各国中央銀行のマイナス金利政策(Negative-Interest Rate Policies, NIRPs)

マイナス金利政策を採用している通貨圏は、2016年3月末時点で欧州4つ(デンマーク、ユーロ圏、スイス、スウェーデン)と日本。

欧州のマイナス金利政策

欧州を中心とする主要国の「マイナス金利政策」(Negative interest rate policies, NIRPs)の状況は2016年3月末時点で次の通り。

国・通貨圏 金利種別 時期 金利 備考
デンマーク CD金利 2012/07 -0.2% 左図は主な動きのみ。デンマークは条約によりユーロ圏との事実上の為替・ペッグを行っている
2015/02 -0.75%
2016/01 -0.65%
ユーロ圏 デポジット・ファシリティ 2014/06 -0.1% ユーロ圏の場合、「国債」が複数存在しているため、日米英と比べて「量的緩和」(QE)政策の採用が容易ではない
2014/09 -0.2%
2015/12 -0.3%
2016/03 -0.4%
スイス 要求払預金勘定 2014/12 -0.25% スイスは2015年1月、約3年続けた対ユーロ・ペッグを突如として破棄(スイス・ショック)
2015/01 -0.75%
スウェーデン レポ金利 2015/02 -0.1% デポジット金利はレポ金利より0.75%低い水準に設定されているため、2014年7月時点で既にマイナス化
2015/03 -0.25%
2015/07 -0.35%
2016/02 -0.5%

(【出所】各国中央銀行ウェブサイトより著者作成)

ユーロ圏のマイナス金利政策の背景

一般に中央銀行が操作できるのは「短期金利」に限られており、これらは物価の安定などを目的に中央銀行が政策として行うものとされる。教科書的には景気上昇期には利上げをして景気の過熱を防ぎ、不況期には利下げにより消費・投資を喚起するのが中央銀行の役割とされている。特に景気後退はデフレを伴うことが一般的であり、中央銀行が利下げを行うのはインフレ目標を達成するためという側面もある。また、利下げしてゼロ金利になってしまっても、なおデフレ基調が止まらない時には、中央銀行は「量的緩和」(国債などの安全資産の購入)によりマネタリーベースを拡大し、インフレ目標を達成しようとする。さらに景気過熱期に金融機関が巨額の融資を行ってしまい、バブル崩壊後に金融機関が巨額の不良債権を抱えていた場合には、金融政策が効力を発揮しないことがある。このため、金融機関に資本注入を行い、不良資産に時価会計や厳格な償却引当を適用することで金融機関の経営の健全性を回復しなければならない。

しかし、ユーロ圏の場合、次の問題から伝統的な金融政策の採用が困難である。

問題点 概要 備考
共通通貨圏であること ユーロは共通通貨であり、域内にはドイツなどの財政黒字・貿易黒字国やギリシャなどの財政赤字・貿易赤字国が同居している(ユーロの本質的問題点「財政政策と金融政策の断絶」)。このため、日米英と比べて中央銀行が「買入」を行うことができる債券の種類、供給額は限られている ユーロ圏は共通通貨圏であるにも関わらず、財政の統合を行っていないため、財政力が弱い国では国債の「デフォルト」が現実に発生し得る
不良債権問題 ユーロ圏を中心に上場している企業が利用している会計・財務報告基準「IFRS」は金融機関の不良資産・不良債権隠しを合法化する金融商品会計基準「IAS39」の下で巨額の不良資産を抱えていると考えられており、それから数年が経過してしまっているため、金融システム自体の健全化がますます困難になっている 支離滅裂なことで有名な会計基準「IFRS9」の使用については、2016年第Ⅲ四半期末時点でEU域内において非合法である

つまり、本来ならば国債等の買入を柱とした量的緩和(QE)と金融機関の不良債権処理を「車の両輪」として進めなければならないところ、ユーロ圏はこの双方の政策を中途半端にしか実施できていない。つまり、欧州中央銀行(ECB)が2014年6月に採用したマイナス金利政策は、いわば「苦肉の策」である。

