中国の外貨準備高が3兆ドルを割り込んだと報じられていますが、これを機会に、「中国の外貨準備統計は信頼に値するか」について議論してみたいと思います。具体的には、IMFや米国財務省などのデータを基に、あくまでも「客観的な統計」をベースに、中国の外貨準備高に「疑わしい」部分が多々ある可能性を考えてみましょう。

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    中国の外貨準備の問題点

    私は以前から、中国の外貨準備統計について深い関心を抱いています。

    特に、中国がアジアインフラ開発銀行(AIIB)を使って、国際金融のノウハウの蓄積を狙っていることや、人民元の国際化を図っていること、さらにこれらの試みがうまく行っていないことについては、これまでも議論を行ってきました(関連記事としては、たとえば『銀行経理的に見た中国の外貨準備の問題点』などもご参照ください)。

    本日は、これらの議論の前提となる「基礎データ」的にご参照頂ける記事として、「中国の外貨準備高そのものの信頼性」について議論したいと思います。

    客観的統計による中国の外貨準備高分析

    「中国外貨準備、3兆ドルを割り込む」報道

    今年1月における中国の外貨準備高が、およそ6年ぶりに3兆ドルを割り込んだことが報じられています。「金融市場を代表する経済紙」である、英FTと米WSJから、それぞれ該当する記事を拾ってみましょう。

    China forex reserves dip under $3tn to touch 5-year low(英国時間2017/02/07(火) 11:08付=日本時間2017/02/07(火) 20:08=付 FTオンラインより)
    China’s Foreign-Exchange Reserves Drop Below $3 Trillion, Near Six-Year Low(米国時間2017/02/07(火) 07:02付=日本時間2017/02/07(火) 20:02付 WSJオンラインより)

    FTの方は、「中国大好きなイギリス」のメディアであるためでしょうか、

    China’s foreign exchange reserves dipped below $3tn in January for the first time in five years but the decline was the lowest in seven months as tighter capital controls and a stronger renminbi discouraged outflows.

    1月の中国の外貨準備高は5年ぶりに3兆ドルの大台を割り込んだが、厳格な資本規制や人民元の上昇が資本流出を抑制する格好となり、減少額は7か月ぶりの最低値となった

    と、比較的肯定的に報じています。しかし、米系メディアのWSJは、

    China’s foreign-exchange reserves dropped below $3 trillion in January, the lowest level in almost six years, complicating the central bank’s balancing act of trying to contain asset bubbles without triggering a liquidity crunch.

    1月の中国の外貨準備高は3兆ドルの大台を割り込み、約6年ぶりの最低値となった。このことは、流動性危機を伴わずに資産バブルを抑制しようとする中央銀行の危うい均衡による努力をさらに複雑なものにしそうだ。

    と、極めて批判的な報じ方をしています。

    また、中国の外貨準備が3兆ドルの大台を割るのが、「5年ぶり」(FT)なのか、それとも「6年ぶり」(WSJ)なのかは、今一つ、はっきりしません。

    そこで、事実関係を調べるために、まずは中国の「国家外淮管理局」(邦訳:「国家外貨管理局」)のウェブサイトから外貨準備推移表を取得し、グラフ化したところ、図表1、図表2の通りとなりました。

    図表1 中国の外貨準備の推移(金額単位:十億米ドル)

    図表2 中国の外貨準備の推移(金額単位:十億米ドル)
    時点  金額 備考
    2006年10月 1,010 初めて1兆ドルの大台突破
    2009年4月 2,009 初めて2兆ドルの大台突破
    2011年3月 3,045 初めて3兆ドルの大台突破
    2014年6月 3,993 過去最高値
    2017年1月 2,998 5年10か月ぶりに3兆ドル割れ

    事実関係だけを述べるならば、「3兆ドルの大台を割り込んだ」のは、「5年10か月ぶり」であり、この件に関しては、FTよりもWSJの方が正しいというのが結論でしょう。

    実際、FTの記事は、

    But a stronger renminbi in January weakened investor impetus to buy foreign currency, reducing the need for intervention.

