文部科学省のOBが、自ら監督する相手である私立大学などに「天下り」をしていたことが問題となっています。ただ、これを機会に露呈したのは、役所のさまざまな問題体質だと考えています。そこで、本日は「OB天下り問題」をきっかけに、役所の問題体質について考察してみようと思います。

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    まだまだ問題の多い「役所体質」

    実名を挙げた組織批判の必要性

    私は「ビジネスマン評論家」として、この「独立系ビジネス評論サイト」を運営しています。ただ、私自身はジャーナリストではありませんし、私が経営する会社は報道機関でも出版社でもありません。このため、私は組織や個人の実名を出して批判するような記事を執筆することは控えています。

    しかし、こうした私自身の「執筆ルール」には例外があります。それは、「社会的な権力者」です。真っ先に思いつくのは内閣総理大臣・国務大臣・国会議員などの政治家ですが、それだけではありません。各省庁の幹部職員(いわゆる「高級官僚」)についても、当然、「実名を挙げて批判すべき相手」に該当します。

    特に、「法令・倫理違反」を行った組織については、その事務次官から末端の職員に至るまで、実名を挙げて批判しても許されますし、「社会人評論家」として、むしろ実名を挙げて批判しなければならないこともあると考えています。

    なお、私にとっての「実名を出すかどうか」の基準は、『記事の引用・転載等について』の中で示している通り、次の4つの段階に分けています。

    一般人や一般企業

    私は、一般人や一般企業については、原則として実名を出して批判すべきではないと考えています。事実であったとしても、名誉棄損が成立することもあるからです。

    ジャーナリスト、ブロガーなどの有名人

    しかし、ジャーナリストやブロガー、最近だと「ユーチューバー」など、自分の意思で言論空間に意見を表明している人の場合は、その人が表明した「意見」に対しては、自由に反論を行って良いはずです。ただし、この場合でも人格攻撃を行うことは許されません。あくまでも許されるのは「事実の批判」だけです。

    権力者の場合

    さらに、相手が権力者であれば、その人物の意見や行動だけでなく、人格そのものを批判することも許される場合があります。その典型的な事例といえば、最近だと、最大野党・民進党の党首である村田蓮舫(むらた・れんほう)氏が二重国籍状態のままで国会議員に当選していたことが挙げられます。村田蓮舫氏は公党の党首という「権力者」ですから、彼女の人格を批判したとしても、それは「国会議員としての資質」を問うているのであり、正当な言論活動の一環とみなせます。

    官庁・特殊法人等の場合

    そして、官庁や政党、特殊法人などの場合は、その組織に対して実名を挙げて批判しても全く問題ありません。極端な話、「不祥事を起こした官庁を廃止せよ!」などと主張しても許されるはずです。

    規律が緩んでいる中央官庁

    ところで、2012年12月に発足した安倍政権は、現在、5年目に突入しています。

    私の感覚では、安倍政権は近年の日本の政権と比べても、稀に見る有能な内閣です。特に外交分野では顕著な成果を上げており、私自身も対韓外交を除いては、安倍外交を高く評価したいと考えています。

    ただ、その一方で、政権が安定しているためでしょうか、中央官庁にも規律に緩みが目立ちます。「国の借金は1000兆円」という悪質なプロパガンダを垂れ流して増税への世論誘導を繰り返す財務省の姿勢が変わらないことも大きな問題ですが、ただでさえ不祥事が多いことで知られていた旧社会保険庁の後継組織である「日本年金機構」が、2015年5月に大規模な情報漏洩事件を発生させたことも、記憶に新しいところです。

    国会議員は選挙という「有権者からの洗礼」を受けなければならないため、適度に緊張感を保っているのだと思いますが、やはり中央官庁の中には、規律が弛緩し切っている役所も存在するようです。

    特に、官僚は国家公務員試験(昔の「国家上級職試験」や「国家Ⅰ種試験」、現在の「国家総合職試験」)に合格しさえすれば、国民からの選挙の洗礼を受けることなく、絶対的な権力を握る存在でもあります。こうした「中央官庁」の規律の問題については、私のような「独立系ビジネス評論サイト」で批判的に取り上げる価値があるのです。

    文科省天下り事件を考える

    以上を踏まえて、本日の「本題」です。

    文科省の信じられないお粗末な法令違反

    「信じられないほどお粗末な法令・倫理違反」の事例がありました。それが、「文部科学省のOBの再就職問題」です。

    文部科学省における再就職等規制違反について(2017年1月20日付 文部科学省報道発表・内閣府再就職等監視委員会報道発表など)

