フィリピンのドゥテルテ大統領が日本にやってきて、天皇陛下に謁見したうえで、安倍総理との濃密な会談を予定しています。ドゥテルテ氏といえば極端に反米的な言動や、中国との急接近などが報じられていますが、それらをどう考えるべきなのでしょうか?

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    ここからが本文です。

    本題の前に「日韓通貨スワップ協定」

    本日の「本題」はフィリピン大統領の訪日についてですが、その「本題」に入る前に、私が非常に大きな関心を寄せているテーマに関する最新報道に触れておきたいと思います。

    韓国企画財政部次官補「韓日通貨スワップ、ウォンをドルで借りる形になる可能性大」2016年10月24日16時20分付 中央日報日本語版より)

    韓国の「大手メディア」とされる中央日報の報道によれば、韓国政府「企画財政部の次官補」が24日(月曜日)、記者団に対して「韓日(日韓)通貨スワップは自国通貨を預け入れて(米)ドルで借りるスワップとなる可能性が高い」と述べたのだそうです。記事の中で発言者が名前入りで特定されている以上、この役人がそのように発言したこと自体は事実であると見て良いでしょう。しかし、この記事についての重要なポイントは、そこではありません。

    記事のタイトルに「ウォンをドルで借りる」とあります。これは、日韓通貨スワップの本質を突いたもので、韓国政府が現在、深刻なドル不足に陥っているとする私の仮説とも整合します。従来の中央日報や韓国政府の説明では、「日韓通貨スワップ協定は日韓双方にメリットがある」はずだったのですが、この記事のように、記事タイトルなどに韓国側の「ホンネ」が出てしまうことがあります。つまり、日韓通貨スワップ協定が「外貨不足に陥りやすい韓国に対する実質的支援」であることを、まさに「語るに落ちる」と言って良いでしょう。

    また、日韓通貨スワップ協定に関する報道の多くは、日本側ではなく韓国側から出て来ており、日本国内では慰安婦問題を捏造したほどの「親韓派メディア」(?)である「朝日新聞」を含め、スワップに関する続報はほとんど出て来ていません(※もっとも、朝日新聞の場合は「親韓派」というよりは「反日派」と表現した方が正しいかもしれませんが…)。以前も「日韓スワップ「500億ドル」の怪」で説明したとおり、「飛ばしまがい記事」も含め、多くの「続報」が、日本からではなく韓国から出て来ているという事実は、それだけ韓国政府の「焦り」が深いことの裏返しなのかもしれません。

    フィリピン大統領の訪日

    冒頭で余計な話題(笑)を紹介しましたが、ここからが本日の重要な本題です。外務省の発表によると、本日からフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が日本を訪問し、天皇陛下が謁見になられるとともに、安倍晋三総理大臣との首脳会談と夕食会が開催されます。

    ドゥテルテ・フィリピン共和国大統領の訪日(2016年10月11日付 外務省ウェブサイトより)

    ところが、このドゥテルテ氏、ずいぶんと過激な言動を繰り返しているようですし、つい先日も習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席の前で、ポケットに手を突っ込み、ガムを噛んでいるかのような無礼さを働いたばかりです。日本の政治家が先日、「ドゥテルテ氏が天皇陛下に無礼を働かないかが心配だ」と述べたほどですが(さすがにドゥテルテ氏が天皇陛下の前でそれをやれば、同氏には直ちにお引き取りいただくべきでしょうが)、実は、同氏の来日には重要な意味があります。そこで本日は、このフィリピン大統領の訪日の意味について考えてみましょう。

    フィリピンの地政学的位置付けと経緯

    議論に入る前に、フィリピンの地政学的な位置付けを見ておきましょう。

    地図を広げると、フィリピンは台湾の南方約400kmに位置し、西に南シナ海、東に太平洋があります。歴史的にみると、イスラム文明の影響も強いのですが、16世紀にスペインの植民地となったのちに、19世紀にはいったん独立したものの、すぐに米国の植民地化。さらに第二次世界大戦に巻き込まれるなどの混乱の末に、終戦直後に独立したという経緯があります。

    ジャーナリストの有本香氏などが10月21日(金)付のインターネット番組「真相深入り!虎ノ門ニュース」で話したところによれば、歴史的経緯もあり、国民の多くはイスラム教に近い風俗を有しているものの、国の支配層にはキリスト教徒が多く、実質的に国家が「支配者層」と「非支配者層」に分断されている状況にあります。また、エリート層は米国で教育を受けているケースが多く、実際、政府関係者をはじめとする社会の上流階級には英語が堪能な人が多い一方、経済の主導権を握っているのは華僑であるなど、フィリピン社会は非常に複雑です。

    フィリピンでは庶民とエリート層の対立構造の一方で麻薬・誘拐といった犯罪がはびこるなどの多くの問題を抱えていますが、こうした困難な状況の中で、ドゥテルテ大統領はフィリピンという国の混乱を収拾し、経済発展させていかなければならない状況にあります。また、そのフィリピンは、中国が着々と軍事基地化を進める南シナ海に直面する「要衝」でもあります。

    日本はそんなフィリピンと、どのように付き合っていくべきなのでしょうか?

