【夕刊】ハニートラップを官僚セクハラ事件と混同する論考の愚

旧態依然としたテレビ人や、ワイドショーしか見ない人の知性がいかに劣化するかは、私にとっては重要な研究テーマでもあります。

テレビしか見なかったらこうなるのか?

色仕掛けを「官僚セクハラ」と批判する河合薫氏の愚

日経ビジネスオンライン(NBO)というウェブサイトがあります。「日経」の名を冠しているだけに、レベルが高い記事がたくさん掲載されているのかと思う人もいるかもしれませんが、私はそうとは思いません。その典型的な記事が、本日も掲載されていました。

官僚セクハラを「色仕掛け」と批判する日本の闇/米国では「#Me Too」でピュリツァー賞(2018年4月24日付 日経ビジネスオンラインより)

リンク先の記事は、『河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学』という連載シリーズです。

執筆者の河合薫氏の経歴欄には「東京大学大学院医学系研究科博士課程修了」、「産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている」などとありますが、政治・経済を専門とされている様子はなく、また、リンク先の記事も、色々な意味で非常に残念な内容のものです。

タイトルからも想像が付きますが、今回の記事の題材は、財務省の福田淳一前事務次官の「セクハラ疑惑」についてです。彼女はこの問題について、

本件に女である私が意見をちょっとでも述べた途端、「感情的」「フェミニスト」「女もセクハラする」と戦闘態勢に入る人たちが想像以上に多く、少々うんざりしている。/だが、これまで散々セクハラ問題を取り上げてきた身としては、書かざるをえない。

と述べ、深い関心を抱いている様子がわかります。議論はのっけから、こうです。

「人権」という美しい言葉に乗じた、麻生太郎財務大臣及び財務省の「被害者出てこい!」発言。

「不徳のいたすところ」という謙虚な言葉に乗じた、テレビ朝日の「(週刊誌に音声データを渡したのは)報道機関として不適切な行為」発言。

「全体をみれば」というもっともらしい言葉を使い、「同社がどういう調査をしたか知らないが、会話の全体をみればセクハラに該当しないことは分かるはずだ」とした福田氏の発言。

どれもこれも、わが国の“お偉い人”たちが自らの醜い感情を隠すために放った“正論”で、私の脳内の突っ込み隊は大騒ぎだった。

え?え?ちょっと待ってください。

麻生太郎副総理兼財相と「財務省」が「被害者出てこい!」と発言したということですが、それはいつ、どこでそう発言したのでしょうか?麻生副総理の発言を記者会見記録等で確認してみたのですが、それらしき発言はありません。

また、財務省のウェブサイトにも「被害者出てこい!」と明示されているページは、寡聞にして知りません。河合さん、この文章を読んで下さっているのならば、どうか出所を教えてくださいませんか?

テレビ朝日への批判は同感だが…

もっとも、テレビ朝日側が「セクハラ被害を名乗り出た女性が自社の上司に対してではなく、週刊誌に音声データを渡したこと」を「報道機関として不適切な行為」だと述べたことは事実であり、この点については私もマス・メディア産業の腐敗を痛感します。

福田氏が財務省の事務次官という立場を乱用し、弱い立場にある女性にセクハラを働いたのだとしたら、これは言語道断であり、場合によっては福田氏を刑事告発したうえで、財務省という組織自体の腐敗にメスを入れる必要もあるでしょう。

しかし、肝心の週刊新潮側が、被害者とされる女性の音声が入ったバージョンの録音データを公開しておらず、これだけで「福田氏がセクハラ行為を働いた」と断定することはできません。左翼系の人たちが大好きな「推定無罪」の観点からすれば、福田氏は「無罪」なのです。

というよりも、公表されている客観的事実を総合すれば、仮に福田氏が本当にテレビ朝日の女性記者にセクハラを働いていたのだとすれば、その旨を申し出ていた女性記者を配置換えしなかったテレビ朝日という組織の犯罪でもあります。

また、「テレビ朝日の女性記者が福田氏からセクハラを受けていた」というテレビ朝日の報道発表が虚偽であれば、テレビ朝日という組織が福田氏という個人に対して名誉棄損という犯罪行為を仕掛けたことになり、どのみちテレビ朝日という組織の罪は重いです。

もっとも、福田氏が女性を侮辱するような発言をしていたということ自体は、どうやら事実であるようです。女性を性的対象として見下すというのは、男として、社会人として、いや人間としてアウトでしょう。

新聞業界やテレビ業界が「ハニー・トラップ」を仕掛けようとすることは大きな問題ですが、仕掛けられる側の官僚組織にも問題があるように思えてなりません。これらの旧態依然とした業界に対しては、近いうちに大々的にメスを入れる必要がありそうです。

世間一般の知見から乖離し過ぎた人

少々脱線しましたので、河合氏の議論に戻りましょう。

例えば、私が先週水曜日にコメンテーターで出演したテレビ番組で、「財務省の対応について、『問題なし』「問題あり』『わからない』のどれか?」と視聴者に投票してもらったところ、次のような結果になった(この時点では、まだテレ朝の会見は行なわれていない)。

  • 「問題なし」1023票
  • 「問題あり」1770票
  • 「わからない」309票

問題ありが一番多いとはいえ、問題なしの意見も多いことに正直驚いた。

本件に関していえば、先週水曜日の時点では報道があいまいであり、証拠も不十分であるなかで、財務省が被害女性に名乗り出る(しかも第三者である弁護士事務所を通す)という対応を取ったことについては、私も「問題ない」、いや、「通常の対応」だと思います。

