中国が設立したアジアインフラ開発銀行(AIIB)という銀行があります。ただ、このAIIB、現時点では「鳴かず飛ばず」の状況が続いています。私自身は「胴元が胴元」だけに、こんな怪しい組織に日本が出資することがあってはならないと思いますが、AIIBについていくつかの客観的な資料・状況をまとめておくのは有益です。そこで、本日はやや専門的な話になりますが、バーゼル規制や格付、プロジェクト・ファイナンスなどの観点から、AIIBの問題点を列挙しておきたいと思います。

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    日本は通貨スワップでAIIBに対抗せよ! (3コメント)
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    2016/11/25 追記

    関連記事として、本日、『日本はAIIBに参加すべきか?』を執筆・投稿しました。あわせてご参照ください。

    AIIBという「発車できないバス」

    中国は2014年10月、「国際開発銀行」の一種である「アジアインフラ投資銀行」(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)を設立。当初22カ国が設立覚書(MoU)に署名し、現時点では48カ国が出資しています。ただ、現時点でのAIIBによる融資承認件数は6件、金額は約8億ドルに過ぎません。しかもこのうちの5件は世界銀行やADBなど、他の国際開発銀行との協調融資が主体です。

    さて、本日はこの「AIIB」について、現状を取りまとめておきたいと思います。

    国際開発銀行と民間金融機関の協調

    国際開発銀行(MDB)とは?

    国際的な金融支援を担う枠組みとして、最近多用されているのが「国際開発銀行」(“Multilateral Development Banks”, MDBs)という仕組みです。

    「国際開発銀行(MDB)」とは、いわば、発展途上国・新興市場諸国を中心とする、財政力の弱い国に対するインフラ等の開発資金の融資を担う組織です。そして、世界には国際開発銀行が複数設立されていますが、アジアで代表的な組織といえば、なんといっても「アジア開発銀行」(Asia Development Bank, ADB)ですが、世界には他にも多くのMDBが設立されています。

    ところで、日本はこれらの国際開発銀行(MDB)に対しても積極的に出資を行っています(財務省ウェブサイト「国際開発金融機関の概要」参照)。そして、アジアを代表する国際開発銀行である「ADB」に対しては、日本政府が15.7%を出資しています。

    ただ、これらの融資を日本政府が出している訳ではありません。実際には、ADBは民間銀行から、払込資本の10倍を超えるお金を借りています。2014年12月末時点でADBの債券発行額は627億ドル(1ドル=120円換算で約7.5兆円)に達していますが、これだけ巨額のお金を借りている以上、融資が回収できなくなったりしたら投資家に損失が発生します。

    そこで、ADBなどの国際開発銀行は、融資が回収不能となるリスクを査定しなければなりません。そして、いざという時には日本国民の貴重な血税が投入されるリスクがある訳ですから、ADBの職員らは、当然、プロジェクト・ファイナンス(PF)等の知識に長けていなければなりません。こうした特徴は、ADBだけでなく、それ以外の国際開発銀行にも同様に当てはまります。

    民間銀行がMDBにお金を貸した場合は?

    そして、国際的な銀行監督組織である「バーゼル銀行監督委員会」(“Basel Committee on Banking Supervision”, BCBS)は、この「国際開発銀行」に対して民間金融機関がお金を貸すためのルールを定めています。

    原則として、民間の銀行等の金融機関に対しては、「自己資本比率規制」が適用されています。これは、リスク・アセットなどに対して一定比率以上の自己資本を備えておくことを金融機関に義務付ける規制ですが(いわゆるバーゼル規制)、日本の場合、「銀行自己資本比率告示」では、次の14の国際開発銀行が「ソブリン向けエクスポージャー」、つまり「国に対してお金を貸しているのと同じ扱い」を受けます(図表1)。

