中曽根元首相の功罪

中曽根康弘元首相が100歳の誕生日を迎えられたそうですが、この人物が首相としてなした行為については、功罪両面あると思います。

中曽根元首相の功罪

中曽根元首相、100歳

中曽根康弘元首相が100歳の誕生日を迎えられたそうです。これについて、産経ニュースは中曽根氏が「政治家に警鐘を鳴らす発言」「流行語になる名言」を多く残したなどとして、非常に肯定的に取り上げているようです。

【中曽根元首相100歳】/「首相と恋人は私が選ぶ」「不沈空母」「死んだふり」「政治的テロ」…流行語になった名言も(2018.5.27 17:57付 産経ニュースより)

産経ニュースの記事の全文についてはリンク先で直接確認していただきたいのですが、ここでは私が気になった下りを1ヵ所、抜粋・要約しておきたいと思います。

  • 憲法改正をライフワークとしてきた中曽根氏は、現行憲法を批判する「憲法改正の歌」を自ら作詞し昭和31年に発表、36年からは「首相と恋人は私が選ぶ」をキャッチフレーズに首相公選導入の改憲を訴えた
  • 首相就任直後の訪米の際、米紙社主との朝食会で「日本列島を不沈空母のように強力に防衛する」と発言したと報道された。昨年(発表)の外交文書で自ら「不沈空母」と発していたことが判明した
  • 自民党大勝に導いた昭和61年(※1986年)の衆参同日選では、衆院解散を野党が警戒する中、実施しないふりをして断行した(いわゆる「死んだふり解散」)

産経ニュースは中曽根氏が「憲法改正をライフワークとしてきた」と述べていますが、この下りについては「いい加減なことを言うな」と言いたい気持ちでいっぱいです。なぜなら、中曽根氏は憲法改正のために必要となる、国民投票法などの法制度を含め、任期中には憲法に一切触れなかったからです。

実際、1986年の衆参同日選では、自民党を圧勝に導きました。その政治手腕自体は評価に値するかもしれませんが、憲法改正の発議には衆参同時に3分の2の多数を占めていることが必要であり、この時点では改憲発議ができなかったのは仕方がありません。

しかし、自民党が圧勝したのであれば、せめて国民投票法くらいは法制度化しておくべきでした。実際には、これを成し遂げたのは安倍晋三総理大臣(任:2006年9月~2007年9月)です。第1次安倍政権はわずか1年で退陣に追い込まれましたが、そのわずか1年で国民投票法を成立させたのです。

ほかにも、「不沈空母」発言を行ったわりには、防衛費のGDP1%シーリングの撤廃も中途半端でしたし、防衛庁は防衛庁のままでした(ちなみに防衛庁を防衛省に昇格させたのも、第1次安倍政権の功績です)。

国鉄の分割民営化は大成功、靖国参拝は禍根

もちろん、中曽根元首相については、私は功罪双方があると考えています。

産経ニュースは無視しているようですが、最大の「功績」といえば、国鉄や塩専売公社、電電公社などの民営化です。とくに、国鉄については6つの旅客会社と1つの貨物会社に分割し、このうち本州の3社とJR九州は、いまや上場し、巨額の利益を生み出し、国に税金を納めています。

国鉄が金食い虫だった時代と比べれば、雲泥の差です。

それだけではありません。JR各社はダイヤを大幅に改良し、輸送力を向上させ、新型車両を次々投入。極めて高い顧客サービスに定評がありますし、JR東日本が開発したSUICAという電子マネー・システムは、いまや日本の決済システムを変えようとしています。

(※余談ですが、国鉄の分割民営化が100%成功だったのかと言われれば、そうとも限りません。JR北海道やJR四国のように、経営難が続く会社もあるからです。いずれJR北海道はJR東日本が、JR四国はJR西日本が救済合併しなければならなくなるかもしれません。)

一方、中曽根元首相の罪は、靖国参拝を政治問題化するという、朝日新聞社や中国共産党の野望に、まんまと乗ってしまったことでしょう。中曽根元首相は、現役首相としての靖国参拝を見送ったことで、後年の首相に対してさまざまな禍根を残したのです。

さらに、売上税という名の大型間接税を導入しようとして、国民に猛反発を喰らいましたが、この大型間接税構想は次の竹下元首相が「消費税」というかたちで実現し、いまだに日本経済を蝕み続けていますし、財務省は、2019年にはこの消費税の税率をさらに引き上げようと企んでいます。

こうした「功罪」に触れられていない産経ニュースの記事を読むと、どうも読後感はいまいちすっきりしないのです。

中曽根さん、いつまでもお元気で

私は中曽根元首相のことを、功罪あわせもつ政治家だと考えており、全否定するつもりも、全肯定するつもりもありません。ただ、長生きされて、ますますかくしゃくとお元気な様子を見ると、それはそれで「いつまでもお元気でいらっしゃってください」とお祈りせざるを得ません。

ちなみに、中曽根政権といわれれば「長期政権だった」という印象がありますが、歴代の首相の在任期間を眺めてみると、1806日で歴代7位です。これに対し、安倍政権は2006年からの第1次政権を通算すれば、本日時点で2346日で歴代5位です(図表)。

図表 歴代総理大臣の通算在職日数
順位歴代総理大臣通算在職日数
1桂 太郎2,886
2佐藤 榮作2,798
3伊藤 博文2,720
4吉田 茂2,616
5安倍 晋三2,346
6小泉 純一郎1,980
7中曽根 康弘1,806

(【出所】首相官邸HPなどを参考に著者調べ)

別に長くやれば良いというものではありませんが、安倍晋三総理大臣は歴代首相ができなかった憲法改正を正面突破しようとしており、この点で私は安倍総理を全面支持したいと思います。ただ、冷静に考えてみたら、安倍総理は中曽根元首相が残した禍根と戦っている、という側面もあります。

その意味で、中曽根元首相の功罪については、安倍総理の功績と併せて、後世の歴史家が判断することになるでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 本日も更新ありがとうございます。
    < もう30年近く前の首相だし、時が経つにつれ、最近は耄碌されたのか発言に意味不明の部分も出てきてますので、現役時代を中心に短くコメントします。
    < 「改憲について」取り組んで来たとのことですが、戦中は軍人として活躍され、すぐ戦後政界にうって出て、『憲法改正の歌』を作られた。これは今でも動画で見れますね。S31年発表。若かりし頃の中曽根氏がリードして歌ってます。
    < 弱小派閥だったので『三角大福中』の中で辛酸舐めてました。また『風見鶏』と揶揄された。小派閥でもキャスティングボードを握る三木氏とは違い、悪く言えば何処にでもなびいた。また靖国参拝問題では大きくその後の総理の行動のハードルを上げる事になってしまった。憲法改正も政権を担ってからは、目立った動きなし。
    < 対米関係では【ロン・ヤス】と呼び合い、レーガン大統領とは前後の首相よりも緊密な関係を築けたのは国益にかなったと思います。中曽根氏の東京都・日の出町にある別荘でレーガン大統領をもてなしてましたね。
    < 『不沈空母論』とか『戦後政治の総決算』とか造語を作るのは上手かったです。内容は別にして。その他、国鉄改革や電電公社等の民営化に直接携わり、まさしく今の日本の土台を築き上げた方。私見ですが、明治生まれは別にして、大正生まれでは一番の大物宰相であると思います(対抗は田中角栄、こっちは負のイメージ強い)。
    < 失礼します。

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