本日も日本銀行の最新の資金循環統計について触れます。特にわかり辛いのが「政府部門の債務」に関する議論ですが、先日も日本経済新聞あたりが「国の借金」という誤報(というか捏造報道)をしたばかりであり、金融規制の専門家を自称する私としても、こうしたいい加減な記事を看過するわけにはいきません。本日は「統計を客観的で正確に引用すること」に力点を置きつつ、国債の償還に関する議論を行ってみたいと思います。

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    ここからが本文です。

    資金循環統計を読む

    日本銀行が四半期に一度公表する、「資金の流れから見た日本経済」を確認する最も基礎的な資料があります。それが「資金循環統計」です。

    昨日は『減税こそ日本に必要』の中で、家計金融資産・負債の状況を分析してみましたが、本日は政府債務の状況を分析してみたいと思います。

    減少に転じた日本国債発行残高

    意外と知られていない話ですが、「国債発行残高」と「政府債務残高」は一致しません。

    まず、「政府債務残高」とは、日本国政府自身が借りている債務の残高であり、これに対して「国債」には、「財政投融資基金」が発行している「財融債」が含まれているからです。この「財政投融資基金」が発行している国債などの残高は、不思議なことに、「政府債務残高」にはカウントされていません。

    また、国債にも、大きく分けて「普通国債」と「短期割引国債(TDB)」の二種類があり、それぞれ別途計上されています。つまり、

    • 政府勘定で発行する普通国債
    • 政府勘定で発行するTDB
    • 財政投融資基金勘定で発行する財融債

    の3種類が、広い意味での国債です。そのことを踏まえたうえで、国債の発行残高の推移を確認しておきましょう(図表1)。

    図表1 国債の発行残高(金額単位:億円)
    区分 2016年12月末 2016年9月末 増減 増減率
    国債 8,540,455 8,675,496 -135,041 -1.56%
    TDB 1,174,262 1,198,918 -24,656 -2.06%
    財融債 1,040,355 1,036,996 3,359 0.32%
    合計 10,755,072 10,911,410 -156,338 -1.43%

    「国債の発行残高は2016年12月末時点で1075.5兆円である」。これが、日本銀行統計上確認できる、「国債の正確な発行残高」です。また、これをグラフでも確認しておきましょう(図表2)。

    図表2 国債の発行残高の推移

    統計が存在する1997年12月以降、国債の発行残高は、ほぼ一貫して増え続けてきました。しかし、遂に2016年12月末時点で国債の発行残高が減少に転じました。

    どうしてメディアがこのことを大きく報じないのか、私には不思議でなりませんが、とにかく客観的事実として、国債の発行残高が3か月前と比べて15.6兆円減少したということは指摘しておきたいと思います。

    莫大な国債を何に使っているのか?

    では、政府はこれらの莫大な国債を、いったい何に使っているのでしょうか?

    そこで重要なのが「バランスシート」の考え方です。政府がお金を借りていることは事実ですが、実は、政府は莫大な金融資産も抱えているからです。そこで、政府が保有する資産、政府が負っている債務を並べて、「金融商品のみのバランス」を作成してみましょう(図表3)。

    図表3 中央政府と財政投資基金の合算バランスシート(2016年12月末時点)
    区分 勘定科目 金額(億円)
    金融資産 現金・預金 381,780
    株式等 412,418
    貸出 1,383,944
    対外証券投資 1,171,982
    その他の金融資産 234,177
    金融資産 合計(①) 3,584,301
    金融負債 国債・財融債・TDB 10,755,072
    借入金 544,324
    その他の金融負債 681,735
    金融負債 合計(②) 11,981,131
    金融資産・負債差額(①-②) ▲8,396,830

    (【出所】資金循環統計)

