【夕刊】バカッター行為と向き合う社会

週末ということもあり、本日は普段の政治経済の話題から離れて、少し「考えさせられる話題」をお送りしたいと思います。

15歳で40億円の債務を負った少年

数日前、米国発でなかなか微妙なニュースを発見しました。

山火事で194平方キロ焼失、少年に40億円の支払い命令(2018.05.22 12:18 JST付 CNNより)

米オレゴン州で2017年に発生した山火事を巡り、裁判所は21日、その発端となった10代の少年に対し、約40億円もの賠償を命じた、というのです。

記事から事実関係を確かめておくと、この少年は2017年9月2日、オレゴン州のイーグル・クリークをハイキングしていた際に森の中に花火を投げ入れました。「このうちの1本が山火事の原因となった」とあるため、少年が投げ入れた花火は複数だったのでしょう。この山火事では194平方キロメートルを焼きました。

裁判所は判決で、少年に対して5年間の保護観察、1920時間の奉仕活動をあわせて命じたとしています。しかし、少年の弁護士は「過剰な請求だ」、「憲法修正第8条(残酷で異常な罰の禁止)に反している」などと反発しているそうです。

ただ、CNNの報道から判断する限り、今回の判決はおそらく民事訴訟でしょう。というのも、実際の損害が発生したと思われる場所に対して指示されているからです。たとえば、オレゴン州運輸局に1250万ドル、鉄道会社に105万ドル弱などの支払いが命じられています。

そして、少年は当時15歳だったそうですが、通常の15歳といえば、火のついた物体を森に投げ込めば火事になる、ということくらいわかりそうなものです。そのように考えていくと、これはあくまでも損害賠償義務であって、「罰」ではありません。

それにしても、日本の裁判所だと「なあなあ」で済ます傾向が強いのですが(※個人的な実体験あり)、良い意味でも悪い意味でも、米国の裁判所は実にドライだと思います。

自己責任をどう考えるか

「バカッター案件」

火のついた花火を山に放り込んで山火事を起こしたという事件は、ある意味では論外です。しかし、程度の差はありますが、「軽はずみな行動で大きな騒動になった事件」は、インターネットを中心に増えています。私はこれを「バカッター案件」と呼びたいと思います。

この「バカッター」は、一種のネット・スラングですが、私の理解では「わざとバカみたいな行為をしてツイッターなどのSNSに投稿して目立とうとする行為」のことです(※といっても、私自身もツイッターを愛用しており、当ウェブサイトとしては、別にツイッター社を貶めるつもりはまったくありません)。

そして、こうしたバカッター行為の中には、シャレにならないほど、とんでもない問題に発展したケースもいくつかあります。その典型例が、「アイスケース事件」でしょう。

コンビニ店員がアイスの冷蔵ケース内で寝転ぶ写真、Facebookに ローソンが謝罪、FC契約解除(2013年07月15日 14時06分付 ITメディアより)

今から約5年前の話ですが、高知県のコンビニエンスストアの店員がアイスクリームを販売する冷蔵ケースに入り込み、写真を撮って、それをSNSにアップロードした、というものです。

ただ、この事件では、該当するコンビニエンスストアが大手コンビニのフランチャイジーだったという事情もあり、対応は迅速で、コンビニ本部から契約をいったん解除され、該当する従業員の解雇や、ほかの従業員らへの再教育などの措置が取られたそうです。

しかし、こうした社会的な批判にも関わらず、「▼食品を扱う店で冷凍庫に寝転んだ、▼大手回転寿司屋で醤油を鼻の穴に突っ込んだ、▼パトカーの上に乗って悪ふざけをした、▼コインランドリーで乾燥機の中に入り込んだ」、といった非常識な行為をして、それを写真に撮り、アップロードする人が続出したのです。

もっとも、私の印象では、こうした「バカッター行為」は、最近だと下火になっているような気がします。というのも、ちょっとした「バカッター行為」では炎上しなくなったからかもしれません。

誰もが気軽に情報発信できる時代

こうした行為ができてしまうのは、やはり、1人1台ともいえるほど、携帯電話(スマートフォンなど)が普及したからなのかもしれません。ツイッターへのユーザー登録は、メールアドレスさえあれば、だれでも無料かつ気軽にできてしまいます。いったんアカウントが成立すれば、あとは情報を発信し放題です。なかには、

いつも飲酒運転してます

といった違法行為をツイートする人間もいれば、

今から秋葉原にサリンを撒く。

といった、犯罪予告のようなコメントを投稿し、それで大いに炎上する、という事例もあります。

しかし、ツイートの内容次第では、その人の人生が終わってしまうようなこともあります。レストラン・食堂で従業員が不衛生な行為をしたがために、その店が閉鎖に追い込まれた場合には、経営者から数百万円単位で損害賠償を請求されることもあります。

また、鉄道の運行を妨げた場合の損害賠償額は数千万円単位に上る可能性もありますし、他人の名誉を傷つけた場合にも、巨額の損害賠償を支払う義務を負うかもしれません。さらには、その後の人生において後ろ指を指されながら生きていくことだってあり得ます。

いずれにせよ、誰もが気軽に情報発信できてしまう時代だからこそ、こうした不法行為には気を付けなければならないのです。

ネット時代の規制の在り方

注目されたい、目立ちたい!

