「粉飾決算」という言葉があります。これは、「儲かってもいないくせに儲かっているかのごとく決算書を発表する行為」であり、上場会社がこれをやれば金融商品取引法違反であり、犯罪です。ところが、重要な統計でウソをついている国が、地球上には少なくとも3ヵ国、存在します。本日は、「公表されている資料」だけを手掛かりに、「ウソつき3ヵ国」について眺めておきましょう。

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    粉飾決算、企業がやると犯罪だが…

    最近、某電機大手メーカーが「不適切な会計」を行っていたとして、強い社会的な批判を浴びています。私も当事者ではない以上、報道ベースでしか事情を知らないのですが、問題の核心は米国の子会社にあるらしく、先日、同社グループは問題の子会社に対について、連邦破産法(§11)の適用を申請する方針であると伝えられています。

    ただ、企業レベルでの粉飾決算については厳しく批判されるのに、国家レベルになると、明らかに怪しい統計が放置されています。私が現在、最も問題だと思っているのは、明らかにウソをついている国があることです。

    ドイツは大丈夫?

    2008年の金融危機とIFRS9

    知られると不都合な事実とは、こういうことをいうのでしょうか?

    2008年9月、米国の大手投資銀行の一角を占める「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻しました。これにより、世界中の店頭デリバティブ市場は凍結。「カウンターパーティ・リスク」が強く意識されるというきっかけになりました。

    これを受けて、「G20」諸国は「銀行自己資本比率規制」(いわゆるバーゼル規制)を改訂。さらには2009年9月のピッツバーグ・サミットでデリバティブに関する清算集中規制と取引情報集積規制、2011年11月のカンヌ・サミットでは「清算集中されないデリバティブ取引」に対する証拠金規制(いわゆるマージン規制)を導入するなど、デリバティブ規制は大幅に強化されています。

    国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)は店頭デリバティブ契約の雛形(ISDAプロトコル)を改訂。さらに担保契約書(CSA)についても「デイリー・マージン」(日々の値洗い)を前提とするなど、世界的な規制改革が進行しています。

    ただ、不思議なことに、リーマン・ショックは「震源地」である米国よりも、むしろ証券化商品への投資を積極化させていた欧州に深刻な打撃を与えました。そして、このままでは欧州系金融機関の決算ができないとの懸念から、国際的な会計基準を策定する団体「国際会計基準審議会」(IASB)が金融商品会計基準である「IAS39」を突如として改定。これにより、銀行等が保有する、時価が暴落した不良資産を「塩漬け」にすることを容認しました。

    英フィナンシャル・タイムス(FT)は2008年10月31日付の記事で、ある欧州系金融機関(※といってもタイトルでばれてしまいますが…)が、会計基準の変更により、最大250億ユーロ(当時の為替相場で324億ドル相当額)の損失計上を免れたと報じられています。

    Accounting changes aid Deutsche Bank profits(英国時間2008/10/31(金)付FTオンラインより)

    それだけではありません。IASBはその後、2009年11月には「IFRS9」という、「粉飾決算」に悪用されかねない、史上最悪レベルの会計基準を公表。欧州連合(EU)当局からしばしば突っ返されるという醜態をさらしました。

    こうした事件があったことからも、私は、IFRSにより作成されている欧州系金融機関の決算書については一切信頼できないと考えています。

    BISは「欧州のリスク・アセット」を問題視

    ところで、「バーゼル規制」とは、銀行等の金融機関に対して、一定比率以上の自己資本比率を備えることなどを義務付ける「健全性ルール」です。計算式は

    自己資本比率=自己資本÷信用リスク・アセット等

    です。そして、自己資本比率を高めようと思えば、自己資本を増やすか、リスク・アセットを減らすか、そのいずれかしかありません。

    ところが、欧州系の金融機関が、この「リスク・アセット」の金額を過小に見積もっているとの疑惑が、以前から出ています。

    バーゼル規制上の「信用リスク・アセット」の計算方式には「標準的手法(SA)」と「内部格付手法(IRB)」がありますが、このうち、高度なリスク管理を行っている銀行が採用する手法がIRBです。これについて「バーゼル規制」を策定している「バーゼル銀行監督委員会(BCBS)」が日本、米国、欧州の金融機関に対して行った調査(2013年7月公表)によると、欧州の金融機関は最大で自己資本比率を2%以上嵩上げしている可能性があることがわかっています。

    Regulatory Consistency Assessment Programme (RCAP) – Analysis of risk-weighted assets for credit risk in the banking book(2013年7月付 BCBSウェブサイトより)

    リンク先記事のP8によれば、欧州の中で最も酷い銀行は、2.2%程度、自己資本比率を嵩上げしていることが示唆されます。いわば、PD(倒産確率)、LGD(倒産時損失)など、IRBを適用するうえでのパラメーターを不当にいじって、リスク・アセットを抑制しているのではないかとの疑念が消えないのです。

    なお、この資料はBCBSが公表しているものであり、どなたにでも読めます(※ただし英語ですが)。

    ドイツ政府に銀行救済はできない?

