私はこのウェブサイトを「金融規制の専門家」という立場から執筆しています。また、私自身は海外旅行が好きで、昔からいろいろな国に出掛けては、見聞を広めてきました。こうした中、本日は普段とは少し趣向を変えて、「日常生活から見る通貨論」をカジュアルに論じてみたいと思います。

※本文はお知らせの後に続きます。

本文の前に:最新記事のお知らせ!

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  • 2017/10/10 00:00 【金融
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  • 2017/10/02 00:00 【国内政治
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    気軽な通貨論

    私は学生時代から海外に出掛けるのが好きで、格安航空券を求めては、しょっちゅう外国を旅行していました。大学を卒業し、社会人になってからも、独身時代は随分とあちこち行ったものです。

    私は現在、「金融規制の専門家」を自称しており、また、執筆した書籍でも、「通貨」について触れた箇所がいくつかありますが、「日本の通貨制度そのものが信頼できる」という点については、学生時代から各国を放浪した私自身の実体験に根差した感覚でもあるのです。

    そこで、本日は普段と趣向を変えて、「日常生活から見る通貨論」という、やや軽めの話題をお届けしたいと思います。

    外国通貨あれこれ

    両替をするなら国際キャッシュカードで!

    私はいつも、海外に出掛ける時には、某銀行の「国際キャッシュカード」を持って行くことにしています。このカードは、外国のATMから、現地の通貨でお金を引き出すことができる「優れモノ」です。そして、現地で引き出したお金に相当する金額は、日本にある自分自身の銀行口座から、その時点の為替レートで換算した金額が差し引かれるという仕組みです。

    実は、この「国際キャッシュカード」、利点がたくさんあります。その一つが、「為替手数料が安い」ということです。例えば、アメリカに出掛けた時に、現地で100ドルを引き出したとしましょう。このとき、為替電信相場仲値(TTM)が1ドル=120円だったとすると、この仲値に非常に近いレートで換算されます。つまり、日本円で12,000円が引き落とされるのです。

    これに対し、日本国内で外貨に両替して行った場合、ドルだと仲値から2円から2.5円程度、不利なレートが適用されます。たとえば、100ドルを入手するための為替相場は122.5円程度、つまり日本円にして12,250円が必要です。

    これが米ドルだと大した違いではありませんが、マイナーな通貨となると、さらに差が大きくなります。

    例えば、香港ドルだと、仲値が1香港ドル=15円だった時に、日本国内で香港ドルを入手するには17円~17.5円程度が必要です。酷い場合には、1,000香港ドルを引き出した場合、国際キャッシュカードだと15,000円程度で済むのに、現金だと17,500円が必要になることがあるのです。

    つまり、国際キャッシュカードは、マイナー通貨であればあるほど、有利なレートで交換できるという特徴があるのです。さらに、現地で必要なだけ現金を引き出すようにすれば、泥棒対策にもなり、安全です。私は、海外旅行に行く時には、「国際キャッシュカード」を持って行くことを強くお勧めしています。

    ただし、国際キャッシュカードによっては、引き出すたびに手数料がかかる場合があります。また、現地でお金を引き出し過ぎ、余ってしまうと、それを再び日本円に両替するための手数料がかかります。このため、国際キャッシュカードも万全という訳ではない点には注意が必要でしょう。

    街中でお金が使えない国

    ところで、南米の農業大国・アルゼンチンに出掛けた時、私は、「街中でお金が使えない」という、新鮮な体験をしました。

    私は現地に到着すると、いつものように、空港でATMを探し、現地通貨を引き出したのですが、その際に出てきたのが「50ペソ」「100ペソ」という、現地ではそれなりの高額紙幣です。私がアルゼンチンを訪問したころの為替相場は、ざっくりと1ペソ=20円くらいでしたから、日本円に換算すれば50ペソが1000円程度、100ペソが2000円程度の価値でしょうか?