    これは、既にメディアにも大々的に報じられているとおり、文部科学省全般で、「国家公務員法」で禁止されている「再就職等規制違反(いわゆる『違法な天下り』)」が行われていたことが判明した、とする事件です。

    改めて振り返っておきます。リンク先の文書を簡単に要約すると、次の3点です。

    1. 文部科学省において、「再就職等規制」に違反する事案が複数あった
    2. 当時の文部科学審議官だった前川喜平事務次官による再就職等規制違反があった
    3. 「再就職等規制」をかいくぐる目的で、職員OBを介して再就職斡旋を行っていた

    このうち(1)について、事例の一つとして紹介されているのは、次のような事件です。

    • 吉田大輔・元高等教育局(2015年度に文科省を退職)が退職前に、文科省の人事課職員を経由して履歴書を早稲田大学に提出
    • 吉田大輔氏の再就職のために、人事課職員が早稲田大学との連絡調整を実施
    • 吉田大輔氏は退職後に早稲田大学に任期付教授として再就職した
    • この事実を隠すために、人事課職員が内閣府再就職等監視委員会に対し、虚偽の報告を行っていた

    つまり、この吉田大輔なる人物は、「大学」という、自分自身の役所が管轄する組織に「天下り」を依頼させたものです。

    他にも、政府の報道発表では、「前川喜平事務次官による再就職等規制違反」や「OBを介した再就職斡旋」などの事案もあったとのことですが、詳細については、報道発表だけからはよくわかりません。これについては続報を待ちたいと思います。

    天下りの現場は悲惨

    私自身も「元サラリーマン」ですから、ビジネスライフの中で、「天下り」をあちこちで目撃して来ました。

    その中でも特に悲惨だったのは、自治体と民間企業が出資する「第三セクター」の事例です。私にも公認会計士としての「守秘義務」があるため、実名は出せないため、仮に「A社」としておきます。

    この会社は、都道府県レベルの某自治体が、過疎に悩む地域の振興を目的に設立したもので、資本金20億円のうち、地元のB県と、他県でリゾート施設を経営するC社が10億円ずつ拠出し、地元で観光施設を経営していました。しかし、1996年に設立されたものの、毎年の赤字が解消せず、10年後に資金ショートし、結局は2006年に会社を清算しています(観光施設の経営は地元自治体のD市が設立した受け皿企業が継続)。

    私はこのA社に公認会計士として関わっていたのですが、この会社の経営は酷いものでした。まず、この会社は旧商法特例法上の「大会社」に該当しており、取締役と監査役を3人ずつ設置しなければならなかったのですが、全部で8人いた会社の役員(取締役、監査役)の全員は、B県かC社、あるいは地元D市のOBで占められていました。また、A社には他県でリゾート施設を経営しているC社から部長・課長級の従業員が出向して来ていたのですが、その部長や課長は、いずれも「C社が自社で使いものにならなかった人材をA社に押し付けた」ようにしか見えなかったのです。

    その結果、「リゾート施設」とは名ばかりで、天下り役員と無能な上司とやる気のない従業員で構成される、個性のない変な商業施設が出来上がったのです。この会社がわずか10年で資本金を食いつぶして債務超過に陥り、会社清算の憂き目に遭ったのも、ある意味で当然のことでしょう。A社は資本金を食いつぶしただけでなく、B県から借り入れた長期融資についても、結果的に踏み倒しています。

    なお、B県がA社に拠出した資本金10億円には、B県民の県民税だけでなく、国民の血税も混じっています。なぜなら、B県は「地方交付税交付団体」だったからです。また、C社がA社に拠出した10億円の資本金は、いわば「余剰人員のリストラ費用」のようなものであり、C社にとっては「痛くもかゆくもない出費」だったようです。

    監督官庁から被監督団体への天下りは背任

    以上、私の中で、「天下り」のイメージが悪い理由についてはお分かり頂けると思います。

    B県のように、自分で設立した第三セクターに県職員OBを役員として天下らせていたというのも驚きですが、「天下り」には他にもいくつかのパターンがあります(図表1)。

    図表1 天下りのパターン
    パターン 具体例
    財団・社団法人の設立 省庁や地公体が設立した財団・社団法人に、OBを理事や監事として天下りさせる
    被監督団体等への出向 官庁から監督される団体・機関にOBを天下りさせる(例:文科省から私立大学など)
    第三セクターの設立 主に地公体が民間企業と折半して設立した会社に、OBを取締役や監査役として天下りさせる
    「サムライ業」の資格付与 国税OBには「税理士」資格が与えられ、顧問先企業の紹介を受けることもある

