米国には「株高・ドル高・債券安」が待っている―。これが私の予想です。もちろん、これから円高になるのか円安になるのか、はたまた金利は上がるのか、下がるのか…、等々、将来の相場のことはわかりませんが、しかし、「理論」からある程度、予想することならできます。昨日のFRBによる利上げは世界経済にどのような影響を与えるのか、考察してみましょう。

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    ここからが本文です。

    米国の利上げという「衝撃」

    金融危機後のFRBの利上げは2回目

    米国の事実上の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日(日本時間16日早朝)のFOMCで、2008年の金融危機後2度目となる利上げに踏み切りました。

    Press Release(米国時間2017/03/15(水) 14:00付=日本時間2017/03/16(木) 04:00付 米連邦準備制度理事会ウェブサイトより)

    FF金利の誘導目標は0.75~1%と、従来と比べ0.25%(つまりquarter percent)引き上げられました。FRBは主要中央銀行の中では珍しく、「インフレ目標2%の達成」と「雇用の最大化」という、2つの目標を持っています。これは、「デフレ脱却」を至上命題とする日本銀行、「ユーロ防衛」を至上命題とする欧州中央銀行(ECB)などと比べても、異質です(図表1)。

    図表1 FRBの2つの目標と外国中央銀行
    中央銀行 通貨 主な政策目標
    FRB USD(米ドル) 雇用の最大化と2%インフレ目標の達成
    ECB EUR(ユーロ) 2%インフレ目標の達成(とユーロ防衛)
    日本銀行 JPY(円) デフレ脱却
    BOE GBP(英ポンド) 2%インフレ目標の達成
    SNB CHF(スイス・フラン) スイス・フランの安定

    言い換えれば、欧州や日本と違って、米国の中央銀行は、「人々の雇用の最大化」という使命を負っており、逆にいえば、失業率が上昇すれば中央銀行が責められる、ということです。

    経済学者の間では、「フィリップス曲線」という考え方が受け入れられています。これは、「インフレ率と失業率の間に相関関係がある」とする考え方であり、私自身はやや懐疑的ですが、おそらく米FRBの「雇用の最大化」という政策目標の考え方も、こうした「フィリップス曲線」の理論に沿ったものではないでしょうか?

    ただ、ここで重要なことは、FRBが「雇用の最大化」という政策目標を負っていることが、理論上、正しいのか間違っているのか、ではありません。重要なのは、「米国が完全雇用となれば、多少インフレ率が2%に届かなくても、FRBは利上げせざるを得ない」という事実です。

    実際、FRBの声明文でも、

    Inflation has increased in recent quarters, moving close to the Committee’s 2 percent longer-run objective; excluding energy and food prices, inflation was little changed and continued to run somewhat below 2 percent.

    (仮訳)インフレ率はここ数四半期、上昇しており、FRBが長期目標とする2%という水準に近付いている。エネルギーと食品を除くと、インフレ率は小動きであるが、2%にやや満たない水準にある。

    としています。

    なぜ一気に利上げしないのか?

    今回の利上げを受けて、大手マス・メディアは、「新たな段階に突入した」などと反応しています。ここではWSJの報道を眺めてみましょう。

    Fed Signals It Is Entering New Phase(米国時間2017/03/15(水) 16:08付=日本時間2017/03/16(木) 05:08付 WSJオンラインより)

    WSJは記事の中で、

    In recent weeks, officials said they see opportunities to raise rates due to a brightening economic outlook and easing financial conditions.

    (仮訳)ここ数週間、(FRBの)当局者らは、経済の見通しが明るくなってきたことに加え、金融緩和状況を踏まえると、利上げする環境が整ったなどと発言していた。

    としたうえで、

    Officials (略) penciled in two more quarter-point rate increases this year.

    (仮訳)当局者らは今年、さらに2回程度の利上げを予定している。

    と述べています。

    おそらく、これは現時点におけるマーケット・コンセンサスでしょう。FRBは今回の利上げで様子を見て、2~3か月経過した時点で再び利上げをするかどうかを判断するものと考えられますが、では、なぜFRBは一気に利上げしないのでしょうか?

    その理由は、おそらく2つあります。

    1つ目の理由は、経済学のセオリーに従い、「一気に利上げする」のではなく、「景気が過熱し過ぎないよう、冷えすぎないように、微調整をする」というものです。経済は生き物ですから、いきなり利上げをしてしまうと、昔の日本の大蔵省や日銀がよくやったように、景気に冷や水をぶっかけることになりかねません。

    そして、2つ目の理由は、おそらく「政治リスク」でしょう。ドナルド・トランプ大統領は就任以来、「軍事費の増額」を打ち出しています。米国でいう「軍事産業への投資」とは、日本でいえば「地方への公共事業」と似たような位置付けを持っています。しかし、トランプ氏が大胆な軍拡を行いたいと思っても、予算を作るのはあくまでも米国議会ですから、トランプ氏の思い通りにならない可能性もあります。

    こうした不確実性を見越して、FRBは現段階では、まずは無難に0.25%の利上げを行った、というのが真相に近いのではないでしょうか?