    つまり、政府は1200兆円弱(②)という莫大な借金を負っている一方で、現金・預金や株式、貸出、対外証券投資(外貨準備?)などの資産も抱えており、その金額は358兆円(①)に達しています。そして、この「金融資産・負債差額」(①-②)の「マイナス840兆円」こそが、「政府部門の純債務」なのです。

    資金循環統計のもう一つの特徴

    それから、もう一つ重要な特徴があります。それは、この「資金循環統計」に計上されるのは、あくまでも「金融資産のみである」、という点です。

    大阪の「学校法人森友学園」が設立を予定している小学校の建設用地の「払い下げ疑惑」で有名になりましたが、日本国政府は日本全国に、莫大な国有地を保有しています。しかし、これらの国有地は、いずれもこの「資金循環統計」には計上されていません。

    さらに、全国各地の道路設備や役所の建物、あるいは図書館や公民館といった公共施設も、この「資金循環統計」には上がって来ません。ということは、実質的な政府の資産は、図表3に示した金額(約358兆円)よりも多く、「政府部門の純債務」はマイナス840兆円よりもさらに少ないと見るべきでしょう。

    「国の借金」など存在しない

    ところが、以上までの議論にも関わらず、相変わらず日本経済新聞を初めとするメディアは、「正確ではない情報」を平気で流しているようです。

    「国の借金」って何だ?

    経済ニュースを読んでいると、ときどき、「国の借金」という表現を目にすることがあります。

    国の借金、過去最高の1066兆円 16年末(2017/2/10 20:42付 日本経済新聞 電子版より)

    日経によると、「国の借金」とは、国債と借入金、政府短期証券(TDB)のことを指すのだそうです。そして、日経はこの「2016年12月末の国の借金は1066兆4234億円である」としたうえで、

    • 「国の借金は膨らんでいる」
    • 「国民1人当たり約840万円の借金を抱えている」

    と報じています。こうした報道を見ていると、経済の素人から見て、「日本の財政は本当に深刻だ」と思うのは当然でしょう。ここで、上の資金循環統計のデータから見ても、政府債務残高は減少しており、「国の借金は膨らんでいる」の下りに関しては、明らかな誤報です。

    私は日経をはじめとするメディアが、このような報道を行うこと自体、社会に対する背任行為だと考えています。というのも、こうした「国の借金」、「国民1人当たり約840万円の借金」という考え方が、完璧に間違っているからです。

    そもそも、国債・借入金・TDBは、「政府債務」であって「国の借金」ではありません。借りている主体は「日本国政府」であって、貸し付けているのは機関投資家です。あたかも「国民(家計)が借金をしている」かのように誤認させる報道は、一種の捏造報道と批判されても仕方がないでしょう。

    国家と自然人の最大の違い

    確かに、日本の中央政府が負っている債務は非常に大きいです。日経がいう「国の借金」とやらは1066兆円少々だそうですが、日本の年間GDPは約500兆円ですから、「国の借金」はGDPの約2倍です。これについてメディアの報道を読んでいると、「年収約500万円の人が、1000万円の借金を抱えているようなものだ」という表現を目にすることもあります。

    しかし、こうした議論も極めて不適切です。なぜなら、「国家と自然人の大きな違い」を完全に無視しているからです。自然人であれば、寿命が尽きるまでに借金を返さなくてはなりません。しかし、国家の場合は「寿命」がありません。ということは、「いつまでにお金を返さなければならない」という決まりはない、ということです。

    同じ事例は企業で考えてもわかるでしょう。たとえば、製造業の多くは銀行などから多額の借金をしていますが、「借金が多すぎるからこの企業は倒産する!」などと表現すれば、その人間はアナリストとして失格です。企業財務分析実務では、「負債株式比率(デット・エクイティ・レシオ=DER)」や「レバレッジ比率」などの指標を用いて企業の健全性や収益性を判断することが一般的であり、「借金が多すぎればその会社は倒産する」という単純なものではないからです。

