「自由主義経済」を勘違いしている人がいます。「自由主義経済」とは、「法の許す範囲で好きに経済活動をしても良い」という意味であり、「法律を破って金儲けをしても良い」、という意味ではありません。本日は、「自由主義とは何か?」を考えるうえで、非常に興味深い記事を紹介してみたいと思います。

※本文はお知らせの後に続きます。

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    既存メディアのレベル低下

    私は、「アメブロ」や「楽天ブログ」などのプラットフォームを使い、2010年から、個人としての情報発信を続けています。そして、2016年7月には、「独立系ビジネス評論サイト」と題して、こちらの「新宿会計士の政治経済評論」を開始。「金融規制専門の会計士」の知見と、「現役ビジネスマン」としての感覚から、さまざまな問題を議論して来ました。

    学生のころ、国語や小論文の授業で、「論文を書くのには説得力や論理性が大切だ」と習った方も多いでしょう。実際、文章の中で論理性が皆無だと、読む方としても非常に苦労しますし、いかに理論的に書かれた文章であっても、説得力のない、独り善がりの文章には共感できません。そもそも、他人に読ませる文章を書く目的は、「誰かに何かを伝えるため」であり、読んでもらう相手のことを考えずに「自分の思い込みを書き殴る」のはよくないことです。

    ただ、自分自身で情報を発信するようになって気付いた点がもう一つあります。それは、他人が書いた記事を読む場合には、文章の読み手の側にも論理性が求められる、ということです。文章の書き手がどんなに正確に書いたとしても、読み手側が思い込みで勘違いしてしまえば、文章は正しく伝わらないからです。こうしたリスクを回避するためには、書き手は難しい言い回しを避け、噛み砕いた表現をすることが必要です。

    しかし、新聞や雑誌の記事を読んでいると、「読み手の水準に合わせて文章の水準を落とす」ことが行き過ぎる場合もあるようです。酷い記事だと、「表現のレベルだけでなく記事のクオリティ自体が低い」と感じるものすらあります。もしかして、新聞や雑誌の記者には、「一般人は無知蒙昧(むちもうまい)だ」という思い上がりでもあるのでしょうか?

    もちろん、私も「できるだけわかりやすく文章を書く」ことは大事だと思います。しかし、記事の表現をわかりやすくするのと、記事のクオリティを下げるのは、本来、話が別です。そんなことを痛感する記事を、人気ウェブサイト『日経ビジネスオンライン』に発見しました。

    ブラック企業の自由主義論

    問題の記事は、これです。

    佐川だけじゃない。運送会社の「駐禁地獄」/94人の運転手を抱える運送会社が年49回の駐車違反も(2017年3月22日付 日経ビジネスオンラインより)

    この記事は冒頭に

    佐川急便では、2016年度、駐車違反の身代わり出頭事件で106人の従業員が立件された。94人の運送会社で年49回の駐車違反の取り締まりを受けたケースもある。法令順守と現実の配送業務の狭間で、運送会社は苦しんでいる。

    とあります。はたしてどのような記事でしょうか?

    執筆していて違和感はないのか?

    記事の主張内容を、私自身の文責で簡単に列挙してみましょう。

    • 多くの運送会社が営業用トラックの駐車違反について悩んでいる
    • 94人の運転手と100台ほどのトラックを抱える、酒類の集配を担うワタコー(東京・葛飾)は、2006年度以降、駐車違反の件数が増え、多い年では49件の駐車違反を受けており、年間100万円以上の罰金負担を余儀なくされている格好だ
    • 渡邊直人社長は「1度の違反で1日の運賃がほぼ飛んでしまう。経営の大きな負担になっている」と話す
    • 東京都トラック協会が会員各社を対象に実施したアンケートでは、2014年に駐車違反の取り締まりを受けた企業は825社で、回答のあった企業の約半数だった
    • 東京都トラック協会は「日常の集配業務に大きな支障を来す状態が続いている」として、東京都議会や警視庁などに営業用トラックに対する駐車規制の見直し、緩和を訴えている

    この記事を執筆したのは日経ビジネスの大西孝弘記者だそうです。少々厳しい言い方をさせていただくと、大西記者はこの記事を執筆して、ご自身で違和感を抱かなかったのでしょうか?なぜなら、この記事にはツッコミどころが大量にあるからです。