むしろテレビ朝日が先週の木曜日深夜からいきなり記者会見を開くという対応のほうが、よっぽど問題があります。さらに、彼女が番組内で、

「福田さんの人権を守ることに異論はない。でも、それは、音声データの分析、編集の有無を検証すればいいし、録音された日付と場所に行っていないことは、当人の行動や携帯記録、お店の人たちへの聞き取りで潔白を証明できる」

と発言したことに対して、

「それを財務省がやってるんでしょ? 訴えた人が出てこないことには正確なことはわからない」

というツイートが寄せられたそうですが、私もこのツイートにまったく同感です。いや、そのまえに、河合氏がニュースを自分の頭できちんと咀嚼しているのかどうか、おそらくそれすらできていなくて、新聞かテレビが報じていた内容をそのままオウム返しにしているだけではないかとの疑念を払拭することはできません。

河合氏はこのツイートについて、

私の知能では理解不能なTwitterをもらい困惑した。

と述べていますが、それすら理解できないという盛大な恥をさらした格好となっています。

読者コメント欄に救われる

ただ、こうした河合氏の文章に対し、本日の15:00時点で10件のコメントが付されています。賛同するコメントが半数ほどありますが、2件ほど、こんな反論がありました。

うちにはTVがないので、TVのコメンテイターの方々がどんなコメントをしていたのかはこのコラムで初めて知りました。前時代的でクラクラしますね。昔と違ってTVを持たない家は稀有ではなくなっているようですが、理由が分かる気がします。

気持ちはわかるが、学者なら現実や事実をしっかり見るべきでしょう。安易なポピュリズム的な井戸端発言に終始している。Me tooにしても、カトリーヌドヌープ女史らが反対意見を述べていることにも触れなければいけない。もっと深く真相や深層をえぐって欲しいものです。

まったく同感です。

とくに、前者のコメントにある「前時代的でクラクラする」という指摘は興味深いです。テレビの「ワイドショー」のコメンテーターたちが発言する内容は、たいていの場合、番組側が「見せたい内容」に即したものであり、河合氏のコメントも世間から相当に遊離しているという証拠でしょう。

また、後者のコメントにもある「学者なら現実や事実をしっかり見るべき」という「お叱り」についても、河合氏は深く受け止めるべきでしょう。

NBOには日本経済新聞社の鈴置高史編集委員の手による『早読み深読み朝鮮半島』シリーズのように、優れた論考が掲載される一方で、この手のテレビ的、前時代的な、客観的事実を無視して一方的意見を押し付ける論考も数多く掲載されています。

ただし、私は河合氏に対し、「こんな記事を書くな!」と申し上げるつもりはありません。民主主義社会において本当に重要なことは、「自分できちんと記事を読み、それについて自分の頭で考えて判断すること」だからです。どんなにアサッテな論考であっても、社会から排除すべきではありません。

それが自由主義というものです。

河合氏にはそのことをお伝えしたいと思います(伝わるかどうかはわかりませんが…)。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 謎田謎也 より:

    当該女史は、もともとテレビ朝日の「ニュースステーション」という番組の「天気お姉さん」の職を務めていたのでありますから、このテレビ朝日の「セクハラ握り潰しスキャンダル」について、利害関係者であるということをまず前提に記すべきであり、そうでなければフェアな記事ではないと考えます。

    当該の原記事は、昨日一読しましたが、レベルが低く、ふだんの当該女史の切れ味がどこにもないことに私は驚き呆れていました。

  2. 憂国の志士 より:

    野盗は結集して「国民民主党」,略して「国民党」とするらしい。

    馬鹿か,いまネット上では「国共合作」がスラングとして話題騒然となっている。
    つまりかつて支那大陸で起こった対日攻策を模して,野合衆+日本共産党を化して毛沢東と蒋介石に準えているという,痛烈な皮肉だ。

    最近話題の世論調査とやらだが,自民党政権支持率は30%だとか。しかし,さて,野党の支持率はどうなのか?では,なんと,全野盗を足しても20%なのだとか。

    自民政権支持率30%+野盗支持率20=50%。では残りの半分は何処に行ったのか??
    無党派層,つまり政治になど関心の無い情報弱者層が「高齢者ほど高率に」形成,存在している。

    他人事ではない。私の高齢両親含め,TV,新聞でしか情報源の無いヒトは「安倍はもうだめだ」「自民党はまた,こんなことになっている」等々,「なるべく思考しないで納得できる話題」にしか興味を示さないし,真の理解など到底無理なのだ。

    しかし頼もしい情報も少しは有る。前記の「高齢者層ほど情報弱者層」の逆が見えている話題もある。ネット世代は冷静に,正しい情報を収集して「安倍政権堅持」を支持する層が確実に増えている。

  3. めがねのおやじ より:

     < 更新ありがとうございます。
     < 本日、新宿会計士様のツイッターで河合氏の発言に対し、私がコメントを『この女史意味不明です』と書いてリツイしたところ、早速この河合氏という女性から意味不明の『いいね』が来ました。はあ?私は貴女の言われている事が丸で分からず解釈に難儀しているんですけど(笑)。幼少時から米国に家族で行き、帰国子女でCAというキャリアお持ちのようですが、失礼ですが私には全く共感できる部分がありません。そのように記入してツイートしたんだがなあ。とりあえず何でもいいから「いいね」で巻き込む作戦でしょうか?
     < 目障りだから止めてくれ。失礼します。

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