デンマークのマイナス金利政策の背景

一方、デンマークはマーストリヒト条約に参加していないものの、同国通貨は「欧州為替相場メカニズム(ERMⅡ)」に従い、1ユーロ=7.46038クローネを中心に上下約0.1%でのペッグが続けられている。しかし、ユーロ危機から「安全資産」を買う動きが続いたことから、デンマークがユーロ圏に先駆けて2012年7月にマイナス金利政策を導入したことは、いわば自国通貨が買われ過ぎることを防ぐ目的である。

スイス、スウェーデンのマイナス金利政策の背景

スウェーデンは欧州連合(EU)加盟国でありながら、ERMⅡに参加しておらず、したがって、自国通貨をユーロとペッグさせる義務はない。また、スイスはEU加盟国ですらない。このため、本来ならスイス、スウェーデンともに、ユーロと自国通貨との為替相場を無視して自由に金融政策を決定して良いはずである。しかし、スイスは周囲をユーロ圏に囲まれており、スウェーデンも事実上、ユーロ圏(とEU非加盟国であるノルウェー)に挟まれているため、両国ともユーロとの為替相場が急変動することは望ましくない。ユーロ圏がマイナス金利を導入して以降、両国ともに同様にマイナス金利の導入を余儀なくされているが、これは自国に巨額の資金流入が発生するのを防衛する目的もあると考えられる。

なお、スイスは2012年に1ユーロ=1.20フランのペッグ制度を臨時的に導入したものの、もともとスイスは「資本移動の自由」と「中央銀行の金融政策の独立」を重視する国であり、為替相場についての安定を図ることはそもそも不可能であった(「国際収支のトリレンマ」の項を参照)。おそらく為替防衛に耐えられなくなったためだろうか、2015年1月、スイスの中央銀行(SNB)は、3年間続けたユーロペッグ政策を突如として放棄。為替相場が大混乱に陥るというショックが発生している(いわゆる「スイス・ショック」)。

日本銀行のマイナス金利政策

日本経済の20年の歩み

一方、日本では1990年代に当時の大蔵省による「総量規制」という政策ミスにより不動産バブルが崩壊。日経平均株価は4万円台から一気に半額にまで下落するなどし、同時に社会全体に停滞モードが発生した。また、1990年代後半には「住専」問題をはじめ、金融機関の「不良債権」が社会問題化。自民党・橋本龍太郎政権が1997年4月1日に消費税率を3%から4%(+地方消費税1%)に引き上げたことで、日本経済は極度のデフレ体質に落ち込んだ。

こうした中、日本銀行がゼロ金利政策と量的緩和政策に踏み切るとともに、2000年代初めに時価会計や金融検査マニュアルなどによる金融商品会計の厳格化が行われ、さらに都市銀行の大部分は経営再編によりメガバンク化した。こうした自助努力により日本の金融システムは小泉政権末期の2005~2006年頃には最悪期を脱した。

しかし、今度は2008年3月の「ベア・ショック」、同年9月の「リーマン・ショック」による世界的な金融危機の波が押し寄せ、翌2009年8月には「マス・メディア」の偏向報道の末に民主党政権が発生。さらに2011年3月には東日本大震災と、時の首相・菅直人による福島第一原発爆破事件が発生し、日本経済は再び「どん底」に叩き落された。さらに、2012年7月には、民主党・野田佳彦政権が民主党の政権公約にない「消費増税」を決断した。

政権交代後、自民党・安倍晋三政権は黒田東彦・ADB総裁を日銀総裁に抜擢。2013年4月に始まった「異次元緩和」(QQE)により、積極的な国債買入が行われた。しかし、野田政権下で決まった消費増税を安倍政権は覆すことができず、2014年4月から消費税率は4%から6.3%へ(地方消費税率は1%から1.7%へ)と引き上げられ、せっかくの「アベノミクス」も腰折れした。

マイナス金利政策は正しいのか?