    記事中の事実誤認

    まず、記事に事実誤認があります。

    「年間100万円以上の罰金負担」の下りは、正確に表現すれば駐車違反の反則金のことだと思いますが、警視庁のウェブサイトを参考に、反則金の金額を引用してみましょう(図表1)。

    図表1 反則金一覧(時間制駐車区間以外の場合)
    区分 大型車 普通車
    駐停車禁止場所での放置 25,000円 18,000円
    駐停車禁止場所での放置(方法違反等) 21,000円 15,000円
    駐停車禁止場所での非放置 15,000円 12,000円
    駐停車禁止場所での非放置(方法違反等) 12,000円 10,000円

    このうち「放置」と「非放置」の違いは、「直ちに車両を動かすことができるかどうか」という違いだそうです。日経ビジネスの記事に

    道路交通法では運転手がそのクルマを離れていて、直ちに運転できない状態にあるものを放置車両とし、駐車違反の対象としている。/同乗者が運転できる体制でいれば違反にはならないが、2人の配送体制にすれば人件費が2倍になってしまう

    とするありますが、この下りは正しくありません。「同乗者が運転できる体制なら違反にならない」という部分は大間違いで、非放置であった場合でも、そもそも「駐停車禁止場所」に「駐停車」すること自体が交通違反です。罰金の額が違うだけで、「運転手がいてすぐに動かせる状態にあれば違反にならない」、という訳ではありません。そもそも取材不足(というか事実誤認)です。

    強い違和感

    ただ、私がこの記事に着目する理由は、大西記者の取材不足による事実誤認だけではありません。記事の中に、「1度の(駐車)違反で1日の運賃がほぼ飛んでしまう」とあるからです。

    はて、「たった1度の駐車違反で丸々吹き飛んでしまうほどの運賃」が、ビジネスとして果たして適正なのでしょうか?私がこの記事を読んで抱いたもう一つの違和感は、そこかしこから漂ってくる「ブラック企業臭」です。記事で紹介されている会社は、

    • 1日の運賃は1度の駐車違反の金額(12,000~25,000円)とほぼ等しい
    • 年間50件近い駐車違反が摘発される場合もある

    ということです。所属するトラック運転手の2人に1人が、年1回、摘発されている計算です。何か非常に不自然なものを感じます。そこで、記事をもう少し深く読んでみると、次の記述があります(番号は引用者が便宜的に付したもの)。

    1. 同社は東京の銀座、赤坂、六本木の酒屋や飲食店に酒類を配送している。いずれも繁華街のど真ん中に立地しており、駐車スペースがほとんどない。
    2. 飲食店に酒類を運んでいる間に、駐車監視員によって、配送トラックに駐車違反のステッカーを貼られることが多い。同じルートを回っているため、狙い撃ちされるケースもあるという。
    3. 例えば銀座でのこと。トラックから降りて、ビルの中の飲食店に酒類を届けるためにエレベーターに乗り、外を見た時にトラックに近づく駐車監視員の姿を確認。慌てて戻ったものの、駐車違反を回避することはできなかった。
    4. 1日40~50件を回るため、1件ずつ配送先から離れた駐車場に停めるのは業務効率や採算性を考えると現実的ではないという。

    あたかも同社が「不条理な違反取締の被害者」であるかのような記事ですが、常識的に確認してみましょう。

    実態は単なるブラック企業

    まず、文章(1)です。

    「東京の銀座、赤坂、六本木には駐車スペースがほとんどない」。

    果たしてこれは事実でしょうか?「グーグル・マップ」の機能を使い、「縮尺25万分の1」という同一条件で表示される駐車場の数を数えてみると、図表2の通りでした。

    図表2 東京の繁華街の駐車場数
    場所 件数
    赤坂 21件
    銀座 19件
    六本木 20件
    新宿 19件
    渋谷 20件

    (【出所】グーグル・マップ。ただし件数は場所を入力し、縮尺を約25万分の1に設定して検索)