    ただ、地下鉄の初乗り料金が2ペソ(つまり約40円)、コーラ2リットルが5ペソ(つまり約100円)程度でしたので、現地の物価水準に照らすと、結構な高額紙幣です。私は空港から市内に向かうバスのチケット(90ペソ、1800円弱)をクレジットカードで買い求めたのですが、それ以外の移動や食事には、全て現地の現金を使いました。ところが、アルゼンチンの街中はなにかと不便です。というのも、少額の紙幣・コインの流通量が非常に少ないからです。

    たとえば、地下鉄に乗りたければ小銭が必要なのに、小銭が滅多に手に入りません。そして、なんと驚いたことに、地下鉄の窓口では、高額紙幣では切符を売ってくれないのです(!)。いきなり外国からやって来て、ATMでお金を引き出したばかりの旅行者にとっては、これは非常に厳しい話です。

    日本の感覚だと、地下鉄の切符を買うのに1000円紙幣、5000円紙幣、1万円紙幣などが問題なく使えます。稀にバスやタクシーで高額紙幣が使えないこともありますが、それでもたいていの場合、千円紙幣なら利用可能です。しかし、アルゼンチンだと、買い物をしたくても店に釣り銭の準備がない場合も多く、しかも街中ではクレジットカードも使えないことが多いので、非常に苦労します。

    スーパーマーケットで買い物をしたときも、そのレジにお釣りの準備がなく、店員さんが他のレジから小銭をかき集めていました。これでは不効率過ぎますね。

    アルゼンチン・デフォルト事件

    アルゼンチン自体が豊かな農業国でもあるためでしょうか、私が訪問した時には、人々が生活に困窮しているような様子はありませんでした。ただ、この国は、過去に何度か「国全体のデフォルト」を起こしています。アルゼンチン政府は米ドル建てで国債を発行していたのですが、2001年にアルゼンチン政府は、国債の償還ができなくなってしまいました。

    アルゼンチンは、1980年代から90年代初頭にかけて高いインフレ率に苦しんでいましたが、「カレンシー・ボード制」(一種のドルペッグ制度)を導入することによって、インフレの鎮静化に成功しました。しかし、1997年に発生した「アジア通貨危機」では、ドルペッグ制度を取っていた国が次々と変動相場制に移行することを余儀なくされました。例外的に通貨防衛に成功したのは香港くらいなもので、アジアではタイやインドネシア、韓国などが資金流出に苦しめられ、こうした動きが南米にも波及。2001年末にはアルゼンチンが対外債務の支払い停止を余儀なくされ、ドルペッグ制も事実上、崩壊してしまいました。

    この事件の教訓はいくつもありますが、特に重要なことは、「通貨制度の信認を維持することはとても難しい」、ということでしょう。1990年代のアルゼンチン・ペソは、1米ドル=1ペソで固定されていたのですが、2001年のアルゼンチン・デフォルト事件以降はペソの価値が下がり、私が同国を訪問したころは、1ドル=5ペソ程度でした。

    そして、デフォルトから13年が経過した2014年6月には、再びアルゼンチン危機が発生しました。今度は、デフォルトした米ドル建てのアルゼンチン国債を買い占めたヘッジファンドが、米国の裁判所に対し、元利金の償還を求める訴訟を提訴し、裁判所がこれを認めたことにより混乱が生じたのです。

    アルゼンチンはこの訴訟により、2001年デフォルト債の元利金を支払わない場合には、その他の債券の利払も行えないことになってしまい、2014年6月には「第二次デフォルト」が発生。2014年1月時点で1ドル=8ペソ程度だった同国の通貨は、2016年10月には16ペソ程度にまで下落したのです(図表1)。

    図表1 アルゼンチンの通貨・ペソの対ドルレートの推移
    時点 為替レート
    2000年12月 1ドル=1ペソ
    2008年1月 1ドル=3.168ペソ
    2013年1月 1ドル=5.1193ペソ
    2014年1月 1ドル=8.0014ペソ
    2015年1月 1ドル=8.8197ペソ
    2016年1月 1ドル=14.6960ペソ
    2017年1月 1ドル=15.5870ペソ

    (【出所】ダウジョーンズ)

    外債ならば国でもデフォルトする!

    図表1に示したアルゼンチン・ペソの為替相場は、米ドルを基準にしたレートであるため(これをコンチネンタル・タームと呼びます)、表示される金額が大きくなればなるほど、その国の通貨が下落していることを意味します(図表2)。

    図表2 為替相場の呼び方
    呼び方 概要 具体例
    コンチネンタル・ターム 外国通貨1単位に対する自国通貨の価値を表示する方法 円、スイス・フランなど、多くの通貨がこの方式を取る。「1ドル=120円」など
    アメリカン・ターム(またはニューヨーク・ターム) 自国通貨1単位に対する外国通貨の価値を表示する方法 ユーロ、ポンドは「1ユーロ=1.2ドル」など、外貨表示の基準となることが多い

    アルゼンチン・ペソのクオートもコンチネンタル・ターム方式ですので、「1ドルあたり」で表示される金額が大きくなればなるほど、通貨が下落していることを意味します。

    では、為替相場が自国通貨安に動いた場合、いったいどのような影響が生じるのでしょうか?