    トランプ政権の財政出動と金融政策

    金融危機とは何だったのか?

    では、米国の現状は、いったいどうなっているのでしょうか?それについて述べる前に、2008年以降の金融危機について振り返っておきましょう。

    2008年の世界的な金融危機は、リーマン・ブラザーズの経営破綻(2008年9月15日)が直接の引き金となりましたが、実は同年3月には、すでにその「前兆」が生じていました。それは、米大手投資銀行のベア・スターンズの経営破綻です。

    実は私自身も、当時、金融危機と極めて近いところで仕事をしていたのですが、危機はまず、証券化商品市場の崩落から始まり、クレジット・デリバティブ市場に波及しました。そして、リーマンの経営破綻により、クレジット・デリバティブのカウンターパーティーだったいくつかの会社に危機が波及しそうになり、米国政府は慌てて生命保険会社などのいくつかの会社に資本注入を実施。

    しかし、危機はあっという間にグローバルに伝播し、証券化商品を旺盛に買い込んでいた欧州系の大手金融機関に巨額の損失が発生し、クレジット市場が凍り付きました。これが金融危機の正体です。

    健全な邦銀と不健全な欧州銀

    ちなみに、わが国の個別の金融機関がどういう時期にどういう行動を取り、その結果、いくらの損失が発生したのかについては、興味があれば2008年から2009年にかけての有価証券報告書をご覧いただければよく分かると思います。しかし、わが国の金融機関は、2000年代前半の不良債権処理が一段落し、世界の主要銀行と比べても際立って健全な経営を行っていたため、グローバルな金融危機に巻き込まれて経営破綻した金融機関はありません。

    一方、欧州では、金融危機の震源地だった米国よりも遥かに深刻な影響が発生し、欧州系の金融機関の中には不良債権処理の重圧から、最終損失に陥る会社が続出すると見られていました。ところが、国際会計基準審議会(IASB)は当時の金融商品会計基準だった「IAS39」を、2008年10月13日に突如として改悪。トレーディング勘定で保有する金融商品を、「値段が崩落する前に遡って満期保有投資・債権の区分に変更する」という事実上の「粉飾決算」を合法化しました。

    余談ですが、現在、某電機大手メーカーが「粉飾決算」で叩かれていますが、金額的インパクトでいえば、2008年第Ⅲ四半期の欧州金融機関の決算の方が、遥かに巨額の粉飾決算が行われています。どうして国際刑事警察機構がこれを強制捜査しなかったのかが不思議でなりません。

    余談ついでに、申し上げると、「国際財務報告基準(IFRS)」は非常に怪しい会計基準です。2009年11月には、「IFRS9」という、史上最悪レベルのインチキ会計基準が公表されました。私は、粉飾決算を行った企業経営者よりも、この会計基準の策定にかかわったIASBのDavid Tweedie議長(当時)こそが刑事訴追されるべきだと考えています。あるいは、日本国内でいえば、IFRSを推進した、金融庁開示課の三井秀範課長、ASBJ委員長の西川郁生委員長、日本公認会計士協会会長の山崎彰三会長(※肩書きはいずれも当時)の3名を、日本の証券市場を破壊しようとした罪で、刑事訴追すべきだと考えています。

    金融危機をいち早く脱却した米国

    皮肉なことに、金融危機は「震源地」である米国がさっさと脱却し、本来は金融危機と関係のないはずの欧州でくすぶり続け、やがては2010年以降の「周辺国債務危機」に見舞われ、さらには近年、中近東などからの難民問題に悩まされています。私は、古代ローマ帝国がゲルマン人移民により滅亡したのと同じ理由で、欧州連合(EU)が近い将来、崩壊すると予想しています。

    ただ、大西洋を挟んだ米国では、2009年に成立したバラク・オバマ政権が雇用創出と政府財政再建に務め、さらには独力で「ドッド・フランク金融改革法」(いわゆるボルカー・ルール)などを策定。金融機関の健全性をいち早く改善し、成長軌道に戻しました。