    つまり、私が目視で確認したところ、記事で列挙されている銀座、赤坂、六本木に関していえば、新宿、渋谷と比べて「駐車場が非常に少ない」という事実は全く確認できませんでした。繁華街であれば、自動車でやってくる人もいるはずであり、駐車場がビジネスとして成り立つはずです。さらに、常識的に考えて、繁華街には駐車場だけでなく、道路には荷捌き場や駐停車可能な場所なども多数設けられているはずであり、「銀座と赤坂と六本木に駐車スペースがほとんどない」という下りは、捏造ではないでしょうか?もし大西記者様がこの私の記事を読んでいらしたら、是非、その根拠となった数字を教えて欲しいと思います。

    次に文章(2)です。

    「飲食店に酒類を運んでいる間に、駐車監視員によって、配送トラックに駐車違反のステッカーを貼られることが多」く、「同じルートを回っているため、狙い撃ちされるケースもある」とのことですが、それは「駐車監視員が陰湿」だからではなく、毎回のように駐車違反を行っているという証拠ではないでしょうか?

    さらに文章(3)に至っては、まったくもって意味不明です。「外を見た時にトラックに近づく駐車監視員の姿を確認」し「慌てて戻った」が、「駐車違反を回避することはできなかった」。当たり前です。違法駐車をしている時点で、それは放置車両です。また、放置車両ではなくても、そもそも駐停車禁止場所に中停車すること自体が犯罪です。万引きをして、店員さんに見つかって、慌てて売り場に戻って商品を戻したとしても、罪が消えるわけではないのと全く同じでしょう。

    そもそも運賃が適正ではない

    そして、文章(4)に、全ての問題が凝縮されています。

    「駐車場に停めるのは業務効率や採算性を考えると現実的ではない」。この文章だけで判断するかぎり、この会社は、違法駐車という犯罪行為を行うことを前提にした運賃しか取っていない、ということです。はっきり言って自業自得でしょう。

    駐車場に停めるだけの駐車料金も払わず、法律を無視して駐停車禁止場所に停めることを前提とした料金体系だ、ということです。おそらく、適法に運営していた運送業者も、コストが合わなくなり、経済競争の末に潰されたのではないでしょうか?これを、専門用語で「ダンピング」と呼びます。

    自由主義の本質とは?

    日経ビジネスオンラインの「前科」

    さて、私はこの日経ビジネスオンラインの記事を読んで、どうも日経ビジネスの記者さんが、「自由競争」を勘違いしているのではないかとの思いを、改めて強くしました。というのも、日経ビジネスオンラインには「前科」があるからです。

    「民泊」解禁どころか後退へ、経産省の不作為/シェアリングエコノミー後進国に忍び寄る圧力(2017年2月28日付 日経ビジネスオンラインより)

    リンク先の記事は、先ほどの記事と同じく、日経ビジネスの記者が執筆したものです。執筆者は井上理記者で、先ほどの「違法駐車」の大西孝弘記者とほぼ同年代の方のようです。井上記者の記事のどこがおかしいかについては、『民泊を巡る議論の整理』『違法民泊の実態調査』の中で触れたので、ここでは繰り返しません。

    ただ、この2つの記事を読む限り、私は「自由主義の本質」について、改めて警鐘を鳴らしておく必要があると考えます。

    自由主義の前提はルールを守ること

    一番重要な点は、「自由主義社会とは、ルールを守ることを前提とする社会である」、という点です。決して「何をやっても良い社会ではない」、という点です。この点をはき違えてはなりません。

    たとえば、有害物質を垂れ流す工場があったとします。この工場の周囲では、原因不明の病気が蔓延していましたが、やがて科学的に原因を突き止めると、この工場の有害物質が問題だったと判ったとしましょう。当然、規制当局はこの有害物質を除去するように工場に命令すべきですし、また、工場に対して有害物質を除去することを義務付ける法律を作るべきでしょう。

    実際、日本の場合は高度経済成長期に「4大公害事件」などとして知られる問題に発展したことがありますが、幸いなことに、日本では工場に対し、汚染を除去する装置などが義務付けられており、現在の日本で公害が大々的に問題となることはありません。

    ところが、こうした除染装置は費用も高くなることがあります。そこで、業者の中には「ズル」をして、除染装置を稼働させずに製品を生産すれば、コストは安くなります。そうなれば、病気が再び蔓延し始めます。そのとき、工場長が