    しかし、1月の人民元の相場が強かったことで、投資家の「外貨を買う」という需要が減殺されたことにより、(中国当局による)介入の必要性が減少した形となっている。

    と、データからわかるはずもない主観的な評論が加えられています。やはり、FTは日本経済新聞社の傘下に入ったことで、日本のマス・メディアにありがちな「思い込みだけで勝手に記事を書く」という姿勢がついてしまったのでしょうか?

    IMFデータと全く合わない!

    ところで、中国当局が発表する「外貨準備高」については、エクセルで毎月の残高が記載されているのみであり、この内訳については全くわかりません。何か「もう少し詳細なデータ」を取ることはできないのでしょうか?

    そう思い立って、国際通貨基金(IMF)のデータ(IMF Data Topics)から外貨準備高(“External Sector” カテゴリの “International Reserves and Foreign Currency Liquidity(IRFCL)”)をダウンロードしてみたところ、中国の外貨準備のデータは2015年6月分以降しか掲載されておらず、しかも、「中国国家外淮管理局」が公表するデータとは微妙に一致しません(図表3)。

    図表3 IMFデータと中国国家外淮管理局データの突合(金額単位:十億ドル)
    時点 IMF 中国政府 差額
    2015/06 3,960 3,694 266
    2015/07 3,915 3,651 263
    2015/08 3,823 3,557 266
    2015/09 3,796 3,514 281
    2015/10 3,810 3,526 285
    2015/11 3,720 3,438 281
    2015/12 3,607 3,330 276
    2016/01 3,510 3,231 279
    2016/02 3,496 3,202 294
    2016/03 3,508 3,213 295
    2016/04 3,520 3,220 301
    2016/05 3,491 3,192 299
    2016/06 3,512 3,205 307
    2016/07 3,509 3,201 308
    2016/08 3,492 3,185 307
    2016/09 3,473 3,166 307
    2016/10 3,424 3,121 304
    2016/11 3,345 3,052 293
    2016/12 3,298 3,011 288
    2017/01 2,998

    中国政府がIMFに対して外貨準備高の報告を開始したのが2015年6月以降であること、および、IMFに対して報告しているデータと中国政府自身が発表するデータに齟齬がある点については、データとして今一つすっきりしません。ただ、中国の外貨準備の内容について知りたければ、結局、IMFのデータに依存するしかないので仕方がありません。

    IMFの外貨準備の分類とは?

    以上を踏まえて、IMFが公表するデータ(ただし2015年6月分以降のみ)を利用して、中国の外貨準備の内容を眺めてみましょう。

    IMFの定義上、外貨準備とは、「中央政府や中央銀行が保有する、流動性(換金性)の高い外貨建資産」のことですが、中国の外貨準備高については、その内訳が非常にあいまいです。

    少々専門的ですが、用語集『外貨準備と通貨スワップの関係』に示した通り、外貨準備とは、

    有価証券、現金・預金、IMF準備資産、SDR、金、その他

    などで構成されています。そして、現金で保持していても金利が付かないため、多くの国は外貨準備を「有価証券」などで運用していますが、IMFのテンプレート(※英語)上は、

    79.Securities should include highly liquid, marketable equity and debt securities; liquid, marketable, long-term securities (such as 30-year U.S. Treasury bonds) are included. Securities not listed for public trading are, in principle, excluded unless such securities are deemed liquid enough to qualify as reserve assets.

    第79項 証券には高い流動性と換金可能性がある株式や債務証券が含まれなければならない;流動性があり、換金可能な長期債(例えば米国30年債)はこれに含まれる。上場されていない証券は原則としてここから除かれるが、準備資産として適格であるとみなされるほど流動性がある場合にはこの限りではない。

    80.Only foreign currency securities issued by nonresident entities should be included in this item of the Reserves Data Template. (…以下略)

    第80項 非居住者である主体が発行した外貨建証券のみがこの「準備資産データテンプレート」に含まれる。(…以下略)

    とあります。

    したがって、多くの場合、外貨準備は有価証券の中でも、とくに米国債やユーロ建ての債券(独国債)、さらには日本国債などの安全性の高い債券で運用されていると考えてよさそうです。

    中国の外貨準備の内訳推移

    IMFのデータを展開してみると、中国の場合も、外貨準備の大部分を「有価証券」で保有していることがわかります(図表4)。

    図表4 中国の外貨準備の内訳(金額単位:十億ドル)

