【昼刊】ぶれまくりのトランプ氏に不安を感じる

日米首脳会談の概要がホワイトハウスのウェブサイトに掲載されていますが、トランプ氏の発言を読むと、北朝鮮問題で一致団結しなければならない重要な局面で「日米貿易不均衡」を持ち出すなど、どうも彼の政治家としてのセンスを疑わざるを得ないという懸念があります。

「日本蚊帳の外」論と安倍政権

6月12日に予定されている(とされる)米朝首脳会談を巡り、わが国のメディアの報道を眺めていると、こころもとない限りです。

いわく、「米朝首脳会談の結果、日本はカネだけ取られて蚊帳の外」。

いわく、「日本人拉致事件も結局は解決しない」。

いわく、「無為無策の安倍外交で国民は不幸になる」

いずれも、非常に稚拙かつ現実が見えていない珍説ばかりです。しかも、困ったことに、こうしたトンチンカンな説を流布しているのが、自称「外交専門家」だったりします(その一例は、今朝の『ビジネスを知らない記者が「日本は蚊帳の外」と無知を晒す』などでも紹介したとおりです)。

ただ、これらの「自称専門家」の意見の議論がおかしいのは、北朝鮮で金正恩(きん・しょうおん)政権がそのまま続くに違いない、と、勝手に決めつけている点にあります。だからこそ、「日本がカネだけ出して蚊帳の外」、といったヘンテコな議論が出てくるのでしょう。

もちろん、日本政府の外交次第では、そうなる危険性は十分にあります。小泉純一郎政権のもとで日朝国交正常化交渉が行われていた際には、日本が拉致問題の解決を諦めただの、数兆円の支援を行うと約束しただの、そういった噂は絶えません。

しかし、私は日本や米国が金正恩政権の存続を前提に、北朝鮮への無条件の支援を行うべきではないと考えていますし、また、少なくとも現在の日本の安倍政権が、金正恩に一方的な譲歩をするほど愚かな政権であるとは考えていません。

私は安倍外交を100%信頼しているわけではありませんが、それでも、米国と国際社会を味方に付けつつ、北朝鮮に対して最大限の圧力を維持するという現在の日本の対北朝鮮外交は、現在の日本にできる最善の方策であると考えています。

日米首脳会談とぶれる米国

米国の姿勢が非常に不安だ

ただし、不安材料がないわけではありません。

安倍総理は昨日から米国とカナダを訪問するために海外出張中です。そして、米国時間の6月7日午後2時過ぎ(日本時間の今朝3時過ぎ)に、日米首脳は共同記者会見を開きました。

共同記者会見の内容については、現時点で日本の首相官邸HPにはアップロードされていないようなので、ここでは英語版で恐縮ですが、ホワイトハウスの報道発表を紹介しておきたいと思います。

Remarks by President Trump and Prime Minister Abe of Japan in Joint Press Conference(米国夏時間2018/06/07(木) 14:22付=日本時間2018/06/08(金) 03:22付 ホワイトハウスHPより)

トランプ大統領の発言を、私自身の文責で抜粋し、要約すると、次のとおりです。

  • 私(トランプ)と安倍総理は503日間、実務上のみならず、個人的な友好関係を深めて来た
  • 強固で安定した日米同盟は太平洋と世界の平和の基本だ
  • 来週の金正恩との会談が、安倍総理やモオン大統領(※)の協力で実現したものであると強調したい
  • 安倍総理と私は日米間のもう1つの問題である貿易不均衡の改善でも協力したい
  • 日本はボーイング製の軍用機・航空機、農作物などの購入を申し出てくれた
  • 日本の投資家が米国に工場などを投資することを歓迎したい

(※)「モオン大統領」とは、 “President Moon” 、つまり文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領のことです。

トランプ大統領の発言を見ると、前半では北朝鮮との首脳会談について触れているのですが、後半では日米の貿易不均衡の問題に主眼が置かれています。トランプ氏の頭の中身は、1980年代の日米貿易摩擦のときからまったく進歩がないのでしょうか?

同盟国に牙をむく米国の愚

すでに複数のメディアに報じられているとおり、今週前半のG7財相会合では、米国が欧州連合(EU)やカナダを対象に、鉄鋼・アルミニウムの追加関税を発動したことを受け、米国以外の「G6」が一致して米国を批判するという展開となっています。

G7財務相会議、通商で深刻な対立 車関税を警戒(2018/6/3 23:37付 日本経済新聞電子版より)
米国の関税を名指しで非難、G7財務相会議-同盟国が反発(2018年6月3日 9:33 JST付 Bloombergより)

西側諸国・国際社会が、北朝鮮、中国、ロシアといった無法国家と一致団結して対峙しなければならないときに、どうして米国は同盟国に対して牙をむくような愚を犯したのでしょうか?その理由は、おそらく、トランプ氏が根本的な「経済オンチ」であることに加え、今年の中間選挙対策、という側面もあるのでしょう。

米国が鉄鋼、アルミニウムだけに留まらず、さまざまな品目において貿易戦争を拡大すれば、各国は対抗措置を発動するはずです。とくに、カナダやメキシコは、トランプ氏の「票田」であるテキサス州などの農家に打撃を与えるような対抗措置を発動するのではないかとの見方もあるようです。

