FTが日本の首相の動静をトップで報じる時代

予定にないのですが、もう一本、急遽言及しておきたいネタができたので、英FTに掲載された記事を紹介します。

FTが日本の首相の動静をトップで報じる!

「日本経済新聞」の傘下に入ったことでも知られる英フィナンシャル・タイムズ(FT)の電子版は、ドナルド・トランプ次期米大統領と安倍晋三総理大臣がニューヨークで会談をする予定であると報じました。

Trump to meet Abe in first face-to-face with foreign leader(英国時間2016/11/16(水) 23:35付=日本時間2016/11/17(木) 08:35=付 FTオンラインより)

FTがなぜ、日本の首相の動静を報じるようになったのかは、定かではありません。日経の傘下に入ったからなのでしょうか、それとも「それを報じる価値がある」と考えたからなのでしょうか?

ただ、この記事を読む限りでは、どうやら「後者である」と考えるべきでしょう。

というのも、FTの記事のタイトルにもある通り、

「外国の首脳と会うのが初めてだから」

です。その意味で、「一番乗り」を果たすことの意義は極めて大きいといえます。

ペルー訪問の途中の立ち寄り

安倍総理大臣は、APEC首脳会談に参加するためにペルーに向かっているのですが、予定を変更してニューヨークに立ち寄り、日本時間の本日深夜にトランプ氏と昼食を共にする予定である、などと報じられています。このことは、日本国内のメディアが既に相当前から報じているので、私たち日本人の多くは知っています。

しかし、FTが日本の首相の動静を報じるとは、ある意味、数年前であれば考えられなかった話です。

記事は東京在勤のRobin Harding記者という、非常に反日的な立場の記者と、ワシントンのGeoff Dyer記者の連名で執筆されています。しかし、リンク先の記事は、比較的事実に即した記述となっており、おそらくRobin Harding記者よりもGeoff Dyer記者の見解の方が色濃く反映されているのではないかと思います。

記事を私の文責で日本語にして要約すると、

  • 木曜日にドナルド・トランプ氏が日本の安倍晋三総理大臣と会えば、それは彼(=トランプ氏)が会う初の外国首脳だ
  • もちろん、トランプ氏は環太平洋パートナーシップ(TPP)を破棄するとの公約を維持すると見られているものの、彼はアジア戦略を巡り、ワシントンの政治家らを驚かせる見解の転換を図るかもしれない
  • トランプ氏が日本や南朝鮮(※韓国のこと)に米軍の駐留経費を増額させるか、米軍を撤収させるかを迫ったこと自体が、中国の増長余地を高めている
  • ただし、トランプ氏は大統領に選出された後で、中国の軍事的野心に対する警戒を強めていることも事実だ
  • 安倍氏とトランプ氏はゴルフが好きだという共通点もある
  • 当初トランプ氏は安倍氏をディナーに誘ったが、今回は日程の都合で叶わなかった
  • しかし、アナリストは「安倍氏はトランプ氏と共通土壌を見つけることができるだろう」と述べた

など、至極当然の内容が執筆されています。

仕事が速い安倍総理

私は、「安倍総理大臣の動静を英FTが報じた」という点、及び、「トランプ氏が会う初の外国首脳が安倍総理である」という点に、深く注目したいと思います。

「安倍(総理)は前回訪米時にヒラリー(・クリントン候補)としか会っておらず、トランプ(氏)を無視した」「安倍はトランプとコネクションがなくて焦っている」、などの意見もありましたが、実は、トランプ氏が勝利すると予想していなかったのは欧州の首脳陣も全く同じことであり、これは安倍総理だけの「過失」と見るべきではありません。

しかも、安倍総理はトランプ氏が当選するや否や、すぐに電話を掛けて祝意を表明し、早速にトランプ氏と会うという算段を付けたのです(ただし「夕食」は叶わないようですが…)。この「リカバリー」の速さは賞賛に値するといえるでしょう。

さらに、安倍総理はフィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領ら、「強面」の首脳と仲良くなるのが得意なようです。私の予想では、「強い日本」「強いアメリカ」を掲げる両氏は、価値観も合致し、仲良くなれるのではないかと思います。

TPP、在日米軍の負担維持を「押し付ける」のではなく、まずはトランプ氏と仲良くなって欲しいと思います。

トランプの敵は独中韓

ちなみに、トランプ氏が米大統領に就任すれば、真っ先に問題視するのは「貿易赤字の問題」でしょう。そして、「米国に対し巨額の貿易黒字を計上していて、米国と対立する国」は、三つあります。それが、ドイツ、中国、韓国です。

以前、『トランプ政権下で対韓経済制裁の可能性』で報告したとおり、米国財務省のレポート(英語版)では、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスの6か国が「為替操作監視対象国」に指定されました。ただし、具体的に問題視している国は、日本ではなく、中国、韓国、ドイツの3カ国です。

中国について
  • 中国の為替相場管理政策は不透明であり、透明性の確保が必要だ
  • G20での合意に基づき、通貨安競争を防止すべきである
  • 中国経済はより一層の構造改革により、国内消費振興を目的にした財政政策を採用すべきだ
韓国について
  • 韓国の経済構造は輸出に依存し過ぎており、ウォン安の是正による改善が必要だ
  • 為替介入は「市場が例外的に無秩序な動きをしているとき」に限定すべきだ
  • 韓国の為替操作は不透明であり、財政政策などを通じた内需拡大が不十分だ
ドイツについて
  • 財政政策を通じた内需喚起が不十分だ

つまり、トランプ政権下では、この3か国との「通商摩擦」が発生することが、現時点で予測できています。これに加えて、ドイツのメルケル首相は、あからさまにトランプ氏を警戒しています。

トランプとの対決姿勢を鮮明にしたメルケル(2016年11月14日付 日経ビジネスオンラインより)

在独ジャーナリストの熊谷徹氏が日経ビジネスオンラインに寄稿した内容によれば、

メルケル首相は(トランプ氏に対する)祝辞の中で、まるで学校の教師が生徒を教え諭すように、ドイツが重んじる価値を並べ上げた。「ドイツにとって、EU以外の国の中で、米国ほど共通の価値によって緊密に結ばれている国はありません。その共通の価値とは、民主主義、自由、権利の尊重、全ての個人の尊厳を重んじることです。人権と尊厳は、出身地、肌の色、宗教、性別、性的な嗜好、政治思想を問うことなく守られなくてはなりません」。

と述べたそうですが、これは堂々と「ケンカを売っている」ようにも見えます。

当選したばかりのトランプ氏と個人的な人間関係を構築しようと、早速ニューヨークに飛んだ安倍総理。方や、トランプ氏に「教え諭す」ように、上から目線で説教するメルケル首相。トランプ氏が「誰と仲良くするか」については、既に現段階で勝敗が見えてしまっていますね。

経済運営で失敗続きの習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席、自身のスキャンダルで失脚寸前の朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領と並び、次期トランプ政権のテーマは「米独対立」「米中対立」「米韓対立」、ということになるのかもしれません。

2016/11/18 14:00追記

他の英字メディアも安倍・トランプ会談を「トップ扱い」で報じています。これについては本日付で『(追記あり)英米メディア、相次いで安倍・トランプ会談を報道』を掲載しておりますので、そちらも是非、ご参照ください。

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