪日外国人の75%を占めている、という点にあります。

さらに、「訪日観光客4000万人」という目標が独り歩きすれば、素行が悪い外国人が日本に入国して来るという問題も発生します。

そこで本日は、JNTOのデータをさまざまな形で加工して紹介するとともに、「観光客4000万人目標」に穴がないのか、議論してみたいと思います。

観光統計を読む「工夫」

観光統計を「月次」で見るのが良くない理由

ところで、観光統計については、2003年1月以降、現時点で2018年5月までのデータが入手可能です。ただ、これをグラフ化してみると、次のとおり、「増えている」ということはわかりますが、どうも毎月の変動が激しくて、比較は困難です(図表1)。

図表1 訪日旅客・単月データの累計値

 

(【出所】JNTOデータより著者作成)

日本は観光に適した季節と、そうでない季節があるためでしょうか。毎年5月、7月、10月に観光客が増え、2月には大きく減少する、という傾向があります。このため、「1月と2月を比較すると、外国人訪日旅客者数が減少する」、という現象が観測されるのです。

そこで、報道機関がよく使うテクニックは、「前年同月比でどれだけ増えたか(減ったか)」というデータ比較です。たとえば、グラフ横軸を「1月~12月」として、縦軸に訪日客の人数を取り、毎年の月次増減を見るやり方です(図表2)。

図表2 訪日旅客・単月データの各年比較

(【出所】JNTOデータより著者作成)

図表2の方が、図表1と比べて見やすい、と思う人は多いと思います。ただ、図表2のようなグラフにも欠点があります。それは、過去の全データを1枚のグラフに表示しようとすると、ごちゃごちゃして、何が何だかよくわからない、非常に見辛いグラフになってしまう、という問題点です(図表3)。

図表3 とてもわかりづらい、訪日旅客・単月データの各年比較(拡張版)

(【出所】JNTOデータより著者作成)

そこで、こうした問題を解決するために、私が思いついたのが、「その時点までの12ヵ月累計値」を表示する、というやり方です。

これは、たとえば2018年5月ならば「2017年6月~2018年5月までの12ヵ月間の累計値」、2018年4月ならば「2017年5月~2018年4月までの12ヵ月間の累計値」、といった具合に、常にその時点までの12ヵ月間累計値を示すものです。(図表4)。

図表4 訪日旅客・12ヵ月累計値の推移

(【出所】JNTOデータより著者作成)

いかがでしょうか?このような形式だと、観光統計も「連続したデータ」として眺めることができます。ただし、データの定義上、こうした比較の仕方にも欠点があります。訪日旅客の増減が見られた時の要因分析が、だいたい1年遅れとなります。

図表4の例でも、統計上、訪日旅客数が落ち込んでいるのは2009年9月(2008年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻から1年後)と、2012年2月(2011年3月の東日本大震災から11か月後)です。

しかし、「連続したデータとして見る」という意味では、私はこうした眺め方が気に入っているのです。

トレンドで見ると3年で倍増だが…

さて、前置きが長くなりましたが、現在手に入るデータを加工してみると、最新データから判明する「12ヵ月連続値」は、すでに2018年4月時点で3000万人の大台を超えました(図表5)。内訳は、中国人が26%、韓国人が25%、台湾人が16%、香港人が7%です(図表6

図表5 訪日旅客・12ヵ月連続値(国籍別内訳)

(【出所】JNTOデータより著者作成)

図表6 訪日旅客・12ヵ月連続値構成比率

(【出所】JNTOデータより著者作成)

(※ただし、2018年4月・5月のデータについては「速報値」であり、かつ、北米や欧州などについてはまだ人数が公表されていないため、直近2ヵ月の値については比率などが若干不正確であるという点についてはご了承ください。)

トレンドで見るならば、3年間でほぼ倍増した計算です(図表7)。

図表7 訪日旅客数・12ヵ月連続値の実数
集計期間訪日旅客数の実数備考
2008年11月~2009年10月6,664,518リーマン・ショックによる訪日客の減少
2011年3月~2012年2月6,053,497東日本大震災による訪日客の減少
2012年12月~2013年11月10,189,092年間訪日客1000万人突破
2014年5月~2015年4月15,203,353年間訪日客1500万人突破
2015年2月~2016年1月20,370,911年間訪日客2000万人突破
2016年5月~2017年4月25,321,256年間訪日客2500万人突破
2017年5月~2018年4月30,094,362年間訪日客3000万人突破

(【出所】JNTOデータより著者作成)

この増大は非常に大きいのですが、私はこれを手放しで喜んで良いとは思いません。なぜなら、訪日旅客数の急増は、中国と韓国でほぼ説明が付くからです。

中国人観光客の急増

中国人入国者800万人時代へ

まず、中国人の12ヵ月間入国者数については、一時的に100万人の大台を超えることはあったものの、2013年ごろまでは100万人台で推移していました。しかし、2013年ごろから増え始め、2016年1月には初めて500万人台を記録。

