トランプ政権では櫛の歯が抜けるように、次々と政権幹部が更迭されています。日本にとっては関心の高い、米国による北朝鮮政策を巡っても、「対北融和派が更迭され、対北強硬派が就任した」などと報じられているようですが、実態はそれほど単純ではありません。

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米政権で相次ぐ更迭劇

ティラーソン氏に続きマクマスター氏も更迭

すでに大々的に報じられていますが、米国で国防担当の大統領補佐官であるH.R.マクマスター中将が更迭され、その後任に米国の元国連大使でもあるジョン・ボルトン氏が指名される見通しとなりました。

米メディアによれば、マクマスター氏の更迭とボルトン氏の指名は、イラン核合意や北朝鮮の核開発に関する対応を巡る、トランプ大統領自身との意見の相違が原因であるとしています(たとえば次のWSJ記事参照)。

Trump Taps Iran Hawk John Bolton for NSA Post as McMaster Departs (米国夏時間2018/03/22(木) 22:47付=日本時間2018/03/23(金) 11:47付 WSJより)

イランと北朝鮮という2つのキーワードを聞いてピンとくるのが、ティラーソン米国務長官の更迭と「対イラン・北朝鮮強硬派」として知られるポンペオCIA長官の「横滑り人事」です。

3月13日(※米国時間)早朝に、トランプ大統領はツイッターでティラーソン米国務長官の更迭とポンペオ氏の後継者としての指名を発表して、世界を驚かせたことは記憶に新しい話です(これについては当ウェブサイトでも、『【速報】ティラーソン国務長官更迭の影響を読む』で取り上げました)。

人事情報をツイッターで全世界に向けて発表するトランプ氏の非常識さはさておき、おそらく、今回のマクマスター氏の更迭劇も、ティラーソン氏の更迭と同じ文脈に位置付けるべきでしょう。

WSJ「北朝鮮攻撃の可能性高まる」

こうしたなか、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は日本時間の昨日早朝、「ボルトン補佐官は米朝関係の方程式を根本から変える」という主張を掲載しました。

John Bolton Changes U.S.-North Korea Equation(米国夏時間2018/03/23(金) 17:03付=日本時間2018/03/24(土) 06:03付 WSJより)

WSJの主張を簡単に日本語で要約すると、だいたい次のようなものです。

ボルトン氏はテレビのインタビューに応じ、北朝鮮が今回、米国に首脳会談を持ちかけたのは、核開発を続けるための単なる時間稼ぎに過ぎないとの見解を示し、北朝鮮に核放棄の準備があるとの見方を否定した

そのうえでボルトン氏は「金正恩(きん・しょうおん)が核放棄について議題にしないのならば、(米朝首脳会談も)極めて短い時間で終わることになる」と警告した

2000年代にボルトン氏と協働したこともある南朝鮮(South Korea)政府の元高官である千英宇(せん・えいう、Chun Yung-woo)氏は、ボルトン氏は前任者と比べ、北朝鮮に対して寛容さを持っていないと述べた

そのうえで千氏は、「このタイミングでボルトン氏を補佐官に指名することは、悪い選択肢ではない。おそらくボルトン氏は北が単なる時間稼ぎをしているとみなしたうえで、北朝鮮に何らかの選択肢を与えることになるだろう」と述べた

要するに、今回の人事により、ただちに北朝鮮攻撃が行われるわけではないにせよ、ティラーソン氏やマクマスター氏の時代と比べれば、より北朝鮮に対して強硬に核放棄を迫るであろう、という見方です。

この記事を、どう考えれば良いでしょうか?

物事はそこまで単純ではない!

まことに僭越ではありますが、このWSJの記事による分析には、少し違和感があります。

確かに、ボルトン氏はポンペオ氏と並び、イランや北朝鮮の核開発に対しては強硬姿勢を主張しています。そして、米メディアの報道によれば、ティラーソン氏やマクマスター氏は北朝鮮に対し「対話」を主張していて、トランプ政権の足並みを乱していた、といった見方も散見されます。

しかし、私は個人的に、「ティラーソン氏やマクマスター氏が北朝鮮攻撃に臆病だった」とは思いません。両氏ともに、きちんと情報を集約し、整理してトランプ大統領に報告していたであろうことは想像に難くありません。しかし、「方針の違い」というよりはむしろ、「そりが合わなかった」だけではないか、という気もします。

