北朝鮮の核開発と金融

北朝鮮の核開発問題については、安全保障上、日本の直接の脅威となることは間違いありませんが、それだけではなく、世界中に核兵器が拡散されるリスクを高めています。しかし、日本は北朝鮮に対し、軍事的に直接、制裁を下すことができません。まずはこの事実をしっかりと認識することが必要です。私は改めて「交戦権」を禁止した憲法第9条第2項の撤廃を呼びかけたいと思います。

北朝鮮の核開発問題を考える

北朝鮮は今年8月以降、相次いでミサイル発射と核実験に踏み切っており、あろうことか北朝鮮の軍参謀は「グアムを地球上から消す」などと発言するなど、地域の緊張が高まっています。ただし、冷静に考えていくならば、北朝鮮が核開発する目的とは、本当に「グアムに向けて核兵器を発射する」ことではなく、「死の商人」として儲けることにある、と考えるべきでしょう。これについて、順を追って考えていきます。

北朝鮮に「グアムを消し去る能力」はあるのか?

北朝鮮の「グアムを地球上から消す」という発言については、多くのメディアでも引用されているため、目にしたかたもいらっしゃるでしょう。

「グアムを地球上から消す」 北が「核攻撃」警告(2016.9.22 22:42付 産経ニュースより=共同通信配信)

共同通信配信記事によると、北朝鮮の「朝鮮人民軍」参謀本部は22日、

「ソウルを灰の山にしグアムを地球上から消す」

と「警告」したそうです。実際に北朝鮮がグアムに向けてミサイルを発射したら、その瞬間に米国は北朝鮮を制圧するでしょうし、北朝鮮当局者もそのことは良く理解しているでしょうから、こうした「警告」には現実味などありません。しかし、最近の相次ぐ北による核実験やミサイル発射実験などを見ている限り、北朝鮮が(原始的ながらも)核兵器を所持し、さらにそれを運搬する手段であるミサイル技術を高めるなど、軍備を急激に整えつつあることは間違いありません。

外務省、防衛省、首相官邸ホームページ等から過去の北朝鮮による核開発・ミサイル開発について、履歴を拾ってみると、過去に核実験が5回、ミサイル発射が9回実施されています(図表1)。

図表1 北朝鮮による核実験とミサイル発射
日付出来事
2006/07/05(水)ミサイルの発射
2006/10/09(月)核実験
2009/04/05(日)ミサイルの発射
2009/05/25(月)核実験
2009/07/04(土)ミサイルの発射
2012/04/16(月)ミサイルの発射
2012/12/12(水)ミサイルの発射
2013/02/12(火)核実験
2014/03/03(月)ミサイルの発射
2016/01/06(水)核実験
2016/02/07(日)ミサイルの発射
2016/08/03(水)ミサイルの発射
2016/09/05(月)ミサイルの発射
2016/09/09(金)核実験

【(出所)外務省、防衛省、首相官邸ホームページ等から著者作成。ただし、特に外務省はリンク整備が不十分・不完全である点には要注意】

軍事上、いくら高性能な爆発力を有する爆弾を製造したとしても、それを敵対国に運搬する手段がなければ、兵器として成り立ちません。したがって、「実戦向きの核兵器」ということであれば、核とミサイルの開発はセットで行われるのが通常であり、実際、核実験とミサイル発射がほぼ交互に行われているのが確認できると思います。そして、金正恩(きん・しょうおん)政権に交代してから、金正日(きん・しょうじつ)時代と比べて核実験・ミサイル発射の頻度が高まっています。おそらく、北朝鮮は既に、少なくともグアム島あたりまで命中させる精度をもったミサイルを手にしていると見るべきです。そして、原始的とはいえ、核弾頭を搭載したミサイルが出来上がれば、「イザとなったら日本やアメリカを標的とした核ミサイルを発射することができる」という体制が出来上がっていることは、ほぼ間違いありません。

オバマが作る「核拡散の世界」という悪夢

ただ、北朝鮮が核開発に邁進しているのは、必ずしも日本やアメリカに核兵器を発射するためではありません。今週の「真相深入り!虎ノ門ニュース」の中で、独立総合研究所の元社長で参議院議員の青山繁晴氏が、非常に興味深い指摘をされています。リンク先の動画の38:00~57:30あたりで、青山氏はその狙いについて指摘されているのですが、これらを私自身の文責で要約しておきます。

「◆北朝鮮が核開発をする目的は、それを外国に売るためだ、◆たとえば、仮にイランなどは北朝鮮の核を買うかもしれない、◆サウジアラビアはそれに対抗してどこかの国から核を買うしかない、◆『死の商人』は対立国に対して武器を売るものだ、◆したがって北朝鮮製の核をイラン、サウジ両国が買う可能性もある」…。

もしこのあたりの議論にご興味があれば、私の拙い要約ではなく、青山氏の説明を直接、視聴してください。青山氏のこの説明は、バラク・オバマ米大統領が国連総会演説で「核なき世界」を訴えたことに対する批判の中で出てきたものです。