    ドゥテルテ氏の中国急接近をどう見るか?

    まず、このドゥテルテ氏が「中国に急接近している」と報じられています。

    事実、ドゥテルテ氏はフィリピンという地政学的要衝の大統領という立場にありながら、日本を訪問する前に中国を訪れ、「領土問題はいったん棚上げにする」だの、「南シナ海を中国と共同開発する」だの、事実だとしたらとんでもない「合意」をした、などと報じられています(次の産経ニュースの記事なども参照)。

    南シナ海、中国と共同開発 ドゥテルテ氏表明、新華社報道(2016.10.17 23:19付 産経ニュースより)

    ただし、これについてはそこまで深刻に考えるべきではないかもしれません。

    まず、これを「報じた」のが「新華社通信」であるというのが一つのポイントです。中国のメディアはほぼ「国営」ですし、その「国営メディア」が報道するのであれば、中国にとって都合の良い内容が中心であろうことなど、容易に想像がつくものです。

    実は、現在の中国はかなり追いつめられています。その一つの例は、「PCA判決」です。ドゥテルテ大統領の前任のアキノ政権時代に、フィリピンは南シナ海での領有権を巡ってオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(Permanent Court of Arbitration, PCA)に提訴。ドゥテルテ大統領が就任した直後の7月12日には、中国が主張する「九段線」等に事実上の違法判決が下されました。

    ドゥテルテ氏が必ずしも「親中反米」とはいえない

    今のところ中国当局は、PCA判決を守る意思を示していませんが、このこと自体、中国にとっては非常に「困った状況」となっています。言い換えれば、フィリピン側はこれを強い政治的交渉材料にすることができる、ということです。その意味で、ドゥテルテ大統領がPCA判決をダシに、中国からの経済支援を引っ張るという行動に出ても、何ら不思議ではありません。

    ただ、ドゥテルテ氏を巡っては、もう一つの問題があります。同氏が中国に強い親近感を抱いていることは想像に難くありませんが、それとともにドゥテルテ氏の大きな特徴は、反米的な言動を繰り返していることは事実です。

    「米国にさよなら」フィリピン大統領、中国への傾斜鮮明に(2016年10月20日 10:55付 AFPBBニュース)

    現在のフィリピンの国益を考えたら、本来、「米国にサヨナラ」など言っている場合ではありません。しかし、韓国で反日感情が強いのと同様、フィリピンで反米感情が強いという事情を踏まえるのであれば、ドゥテルテ氏の一連の反米的言動は、一種の「フィリピン国民向けのアピール」だと見るのが正解ではないかと考えています。

    フィリピンと韓国との類似性と相違点

    「韓国」というキーワードが出たので、ついでに申し上げておけば、そもそも論として、日米両国にとって、フィリピン、韓国は非常に良く似た位置付けの国です。フィリピンでは歴史的な経緯もあり、国民レベルでは極めて反米感情が強く、また、韓国は歪んだ歴史教育の影響もあり、国内の反日感情には根強いものがあります。そして、両国はいずれも、日米両国側に留まるのか、中国に靡(なび)くのかが揺らいでいる状況です。

    (なお、この両国の特徴については、今月前半に「フィリピンと韓国、厄介な国々」でも触れていますのでご参照ください。)

    安倍総理の役割とは?

    もちろん、ドゥテルテ氏の一連の反米発言は、米国からも「しかるべき説明を求める」などの反発も生じています。しかし、これまでの報道や状況から判断すると、単純に「ドゥテルテ氏は親中反米である」だとか、「このままではフィリピンは反米・親中国家になる」だとかいう、単純なものではないことは間違いありません。

    ただし、フィリピンは治安も悪く、社会格差も深刻であり、落ち着いて経済成長政策を取るよりも先に、麻薬の撲滅等を優先させなければならない状況にあります。このように考えていくならば、ある程度、強権的な手段で国内の治安を回復させ、社会不安を鎮静化させるという「強力な指導力」を持ったドゥテルテ氏は、国内の不満を優先的に抑えなければならない立場にある、とも考えられます。いかに「強力な指導力」があろうが、国内のエスタブリッシュメントを敵に回せば、フィリピンの歴代政権と同様、すぐに倒れてしまうからです。