こうした一見するとバカげた行為をする人が出現する理由については、「世間から注目されることで、一時的な快感を得るため」ではないでしょうか?他の人がやらない行為をやれば、世間からは確かに注目されます。いわば、子供が大人に注目されるために、いたずらをやらかすような行為と似ていると思います。

要するに、こうした行為に及ぶ人は、精神的に幼い、あるいは思慮に欠ける人たちだ、という言い方ができます。

それに、ひと昔前だと、全国的に名前が売れるためには、「▼イケメン・美女に生まれてタレントになるか、▼コメンテーターとしてテレビのニュース番組やワイドショーに出るか、▼お笑い芸人としてテレビに出るか、▼テレビ局に入って芸能レポーターになるか」、といった方法くらいしかありませんでした。

容姿端麗でもなく、ダンスが上手いわけでもなく、話芸ができるわけでもなく、学者でもない人が有名になる手段など、ほぼ皆無だったのです。

ところが、現代社会にはスマートフォンがあります。大した努力をしなくても、ちょっと目立つこと(例:自分の子供に火のついたタバコをくわえさせる、など)をすれば、「注目」はされるでしょう。そうなれば、「注目されたい」と思う人にとっては、それだけで目的が達成されるのです。

ネットの規制をどう考えるか?

さて、現在私は、インターネット上で個人がブログサイト、評論サイトなどを運営することの是非に関して、ちょっとした記事を執筆しており、近日中に公表することができると思います。

ただ、その記事の執筆に当たって、さまざまな事例を調べながら思ったのですが、「素人が気軽に情報発信をすることで、社会に対して甚大な損害を与える可能性がある」、という点については、なかなか悩ましい問題だと思います。

自動車や鉄道が出現したことによって、人類の生活は確かに便利になりました。しかし、その分、事故も増えましたし、事故を減らすために、さまざまなルールを定め、場合によっては免許制にするなど、さまざまな努力をしてきたのも事実でしょう。

インターネットの出現も、これと似ています。使い方を間違えれば、取り返しのつかないことになってしまうからです。学生が学校でイジメをしている様子を写真で撮ってSNSに投稿すれば、いまだとすぐに学校や本人が特定され、社会的生命が抹殺されることだってあり得ます。

では、インターネットによる情報発信は、免許制にしなければならないのでしょうか?

実は、「誰もがインターネットで情報発信できる状況を免許制にすべきだ」とする議論が出てくると、それはそれで、新聞・テレビなどの「情報発信の既得権益層」が喜ぶだけの結果になります。というのも、ツイッターなどが禁止されれば、新聞・テレビなどの虚報を暴く手段がなくなるからです。

このように考えていけば、ネット規制は一筋縄で答えが出るものではありません。月並みな言い方ですが、学校と家庭できちんと教育し、自分で物事の分別が付くまでは、個々の親が子供の情報発信を監視するしかありません。これも、インターネットの黎明期独特の問題であると言えるでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

私は、安易なインターネット規制には反対の立場ですが、ただ、それと同時に、思慮のない投稿によって社会全体と本人自身にとって取り返しがつかない事態が生じることについては、避けなければならないと考えています。

もっとも、来年に元号が変わり、時代が進み、今の子供たちが大人になる頃には、社会全体でインターネットとの付き合い方に関するコンセンサスが出来上がっているかもしれません。この問題については、もう少し事態の推移を見守るしかないのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. めがねのおやじ より:

    < 夕刊の配信ありがとうございます。
    < 携帯ではなくスマホが普及して6年?8年?。少なくとも今の高校生なら子供の時から親のを借りてゲームしたりで馴染んでますね。その頃から電子ゲーム機、テレビゲームが廃れましたから。
    < 私は自分の興味のある分野しかユーツベもサイトもブログも覗かないです。特にユーツベは普段あまり見ない。何故か。面白くないのが多い為。時間の無駄と思う時さえある。またいい歳して家にこもってパソコンオタクもなんだかなあ(笑)
    < インターネットのサイト、ブログの中には低質な、悪ふざけもあります。いわばU-18とかU-15とか遮断される対象です。そういう有害も無害もひっくるめてインターネットによる情報発信を、許認可制、申告制にしなくていいと思います。今はやっと一人立ちできたヨチヨチ歩き。確立するのはこれから。もう旧式の情報メディアだけでは何が真実か、騙されているようで満足出来ませんから。 失礼します。

  2. とらじろう より:

    バカッター行為は論外ですが、炎上はそもそもツイッターの日本語140文字に起因しているようにも思えます。
    140文字の制限の中で真意を伝えるって意外に高度な技術なのでしょうね。
    日本には古来、短歌や俳句といった文字数制限の中で真意を伝える文化があったはずなのですが。

  3. (^p^) より:

    オークションやオンラインゲームに多い法の未整備をついた不当な契約などは対処が急がれる面ですが、仰る通り、ネット自体の利用の制限や免許制といった安直な規制に向かないと良いですね。
    匿名性と規制が無い事自体がネットの強みかと思いますし、それこそ朝日新聞のような輩がこぞって免許を独占し、暴れまわったあげくに衰退するでしょう。尤も日本国内のサービスではなく全世界のインフラですのでこんな方法も無いと思いますが。
    バカッター行為は、子供は友達内でやってるつもりで、中高年はメール感覚で、全世界に発信してる自覚がないために起こると考えてます。
    ネットに個人情報を上げるのは渋谷の交差点に免許証や自己紹介文を掲げるような、犯罪予告や自慢は大声で世間にふれて歩いているようなものであり、どうなるかは自明という至極当然な意識が醸成されると良いですが。

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