    一番大きな懸念は、自国通貨に換算した外貨建債務の負担の増大です。たとえば、外国から同じ100万ドルを借りていたとしても、「1ドル=1ペソ」の場合と、「1ドル=10ペソ」の場合とで、自国通貨に換算した債務負担が、全く異なるからです(図表3)。

    図表3 アルゼンチンが外国から100万ドルを借りていた場合
    時点 為替相場 ペソ建ての債務
    2000年1月 1ドル=1ペソ 100万ペソ
    2013年1月 1ドル=5ペソ 500万ペソ
    2017年1月 1ドル=15ペソ 1500万ペソ

    (※為替相場についてはわかりやすくするために簡略化しています。)

    アルゼンチンが国債を償還するための財源としては、たとえば、アルゼンチン国民から税金を集めて、これを外為市場で米ドルに両替するなどの方法があります。しかし、税金だけで100万ドルを返そうと思った時に、2000年1月時点では100万ペソあれば十分だったのに、2017年1月時点では、1500万ペソ、すなわち15倍(!)の税金が必要になってくるのです。

    しかも、アルゼンチンはデフォルト直前に、為替相場が暴落したことを受け、対外債務のGDPに対する比率は100%を超過。結局、債務を返しきることができずにデフォルトを宣言してしまったのです。

    まずはきちんと日常生活を…

    私がアルゼンチンを訪れたころの為替相場は、1ドル=5ペソ程度でした。しかし、2014年6月の第二次デフォルト以降、為替相場はさらに下落して、現在では1ドル=15ペソを超えている状況にあります。

    私が見たところ、アルゼンチン国内では、まず小銭が流通していなさすぎます。現地の人に話を聞いたところ、「自分の国の通貨が信頼されていないため、結構な頻度で米ドルが流通している。人々は米ドルを好む」ということでしたが、自分の国の通貨が信頼されていないというだけの理由ではなく、単に少額の紙幣・コインの流通量が極端に少なく、不便だからではないでしょうか?

    そういえば、アジア諸国でも、特に東南アジアを中心に、自国の通貨ではない通貨が広く通用している例もあります。しかし、日常生活できちんと使える通貨を整備している国では、多少、通貨の信用力が弱くても、きちんと自分の国の通貨が通用しています。

    アルゼンチンは米ドル建て国債のデフォルトにばかり注目が集まっていますが、案外、国民の利便性をもっと高めるような通貨制度にすれば、通貨に対する信認は復活するのではないでしょうか?

    日常通貨の概念

    通貨あれこれ

    日本に暮らしていると、日常生活で一番よく使うお金の種類は、千円紙幣と百円硬貨ではないでしょうか?若干の為替相場の変動はありますが、他の国でも「よく使うお金」というものはあります。

    ところで、米国、ユーロ圏、スイス、英国、香港を比べてみると、一つ、興味深いことがわかります(図表4)。

    図表4 各国のコイン、紙幣の発行状況
    国・地域 コイン 紙幣
    米国

    1ドル=113.48円

    • 1セント
    • 5セント
    • 10セント
    • 25セント
    • 50セント(※1)
    • 100セント(※1)(※2)
    • 1ドル(※2)
    • 2ドル(※1)
    • 5ドル
    • 10ドル
    • 20ドル
    • 50ドル(※1)
    • 100ドル(※1)
    ユーロ圏

    1ユーロ=119.43円

    • 1セント/2セント/5セント
    • 10セント/20セント/50セント
    • 1ユーロ2ユーロ
    • 5ユーロ
    • 10ユーロ20ユーロ/50ユーロ
    • 100ユーロ/200ユーロ(※1)/500ユーロ(※1)
    スイス

    1フラン=112.26円

    • 1セント/5セント
    • 10セント/20セント/50セント
    • 1フラン2フラン5フラン
    • 10フラン
    • 20フラン
    • 50フラン
    • 100フラン(※1)
    • 200フラン(※1)
    • 1000フラン(※1)
    英国