    有価証券以外の資産の主な項目は、金地金やIMF準備ポジション、さらには特別引出権(SDR)などであり、ここに特に不自然な点はありません(図表5)。

    図表5 中国の外貨準備の構成(2016年12月時点)
    項目 金額(十億ドル) 構成比
    有価証券 2,980 90.37%
    現金・預金 30 0.91%
    IMF準備ポジション 10 0.29%
    SDR 10 0.29%
    金地金 68 2.06%
    その他外貨建資産 200 6.07%
    合計額 3,298 100.00%

    この統計を信じるならば、中国の外貨準備の90%は有価証券で構成されているはずです。

    ところで、同じIMFが公表する「世界公式外貨準備構成」(World Currency Compositions of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)によれば、世界の外貨準備高の通貨別構成は63%が米ドル建てです(図表6、ただし内訳判明分のみの統計)。

    図表6 2016年9月末時点・世界の外貨準備高の通貨別構成
    通貨 金額(ドル) ①に対する比率
    米ドル 4,934,415,156,035 63.28%
    ユーロ 1,581,982,000,618 20.29%
    英ポンド 350,833,082,751 4.50%
    日本円 349,703,098,412 4.48%
    その他の通貨 257,432,445,497 3.30%
    加ドル 156,296,690,630 2.00%
    豪ドル 151,332,875,910 1.94%
    スイス・フラン 15,858,149,867 0.20%
    内訳判明分(①) 7,797,853,499,720 100.00%
    内訳不明分(②) 3,211,367,450,368
    外貨準備合計(①+②) 11,009,220,950,088

    もちろん、IMFに統計を提出している国のすべてが、「通貨別内訳」を公表している訳ではありません。また、中には韓国のように、統計で「ウソ」をついているのではないかと疑われる国もあります(この点については、詳しくは『韓国の外貨準備の75%はウソ?』や『韓国の外貨準備のウソ』あたりもご参照ください)が、とりあえずここでは、IMFが公表する数値が「正しい」という仮定で議論してみましょう。

    中国の外貨準備(2016年9月末時点で公称3兆4,732億ドル、12月末時点で公称3兆2,980億ドル)のうち、米ドル建て資産の割合が60%で、そのうち90%が米国債だったと仮定すれば、中国政府が保有している米国債の金額は、9月末時点で1兆8,755億ドル、12月末時点で1兆7800億ドルとなるはずです。しかし、米国財務省「国際資本システム」(Treasury International Capital System, TIC)のデータによると、2016年9月末時点における中国の米国債保有残高は、9月末時点で1兆1,570億ドルに過ぎません。

    IMFのデータに「60%×90%」(つまり54%)を掛けた数値と、TICのデータを突合すると、図表7のとおり、常に7,000億ドル前後の「内訳不明額」が出ています。

    図表7 中国の外貨準備の「内訳不明額」
    時点 TIC
    IMF

    =②×0.54
    不明分
    =③-①
    2015/11 1,265 3,720 2,009 744
    2015/12 1,246 3,607 1,948 702
    2016/01 1,238 3,510 1,895 657
    2016/02 1,252 3,496 1,888 636
    2016/03 1,245 3,508 1,894 650
    2016/04 1,243 3,520 1,901 658
    2016/05 1,244 3,491 1,885 641
    2016/06 1,241 3,512 1,897 656
    2016/07 1,219 3,509 1,895 676
    2016/08 1,185 3,492 1,886 701
    2016/09 1,157 3,473 1,876 719
    2016/10 1,116 3,424 1,849 734
    2016/11 1,049 3,345 1,806 757

    ただ、TIC自体、必ずしも中国政府が保有している米国債の金額を正確に示しているとは限りません。中国政府がオフショア(ケイマン諸島やBVIなど)を経由して米国債を購入している場合は、TIC上、保有主体は中国ではなく英国などとなるからです。

    しかし、巨額の外貨準備があると主張するならなおさら、オフショア経由で多額の米国債を購入するというのにも限界があります。これに加えて、ここに示した「内訳不明額」は、あくまでも中国の外貨準備に占める米ドルの構成割合が「平均値の60%程度」だったと仮定した場合です。そして、人民元が米ドルと密接な為替リンクを保っている以上、現実には、中国の外貨準備に占める米ドルの割合は、60%よりも高いと考えるのが自然です。