実際、トランプ氏がツイッターで全世界に向けていきなり人事を公表したうえに、ティラーソン氏本人への連絡は、そのあとだった、というエピソードを聞くと、いろいろと深刻なものを感じずにはいられません。

そして、ティラーソン氏が北朝鮮攻撃に後ろ向きだったという証拠は、私には見当たらないのです。なぜなら、ティラーソン氏本人、マティス国防長官と連名ではありますが、昨年8月にWSJに対し、米国としての基本方針を示しているからです。

We’re Holding Pyongyang to Account(米国時間2017/08/13(日) 17:37付=日本時間2017/08/14(月) 06:37付 WSJオンラインより)

この記事で両長官は、

The object of our peaceful pressure campaign is the denuclearization of the Korean Peninsula. The U.S. has no interest in regime change or accelerated reunification of Korea. We do not seek an excuse to garrison U.S. troops north of the Demilitarized Zone. We have no desire to inflict harm on the long-suffering North Korean people, who are distinct from the hostile regime in Pyongyang.

と述べていますが、これは、いわば米国が中国など国際社会との間で、コンセンサスを取ったものだと見ることもできます。参考までに私自身の文責による意訳も提示しておきましょう。

我々は平和的外交圧力を(北朝鮮に)加えているが、この目的はあくまでも朝鮮半島の非核化にある。米国としては北朝鮮の体制変革にも興味がないし、朝鮮半島の再統一の加速という意味合いも含まれていない。さらに、我々は米軍を非武装地帯に展開するつもりもない。我々は平壌の憎悪の体制の犠牲者として、長年苦しんでいる北朝鮮の人民にさらなる苦痛を与える意図を持っていない。

つまり、米国としては、

朝鮮半島全体の非核化が最終的な目的である

北朝鮮の体制変革や朝鮮半島統一には関心がない

と明言しているのです。

――↓本文は以下に続きます↓――

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中露との関係を見落とすな

機会を逃したのは米国自身である

先ほど紹介した、「ボルトン氏が米朝関係を変える」と述べたWSJ記事には、もう1つ、重要な視点が欠落しています。それは、中国との関係です。実は、マティス、ティラーソン両長官の寄稿文は、次の「環球時報」英語版(Global Times)に掲載された社説への返答という側面もあります。

Reckless game over the Korean Peninsula runs risk of real war(2017/8/10 23:23:40付 環球時報英語版より)

環球時報は、中国共産党の事実上の機関紙ですが、昨年8月の時点で、非常に重要なことを主張していました。その下りを抜粋すると、次のとおりです。

China should also make clear that if North Korea launches missiles that threaten US soil first and the US retaliates, China will stay neutral. If the US and South Korea carry out strikes and try to overthrow the North Korean regime and change the political pattern of the Korean Peninsula, China will prevent them from doing so.

私自身の意訳で恐縮ですが、仮訳は次のとおりです。

仮に北朝鮮が史上初めて米国の本土を脅かすミサイルを発射し、これに対して米国が報復した場合、中国は中立を維持するということを明らかにすべきであろう。仮に米国と南朝鮮が攻撃を実行し、北朝鮮の政府を打倒し、政治体制を変更しようとするならば、中国はこれを防ごうとするであろう。

要するに、北朝鮮が先制的な攻撃・挑発を行い、これに対して米国が反撃するならば、中国としては中立を保つよ、という宣言です。昨年8月の時点で、少なくとも米中間では、このようなコンセンサスが成立していたと見るべきでしょう。

しかし、米国はその後、北朝鮮攻撃に踏み切る貴重なチャンスを、みずからみすみす失いました。たとえば、この環球時報社説以降に限定してみても、北朝鮮は昨年9月に核実験を行いましたし、8月26日、29日、9月15日、11月29日にはミサイル発射を行っています。

これを「北朝鮮による挑発」あるいは「先制攻撃」と見て、クリスマス休暇で在韓米軍家族が朝鮮半島からいなくなる時期でもある12月18日の新月の日に、北朝鮮攻撃に踏み切るというチャンスがあったのです(詳しくは『12月18日が晴天ならば北朝鮮奇襲か?』参照)。

仮に、トランプ氏自身は北朝鮮攻撃に前向きだったのに、その北朝鮮攻撃を止めたのがティラーソン国務長官だったのだとしたら、こうした米国メディアの「トランプ氏とティラーソン氏の方針の違い」という説明は、たしかにしっくり来ると思います。

しかし、あくまでも米国のメディアの報道に接した感想ですが、ティラーソン氏の言動から考えて、果たして「ティラーソン氏が全力でトランプ氏の決断を止めた」と見るべきなのかといえば、非常に強い違和感が残ってしまうのです。

強硬方針はコンセンサスの取り直し?