    1ポンド=141.70円

    • 1ペンス/2ペンス/5ペンス
    • 10ペンス/20ペンス/50ペンス
    • 1ポンド2ポンド
    • 10ポンド
    • 20ポンド
    • 50ポンド(※1)
    香港

    1ドル=14.60円

    • 10セント
    • 20セント
    • 50セント
    • 1ドル
    • 2ドル
    • 5ドル
    • 10ドル(※2)
    • 10ドル(※2)
    • 20ドル
    • 50ドル
    • 100ドル
    • 500ドル
    • 1000ドル
    日本
    • 1円
    • 5円
    • 10円
    • 50円
    • 100
    • 1000
    • 2000円(※1)
    • 5000円
    • 10000円

    (【出所】著者作成。為替相場は「外為どっとコム」を参考にしたもので、外為市場では常に変動している点に注意。また、上記(※1)は滅多に流通していないもの(※2)同じ券種でコインと紙幣が併存しているものをさす)

    図表4の中で、私が太字で示したものは、「その国・地域で頻繁に利用されるコイン・紙幣」です(ただし、やや主観的ではありますが…)。各国の特徴をいえば、米国と英国には高額紙幣が少なく(特に英国は最高額面が50ポンドに過ぎません)、これに対してユーロ圏やスイスには、極端な高額紙幣が存在します(500ユーロは約6万円、1000フランは約11万円に相当)。これに対して日本は2000円紙幣を除けば、すべての紙幣・硬貨が1と5の倍数であり、非常にわかりやすいと思います。

    日本では小渕内閣時代の沖縄サミット開催に合わせて「二千円紙幣」が発行されたものの、この紙幣は沖縄県などを除いて、現在、ほとんど見かけることはありません。ただ、諸外国では、「20ドル」「20ユーロ」「20ポンド」「20フラン」など、「20」という単位の紙幣を見かけることが多いようです。そして、これらの紙幣は日常生活で非常によく使われているようです。

    コインと紙幣の違いとは?

    ところで、硬貨(コイン)と紙幣には、大きな違いがあります。それは、コインは外国で両替できない一方、紙幣ならば外国で両替することができるという点です。

    考えてみれば当然ですが、紙幣は軽くて保管コスト・輸送コストともに安く上がります。これに対してコインは重くてかさばる割に、額面も小さく、保管コストや輸送コストも高いため、国外では両替してもらえません。

    もちろん、例外もあります。陸路で国境を接している国同士の通貨なら、国境で両替に応じてもらえることがあるようです。また、日本だと、首都圏にあるチケット大手の「大黒屋」という店で、運が良ければユーロやドルのコインを入手することができます。さらに、台湾の空港では日本円で支払いができることもあるようです。ただし、これらはあくまでも例外です。

    一般的には海外旅行で余った外国のコインを、日本国内で円に戻すことはできません。同じく、日本人が外国に旅行に出かけた場合に、外国で日本円を現地通貨に両替しようとしても、受け取ってもらえるのは紙幣だけであり、コインは受け取ってもらえません。

    100円札や500円札がないのは不便

    以上を踏まえて、私が図表4の中で、特に注目したいのは、米ドルです。

    日本、ユーロ圏、スイス、英国はいずれも、日本円に換算して100円から500円程度のコインが存在します(日本の100円・500円硬貨、ユーロ圏の1ユーロ・2ユーロ硬貨、スイスの1フラン・2フラン・5フラン硬貨、英国の1ポンド・2ポンド硬貨)。しかし、米国にはこのようなコインが存在しません(いちおう1ドル硬貨は発行されているものの、ほとんど通用していません)。

    米国では、こうしたコインに代わって、1ドルや5ドルだと紙幣を使います。私は、米ドルが世界で最も広く使われている理由が、「米国が地球上最強の軍事大国である」という理由以外に、こうした貨幣制度にあると思うのです。

    考えてもみると、発展途上国では物価水準が違います。東南アジア諸国で、米ドルが広く通用しているのに対し、日本円が全く流通していない理由は、日本円の紙幣が「高額すぎるから」ではないでしょうか?最低額面の紙幣は1000円紙幣ですが、アジア諸国の物価水準に照らせば、1000円は結構な高額です。

    これに対して米ドルだと、最低額面の紙幣は1ドル(日本円でせいぜい100円少々)ですから、アジア、南米、アフリカなどの発展途上国で、広く受け入れられているのではないかと思います。