私は、こうしたトランプ政権の姿勢に、非常に強い不安を感じずにはいられないのです。

(※なお、欧州でイタリアがユーロ圏から離脱しようとしている話題や、各国でユーロ懐疑派政党が躍進している話題については、非常に経済と密接な関係がある論点でもあります。これについては別途、どこかであらためて取り上げたいと思います。)

羅針盤となる鈴置論

米国の「猫なで声」

ただ、北朝鮮政策に焦点を当てるならば、いまのところ、米国の外交政策をそこまで心配する必要はありません。

もちろん、ここ数日、トランプ政権は「北朝鮮との首脳会談は複数回開催されても構わない」と発言してみたり、金正恩の側近である金英哲(きん・えいてつ)が訪米した際には「高層コンドミニアム」で豪奢な夕食会を開催してやったり、と、非常に北朝鮮を優遇し、譲歩しているかに見えます。

しかし、当ウェブサイトでは繰り返し主張して来ましたが、そもそも金正恩自身が6月12日に、本当にシンガポールに現れるのか、まだわかりません。米国としては、とりあえず金正恩をシンガポール会談に引きずり出すのが目的でしょうから、こうした「猫なで声」を「米国のスタンスの変化」と見るのは早計です。

こうした主張をしているのは、私だけではありません。複数のブロガー、コラムニスト、「コリア・ウォッチャー」なども、似たような見方を示しています。こうした議論のなかで、やはり最も信頼性が高い記事は、日本経済新聞社の元編集委員で「韓国観察者」の鈴置高史氏が執筆した記事でしょう。

日経ビジネスオンライン(NBO)に本日、大人気名物コラム『早読み深読み朝鮮半島』シリーズの最新版が掲載されています。

「暗殺」「猫なで声」で金正恩いぶし出すトランプ/シンガポールで米朝首脳会談は開かれるのか(2018年6月8日付 日経ビジネスオンラインより)

朝鮮半島問題に興味がある方であれば、必読の記事といえるでしょう。ウェブページで5ページ分にまたがる良文ですが、記事の末尾にある

通りがかりの人を銃撃する立てこもり犯を警察官が騙し、隙を見て撃ち殺したとしても、犯人を騙したと非難する人はいない

という文章に、内容が集約されていると見て良いでしょう。

もちろん、ここでいう「立てこもり犯」とは北朝鮮のことであり、「警察官」とは米国のことです。

「首のすげ替え」「軍事オプション」はうまくいかない

もっとも、鈴置氏の議論には、ごく一部ですが、同意できない部分もあります。

まず、「米国が金正恩の首のすげ替えを検討している」、という指摘については、同意できません。米国が北朝鮮にそこまで深く食い込んでいるとは考えていませんし、「金正恩の首のすげ替え」を、中国の同意なしに遂行し得るとも思っていないからです。

同様に、シンガポールで米朝首脳会談が決裂に終わったとして、米国がその後、北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けるかといえば、そこもそれほど単純ではありません。なぜなら、北朝鮮は中国・ロシアと国境を接していて、米国が中露両国との合意なしに北朝鮮攻撃をすることには、多大なリスクが伴うからです。

これに加えて、韓国が米国に対して全く協力的ではないという点も、米国にとっては大きなネックとなるに違いありません。

このため、米朝首脳会談が決裂し、金正恩が北朝鮮に戻ってしまったとしても、ただちに米国が北朝鮮に軍事攻撃を仕掛ける(あるいは北朝鮮で軍事クーデターを発生させる)というものでもない、と私は考えているのです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もっとも、金正恩が北朝鮮とシンガポールを往復する際、金正恩が搭乗している高麗航空機を、米軍がステルス機で撃墜する可能性はゼロとはいえないでしょう。そのリスク・シナリオについては、考えておく価値はあるでしょう。

いずれにせよ、引き続き、この問題からはまだまだ目が離せない展開が続きそうです。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 黄昏せんべい より:

    寅「宗主国さま、ついに米軍の撤退スミダ」
    習「でかしたぞ、愛いやつアル」
    金「こんどからうちに米軍が駐留するニダよ」
    寅「え?」
    習「え?」

    そんなハバナ
    https://www.youtube.com/watch?v=74gx0v5ZJzw

    1. 歴史好きの軍国主義者 より:

      非国民様

      続きがきっと次のようにあります(笑)。
      >金「こんどからうちに米軍が駐留するニダよ」

      金「ところで習さんよ~、ウリの固有の領土である満州の土地を長らく不法占領しておいて、このオトシマエどうすんねん?」

      習「…」

      金「まずはすぐ土地をこっちに返して謝罪とアンサンの誠意(お金)見せろや。すぐ出すもん出さんかいワレェ!!」

      習「m(_ _)mブルブル」

      泣く子と地頭と米軍には勝てない(笑)

      黒電話のセリフ思わず関西弁で書きました(笑)

      ホントに親方星条旗って怖いですね((((;゜Д゜)))

      日本には何を要求するやら(怖)

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