    大前提として有害物質による公害を減らすことには協力したい。しかし、製造コストを抑えながら製品を製造するという業務内容からして、現実的には抜本的な対策を取るのが難しい

    などと語ったら、どうなるでしょうか?おそらく、大部分の国民は納得しないでしょう。

    「違法行為を容認して欲しい」という虫の良い願い

    そのうえで、先ほどの日経ビジネスオンラインのインタビュー記事を、もう一度読んで下さい。

    大前提として駐車違反による交通事故を減らすことには協力したい。しかし、繁華街に酒類を届けるという業務内容からして、現実的には抜本的な対策を取るのが難しい

    いかがでしょうか?この下りだけを読むと、大西記者がインタビューをした相手が、いかに社会通念・常識からかけ離れた発言をしているか、お分かり頂けると思います。

    この会社の配送トラックが違法駐車することで、交通事故が多発しているということは、この会社の業務フローは、もはや明らかな反社会的行為です。違法行為を容認して欲しいという一部業者の虫の良い願いを聞き届けていたら、社会は回らなくなります。

    外国人研修生による3K労働、ダンピング…、全ては同じだ!

    同様に、日本では若者が集まり辛い職種である、いわゆる「3K労働」に、外国人を「研修生」という名目で酷使している事例もあります(余談ですが、Kには、きつい、きたない、くさい、給料安い、苦しいなどの形容詞が入るようですが、正確な「3つのK」については私も存じ上げません)。しかし、これも外国人の単純労働を禁じた就労ビザ規制の潜脱行為のようなものでしょう。

    さらに、日本だと環境基準が厳しいため、環境基準が緩い国(たとえば中国)に進出して、そこで安値で製品を作らせる、ということが流行りました。2012年の反日デモの直後に日本企業が中国から一斉に離れ始めたことは事実ですが、日本貿易振興機構(JETRO)のアンケート調査によると、その本当の理由とは、中国の「反日リスク」というよりは、むしろ「人件費の上昇」なのだそうです。

    しかし、せっかく日本国内に適正なルールを設けているのに、そうしたルールを設けていない外国に進出した日本企業が、日本国外であるという理由でルールを無視することは看過できません。違法なことをしても儲かればよい、というのであれば、産業が日本から流出するだけでなく、外国で違法に作られた安価な製品が大量に日本に流れ込み、日本の産業を潰すという効果まで生じるからです。

    必要なのは規制緩和ではなく規制適正化

    本日のマトメです。

    今の日本に必要なのは、無条件の規制緩和ではなく、規制の適正化です。

    もちろん、時代が変われば規制の在り方も変わって来ます。たとえば、一昔前だと、テレビ放送には多大な設備投資が必要でしたし、事実上の参入規制が存在していたことを考えると、「放送法」のような法律で、テレビ局には偏向報道をさせないような規制を設けることが必要でした(日本のテレビ局はこれらの規制を全く守っていませんが…)。しかし、インターネットというテクノロジーの進歩により、極端な話、私のような人間でも、ビデオカメラとマイクとPCとインターネット回線があれば、動画サイトで気軽に動画配信をすることができてしまいます。また、政府がインターネットTVという仕組みを作った以上、NHKという「国民から事実上の血税をむしり取る組織」は必要ありません。NHKは直ちに廃止か民営化すべきでしょう。

    その意味で、時代錯誤で意味のない規制は撤廃すべきです。

    ただ、その一方で、本日紹介した日経ビジネスオンラインの「違法駐車を認めろ」、「違法民泊を認めろ」といった主張には、私には1ミリたりとも同意できません。なぜ違法駐車が認められないかといえば、それは交通事故を防ぐために必要だからであり、また、なぜ違法民泊が認められないかといえば、社会の衛生や治安を維持するために必要だからです。

    日経ビジネスオンラインには日本経済新聞社の鈴置高史編集委員の『早読み深読み朝鮮半島』シリーズや、ジャーナリストの福島香織氏の『中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス』のような優れた人気コラムもあるだけに、私の中では非常に信頼しているウェブサイトではあるのですが、それと同時に本日紹介したような、なんとも呆れる記事も掲載されます。その意味で、現代社会においては、あるメディアに全幅の信頼を置くのではなく、個別個別の記事を読み手がきちんと評価しなければならないことは間違いないでしょう。

    ※本文は以上です。

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