同年7月には600万人台、2017年10月には700万人台、さらに2018年5月には795万人に達しました。800万人の大台に乗せるのも時間の問題でしょう(図表8)。

図表8 中国人の訪日旅客数・12ヵ月累計値

(【出所】JNTOデータより著者作成)

もちろん、中国人観光客が増えること自体は、観光産業にとっては歓迎すべきことだ、という指摘があるのは事実でしょう。また、中国人の場合は、原則として観光ビザがなければ日本に入国することはできず(※ただし、例外はあります)、不法就労目的の入国者などは、ある程度は排除されます。

しかし、中国人入国者の入国者全体に占める比率は、観光統計が始まった2003年で9%程度だったものが、今や26~27%にまで上昇していることも事実です。そして、中国のことですから、何か気に入らないことがあれば、国内の観光産業に「命令」して、日本観光を「禁止」するかもしれません。

以前、『【夕刊】祝・レアアース発見!自前資源と脱中国を考える』のなかで、中国がレアアースの輸出を外交上の武器にしていたという事例を紹介しました。こうした「輸出品目の政治利用」をする国が中国でもあります。

さらに、お隣の国・韓国などは、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備を巡って中韓関係が悪化した際、中国からの入国者数が急減し、韓国の観光産業が大打撃を受けた、という事件も生じています。

もともと、観光客が一定の国に偏り過ぎることは、非常に望ましくない事態ですが、「よりにもよって」中国人観光客の比率が上昇していることは、日本の観光産業にとっては手放しで喜んで良い話とはいえません。

中国人観光客の急増には良い面もある

ただし、中国人観光客の急増には、必ずしも悪い面ばかりとは限りません。実は、日本の安全保障にとって、根源的に「良い面」もあります。それは、中国共産党の「洗脳」が解ける、という効果です。

中国国内では、中国共産党の一党独裁が続いています。習近平(しゅう・きんぺい)国家主席に対する批判は許されませんし、日本の「パヨク」と呼ばれる皆さんが国会前でやっているのと同じようなデモ行進を天安門広場でやれば、ただちに秘密警察に捕まるか、戦車で踏み潰されるのが関の山でしょう。

そんな恐るべき「共産党一党独裁国家」のなかで、日本はどう見られているのでしょうか?

おそらく、中国共産党が一党独裁する正統性は「第二次世界大戦で日本に勝ったこと」にあります。もちろん、それが史実かどうかは関係ありません。中国共産党が人民に対し、そう教え込んでいて、人民がそれを信じている、ということが重要なのです。

しかし、少しだけ豊かになった中国から、年間800万人、いや、下手したら数年後には年間1千万人もの人々が、大挙して日本に押し寄せ、実際に自分の目で見、耳で聞いて、日本を感じた結果、何が起こるのでしょうか?

自由を満喫し、非常に高い民度を誇る日本社会を見て、日本に対する印象が良くなれば、本国に帰った後で、自分たちが受けている反日教育の異常さに気付くはずです。

日本旅行ができるほどの幸福な人は、10億人を超える中国の人口のうち、わずか数%に過ぎないかもしれません。しかし、そのほんの数%の人々が、自分が住む街で、職場で、学校で、日本の体験を共有していけば、その事はいずれ中国共産党の一党独裁を終わらせる原動力になるかもしれません。

いや、少なくとも中国人が「反日」でなくなれば、そのこと自体が日本の安全保障にとっても少なくない好影響を与えることになるでしょう。

当然、中国人観光客の急増は、不法就労、スパイ目的などでの入国をいかにして排除するか、マナーの悪い一部の観光客の啓蒙をどうするか、などの問題を伴います。しかし、こうした問題をうまくコントロールし、中国人観光客に「日本を好きになって帰ってもらう」ことができれば、日本の国益に寄与するはずです。

韓国人観光客の急増

韓国人も年間800万人近くが入国

一方で、中国と並んで、近年の入国者の「柱」となっているのが韓国です。

もともと、韓国人の年間入国者数は、統計開始以来、200万人前後で推移していたのですが、2014年なかば以降は急増し始め、2015年12月には400万人、2016年11月には500万人、2017年6月には600万人の大台に乗せ、2017年12月には700万人を突破しました(図表9)。

図表9 韓国人の訪日旅客数・12ヵ月累計値

(【出所】JNTOデータより著者作成)

2006年3月に、韓国人に対する観光ビザ免除プログラムが恒久措置化され、現在、韓国人はビザなしでも日本に気軽に入ってくることができ、しかも、最長90日(つまり約3ヵ月)は日本に滞在することができます。

しかし、人数が急増し始めたのは、2006年ではなく、2014年以降です。そして、2014年以降、韓国人の日本への入国者数が増加する一方であり、このペースで行けば、韓国人の日本入国者数も、今年前半には年間800万人の大台に乗せそうです。

韓国人と中国人の違い

では、韓国人入国者数が急増することで、日本にとっての「良い面」とは、いったい何でしょうか?