    ここでもう一つ、重要な事実があります。ドイツを含めた欧州諸国では、銀行が経営難に陥ったとしても、政府が銀行を救済することは難しい、ということです。

    例えば日本の場合、1990年代には「住専問題」に端を発する金融機関の経営危機が表面化。大手都市銀行は合併を余儀なくされ、いくつかの銀行には公的資金が注入され、中には経営者が刑事訴追されるなどしたケースもありました。当然、銀行再編の過程で、多くの融資先企業なども、経営再編に加え、民事再生法や会社更生法の適用申請を余儀なくされました。

    ただ、日本の場合は、「国際的な支援を全く受けずに、自力で金融危機を乗り切った」のです。

    これに対して、2008年以降の欧州金融危機では、多くの国が国際社会からの救済を余儀なくされました(図表1)。

    図表1 日本と欧州の金融危機の比較
    経緯 結論
    日本 1990年代の住専危機や長信銀の経営破綻、2000年代の不良債権問題などが相次いで噴出した 最終的にはいくつかの金融機関グループの経営破綻も経て、外国の支援なしに日本は自力で解決した
    アイスランド 英国などの外国人から預かった預金を外債投資などに投資するというシンプルなビジネスモデルで巨額の預金を集めたものの、2008年に国内3つの銀行が相次いで経営危機に陥った GDPの数倍という巨額の債務を抱え、自国で金融機関の経営破綻処理をすることができず、最終的にはIMFなどの国際社会からの支援を受けた
    アイルランド 国内の銀行の経営危機を受け、2009年にアイルランド政府が資本注入を行おうとした 同国はユーロ加盟国でもあり、単独での資本注入ができず、EU、ECB、IMF(トロイカ)からの支援を受けた
    スペイン 国内の貯蓄銀行(カーハ)が巨額の住宅ローンの焦げ付きを抱え、相次いで経営危機に陥った 2012年に国際社会からの支援を受けながら、カーハを7行に集約する経営再編を行った
    キプロス ロシアなどからの「オフショア預金先」として人気があったが、大手銀行の預金の払い戻しができなくなった 2013年に国際社会からの支援を受けながら、預金の払い戻しを凍結するなどした

    ここでよくわかるのは、2000年代の金融危機は大部分が欧州に集中している、ということです。特に、アイスランドを除けば、いずれの国も危機が表面化した時点でユーロ圏に属していたという共通点があります。

    欧州といえば「先進国」というイメージがありますが、その「先進国」であるはずの欧州に、ここまで危機が集中する理由は何でしょうか?

    その最大の理由は、ユーロという通貨の構造的な欠陥にあります。たとえば、ある国において政府が一時的に巨額の財政支出を余儀なくされるとき、一般的には特別法により国債などを発行して対応するはずです。しかし、ユーロ圏の場合、中央銀行である欧州中央銀行(ECB)がどこの国にも属していないため、たとえ中央政府であっても、「ECBに命じて国債を引き受けさせる」ということができないのです。

    ECBには、財政赤字を極端に嫌うドイツのDNAが色濃く反映されています。現状では、イタリア人のドラギ総裁がなんとかユーロ圏危機を表面上は抑え込んでいる状態ではありますが、「財政政策と金融政策の一体的な運用ができない」というユーロ圏特有の問題点は解消していません。

    こうした状況で、ドイツで銀行の経営危機が表面化してしまうと、果たしてどうなるのでしょうか?