    さらに、中国が自称する、「3兆ドル前後の外貨準備」が事実であれば、資産市場における流動性などに照らし、多額の米ドル建ての資産を保有しているのが当然でしょう。

    特に、中国は「中国投資公社」(CIC)をはじめとする国富ファンド(SWF)を多数抱えていることでも知られています。私は、中国が外貨準備のうち、最大1兆ドル程度を、これらの国富ファンドに「横流し」してしまっているのではないかと考えています。中国が「通貨危機」に直面する可能性は、韓国と比べると低いのかもしれませんが、それでも「GDP等の統計でウソをついている」という疑惑もひっきりなしに出てくるような国です。本当に3兆ドルを超える外貨準備を中国が保有しているのかといわれれば、確かに怪しい点は多々あるといえるでしょう。

    その意味では、中国の外貨準備高についても、外貨準備の75%~80%がウソではないかと疑わしい韓国と大差ないのかもしれません。

    地道な統計が大事

    以上、本日は、他のニューズサイトやウェブサイト等ではあまり報じられていない、「中国の外貨準備」に関する簡単な分析を行いました。

    なぜ私がこの統計を本日行ったのかといえば、某ウェブサイトを読んで衝撃を受けたからです(ただし、実名は挙げませんが…)。

    一昨日、韓国はオーストラリアとの間で、通貨スワップ協定を倍増することで合意しました。これについては私自身も昨日と一昨日、当ウェブサイトで紹介したとおりです(詳しくは『【速報】韓国、オーストラリアとのスワップを倍増』、『豪ドル・スワップは「焼け石に水」』をご参照ください)。

    しかし、どこかの「まとめサイト」と思しきページによれば、

    韓国が必死に物乞いしたが拒否された相手多数

    米国   「ドル通貨」スワップ拒否される

    日本   「ドル通貨」スワップ延長拒否される

    英国   「ポンド通貨」スワップ拒否される

    ドイツ  「ユーロ通貨」スワップ拒否される

    フランス 「ユーロ通貨」スワップ拒否される

    オランダ 「ユーロ通貨」スワップ拒否される

    といった書き込みがなされていました。韓国が米国から「米ドル建てスワップ」を拒絶されたことについてはその通りかもしれませんが(リーマン・ショック直後の2008年12月頃に、そのような報道を見た記憶があります)、ドイツやフランス、オランダなどは「ユーロ加盟圏」であり、もし韓国と通貨スワップを締結するとすれば、「ユーロ圏加盟国」ではなく欧州中央銀行(ECB)であろうと考える方が自然な発想だからです(もちろん、ドイツ、フランス、オランダが外国と一切通貨スワップ協定を締結していない、と断言するものではありませんが…)。

    また、この手のウェブサイトでは、「韓国がオーストラリアとの5兆円相当のスワップを結ぶ」など、明らかな誤りが含まれた記述のものもありました(現時点では修正されているようですが…)。

    このように、「扇動的な見出し」で「読者を煽る」ような行為は、私は決して感心できません。私は、ウェブサイトで自らの主張を織り込むことは構わないと思いますが、その際、「なぜそう判断したか」のプロセスが大事だと考えています。そして、特にこの手の経済・金融のトピックを議論する際には、あくまでも「IMFなどの各種団体」や「各国」が公表する客観的な統計をベースに議論すべきだと考えており、不透明な情報をベースに議論すべきではありません。

    ちなみに、ツイッターのサイトには、私の過去記事のリンクを引用したうえで、

    日韓スワップは日本にも恩恵がある」の大ウソhttp://shinjukuacc.com/archive/jkswap/ 韓国がスワップ拒否された相手国 米・英・独・仏・オランダ・露・メキシコ・ブラジル   日本は「ドル通貨」スワップ延長無し、だった ←※日本に対してだけ何故か円じゃなくて直接ドル要求の甘え

    というつぶやきが残されているようです。しかし、私は「韓国が米・英・独・仏・オランダ・露・メキシコ・ブラジルからスワップを拒否された」と主張した記憶はありません。このように、私が主張してもいない内容をつぶやく人がいるのは困りものです。

    いずれにせよ、私のこのウェブサイトでは、これからも「できるだけ客観的な情報をベースに議論する」という姿勢を大切にしていきたいと考えています。

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