    これに加えて、米国はオバマ政権が末期のレームダック状態に入っています。ドゥテルテ氏が米国を挑発するような言動を取ったとしても、米国はフィリピンを強くたしなめることが難しいのが実情でしょう。しかし、ドゥテルテ氏の一連の言動は、中国が地政学的重要性に挑戦する状況の中で、「日米を中心とする海洋同盟の結束を乱す」という行動にほかなりません。

    そこで、なかなか興味深い報道が出てきました。

    As Duterte embraces China, Japan’s Abe set to roll out warm welcome(米国東海岸時間2016/10/21 8:05付 ロイターより)

    ロイター(英語版)によると、安倍総理はドゥテルテ大統領の日本滞在中に、一種の「密室会議(private personal meetings)」を計画しているのだそうです。

    不思議なことに安倍総理は、プーチン氏をはじめとする「こわもての指導者」らと仲良くなることが得意なようです。こうした状況を踏まえると、今回も安倍総理におかれては、是非ともドゥテルテ氏とうまく仲良くなり、フィリピンを「日米同盟側」に留めおくだけの個人的な信頼関係を築き上げてほしいものです。

    対中牽制という観点からは微妙な二カ国

    国際戦略の専門家で、米戦略問題研究所(CSIS)の前上級顧問のエドワード・ルトワック氏は、「中国4.0」(2016年3月刊行、文春新書、206ページ)の中で、2008年のリーマン・ショック以降、どうやら中国の指導部が「沈みゆく米国と浮上する中国」という勘違いを抱いたと指摘されています。

    確かに当時の中国は、毎年8%を超える経済成長を達成していましたし、これに対して米国はリーマン・ショックの余波で経済成長が鈍化していました。中国人からすれば、「米国の時代は終わった、これからは中国の時代だ」と勘違いしても不思議ではない状況でした。

    しかし、だからといって、中国が米国を追い抜いて世界最大の経済大国になるというとなれば、現在の「覇権国家」である米国が簡単にそれを許すとは考えられません。必然的に、中国が「偉大なる中華の再興」という目標を掲げれば、米国と衝突することは避けられないでしょう。

    また、中国が軍事的・経済的な台頭を目指した場合、中国にとって真っ先に「邪魔」になる国は日本です。その意味で、日本の現在の安倍政権が中国を一種の「仮想敵国」と置いているのは国家戦略論として正しく、また、日米両国が中国以外のアジア諸国をどこまでたくさん「味方」にすることができるかが勝負になります。

    その意味では、「米国の同盟国」でありながら強い反米感情を持つフィリピンは、米国にとっては非常に厄介な国です。その国の大統領が反米姿勢を明確にしているにもかかわらず、米国の方からおいそれと「切る」わけにはいかないからです。

    そして、さしずめ、米国にとってのフィリピンとは、日本にとっての韓国のようなものでしょうか?韓国は国際社会において、国民・政府を挙げて、やたらと反日的な言動を繰り返す国です。

    いずれにせよ、フィリピンを巡っては、大統領と安倍総理が個人的な信頼関係によりつながっておくことは、日本にとって悪いことではありません。私も個人的に、是非、これからの訪日が成功裏に終わることを願いたいものです。

    追記:え?あの「中日新聞」がこんなまともな社説を!?

    19:00追記です。ドゥテルテ大統領の来日を巡って、非常に参考になる社説が掲載されていました。

    比大統領来日 法の支配を共通項に(2016年10月25日付 中日新聞より)

    リンク先の記事の内容を私の文責で簡単に要約すると、

    • 犯罪者の超法規的処刑、反米、親中などの行動で注目を集めるフィリピンのドゥテルテ大統領に対し、日本政府は彼のしたたかな外交に惑わされず、筋を通した主張をすべきだ
    • ドゥテルテ大統領は訪中により、中国の弱みをうまく利用して「実」を取った格好だが、それでも南シナ海での紛争当事国でもあるフィリピンの態度の変化は、「航行の安全」を主張してきた日米両国には簡単に受け入れられるものではない
    • ドゥテルテ大統領の米国に対する暴言の数々は、国際的にフィリピンの信用をなくしかねない行為である
    • 超法規的な麻薬撲滅運動が国内的には圧倒的な支持を得ていることは事実だが、法の支配を堅持する日本としての憂慮を伝えるのは当然のことだ

    といったものです。何でしょうか、中日新聞の「くせに」、この非常に「まとも」な主張は…?(笑)私にとって、中日新聞は極端な「左派メディア」である、という印象が強いのですが、残念ながら(笑)、この中日新聞の社説に関しては、私としては反論すべき点が一点もありません。この長さの文章としては極めて優れた社説だと言って良いでしょう。中日新聞にもこんな優れた社説を書く人がいらっしゃるとは、驚きであるとしか言いようがありません。

    ※本文は以上です。

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