    余談ですが、中国の通貨・人民元も、最低額面紙幣は1元(16.5円程度)だそうです。東南アジア諸国などの物価水準を考えると、人民元の紙幣は「少額である」という意味では、何かと便利です。その意味でも、日本が人民元の国際化に対抗するのであれば、100円紙幣や500円紙幣を発行したらよいのに、と思うのです。

    高額紙幣廃止の流れ

    一方、これとは逆に、高額紙幣を廃止しようとする流れも出ています。

    例えばユーロ圏では、最高額面である500ユーロがマネー・ロンダリング(資金洗浄)に使われているとして、2018年末までに発行を停止するそうです。ただし、これはあくまでも「発行されなくなる」だけであり、いきなり無効にされるということはないようです。

    もともと、ユーロ圏で500ユーロ紙幣が発行されてきた経緯は、ドイツが現金決済を好む国民性であったためだそうです。旧ドイツマルクは、1000マルク紙幣(日本円に換算して5万円~10万円程度)が最高額面でしたが、そういえばスイス・フランも1000フランが最高額面であることを考えれば、伝統的にドイツ語圏では高額紙幣が好まれるのかもしれません。

    ただ、ユーロ圏全体で流通する500ユーロ紙幣の4分の1がスペインに集中しているという情報もあり、また、ユーロ圏ではギリシャやキプロスなど、債務危機に見舞われた国が続出したという事情もあるため、資金洗浄に使われがちな高額紙幣は、廃止されるというのが世界的な潮流です。

    こうした中、「高額紙幣の廃止」では、こんな混乱も生じています。

    インドの高額紙幣廃止、現金社会に広がる混乱(2016 年 12 月 13 日 15:47 JST付 WSJ日本版より)

    インドでは2016年11月、突如として高額紙幣が廃止されました。WSJ(日本語版)によると、その狙いは「地下経済の撲滅」にあったとしています。インドでは銀行に口座を持っていない人も多く、経済は現金で回っているため、インド政府がインド国民の所得を捕捉できず、脱税が横行しているのだそうです。

    ただ、さすがに高額紙幣を一夜にして無効にするのは、いかにも乱暴なやり方に見えます。インドの今回の改革が、アルゼンチンのように、「自分の国の通貨に対する信認を貶める」という結果に終わらなければ良いのですが、おそらくそれは不可能でしょう。今後のインド国民の貯蓄(タンス預金)は、自国の通貨ではなく外貨(米ドル、ユーロ、日本円など)で蓄えられることになるからです。

    また、WSJは「高額紙幣の廃止は世界的な潮流」であるとしつつ、

    • 欧州中央銀行は2018年に500ユーロ(約6万円)紙幣の印刷を停止すると発表
    • カナダやシンガポールも段階的に高額紙幣の流通を減らしている
    • フィリピンやデンマークなど、規制を変更して電子決済への切り替えを促進している国もある

    などの流れを紹介。ただ、主要国の通貨流通量の対GDP比については、たとえば

    • 日本…20.7%
    • インド…12.3%
    • ユーロ圏…10.6%
    • 米国…7.9%

    など、日本では主要国の中でも突出して、現金の流通高が多いことが示されています。

    世界的には高額紙幣が廃止される流れが続いているものの、わが国では治安も良く、銀行預金の利息も低いため、人々の「タンス預金」需要としては、5万円紙幣や10万円紙幣を発行してもよいのではないかと思います。

    緊急提言・新紙幣発行

    というわけで、本日の「緊急提言」です。

    利便性の高い日本の紙幣

    日本の紙幣は、現在のところ、1000円紙幣、5000円紙幣、1万円紙幣の3種類です(いちおう2000円紙幣もありますが、ほとんど流通していないので無視します)。そして、日本国内では、これらの紙幣を使って買い物をするのも便利ですし、1万円紙幣を使おうと思ったらあちこちで拒絶される、ということもありません。

    ただその一方で、外国では、信頼の高い日本の通貨を、自分の国の通貨に代わって使いたい、というニーズも根強いのが実情です。

    小額紙幣を発行しては?