    それが、どうして政府債務を議論する時には、「国の借金が国民1人当たり約840万円だから問題だ!」となってしまうのでしょうか?私には日経をはじめとするメディアが、このようにインチキの情報を流し続けること自体、日本国民を愚弄しているとしか思えないのです。

    政府債務を圧縮する方法

    ところで、政府債務が多すぎれば、金利が上昇してきたときに、利払いの負担が増えてしまいます(ただし、現在の日本のように、明らかに資本市場に資金が余っているような場合、国債の利回りは上昇しませんが…)。その意味で、政府債務が無制限に増えて良いというものでもありません。

    では、具体的に政府債務を圧縮するための方法としては、どのようなものがあるのでしょうか?ここで、典型的なものを5つ列挙してみましょう(図表4)。

    図表4 政府債務を圧縮する5つの方法
    手段 概要 備考
    増税 税率を引き上げる いわゆる増税。日本が消費税を増税した事例などがある
    緊縮財政 政府歳出を抑制する ギリシャのように公務員の削減や年金カットなどを行う
    政府資産の売却 政府が保有している資産の民間への払い下げ 国営企業の民営化は株式の民間放出と同じである
    インフレーション 貨幣価値を引き上げることで債務の価値を削減する インフレには経済成長を伴う場合(良いインフレ)とスタグフレーション(悪性インフレ)がある
    法律による債務減免 法律により国債価値を削減する アルゼンチンは国内法により債務再編を行った

    ここで5つの方法を列挙しましたが、このうちの1つめの方法「増税」、2つ目の方法「緊縮財政」は、いずれも国民に負担を押し付ける方法です。

    放漫財政で散々無駄遣いをしてきたような国は、国民がそれによって潤ってきたのですから、当然、その国の国民が負担すべきでしょう。実際、2010年以降、債務危機で国際社会を揺るがしてきたギリシャを含めた南欧諸国の場合は、政府債務がGDPの2倍近くに達している場合もあります。このような場合、その国の国民の負担で政府債務を圧縮するのが筋でしょう。

    しかし、一方で国民に負担を押し付けずに政府債務を圧縮する方法もあります。これは、政府資産の売却です。

    例えば、日本国政府は2016年12月末時点で231兆円もの資産を保有しています(図表5)。

    図表5 日本国政府が保有している資産(2016年12月末)
    項目 金額(億円)
    現金・預金 381,780
    (うち外貨預金) 136,761
    貸出 128,499
    株式等 412,418
    対外証券投資 1,171,982
    その他対外債権債務 119,893
    その他 97,927
    金融資産合計 2,312,499

    (【出所】資金循環統計速報値)

    余談ですが、外貨預金(13兆6761億円)と対外証券投資(117兆1982億円)、その他対外債権債務(11兆9893億円)を合計した142兆8636億円の範囲は、おそらくその多くが外貨準備(142兆5115億円)と重なっていると考えて良さそうです(著者私見)。日本のような「ハード・カレンシー国家」が、142兆円もの外貨準備を抱えていること自体、大きな問題ですが、「国の借金(?)」とやらを問題にするのであれば、この外貨準備を圧縮するだけで、かなりの債務削減につながるはずです(ただし、短期的に米国債などの全額を売却することは不可能ですが…)。

    良いインフレと悪いインフレ

    さて、図表1を改めて眺めてみると、政府債務を圧縮する方法が、他に2つ残されていますが、そのうちの一つが「インフレ」です。

    インフレとは「物価の上昇」(または「貨幣価値の下落」)を意味する経済現象です。たとえば、去年、米5キロが1000円だったのに、今年2000円に上昇すれば、「年間インフレ率は100%だ」と表現されます。日本の場合、この「年間インフレ率」が低迷していることが大きな問題です。「インフレ」の逆は「デフレ」、つまり「物価の下落」です。人々が「モノの値段はもっと下がる」と思えば、不要不急の商品を買わずに貯金しておこうと思います。これが「デフレ」の悪い点です。