    図表1 ソブリン向けとみなされる国際開発銀行
    銀行名 英語名 関連リンク
    国際復興開発銀行 International Bank for Reconstruction and Development, IBRD 世界銀行日本語版ウェブサイト
    国際金融公社 International Finance Corporation, IFC IFC日本語版ウェブサイト
    多数国間投資保証機関 Multilateral Investment Guarantee Agency, MIGA 世界銀行日本語版ウェブサイト
    アジア開発銀行 Asian Development Bank, ADB アジア開発銀行・駐日代表部ウェブサイト
    アフリカ開発銀行 African Development Bank, AfDB アフリカ開発銀行日本語版ウェブサイト
    欧州復興開発銀行 European Bank for Reconstruction and Development, EBRD 財務省ウェブサイト
    米州開発銀行 Inter-American Development Bank, IDB IDB Asia Website(※英語)
    欧州投資銀行 European Investment Bank, EIB 「欧州投資銀行の概略」(PDFファイル)
    欧州投資基金 European Fund for Strategic Investments ,EFSI 日本貿易振興機構(ジェトロ)ウェブサイト
    北欧投資銀行 Nordic Investment Bank, NIB About NIB(※英語)
    カリブ開発銀行 Caribean Development Bank, CDB About CDB(※英語)
    イスラム開発銀行 Islamic Development Bank, IDB About IDB(※英語)
    予防接種のための国際金融ファシリティ International Finance Facility for Immunisation, IFFIm IFFIm日本語版ウェブサイト
    欧州評議会開発銀行 Council of Europe Development Bank, CEB CEB Mission and history

    そして、これらの国際開発銀行に対する「リスク・ウェイト」(※ただし標準的手法)は「ゼロ%」と規定されています(銀行告示第60条第2項)。つまり、日本の銀行や信用金庫などの金融機関が、これらの国際開発銀行の発行する債券を取得しても、「信用リスク・アセット」の金額はゼロとみなしても良い、ということです(※標準的手法の場合)。

    逆に言えば、仮にここに列挙した14機関以外の「国際開発銀行」に対して、日本の銀行が投資を行うと、その国際開発銀行の「格付」(ただしムーディーズ、S&P、フィッチに限定。日本の場合はこれにJCRとR&Iが加わる)に応じたリスク・ウェイトを割り当てなければなりません。その際のリスク・ウェイトは次の通りです(図表2)。

    図表2 国際開発銀行向けの「リスク・ウェイト」
    区分 リスク・ウェイト
    AAA~AA- 20%
    A+~A- 50%
    BBB+~B- 100%
    B-以下 150%
    無格付 100%

    つまり、14機関以外の「国際開発銀行」が発行した債券を、民間の銀行等金融機関が取得した場合、最低でも20%のリスク・ウェイトが適用されてしまいます。

    【なお、「無格付」の場合の方が「B-以下」の場合よりもリスク・ウェイトが下がってしまうという取扱いについては、私の長年の疑念ではありますが、これについては本論と関係ないので、ここでは取り扱いません。】

    MDBの事業は民間からの資金調達で賄っている!

    ここで大事なことは、国際開発銀行(MDB)の多くは、自己資本比率規制上、有利な取扱いを受けるために、多くの国で「リスク・ウェイトがゼロ%と定められている」、と点です。

    ということは、例えばADBが発行した円建ての債券は、民間金融機関からすれば日本国債と同じリスク・ウェイトです。つまり、発行体であるこれらの国際開発銀行は、非常に低い金利で資金を借りることができる、ということなのです。

    ただし、その代わり、国際決済銀行の多くは厳しい規律に従って運営され、適切な監査を受けるなど、コーポレート・ガバナンスの規律がしっかりしています。そして、いわば「官民一体となって、国際的な金融支援に貢献する仕組み」が整っている、という言い方をしても良いでしょう。

    資金調達面から見たAIIBの現状

    では、中国が設立した「AIIB」については、現状、どのような扱いを受けているのでしょうか?

    AIIBも「国際開発銀行(MDB)」の一種であることに間違いはありません。しかし、調べてみると、他の国際開発銀行と比べて、ずいぶんと異なった取扱いを受けています。

    AIIBはゼロ%リスク・ウェイトの適用除外

    まず重要なことは、AIIBは「ゼロ%リスク・ウェイトの特例措置」を受けることができない、という点です。

    少なくとも日本の場合は、AIIBが債券を発行しても、その債券に投資した金融機関は、バーゼル規制上の「ゼロ%リスク・ウェイトの特例」を受けることができません。この時点で、日本の銀行がAIIBの発行する債券に投資することは非常に難しくなります。

    つまり、現状でAIIBは、他の「国際決済銀行」(とくにADB)とは位置付けが全く異なります。あるいは、日本の金融規制当局はAIIBを他のMDBと同列に取り扱うつもりはないのかもしれません。