    外国で強い需要があるとしたら、まずは「小額紙幣」です。ユーロ圏では5ユーロ紙幣、米国では1ドル・5ドル紙幣がこれに該当しますが、日本でいえば、100円紙幣、500円紙幣を新たに発行しても良いのではないかと思います。

    特に、日本との経済的関係も深い東南アジア諸国連合(ASEAN)は、東南アジアの10ヵ国から構成されています。ASEAN加盟国全体で見ると、人口は実に6.3億人(!)と中国の半分近くに達していますが、GDP総額は2.5兆ドル少々に過ぎず、一人当たりGDPは4,000ドル前後です。このため、成長余力も大きいといえます(図表5)。

    図表5 ASEAN基礎データ
    人口(千人) GDP(百万ドル) 一人当たりGDP(ドル)
    インドネシア 257,600 888,538 3,449
    フィリピン 100,700 284,582 2,826
    ベトナム 93,400 186,205 1,994
    タイ 68,000 404,824 5,953
    ミャンマー 51,410 56,800 1,105
    マレーシア 30,300 326,933 10,790
    カンボジア 14,700 17,700 1,204
    ラオス 6,490 11,700 1,803
    シンガポール 5,540 307,872 55,573
    ブルネイ 412 16,700 40,534
    合計 628,552 2,501,854 3,980
    (参考)中国 1,376,000 10,982,800 7,982
    (参考)日本 126,925 4,123,300 32,486

    (【出所】外務省・総務省統計局等から著者作成。なお、基本的に人口やGDPは2014年や2015年のものを用いているものの、データの参照源が異なることがあるため、各国の公表値と一致しない可能性がある点には要注意)

    一人当たりGDPのASEAN全体の平均値は3,980ドルであり、ざっくり日本の10分の1程度です。ということは、最高額面紙幣を1000円ではなく、その10分の1である100円にすることで、ASEAN諸国でも日本円を使ってもらえるようにする価値はあるでしょう。

    何なら、100円紙幣や500円紙幣は、ドラ●もんやマ●オなど、国際的に人気のあるキャラクターを肖像に使っても良いかもしれません。

    高額紙幣を発行しては?

    一方、日本の最高額面紙幣は1万円です。100ドル紙幣が米国でほとんど通用していないことを考えるならば、外国人の「タンス預金」需要については、ある程度、取り込めているとみてよいでしょう。実際、韓国や中国あたりでは、不正蓄財が摘発された際に、日本の1万円紙幣の札束が押収されることもあるようです。

    ただ、ユーロ圏の500ユーロ紙幣や200ユーロ紙幣と比べると、まだまだ額面的には小さいです。そこで、5万円紙幣と10万円紙幣を発行してみてはどうでしょうか?

    ちなみに、マネタリーベースを増やすことは日本銀行の政策目標にもかなっています。日本銀行にとっても悪い話ではないでしょうし、マイナンバー制度が始まったため、日本では現金経済であっても脱税は難しくなりました。私は、高額紙幣を発行すれば、利便性は上がる一方で、地下経済の規模が広がるなどの副作用についても、それほど心配しなくても良いと考えています。

    実はシンガポールの戦略でした(笑)

    以上、私は100円紙幣・500円紙幣のような「小額紙幣」と、5万円紙幣・10万円紙幣のような「高額紙幣」を発行すべきだと考えているのですが、これは突拍子もない思い付きではありません。

    ユーロ圏は5ユーロ紙幣を発行しているため、北アフリカなどでは限定的にユーロが通用していますし、米国は1ドル紙幣を発行しているため、米ドルは発展途上国を中心に、南米、アフリカ、アジアなどで広く通用しています。

    実は、「小額紙幣から高額紙幣までを揃える」ということを、国家戦略として取り組んでいる国があります。それがシンガポールです。

    シンガポール・ドルの価値は、1Sドル=80円程度です。

    シンガポールでは2ドル、5ドル、10ドル、50ドル、100ドルの紙幣が発行されていますが、それ以外に、実は1000ドル、1万ドル(!)という額面もあります。1万シンガポール・ドルは、日本円に換算して80万円程度であり、もちろんこれは世界最高額面です。

    日常のちょっとした買い物には2ドル(約160円)、蓄財用には1万ドル(約80万円)、などと使い分けることができるのです。その意味で、シンガポールの通貨は、何かと便利でもあります。

    私は別に「10円紙幣」や「百万円紙幣」を発行せよ、などと申し上げるつもりはありませんが、それでも、紙幣の種類が増えれば、間違いなく、外国から見た日本円の利便性は上昇します。円を国際化するならば、是非、日本銀行や日本政府にはご英断をお願いしたいところです。

     

    ※本文は以上です。

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