    例えば省庁や地公体が関連団体(財団法人や社団法人)を設立して、OBをそこの理事や監事に就任させるパターンもありますし、監督先や関連団体の役員として出向させるというケースもあります。某民間銀行の場合、つい最近まで、歴代頭取は大蔵省・財務省から迎え入れていたそうですが、これも「監督官庁から被監督団体への天下り」に準じた事例でしょう(ただし、現在の金融監督機能は財務省ではなく金融庁にあります)。

    また、「サムライ業」(税理士、司法書士、行政書士など)のなかには、国のOBが無試験で資格を付与される場合もあります。特に酷いケースになると、国税OBが無試験で税理士の資格を与えられ、地元の税務署から顧問先企業を紹介されるような事例もあるようです。当然、これらの顧問先も、国税OB税理士は「国税調査」等への「口利き」として雇っているようです。

    これらのケースなどは、まさに公務員による国民に対する背任でしょう(図表2)。

    図表2 問題のある「天下り」行為
    区分 問題点
    特殊法人や第三セクター 役人が天下り先を確保するために、社会にとって全く必要でない団体を、国民の血税という負担によって乱造することにつながる
    被監督団体への再就職 文科省の大学への就職斡旋や国税庁OB税理士への顧問先企業斡旋は行政の透明性を損ない、国民の行政への信頼性を歪める

    優秀な人材・公正なプロセスであれば問題ない

    ところで、「天下り」については、現在、内閣府に「再就職等監視委員会」が立ち上がっており、「他の職員の再就職依頼・情報提供の規制」や「在職中の求職の規制」、「再就職者による働きかけの規制」などが設けられています。

    国家公務員の再就職等規制(平成28年度版)(内閣府再就職等監視委員会事務局HPより)

    これによれば、現職の職員が他の職員やOBを、民間企業などに再就職させるように斡旋することなどが、広く禁止されています。ただし、例外が設けられています。それは、

    職業安定法等に定める職業の安定に関する事務として行う場合

    などです。これは当たり前の話ですが、国家公務員が職業安定所に出掛けて、再就職の斡旋を依頼することは、全く問題ありません。

    天下りの大きな問題点は、「無駄な特殊法人が大量に設立されること」、「法に基づいた規制の公正な実施を害する恐れがある利害関係が発生すること」です。逆に言えば、特殊法人や民間企業も、職業安定所等を通じて公務員OBを雇えば良いのです。

    公務員OBの中には、関係各方面との調整能力に長けている場合もあるでしょうし、法令の知識や実務能力が高い人もいるでしょう。そのように優秀な人材を、会社業務に生かせるのであれば、民間企業にとっても大きな利益でしょう。

    必要なのは規制強化でなく規制の適正化

    文科省の天下り事件の発生を受けて、野党やマス・メディアらによる、安倍政権に対する半ば強引な「揚げ足取り」が行われています。野党やメディアが「揚げ足取り」に終始するのは今に始まったことではありませんが、この問題の本質は、あくまでも「文部科学省が組織的に再就職規制に違反していたこと」であり、むしろ「再就職等監視委員会」が機能している証拠と見るべきでしょう。

    いずれにせよ、この問題を巡って必要なのは、「規制を今以上に強化すること」ではありません。「優秀な人材が社会全体で活用されること」と、「優秀でない人材が国家権力を背景に高給を得ることを阻止すること」の2点です。私はこれを「規制の適正化」と呼んでいます。

    霞ヶ関全体に蔓延る「不透明な仕組み」は、文部科学省だけでなく、他の省庁にも潜んでいます。たとえば、「税理士」は税務代理を行うための専門的な資格ですが、国税OBであれば、一定年数勤務すれば、税理士試験を受けなくても税理士資格を取得することができます。

    私は、こうした点も含め、現在の規制の在り方が正しいのかどうかを含めて、抜本的な議論が必要ではないかと考えています。

    国民から選ばれてもいないのに、多大な権力を握ることは不適切です。私は今後も、マスコミと並んで、霞ヶ関の省庁に対する批判を続けていくつもりです。

    ※本文は以上です。

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