    オバマ政権は、外交的な成果はゼロ点に近い惨状ですが、経済面では米国経済と金融を立て直すのに成功。政権末期には、雇用の最大化もほぼ達成されています。

    トランプ財政出動は「クラウディング・アウト」をもたらす

    つまり、現在の米国は既に景気も良く、完全雇用状態もほぼ達成されている状況にあります。

    ところが、ここで米国経済にとって、思わぬ波乱要因が生じました。そう、「頭の中が1980年代で止まってしまっている素人」である、ドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことです。

    米国は現在、完全雇用が達成されている状況にあります。こういう状況で政府が財政支出を増やせば、いったい何が起こるのでしょうか?それは、「インフレ」や「資産バブル」の可能性が出てくる、ということです。

    少なくとも米国の金利は上がるはずです。政府が10年国債を増発すれば10年金利が、30年国債を増発すれば30年金利が、それぞれ上昇します。さらに、WSJの報道によれば、市場コンセンサスとして今年少なくともあと2回の利上げが見込まれています。

    ちなみに、「政府がお金を使うために国債を発行すれば、民間の投資を抑制する」という経済効果のことを、「クラウディング・アウト」と呼びます。

    世界中から「イージーマネー」が米国に向かう!

    ただ、米国の場合、資本市場はオープンであり、国内でお金が足りなければ、外国から借りればよい、ということになります。特に、米国の通貨「米ドル」は世界の基軸通貨でもあるため、世界中の投資家からみて、米ドル建てで資産を保有することは魅力的でもあります。

    従って、トランプ政権が財政出動に踏み切れば、

    • 景気好転を好感して株価は上昇する
    • 資金不足を反映して金利は上昇する(=債券価格は下落する)
    • 資金フローにより米ドルは上昇する

    という現象が生じます。これが「株高・債券安・ドル高」です。

    株高・債券安・ドル高の衝撃

    そして、株高・債券安・ドル高は、世界中の市場に大きな影響を与えます。

    先進国(カナダ、日本、EU、英国、スイスなど)

    まず、他の先進国(とくに米国と国境を接するカナダ)には、米国に対する輸出の拡大が期待できます。米国で景気が良くなっている状況では、米国の購買力も上昇していますし、米国で供給不足が生じているからです。

    これらの先進国は、自国通貨が米ドルに対して売られたとしても、通貨自体が「ハード・カレンシー」であるため、金融危機は生じません。単純に、自国通貨安(日本だと円安)の恩恵が生じて、米国に対する輸出が拡大することで、米国の好景気の「おすそ分け」にあずかることができるのです。

    また、マイナス金利に悩む日本や欧州の機関投資家にとっては、金利が上昇した米国債の投資妙味は上昇します。既に米国債に投資している機関投資家は「債券安」に直面することになりますが、その反面、為替がドル高方向に進むため、「ヘッジなし」で投資している投資家にとっては、為替差益を得ることもできます。

    「トランプノミクス」は、他の先進国にとっては非常にありがたい効果をもたらします。

    新興市場(EM)諸国にとっては波乱要因

    同じく、新興市場(Emerging Markets, EM)諸国からみても、「ドル高・自国通貨安」は米国への輸出を拡大するチャンスです。

    ただ、EM諸国が先進国と異なるのは、自国通貨自体が「ソフト・カレンシー」であり、資本フローの脆弱化に極端に弱い、という点です。

    具体的には、米国で金利が上昇すれば、世界の資金の流れが米国に向かうため、外国からの投資が引き揚げられることになります。これが急速に発生すれば、「通貨危機」につながります。

    日本の近隣の「ソフト・カレンシー国」といえば、韓国や中国、台湾などがあります。しかし、特に韓国や中国は「外貨準備高統計」を粉飾しているという疑いが濃厚であり(というよりも私はそう確信しています)、資本フローが変調を来した時に、中韓両国からの資金流出が一気に加速すれば、これらの国の経済が大混乱に陥るかもしれません。

    為替操作国認定

    さらに、中韓両国にとって、もう一つの「考えたくない要因」があります。それは、「為替操作国認定」です。

    米国の財務省が米国議会向けに公表しているレポートに、興味深い指摘があります。

    「2015年貿易促進・強制法」(the Trade Facilitation and Trade Enforcement Act of 2015)に基づき、米財務省が米議会向けに作成している「アメリカ合衆国の主要な貿易相手国の外国為替相場政策について(原題“FOREIGN EXCHANGE POLICIES OF MAJOR TRADING PARTNERS OF THE UNITED STATES”)」というレポートの4~5ページ目には、次のような記載があります(図表2)。

