改札を撤去した韓国の鉄道の失敗

本日は、「大手メディアの報道であっても批判的に読むこと」の大切さを痛感する、ちょっとした「小ネタ」を見つけたので、アーカイブ的に記録しておきたいと思います。4年前に「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された「IT強国・韓国」という記事の信憑性を覆す新しい証拠がまた出てきてしまいました。果たして、大手メディアであっても常に正しい報道が出てくるものなのでしょうか?

「韓国はなぜ電子政府世界一なのか?」

無駄に上から目線の記事

少し古い記事ですが、雑誌「週刊ダイヤモンド」で有名なダイヤモンド社が運営するウェブサイト「ダイヤモンド・オンライン」に、約4年前、こんな記事が掲載されました。

改札を機械化する日本、改札をなくす韓国――情報化の本質とは何か(2012年5月29日付 ダイヤモンド・オンラインより)

リンク先は、廉宗淳氏という人物が寄稿したものです。記事掲載当時の肩書きによれば、どこかのIT会社の社長らしいのですが、リンク先記事は「日韓両国の情報化を相対的に考える」といいながら、結局は「情報化の本質を韓国に学ぶべきだ」と主張する記事であるように見えます。この記事を私自身の文責で内容を要約しておきますと、

「日本は鉄道の改札システムにカネを掛けているが、韓国では思い切って改札をなくした。本当に優れているのは、大金を払ってシステムを導入する日本ではなく、合理的な韓国の方だ」

といったところでしょうか?実際、韓国の高速鉄道「KTX」は、2009年に全ての駅から改札をなくしたそうです。これについて著者は、

「私は、なるほど、『駅務の自動化』を突き詰めるとこういうことになるのかと思いました。高度に機械化された改札装置を各駅に設置するのではなく、車掌に使いやすい端末を持たせて、全駅の改札を廃止してしまう。非常に合理的です。」

と述べていますが、「改札ごときに大金を払う日本企業の硬直性」、「改札をなくしてIT化対応するという韓国鉄道公社の柔軟性・合理性」を対比させています。日本人が読むと、この無駄な「上から目線ぶり」に不快感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

IT化には続きがあった!

ところが、本日はこの「続き」の記事を、意外なところから発見しました。

韓国鉄道の無賃乗車、毎年30万人…1日平均820人(2016年09月25日11時14分付 中央日報日本語版より)

リンク先の記事は、韓国の大手メディア「中央日報」が運営する日本語版ニューズサイトです。韓国の国会議員で「国土交通委員会」に所属する鄭容基(てい・ようき)議員が韓国鉄道公社から提出させた「列車不正乗車摘発実績」によると、

  • 切符を買わずに列車に乗る「不正乗車」の件数は毎年約30万件
  • これによる韓国鉄道公社の損害は、日本円換算で毎年約4億円弱
  • 1日平均にすると820人が無賃乗車している計算
  • 不正乗車が最も多く摘発される列車のうち、KTXは毎年約10万件

ということです。どうして私がこのニュースに注目するのかといえば、まさにこれは上記の「IT化」のストレートな効果だからです。何のことはない、改札を撤去したことで不正乗車が激増した―。ただ、それだけのことです。リンク先記事によれば、不正乗車による鉄道会社への損害額は「日本円換算で年間約4億円」とのことですが、これはあくまでも「摘発された金額」だけです。私の邪推ですが、摘発されていない金額を含めれば、この数倍、あるいは数十倍の不正乗車が行われていたとしても不思議ではありません。

不正確な記事は有害

冒頭に引用したダイヤモンドの記事では、「韓国交通公社が自動改札を撤去した」のは、「韓国のIT化が進んでいるため」だという主張がなされていましたが、韓国国内の報道を読む限り、この認識は大きな間違いであるようです。

韓国の2つの報道

ダイヤモンドの記事が掲載されるよりも3年前の時点で、「セルフチケットによる不正乗車が増加している」とする記事が公表されています。

鉄道セルフチケット導入後不正乗車増加【※韓国語】(2009-09-16 14:26付 NAVERニュースより)