日本銀行としては、「年間80兆円に相当するペースでのマネタリーベース拡大」、「ゼロ%金利政策」などを続けてきたが、ついに2016年1月、マイナス金利政策の採用に踏み切った。しかし、このマイナス金利政策は、ECBをはじめとする欧州諸国のマイナス金利政策(NIRPs)とは全く質が異なるものである。

区分 概要
ECBの場合 ユーロという通貨自体の設計不備により、中央銀行としてできる政策(例:QE)などに限界があり、また、IFRSというインチキ会計基準により莫大な不良債権を抱えている民間金融機関の経営健全化・破綻処理が抜本的に遅れている状況にある。つまり、ECBのマイナス金利政策は「中央銀行として、他にやるべきことをやっていない」という状況で導入されたものである
デンマークの場合 ERMⅡという一種の「国際協定」により、為替相場の安定を図る必要があるため、デンマークは他のユーロ圏からの資本流入を防ぐ目的で、やむなくマイナス金利の導入を余儀なくされている。また、BREXITなどの市場混乱の際には、巨額の為替介入(おもに自国通貨売り・ユーロ買い)を余儀なくされている
スイス、スウェーデンの場合 スイス、スウェーデンには、いずれも、ユーロとの為替ペッグの義務はないが、自国通貨がユーロに対して強くなり過ぎるのを防ぐために、やむにやまれずマイナス金利政策の導入を余儀なくされている。また、スイスはマイナス金利政策にもかかわらず、ユーロという「巨人」からの資金流入を防ぐことに失敗。金融政策の独立と為替相場の安定という二つの政策目標を侵害されている
日本の場合 金融機関の不良債権処理・健全化、事業再編などを通じた金融機関の健全化・資本強化の動きは継続的に行われており、ゼロ金利政策や量的緩和政策など、中央銀行としてできる他の全てのことを行ったうえで、マイナス金利政策に踏み切ったもの。なお、本来ならば「車の両輪」であるところの「財政出動」が望まれるが、「国の借金1000兆円」という意味不明なプロパガンダを垂れ流す財務省の力は依然として強く、安倍政権が財務省の影響力をどこまで排除できるかにも注目したい

日本経済をデフレから脱却させ、活性化するには、本来ならば「消費減税や国債の大幅な増発」という財政政策が望ましいところだが、日本の場合、財務省が「増税至上主義」を掲げ、「国債は国の借金であり、日本の財政は危機的状況だ」などと誤った理論を各方面に吹聴している。日本経済新聞を初めとする不勉強なマス・メディアは、完全に財務省の「プロパガンダ」のコントロール下に置かれており、短期的に財政政策を通じた日本経済の再生は難しい。そこで、マイナス金利政策という「カンフル剤」に中央銀行が手を出したことの勇気については称えたい。ただし、日銀によるマイナス金利政策の導入(2016年1月29日)以前から、既に日本国債市場ではマイナス利回りが常態化しており、QQEとマイナス金利政策を継続すれば、日銀の財務健全性にも影響が生じてくるため、政策の継続余地はそれほど大きくないと見るべきであろう。

一種の「ツイスト・オペ」

日本銀行は今月の政策決定会合で、従前のQQEやマイナス金利政策に加え、長期金利のコントロールを打ち出した。一方、米国では2011年9月のFOMCで、FRBがバランスシートを拡大させずに長期金利を抑制する「オペレーション・ツイスト」(短期債を売り、長期債を買う政策)を決定したことがあるが、日銀としては、この「ツイスト・オペ」も参考にしているのかもしれない。いずれ近い将来、QQEにも限界が来るが、こうした状況に備えてイールドカーブ全体をコントロールする手法を今のうちから布石として打っておくことは賢明だと考えている。

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