実は、中国と違い、韓国の場合は「共産党一党独裁」ではありませんし、報道の自由、言論の自由は(実態はともかく)形式上は保証されています。また、見た目は日本と同じ民主主義国家であり、韓国人が「日本に来て、日本の素晴らしさを感じる」という効果は、中国ほどは期待できません。

もちろん、観光ビザで日本にやってくる韓国人の圧倒的多数は、善良な旅行者であるはずです。日本滞在中は日本の法律を守り、日本で礼儀正しく過ごしているはずです(少なくとも私自身はそう信じています)。

しかし、彼らもノービザで日本にやってくることができる以上、あくまでも理屈の上では、不法就労目的、あるいは犯罪目的での入国者を防ぐことは困難です。実際、日本の寺社で仏像や宝物の類いを窃盗し、韓国に持ち帰って売り捌く犯罪者もいますし、靖国神社で爆弾テロ事件を発生させた者もいます。

さらには、最近だと日本と香港の税制の違いを悪用する形で、香港から金塊を密輸し、消費税分だけ儲ける、という違法ビジネスを手掛ける者が急増しているそうです。

しつこいようですが、日本に入国する韓国人の圧倒的多数は、善良な旅行者です。しかし、それと同時に、年間延べ800万人が入国する時代となれば、窃盗、殺人、性犯罪などの犯人が容易に日本にやって来る、という意味でもあります。

私は、韓国人に対するビザ免除プログラムを「やめろ」と申し上げるつもりはありません。しかし、滞在可能日数は、せめて90日ではなく、15日程度に短縮すべきではないかと思います。それに、滞在可能日数を短縮しても、多くの善良な韓国人観光客にとっては影響はほとんどありません。

是非、外務省には善処を求めたいと思います。

難民申請問題

さて、日本への入国者数について言及するついでに、難民申請問題についても触れておく必要があると思います。

法務省のデータによると、2008年に1,599人だった難民申請件数は、2017年にはその12倍の19,628人に急増。これに対して認定件数は2008年の57件を別とすれば、例年多くて40件弱、少ない年でひとケタ台に留まっています(図表10)。

図表10 難民申請件数と難民認定件数

(【出所】法務省HP

もちろん、本当に保護を必要としている方が難民申請してきた場合、人道上その他の理由で、日本としては難民を受け入れなければなりません。

しかし、法務省によれば、実際にに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民輩出国として示した上位5ヵ国(シリア、コロンビア、アフガニスタン、イラク、南スーダン)からの申請者は、2017年においてわずか36人に過ぎません。

そして、申請者の主な国籍は、フィリピン(約5千人)、ベトナム(約3千人)、スリランカ(約2千人)、インドネシア(約2千人)、ネパール(約1500人)、トルコ(約1千人)などとなっており、さまざまな状況証拠に照らし、その多くは経済目的での難民申請であろうと考えられます。

ところで、少し古い記事ですが、ロイターに気になる情報が出ています。

法務省、難民申請後6カ月での就労許可を廃止 在留の制限強化(2018年1月12日 17:11付 ロイターより)

これによると、日本では2010年3月から、「難民申請を行った6ヵ月後から認定手続きが完了するまでの間」、就労が認められるようになったのだそうです。難民申請件数がうなぎ上りに上昇した理由は、おそらく、この「難民申請後6ヵ月目から就労可能」という点にあったのではないでしょうか?

しかも、2010年3月といえば、政権を担っていたのは菅直人元首相です。民主党政権はさまざまな点でデタラメな行政が蔓延していましたが、この「難民就労6ヵ月ルール」も民主党政権の負の遺産といえるかもしれません。

ただ、安倍政権下でこの問題が放置されていたことは事実であり、さっさとこの制度を廃止していなかったからこそ、2014年以降、難民申請件数が急増したという事情もあるのではないでしょうか?

いずれにせよ、難民申請件数が急減するのかどうかについては、来年早々に公表されるであろう法務省のデータを見てみないとわからないのですが、私の仮説が正しければ、難民申請者は減少するものの、純粋な不法就労者は増えるのではないかと懸念しているのです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. Kitakuma より:

    いつも参考になる意見発信で刺激を頂きありがとうございます。
    6/20のASBJでいよいよ金融商品会計見直しの意見募集が始まるようです。
    IFRSがいいのか、FASBも考慮すべきなのか、も論点らしいです。
    高品質の会計基準じゃないっバレてますね。
    少なくとも、今の金融商品会計の意義と課題を総括しないとなんのための見直しか説得力ないと思いますが、新宿会計士さんは如何でしょうか

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