グーグル翻訳等をベースに内容を要約してみると、

リンク先記事は韓国語のNAVERニュースですが、翻訳サイトを使って内容を解読してみると、

  • 韓国鉄道公社資料によると、2008年の改札撤去以降、不正乗車が急増している
  • 国会議員が鉄道公社から提出を受けた資料によると不正乗車摘発件数・被害額は次の通り
  • 2006年:46,000人/6億5900万ウォン
  • 2007年:79,000人/12億5300万ウォン
  • 2008年:234,000人/22億6200万ウォン
  • 鉄道公社は改札ボトルネックを軽減するために、2008年から改札撤去を開始し、2009年8月には全ての改札を撤去した
  • 2009年基準で不正乗車率はKTXで千人当たり3.9人、一般列車で千人当たり2.6人
  • この議員は「摘発されていない場合を考慮すると、不正乗車人員はより多いと予想される」などと指摘している

というものです。また、その後の推移についても、次の記事が参考になります。

KTX無賃乗車、罰金●●突っ張ることの利点【※韓国語】(2014.01.24 14:52付 Money Weekより。タイトル「●●」部分は翻訳できなかった箇所)

これも韓国語のニュースですが、翻訳サイトを使って内容を解読してみると、

  • 国会議員が鉄道公社から提出を受けた資料によると、2008年から2013年9月までの不正乗車に摘発された列車の切符は111万9266枚、金額では169億8100万ウォンに達した
  • 5年9カ月で最も不正乗車が多かった路線は京釜線
  • 枚数で一番多かったのは「ムクゲ号」の48万3289枚で、金額で一番多かったのはKTXの107億7100万ウォンだった

とあります。そして、

「KTX不正乗車に摘発されても料金を払わずに持ちこたえることがより有利であると明らかになり、制度の改善が急がれることが分かった」

と指摘されています。

いい加減な情報は社会にとって有害

以上で見たとおり、どうやら韓国・KTXの「無改札化」の正体とは、「IT化」などではなく、「改札機がうまく作動しないため、やむにやまれず撤去した」、というのが実情に近いとしか思えません。

冒頭のダイヤモンドの記事(2ページ目)には、次の下りが出てきます。

「私が、「予約をとらずに駅に来た人は、そのまま不正乗車できてしまうのでは?」と答えたところ、車掌は、手元にあるハンディターミナルを見れば、どの席が空席かはわかるし、駅と駅の間の区間が長いので、不正乗車が分かれば走行中の列車から逃げることはできない。確かに不正乗車はゼロではないが、取り締まることはできるし、ある「かも」しれない不正を防ぐために、すべての駅に改札を設け、高額な改札装置を設置し人員を置くのはコストのムダだと説明しました。」

少し厳しい言い方ですが、この記事のように、相手が喋っていることをそのまま記事にするだけなら、誰にでもできます。しかし、よく調べてみると、実態は全く異なっているのです。このような記事が「ダイヤモンド」という「大手メディア」に堂々と掲載されてしまうと、それを信じてしまう読者だっているでしょう。はっきり言えば、不正確な記事は、時として有害ですらあります。

いずれにせよ、私はせっかく自分のウェブサイトを持ち始めたのですから、この手の「一流誌」「大手ウェブサイト」に掲載される記事の信憑性について、きちんと検証するということは、一種の「ライフワーク」として続けていきたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 黒猫のゴンタ より:

    廉宗淳氏のこの記事って、昔2chで散々バカにされたやつですw
    ttp://kimsoku.com/archives/7132436.html
    ・自動改札機はサムスン製で故障ばっかりで撤去
    ・機械式の改札作ったんだが使い物にならなかっただけだよ
    ・メンテ体制作ってなかったせいで運用頓挫
    ・この類の車掌のハンディ端末はJRでは80年代には実用化
    ・そんな説明で済ませてしまう韓国人。
    そんな説明で納得してしまう自称評論家、
    ・無能さを美談に
    これがこの話の本質

    機械有るものは必ず機事あり
    機事有るものは必ず機心あり
    便利な機械に頼ると本来の五感が衰え、天真爛漫に生きられない
    便利な世の中も考え物なのだよと、荘子様はおっしゃったけど
    機械は一旦できてしまうと、なかった昔には戻れないのですよね

    ただ、自動改札機は一基2000万円もするそうで
    メンテの費用だって馬鹿にはならないでしょう

    「うちの県、自動改札機がいまだにないんだけど…」
    ttp://j-town.net/tokyo/column/allprefcolumn/193393.html?p=all

    4億円の無賃乗車を防ぐため20台の改札機を入れるか?
    改札機のメーカーがそれだけ商売できる経済効果もあるし
    いやいや、人心の荒廃を防ぐという事の方がもっと大事・・・

    そもそもどう考えても性善説に一番そぐわない民族だろうになあ

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