    AIIBは無格付

    次に重要な点は、AIIBが「無格付である」(あるいは少なくともムーディーズ、S&P、フィッチの格付を取得している様子はない)、という点です。

    私が調べたところ、現在のところAIIBは、外部格付機関(ECAI)からの格付を取得していません。ということは、仮に日本や外国の民間銀行がAIIBの発行する債券を取得した場合、「100%」という高いリスク・ウェイトが適用されてしまいます。これは、株式などと並ぶ高いリスク・ウェイトであり、AIIBが債券を発行するならば、相当高い利回りでなければ資金調達できない、ということです。

    つまり、AIIBが仮に債券を発行したとしても、銀行以外の業態(生命保険、年金)などの投資家がAIIBの債券を取得するためには、相当高い利回りでなければ買えない、ということです。

    AIIBは国際的な格付を取得しない?

    ところで、昨年の記事ですが、AIIBの金立群(きん・りつぐん)総裁はロイターの取材に対して、「仮に国際的な格付業者(ムーディーズ、S&P、フィッチ)の付与する格付が不公正ならば、AIIBは中国国内の格付業者の格付だけでもやっていける」と述べたそうです。

    AIIB says could rely on Chinese investors if ratings unfair(2015/09/17 11:56付 ロイターより)

    これが事実ならば、思い上がりも甚だしいところです。

    当然、AIIBは中国が主導したMDBですから、中国国内の格付機関が格付を付与すると、その格付が「トリプルA」になるのは当たり前の話です。ただし、いくら中国国内の格付機関がAIIBに「最高格付」を付与したところで、その格付は日本などの外国では通用しませんから、やはり国際的には「無格付」のままです。

    AIIB出資国と議決権比率

    ところで、現時点のAIIBのウェブサイトによると、出資国の上位10カ国には、中国を筆頭に、インド、ロシア、ドイツなどが並んでいます(図表3)。

    図表3 AIIB出資国(上位10か国)
    国名 出資額 出資比率 議決権 議決権比率
    中国 29,780 33.41% 301,018 28.79%
    インド 8,367 9.39% 86,887 8.31%
    ロシア 6,536 7.33% 68,576 6.56%
    ドイツ 4,484 5.03% 48,056 4.60%
    韓国 3,739 4.19% 40,601 3.88%
    豪州 3,691 4.14% 40,126 3.84%
    フランス 3,376 3.79% 36,970 3.54%
    インドネシア 3,361 3.77% 36,821 3.52%
    英国 3,055 3.43% 33,761 3.23%
    トルコ 2,610 2.93% 29,313 2.80%
    上位10カ国 68,999 77.42% 722,129 69.07%
    それ以外 20,129 22.58% 323,424 30.93%
    合計 89,128 100.00% 1,045,553 100.00%

    しかし、残念ながらAIIBには日本と米国は出資していません。これを、異なる切り口から眺めておきましょう(図表4)。

    図表4 AIIBへの主要参加国
    区分 G7 G20(G7以外) その他主要国
    創設時参加国 英、独、仏、伊 豪州、インド、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、韓国、ロシア、ブラジル ニュージーランド、スイス、シンガポール、スペイン 等
    追加参加国 カナダ 南アフリカ デンマーク
    不参加国 米国、日本 アルゼンチン、メキシコ

    (【出所】AIIBウェブサイト、AIIB設立趣意書等より著者作成)

    国際開発銀行(MDB)はプロジェクトの専門家

    国際金融の世界における日本の地位

    ところで、先ほど紹介した財務省ウェブサイトのリンクの通り、日本が出資している国際開発銀行はADB以外にも世界中にあり、日本は図表1に列挙した機関のほとんどに加盟しています。

    日本が国際開発銀行に積極的に参加する理由は、日本という国自体が先進工業国であるという事情もありますが、インフラ投資と金融はセットで考えなければならず、そして、日本にはプロジェクトと金融両面からの「専門家集団」が存在するからです。

    メガバンクを初めとした民間金融機関やDBJなどの政府系金融機関は国際開発銀行と協調融資をすることもありますし、地銀や信用金庫などの日本の国内金融機関も、これらの国際開発銀行が発行する債券等に投資しています。つまり、日本は国を挙げて、国際金融の世界でも極めて高い地位を保持しているのです。

    日米が「加盟しないこと」の意味

    ところで、先日、中国共産党の機関紙である「人民日報」が、興味深い記事を配信しています。

    AIIB president says US under Trump may join bank(2016/11/14 11:09付 人民網英語版より)
    外交部、米国のAIIB加盟は良い事(2016年11月16日13:07付 人民網日本語版より)

    人民日報自体が中国の「機関紙」のようなものなので、報道によれば金立群氏は次のように語ったそうです。

    “I have heard a certain senior official of the President Barack Obama speak good of the AIIB and after Donald Trump won, I was told that many in his team have an opinion that Obama was not right not to join the AIIB, especially after Canada joined, which was a very loud endorsement of the bank. So we can’t rule out the new government in US endorsing the AIIB or indicating interest to join as member.”