オバマ氏、「核なき世界」訴え(2016年 09月 21日 01:19 JST付 ロイターより)

青山氏は動画の中で、オバマ大統領が「核なき世界」の実現を訴えているという点については、はっきりと「有害だ」と指摘されていますが、北朝鮮が核開発を行う中で、「現職米国大統領」の立場にあるオバマ大統領が、自ら核の抑止力を否定する(と受け止められても仕方がない)発言を行うことは、確かに極めて有害でもあります。そして、オバマ大統領は「イラン制裁」の解除を主導した張本人でもあります。

「核なき世界」を呼びかけた米国のオバマ大統領が、結果的に世界中に核拡散の原因を作っている張本人だとしたら、実に皮肉なものだと言わざるを得ません。

サウジから見たオバマ氏

一方で、視点をサウジアラビアに切り替えてみますと、現在の米国の行動は信頼を自ら壊す行為をしています。ペルシャ湾を挟んで敵対するイランに対し、米国が制裁を解除したことは、中近東の安全保障・軍事バランスに大きな影響を与えます。もしかすると、イランは本気で、北朝鮮から核兵器を購入するつもりかもしれません。また、イラン制裁を解除したことで、イラン産の原油が市場に溢れ、原油安をもたらしています。つまり、サウジにとっては、軍事的安全(イランの核武装のリスク)、経済的利益(原油安による国家財政への打撃)という両面から、オバマ氏は「信頼に値しない大統領」なのです。

そして、何より怖いのは、万が一イランが核武装した場合には、「ドミノ倒し」とhしてサウジも核武装にも踏み切るかもしれません。原油安とはいえ、サウジもイランも産油国であり、それなりに国家予算は潤沢ですから、青山氏が指摘されるように、両国が北朝鮮から核兵器を購入するという「悪夢」にも注意が必要です。

G20による金融規制強化

オバマ氏の愚かな発言や行動により、北朝鮮が事実上、原始的ながら核武装をほぼ完成させたとみられる点については、日本にとってもゆゆしき事態です。「ノーベル平和賞」という「考えなし」の賞など、百害あって一利なしでしょう。

口座開設手続の強化

ただ、その一方で、一般人からは見え辛い重要な変化が、金融の世界で生じています。それが、金融規制の強化です。

Sound management of risks related to money laundering and financing of terrorism(2016/02/04付 バーゼル銀行監督委員会ウェブサイトより)

リンク先(英語)は、銀行監督当局の国際的な協議体である「バーゼル銀行委員会」(Basel Committee on Banking Supervision, BCBS)が公表した「口座開設に関する一般的留意点(General guide to account opening)」と題する文書に付随するもので、いわば、BCBSが本腰を入れて世界的な「マネー・ロンダリング(マネロン)規制」を徹底させようとするものです。

BCBSは銀行に対して、「顧客承認方針(Customer acceptance policy)」として、第32項において、次のことを求めています。

A bank should develop and implement clear customer acceptance policies and procedures to identify the types of customer that are likely to pose a higher risk of ML and FT pursuant to the bank’s risk assessment. When assessing risk, a bank should consider the factors relevant to the situation, such as a customer’s background, occupation (including a public or high-profile position), source of income and wealth, country of origin and residence (when different), products used, nature and purpose of accounts, linked accounts, business activities and other customer-oriented risk indicators in determining what is the level of overall risk and the appropriate measures to be applied to manage those risks.

(仮訳)銀行は明確な顧客承認方針を設定し、実施するとともに、銀行のリスク評価手続に従い、その顧客がML(マネロン)やFT(financing of terrorism、つまりテロ資金提供)の目的による可能性が高いかどうかについて評価する手続を導入しなければならない。リスクを評価する中で、その銀行はその顧客に由来する様々なリスク(バックグランド、職業(特に公務員や要職にある場合)、所得や財産の源泉、出生国と居住国が違う場合はその旨、利用している金融商品、口座の性質や目的、関連口座、事業活動等)などの要素を評価しなければならない。

特に、香港やシンガポールなど、資本の持込・持出規制がない「金融センター」などでは、こうした監視が強化されています。また、日本の場合、私自身も昨年の起業時に経験したのですが、新設法人が銀行口座を開設するためには、銀行による事前の審査が必要であり、標準で1~2週間、ひどい場合では1か月以上の審査時間が必要なようです。

当然、北朝鮮当局は偽名を持つ「工作員」「ダミー会社」を抱えていて、世界中に分散して銀行口座を保有しているとみられるものの、巨額の資金取引については国際的な監視が厳しくなり始めています。たとえば、イラン政府が北朝鮮から核兵器を購入しようとしたときに、米ドルを北朝鮮政府口座に銀行送金で振り込むということは非現実的です。巨額の資金残高のある口座については、当然、監視対象となりますし、巨額の新規口座開設は事実上、きわめて困難です。

現金を使ったやり取りは非現実的

では、銀行送金が使えなければ、どのようにすれば良いのでしょうか?