    日本銀行は現在、「お金をたくさん増やす」金融政策を取っています。といっても、「増やすお金」は日銀券ではなく「マネタリーベース」であり、具体的には金融機関の日銀当座預金残高が増加しています(図表6)。

    図表6 日銀当預残高と中央銀行の資産残高

    余談ですが、日本銀行がこれほどまでに緩和政策を行っているにもかかわらず、日本の「デフレ脱却」は道半ばです。

    それはともかく、インフレが生じれば、同じ債務額であっても、債務負担が減少します。たとえばGDPが500兆円の国が1000兆円の債務残高を持っている場合と、GDPが1000兆円の国が1000兆円の債務残高を持っている場合では、債務負担は全く異なります。

    日銀が掲げる「2%インフレ目標」が実現したらどうなるでしょうか?仮に「2%インフレ」という状況が30年間続けば、物価水準が約2倍になります。つまり、2%インフレを維持した状況であれば、政府債務残高が現在の水準を維持していたとしても、30年後には実質的な債務を半減することができるのです。

    そして、インフレには「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。「良いインフレ」とは経済成長を伴ったインフレ、「悪いインフレ」とは経済成長を伴わないインフレです。

    1980年代のブラジルやアルゼンチン、2000年代のジンバブエ、現在のベネズエラのように、明らかな経済政策の失敗からもたらされるインフレは「悪いインフレ」ですが、現在の日本が目指しているのは「デフレの克服の結果」としてのインフレです。この両者は似て非なるものです。

    「国家によるデフォルト」の選択

    政府債務を圧縮する方法は、もう一つあります。それが「国家によるデフォルトの選択」です。

    歴史上、鎌倉王権や室町王権が出した「徳政令」が有名ですが、これは「借金を棒引きにする命令」です(余談ですが、私は個人的に、北条平氏が支配した鎌倉王権や足利源氏が支配した足利王権は、いずれも徳政令により人々からの信頼を失ったことが滅亡の遠因になったと考えています)。

    また、アルゼンチンは2001年の国債デフォルト以降、ドル建てで発行した国債を国内法により減免する措置を導入しましたが、そんな法律を策定したところで、国際的な市場で通用するはずなどありません。案の定、2014年6月にはアルゼンチン政府の決定を無効とするヘッジファンドの訴えを米国・ニューヨーク連邦地裁が認め、アルゼンチンは「第二次デフォルト」に追い込まれたのも記憶に新しいところです。

    また、日本は1945年の敗戦後、巨額の国債を償還したものの、同時に国債償還額に相当する課税を行い、事実上、国債の価値をゼロにしてしまったことがあります。これも広い意味では「国家によるデフォルトの選択」です。

    日本の財政は危機的状況にない!

    現在の日本は危機的状況にありません。

    まず、昨日も『減税こそ日本に必要』で指摘しましたが、家計の金融資産残高、純資産残高がそれぞれ1800兆円、1400兆円を超えており、いわば、日本国内では「使われていないお金が溢れている状況」にあります。

    そして、家計金融資産の半額以上が現金預金であるという状況にありますが、裏を返せば預金取扱金融機関(銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合、ゆうちょ銀行など)や保険会社・年金基金が、その莫大な資金を運用しなければならない、という状況にあります。しかも、国内で運用しきれないからこそ、巨額の外債運用などが行われているという状況なのです。

    私は現在の国債の発行残高が多すぎるとは全く思いませんが、もし国債の残高を圧縮したいのであれば、増税や緊縮財政によってではなく、経済成長を伴ったインフレにより達成すべきでしょう。

    繰り返しになりますが、日本にとっての処方箋は増税ではなく減税です。「増税原理主義者」の財務官僚や経済学の知識を持たないいい加減な経済新聞に騙され、「財政再建が必要だ」と誤解することは避けなければなりません。

    私はそのことを、これからも発信し続けたいと思います。

    ※本文は以上です。

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