    (仮訳)「私は、バラク・オバマ大統領に近い政権幹部がAIIBに賛意を示していると聞いた。そして、特にカナダが加盟するという大きな成功を収めた直後でもあるため、ドナルド・トランプ氏の勝利後、彼のチームに属する多くの人が、オバマ政権下でAIIBに参加しなかったことが正しくなかったと考えていると聞いた。」

    私はこれまで、米国のメディアの報道に随分と目を通してきたつもりですが、「トランプ氏がAIIB参加に前向きだ」とは、私も初めて知りました。ただ、調べてみると、出所は全てこの「人民網」の記事であるようです。

    ということは、裏を読むならば、中国としては米国や日本が参加しなければ、AIIBが国際開発銀行として体をなさないことを理解している、という意味ではないでしょうか?

    実際、日米が参加しなければ、「資金源」という意味だけでなく、「プロジェクト・ファイナンスの専門家がいない」、という状況を意味します。金総裁のこうした発言は、AIIBが置かれた現在の立場の苦しさを意味しているようにしか見えません。

    プロジェクトが理解できなければ融資もできない

    実際、現時点でAIIBが「承認」したプロジェクトを概観してみましょう(図表5)。

    図表5 AIIBの承認済みプロジェクト(金額:百万ドル)
    プロジェクト 金額 トータル 比率
    タジキスタン ウズベキスタン国境道路改善事業 27.5 105.9 25.97%
    インドネシア スラム改善プロジェクト 216.5 1743 12.42%
    パキスタン 国道4号線建設 100 273 36.63%
    バングラデシュ 送電系統整備 165 262.29 62.91%
    パキスタン タービン増強事業 300 823.5 36.43%
    ミャンマー ガス・コンバインドサイクル発電 20 不明 不明
    合計 829

    実は、この「一覧表」をまとめるのには、結構苦労しました(笑)というのも、たった6件しか承認されていないのに、AIIBはこれを一覧表にしておらず、1ページずつ別々のページに掲載し、さらにそこからPDFファイルを1枚ずつ調べないといけない、という面倒さがあったからです。

    もしかして、一覧表にしてしまうと「AIIBの融資実績が極めて少ない」ということがわかってしまうからでしょうか?いかにもメンツを重んじる中国人らしいやりかたですね。

    いずれにせよ、現状でAIIBが融資する事業の多くは、ADBや世銀、IBRDなどとの協調融資です。これは、中国自体に発展途上国向けの国際的プロジェクト・ファイナンスの経験がない以上、仕方がない話ですが、トータル金額(8億ドル少々)は日本円に換算して800億円弱で、ADBの融資金額の1%に過ぎません。

    ただ、私に言わせれば、「無理にでも融資実績を積み上げてADBの1%に達した」という努力自体は褒めてあげても良いかもしれないと思います。

    「宇宙人」という「逆効果」

    余談ですが、AIIBにはもう一つ、日本としてどうしても参加できなくなる事情があります。それは、「宇宙人」を顧問に迎えてしまったことです。

    鳩山由紀夫・元首相が中国主導のAIIB顧問就任へ 「アジアのインフラ整備、何かお手伝い」(投稿日: 2016年07月17日 10時49分付 ハフィントンポストより)

    この人物は、2009年8月に、日本のマス・メディアの激しい偏向報道により、間違って首相に就任してしまったのですが、その後、1年弱で日本をめちゃめちゃにして辞めていきました。

    ただし、私はこの人物がAIIBの顧問に着任したことで、「AIIBは日本人が近寄ってはならない危険な組織だ」ということが、一般人の目から見ても明らかになると思います。

    その意味で、この「よりによって最悪のチョイスをしたこと」については、逆に「素晴らしい」(?)と思ってしまうのも事実なのです。

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