一つの手法としては、現金(銀行券)を使った支払いがあります。これは、文字通り、アタッシュケースか何かに札束を詰め込んで、核兵器の輸出代金を授受する、という方法です。ですが、現金の授受は、運搬リスクもありますし、保管リスクもあります。現金で支払う場合、その現金は国際的なハード・カレンシーに限られます。仮に「1億ドル」(日本円で約100億円)程度の資金をやり取りする場合、どの程度の負担になるのでしょうか?米ドル、ユーロ、円、ポンド、スイス・フラン、加ドル、豪ドルという「7大通貨」について「現金でのやり取り」がどの程度の負担になるかを見てみましょう。ここでは、「1億ドル」、「1億ユーロ」、「100億円」などの資金を、その国の「最高額面紙幣」で(図表2)。

図表2 1億単位の資金運搬
通貨最高額面紙幣運搬する金額紙幣枚数
米ドル100ドル1億ドル100万枚
ユーロ500ユーロ1億ユーロ20万枚
1万円100億円100万枚
英ポンド50ポンド1億ポンド200万枚
スイス・フラン1,000フラン1億フラン10万枚
加ドル100ドル1億ドル100万枚
豪ドル100ドル1億ドル100万枚

ユーロの場合は「500ユーロ紙幣」、スイス・フランの場合は「1000フラン紙幣」(!)が最高額面紙幣ですので、1億ドル相当の資金を授受するのに必要な紙幣の枚数はそれぞれ20万枚、10万枚ですが、それ以外の紙幣は全て100万枚(!)以上の授受が必要です。1万円札だけで100億円の資金を授受するためには、実に1トン(!)もの重さの紙を利用する必要があります(図表3)。

図表3 <参考>1万円札のスペック
  • お札の重さ:1g
  • お札の厚さ:0.1mm
  • 1万円札の寸法:縦76mm、横160mm
  • ⇒仮に100億円を現金で保管する場合のお札は百万枚、重量は1トン、横に並べると100メートル!

(【出所】独立行政法人国立印刷局ウェブサイトより著者試算)

また、北朝鮮の場合、工作員を使った巨額の資金授受などをしてしまえば、その工作員が多額の現金に目がくらんで行方をくらましてしまう、という可能性もあります。つまり、現金を使った授受は、私たち「素人」が思うほどは簡単ではないのです。

問題のまとめ

北朝鮮問題については、このまま放置しておくことは、わが国や世界の安全保障に重大な禍根を残します。北朝鮮の核開発を許してはなりません。ただ、日本(や日米同盟、米韓同盟など)が今すぐ「軍事的制裁」に踏み切ることも非現実的です。

北朝鮮核開発の3つの目的

北朝鮮が核兵器を完成させてしまえば、大きく次の問題点が生じます。

  • 北朝鮮が日米両国に対する攻撃手段を手に入れてしまう
  • 北朝鮮が核兵器を「外貨獲得手段」として利用することが可能
  • 核兵器が世界中に拡散してしまう

このうち、「北朝鮮による核拡散」については、幸い、(遅まきながら進行中の)金融規制の厳格化により、ある程度は歯止めをかけることができるでしょう。しかし、金融規制にはいくらでも抜け道があります。このため、北朝鮮の核問題を解決するためには、まだまだ努力は必要です。さらに日本の場合、北朝鮮によって日本国民が拉致されたままになっています。拉致問題と核問題を同時に解決するためには、北朝鮮という国家を崩壊させる以外に方法はないのかもしれません。

結局は国民の地道な努力が必要

もちろん、金融規制の強化は北朝鮮などのテロ支援国家の財政を引き締める効果をもたらします。これに加え、現在、日本が拉致被害者を取り返すために、北朝鮮に武力侵攻するという正当な権利を行使することができない、という点にあります。そのように考えるならば、我々日本国民が覚悟を決めて、「国家による交戦権」を禁じた憲法第9条第2項を撤廃する勇気を持つことが必要です。

ただし、憲法改正に踏み切ろうとするならば、日本国内でそれを阻止しようとする勢力が、死に物狂いで反対の論陣を張ることは想像に難くありません。特に、「従軍慰安婦問題」を捏造した朝日新聞社を始めとする極左メディアや日本共産党などの反日政党、さらに共産党の事実上の「別働隊」である「SEALDs」(8月15日に解散済み)やその後継勢力などが、全力を挙げて日本の正常化を阻もうとするでしょう。

しかし、これらの反日勢力を排除するのも、結局は日本国民の関心と理解です。反日勢力を排除して日本を正常化し、それにより再軍備を実現するためには、日本国民がこれに賛同しなければなりません。私たちの子供たちの世代、あるいは孫の世代に、より良い日本を引き継いでいくのは、現代に生きる現代に生きる私たち日本人の義務なのです。

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