ただし、私自身は1人の民間人であり、ホワイトハウスに直接の知り合いなどいません。このため、「米国が北朝鮮攻撃に踏み切らなかった理由」が、トランプ氏にあるのか、ティラーソン氏にあるのか、それともそれら以外のところにあるのかの事実認定には、とりあえず踏み込まないでおきたいと思います。

しかし、仮にWSJが主張する、「ポンペオ・ボルトン体制」下で米国の北朝鮮外交がより強硬になる、という見方が正しければ、1つ、非常に困った問題が出てきます。それは、「中国とのコンセンサスの取り直し」です。

ポンペオ「国務長官」とボルトン「大統領補佐官」が北朝鮮攻撃を主張するにしても、あくまでもこれは昨年8月の「米中往復書簡」の枠組みに従い、「単純に北朝鮮の非核化を達成するため」かつ「北朝鮮の挑発に対する制裁」として行うことが必要です。

しかし、北朝鮮の核・ミサイル実験は、昨年11月以来、途絶えています。もし、北朝鮮がこのまま核・ミサイル実験を1年程度、控えたならば、中国とのコンセンサス上、米国としては「北朝鮮からの挑発がない以上は北朝鮮攻撃に踏み切れない」ことになります。

そこで、「北朝鮮が核・ミサイル実験を行っていなかったとしても北朝鮮攻撃に踏み切る」ならば、中国とのコンセンサスを取り直す必要が出てくるかもしれません。

折しも、トランプ氏は鉄鋼・アルミニウムを巡る「貿易戦争」を、中国に対して仕掛けています(ちなみに、日本に対する「制裁」には、実効性は伴いません。これについては昨日の『【夕刊】トランプ政権の鉄鋼アルミ制裁を数値で検証する』をご参照ください)。

仮にトランプ氏が、最初から「貿易制限の解除」と「北朝鮮攻撃」を引き換えにするならば、トランプ氏はそれなりの策士だ、という評価もできます。しかし、少なくとも統計数値上は、鉄鋼・アルミニウムの「輸入制限」が中国に対する「カード」として機能するとは思えません。

ボルトン氏が「強硬派」?だからどうした

このように考えていけば、対北朝鮮強硬派であるポンペオ氏が国務長官に、ボルトン氏が大統領補佐官に就任したとして、米国の北朝鮮政策が劇的に変わるとも思えないのです。

いや、むしろ、米国はオバマ政権時代から、「日米韓3ヵ国連携」という枠組みで、一貫して「対話と圧力」という路線を継続して来ました。そして、あれだけメディアに「強硬派だ」と大騒ぎされてしまった以上、ボルトン氏が就任したことにより「路線が変わった」と受け止められると、とくに中国との関係で厄介です。

そういうわけで私は、ポンペオ・ボルトン新体制に移行したとしても、米国の対北朝鮮外交としては、今までの「最大限の圧力と核放棄を前提とした対話」しかあり得ず、また、北朝鮮攻撃も「北朝鮮の挑発に対する反撃」に留まるしかないと見ています。

――↓本文は以下に続きます↓――

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北朝鮮処分の3パターン

私が考える、米国による北朝鮮攻撃・処分には、3つのパターンがあり得ます。

1つ目は、ミサイル発射基地などに限定した攻撃です。あるいは、すべてのミサイル基地ではなく、本当に象徴的に、どこかの基地を1ヵ所だけ攻撃するという可能性もあります(いわゆる「鼻血作戦」)。この攻撃だと、米国がほぼ単独で決断できるため、実行可能性は非常に高いものです。

一方、2つ目は、北朝鮮の体制変革を伴うような全面攻撃(いわゆる「斬首作戦」)です。これは、米軍が北朝鮮に特殊部隊等を展開し、金正恩の身柄を拘束して、北朝鮮という体制自体を崩壊に導くものですが、中露のいずれか(あるいは双方)の介入を招く危険性がきわめて高い作戦でもあります。