    おそらく、ドイツ政府には銀行救済などできません。怖いのは、欧州で金融機関が不良債権をしこたま抱え込んでいる状態が長引いている中、ドイツ政府が問題の先送りを続けていることではないかと思います。

    外貨準備を粉飾する中韓両国

    もう一つ、「国家レベルの粉飾決算」という観点から、私が興味を持っているテーマは、中国と韓国の外貨準備高統計です。

    世界の外貨準備高の6割は米ドル建て

    国際通貨基金(IMF)の統計によると、世界全体の外貨準備高は約12兆米ドルですが、このうち通貨構成別の内訳が明らかになっているのは全体の63%程度です。

    図表2 世界の外貨準備統計・通貨別金額構成(金額単位:十億ドル)
    通貨 2016年9月末 ①に対する構成比率
    米ドル 4,934.42 63.28%
    ユーロ 1,581.98 20.29%
    英ポンド 350.83 4.5%
    日本円 349.70 4.5%
    加ドル 156.30 2.0%
    豪ドル 151.33 1.9%
    スイス・フラン 15.86 0.2%
    その他 257.43 3.3%
    小計(①) 7,797.85 100%
    内訳不明(②) 3,211.37
    合計(①+②) 11,900.22

    (【出所】国際通貨基金)

    ただ、アジア諸国の場合はユーロ圏などから離れているという事情もあるため、中国や韓国の外貨準備高の多くも、この比率からは大きく変わらないでしょう。むしろ、米ドル建ての外貨準備高の方が多いと想定されます。

    どう考えても合わない!外貨準備高

    ところで、国際通貨基金のウェブサイトによると、中韓の外貨準備高は、中国が約3兆ドル少々、韓国が3740億ドル程度ですが、このうち中国は3兆ドル弱、韓国は3385億ドル少々を外貨建ての有価証券で保有していることになっています。ところで、図表2から判断する限り、中韓両国も、少なくとも6~7割は米ドル建てで資産を保有しているはずであり、これを展開すると、図表3のようになるはずです。

    図表3 外貨準備高(2017年1月時点、金額単位:百万ドル)
    区分 中国 韓国
    公式外貨準備高 3,089,558 374,036
    うち有価証券① 2,979,880 338,492
    ①×70% 2,085,916 236,944

    (【出所】国際通貨基金)

    つまり、中国は2兆ドル少々、韓国は2369億ドルの有価証券を保有しているはずなのです。ところが、米国の財務省が公表する「財務省国際収支統計(Treasury International Capital, TIC)」によれば、2017年1月時点で各国が保有する米国債の金額は図表4の通りです。

    図表4 国別米国債保有残高(金額単位:十億ドル)
    順位 金額
    日本 1,103
    中国 1,051
    アイルランド 294
    ブラジル 258
    ケイマン諸島 257
    スイス 226
    ルクセンブルク 219
    英国 214
    香港 189
    10 台湾 184
    11 インド 114
    12 サウジアラビア 112
    13 ベルギー 112
    14 シンガポール 103
    15 韓国 96

    (【出所】米国財務省「TICウェブサイト」)

    つまり、中国の場合は1兆ドル少々、韓国の場合は1400億ドル程度、外貨準備が「行方不明」になっているのです(図表5)。

    図表5 中韓の外貨準備高の「行方不明額」
    ①×70%(A) 米国債残高(B) A-B
    中国 2,085,916 1,051,000 1,034,916
    韓国 236,944 96,000 140,944

    (【出所】著者作成)

    私は、この中韓両国の外貨準備高については、かなりの額が「嵩上げ」されていると考えています。「単純計算して辻褄が合わない額」が、中国の場合は1兆ドル、韓国の場合は1410億ドルです。

    「報道を疑え」?

    以上、私が現時点で気付いている、世界の「怪しい統計」について、簡単に事実関係を列挙してみました。

    ここまで読んでいただいた方はお気付きかもしれませんが、私はここまで、一切「秘密情報」を記載していません。どれも、公表物だけで読み取れる事実ばかりです。

    もちろん、公表されている統計自体が誤っている可能性もありますし、統計は目的も異なるうえに、正確ではない部分もあります。ただ、自然に考えて、

    • ドイツを中心とする欧州の金融機関は、損失を隠している可能性が高く、仮にドイツで金融危機が発生した場合、ドイツ政府にそれを救済する能力はない。
    • 中国は1兆ドルほど、韓国は1400億ドルほど、外貨準備高を嵩上げしている可能性がある。

    とする私自身の仮説は、中央銀行等の公表する統計を読み解いていけば、自然に導き出せるものです。私は報道機関の報道の意義について否定するつもりはありませんが、マス・メディアの報道を読んでいると、どうも表面しかなぞっていない記事が多いようにも思えるのが強い不満でもあるのです。

    いずれにせよ、私は「金融規制の専門家」という立場を通じて、これらの統計データの研究を進めていくつもりです。どうか今後も当ウェブサイトのコンテンツにはご期待ください。

    ※本文は以上です。

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    著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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