    図表2 米財務省の指摘
    原文 仮訳 意訳
    China’s intervention in foreign exchange markets has sought to prevent a rapid RMB depreciation that would have negative consequences for the Chinese and global economies. 中国の外為市場への介入は人民元の急激な下落により中国経済と世界経済に対して好ましからざる影響を与えることを防ぐことを企図したものである。 中国当局は常に為替介入を繰り返している
    More transparency over exchange rate management and goals, and strong adherence to G-20 commitments to refrain from competitive devaluation and not to target exchange rates for competitive purposes, will enhance the credibility of China’s exchange rate regime. 外為管理政策のより一層の透明性と、G20で合意された競争的な通貨切り下げ競争を控えること、および競争目的で為替相場を目的にすることを控えることは、中国の為替変動体制に対する信頼性を高めることになる。 中国の為替介入には透明性もなく、また、G20で合意された「通貨切り下げ競争をしない」という目標を守っているのかどうかも疑わしい。このため、中国の為替変動体制に対する信頼性は乏しい
    Treasury has urged Korea to limit its foreign exchange intervention to only circumstances of disorderly market conditions. 米財務省は韓国当局に対し、為替介入は市場の状態が秩序を失っているような場合に限定すべきであると勧告してきた 韓国当局は常に為替介入を繰り返している
    Treasury continues to encourage the Korean authorities to increase the transparency of their foreign exchange operations and to take further steps to support domestic demand, including more robust use of fiscal policy tools. 米財務省としては韓国当局に対し、外為市場に対する操作の透明性を向上させ、より大胆な財政出動などを含めて国内の需要を喚起することを強く勧める 韓国の為替介入には透明性がないし、韓国政府の財政出動を通じた内需喚起努力は不足している

    米財務省レポートの原文は、極めて官僚じみていてわかり辛いのですが、「意訳」すれば、

    「中国や韓国の為替介入は極めて不透明であり、不公正な取引目的で自国通貨を意図的に一定水準に誘導しているのではないかと疑わしい」

    という主張です。

    4月に中韓両国が「為替操作国」認定も!

    この米財務省の議会向けレポートは年に2回公表されており、次回分は今年の4月に公表される予定です。そして、米国財務省が特定国を「為替操作国」として認定するための基準は、次の3つです(図表3)。

    図表3 為替操作国認定の3要件
    番号 内容 仮訳
    (1) a significant bilateral trade surplus with the United States 米国との間で重要な貿易黒字(年間200億ドル超)を計上していること
    (2) a material current account surplus 重要な経常黒字(その国のGDPに対して3%以上)を計上していること
    (3) engaged in persistent one‐sided intervention in the foreign exchange market 外国為替相場に対して継続して一方向の為替介入に関与し、その金額が1年間でGDPの2%を超えていること

    そして、米国自体が世界の「基軸通貨国」であるという事情を考えるならば、米財務省としては、中国や韓国が行っている為替介入オペレーションを、かなり詳細にまで把握していると考えて間違いないでしょう。

    金融力学の大きな変動に注意

    おりしも、韓国では遅くとも今年5月9日までに大統領選が行われ、次期大統領が選出されます。また、中国では2016年10月に、通貨「人民元」が国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)に付け加わりましたが、その割に、通貨市場の改革は進んでいません。

    現在の情勢で考える限り、韓国の次期政権は極左政権となる可能性が濃厚ですが、そうなれば、米国から見て中国と韓国の両国が非常に「叩きやすくなる」のです。なぜなら、両国ともに図表3で示した基準に抵触しそうになっているからです。

    おそらく、トランプ政権は日本との蜜月関係を構築しつつ、アジアでは中国と韓国、欧州ではEUとドイツを敵視するでしょう(図表4)。

    図表4 トランプ政権の外交・予想図
    相手国 軍事面 経済面
    日本 日米同盟を深化させる 日本の投資家によるトランプノミクス下支えを期待する
    ドイツ NATOに留めるように努力する 貿易不均衡とドイツの内需拡大不足を攻撃する
    英国 核保有国である英国のEU離脱を支持する
    EU 核保有国である英国のEU離脱を支持する 事実上の「ドイツ第四帝国」であり、米国の仮想敵国である
    中国 南シナ海問題などで対立する 為替操作国認定を行う
    韓国 THAAD配備撤回をさせないよう圧力を掛ける 為替操作国認定を行う

    もう一つの特徴があるとすれば、日本、ドイツ、英国、EU、中国、韓国の6つを列挙したところ、明らかに日本は米国にとっての「特別な相手国」となりつつある、という点でしょうか。

    いずれにせよ、トランプ政権の外交は、軍事面でも経済面でも、4月以降に非常に大きな「地殻変動」がありそうです。

     

    ※本文は以上です。

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