そして、3つ目が、米中露3ヵ国が話し合い、金正恩体制の除去で合意する作戦です。この場合、金正恩一味に対し、亡命先を準備してやれば、金正恩らは喜んで北朝鮮という国を明け渡すでしょう(いわゆる「無血開城」)。

ただし、この1~3のシナリオのうち、あり得るのは(1)と(3)だけです。

なぜなら、(2)のような「全面戦争」については、米国は2003年のイラク戦争で酷い目に遭っているという事情もさることながら、必ず、中国、ロシアのいずれか(あるいは両方)が介入して来るため、作戦は失敗に終わると見られるためです。

北朝鮮という体制を本格的に除去したければ、米国は北朝鮮と国境を接する中国、ロシアの両国と「談合」し、たとえば北朝鮮を分割して中露双方の信託統治領としつつ、米軍は韓国から撤退する、といった「無血開城後の枠組み」を話し合わなければなりません(もちろん、あくまでも「たとえば」、ですが…)。

ただし、米中露3ヵ国が北朝鮮処分について話し合うとなったら、その瞬間、北朝鮮には勝ち目がなくなるため、わざわざ戦争をする必要もなくなります。金正恩一味に、スイスあたりに亡命先を準備してやって、そこに逃がし、数年後にロシア得意の「ポロニウム」かなにかで始末すれば良い話でしょう。

いずれにせよ、4月の日米首脳会談で安倍総理がトランプ氏を「どう締めるか」には注目したいと思います。

※本文は以上です。

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    【夕刊】米韓同盟終焉を見据え、国防予算増だけで済ますな (1コメント)
  • 2018/06/27 10:00 【時事|国内政治
    「アベ政治を許さない」?許されないのはむしろあなた方だ! (5コメント)
  • 2018/06/27 00:00 【時事|外交
    産経・田北氏の安倍政権外交論を捏造・歪曲する中央日報
  • 2018/06/26 11:00 【時事|国内政治
    【昼刊】共産党・小池氏「新聞読めば自民不支持」 (7コメント)
  • 2018/06/26 07:00 【時事|経済全般
    サッカーW杯:日本のフェアプレイの精神はビジネスに通じる (3コメント)
  • 2018/06/26 00:00 【時事|外交
    「北朝鮮制裁継続」のトランプ政権、目的は対中封じ込め? (2コメント)
  • 2018/06/25 17:00 【時事|雑感オピニオン
    【夕刊】「日本憎し」も良いのですが… (5コメント)
  • 2018/06/25 11:30 【時事|国内政治
    【昼刊】国民民主党、政党支持率ゼロ%の衝撃
  • 2018/06/25 07:00 【雑感オピニオン
    開設22ヵ月で月間16万PV、「三方よし」の記事 (10コメント)
  • 2018/06/25 00:00 【マスメディア論|時事
    毎日新聞の「軌道修正」と「もりかけ問題」の限界 (2コメント)
  • 2018/06/24 12:00 【マスメディア論|時事
    【夕刊】朝日新聞記者、ウェブ広告のトラップにかかる? (3コメント)
  • 2018/06/24 00:00 【時事|外交
    北朝鮮核問題、「日米両国が裏で役割分担」という仮説 (6コメント)
  • 2018/06/23 12:00 【雑感オピニオン
    【夕刊】快便アドバイザーからの怪コメントとの戦い (2コメント)
  • 2018/06/23 00:00 【時事|外交
    北朝鮮を崩壊させるための人道支援はいかが? (7コメント)
  • 2018/06/22 16:00 【経済全般
    【夕刊】NHKが潰すワンセグ携帯 (6コメント)
  • 2018/06/22 10:45 【時事|金融
    【昼刊】韓国で「トリプル安」は発生するのか? (1コメント)
  • 2018/06/22 07:00 【マスメディア論
    押し紙、再販、記者クラブ。今に通じる過去の議論 (1コメント)
  • 2018/06/22 00:00 【時事|韓国崩壊|外交
    日本は北朝鮮復興に関してはむしろ「蚊帳の外」を目指せ (4コメント)
  • 2018/06/21 15:00 【政治
    【夕刊】既得権にまみれたNHKと「NHKの映らないテレビ」 (12コメント)

  • 著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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