本日2本目のエントリーです。週末に開催されていたG20会合が閉幕し、共同声明文も発表されました。しかし、この共同声明文、9ページ(※英語版の場合)という長文に及ぶ割に内容には乏しく、いわばG20会合の「形骸化」が激しく示された結果となっています。本日は普段とやや趣向を変えて、「英米メディアがG20をどう報じたか」という観点を中心としつつ、G20の今後を探っていきたいと思います。

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    ここからが本文です。

    形骸化著しいG20

    インターネットが普及したことを受けて、ひとむかし前と異なり、私のように「ジャーナリストでもない人間」が、一般社会全体に向けて政治・経済に関する意見を表明することができるようになりました。考えてみればこれも凄い話です。

    ところで、中国でG20が閉幕しましたが、予想通り、このG20は「G20自体が形骸化している」ということを如実に示す結果となりました。無駄に冗長な共同声明文(コミュニケ)(※英文)によると、

    • 強く、持続可能で均衡のとれた包括的な成長(strong, sustainable, balanced and inclusive growth)を達成することで合意した
    • 先見性(Vision)、統合(Integration)、開放(Openness)、包括性(Inclusiveness)に基づく経済成長のパッケージを実施する

    などと記載されており、抽象的すぎて、これだけでは何のことやらさっぱりわかりません。いちおう、報道等によれば「鉄鋼の過剰生産の抑制」で合意した、などの情報もあり、

    「我々は構造的な問題が存在すると認識している。これらにはいくつかの産業における過剰な生産能力があるが、それは世界経済の回復の弱さと需要の鈍化によってさらに効果が強まっている(中略)我々は鉄鋼を含めた産業における過剰生産力の問題には集団的な対処が必要だと認識した(原文:We recognize that the structural problems, including excess capacity in some industries, exacerbated by a weak global economic recovery and depressed market demand…We recognize that excess capacity in steel and other industries is a global issue which requires collective responses.)」

    (共同声明の第31項)とのくだりがあります。中国で主催したG20会合であるにもかかわらず、中国が原因となっている鉄鋼の過剰生産を牽制する内容が盛り込まれたことは、G20の数少ない成果の一つでしょうか。習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席にとっては、中国が苦手とする「中国の南シナ海への不法な海洋進出問題」がG20の議題に登らなかったことを「良し」とするしかありません。

    G20関連報道:英米メディアから

    では、今回のG20を、メディアはどう報じたのでしょうか?普通にメディアを紹介するだけだと面白くないので、ここでは敢えて英米メディアから概要を紹介しておきます。まずは、日経の子会社となってしまったものの、いちおう「編集権の独立」を保っているらしいFTの報道を紹介しておきましょう。

    G20 leaders urged to ‘civilise capitalism’(英国時間2016/09/05(月) 15:12=日本時間2016/09/06(火) 00:12=付 FTオンラインより))

    FT記事のタイトルになっている「civilise capitalism」、直訳すれば「資本主義の洗練化」です。ゴールドマン・サックスの元従業員でもあるオーストラリアのターンブル首相がテレサ・メイ英首相やバラク・オバマ米大統領らとの会合で発言したものらしく、当然、G20の共同声明にも盛り込まれていません。「ハイ・クオリティ」を自称するFTにしては、一首相の発言をG20全体の合意であるかのように報道する姿勢はいただけません。

    また、FTの記事では、中国が海洋進出等でアジア諸国から強い批判を浴びているという事実にも一切触れられていません。それどころか、習近平国家主席が「自発的に」鉄鋼の生産を削減することを国際社会に対して約束したかのような記載になっており、どうもFTは、G20を主催した中国に対して、非常に好意的な立場であるようです。欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国のメディアだけに、他国を批判することには慎重なのでしょうか?

    一方、同じ英語圏のメディアでも、米国のWSJは、比較的多くのG20関連の情報を掲載しています。そのうち、比較的大きな扱いをしていたのが、次の記事です。

    G-20 Closes With Calls to Revive Global Growth(米国時間2016/09/05(月) 13:22=日本時間2016/09/06(火) 02:22付WSJオンラインより)

    記事冒頭でWSJは

    「G20諸国の間で高まる世界経済成長を復活させるための新たな方策を求める声に対し中国は努力したものの、その成果物として公表された9ページからなる共同声明には、確固たる方策や、中国がどのような手本を見せるのかに関する記載が欠落した結果となった。(原文China rallied the Group of 20 around a call to use new levers to revive global growth, but the group’s nine-page statement was short on concrete steps and on signs that Beijing would lead by example.)」

    と手厳しい評価です。WSJの言うとおり、今回のG20コミュニケは無駄に長い割に実のある内容に乏しく、まさに「G20の形骸化」の証拠でしょう。

    米国に対する中国の地味な嫌がらせと米国の反応

    WSJといえば、他にもいくつか興味深い報道を掲載しています。まずはこちらの報道から。

    China Blames U.S. Media for Fuss Over Obama’s Arrival(米国時間2016/09/05(月) 14:14(=日本時間2016/09/06(火) 03:14付WSJオンラインより)

    既に日本の各種「まとめ」サイト等にも紹介されているエピソードなので、ご存知の方も多いと思います。外交儀礼上、外国の国家元首が空港に到着すれば、ホスト国は移動式の昇降階段と赤じゅうたんで出迎えるのが通例です。しかし、週末に中国の空港に到着した「エアフォース・ワン」(米大統領の専用機)には、移動式階段が準備されておらず、仕方なしにオバマ大統領が機体の非常出口から出されたはしごを使って空港に降り立つ、というシーンです。

    WSJの記事は、米国のメディアがこの外交非礼を批判したところ、中国外務省側から米国のメディアを批判する声明が出た、というもので、いわば「逆切れ」も良いところです。WSJによると、中国外務省の華春宝(か・しゅんほう、Hua Chunying )報道官が

    「取るに足らないエピソード(small episode)だ」

    と述べ、米国メディアの大騒ぎぶりを批判した、とするものです。また、WSJによると、共和党から今年の米大統領選に出馬しているドナルド・トランプ候補が月曜日、クリーブランドで行われた選挙演説で、

    「これは中国から米国に対し、『帰れ』というメッセージだ」

    と述べ、その場で帰らなかったオバマ大統領の弱腰を強く批判しているそうです。WSJの記事の読者コメント欄を見ると、確かに中国に対する批判と並んでオバマ大統領への批判的な書き込みも見られます。ところが、ニューヨーク・タイムズ(NYT)によれば、そのオバマ大統領本人が、「あれは大した問題ではない」と、仰天の発言をしているそうです。

    Obama Plays Down Confrontation With China Over His Plane’s Stairs(2016/09/05付 NYTより)

    オバマ大統領の「国際感覚のなさ」は今に始まったことではありません。また、中国はこれまでも、日本や韓国、アジア諸国などを相手に、わざと外交儀礼上の「非礼」を働くようなことをしていたことも事実です。しかし、中国が忘れてはならないのは、「相手が悪い」、ということです。米国の場合、大統領本人が「もう良い」と発言したとしても、米国メディア自体を敵に回すことは決して賢明な選択肢ではありません。「取るに足らないエピソード」でここまで米国のメディアを怒らせるとは、現在の中国の政権も相当の「外交下手」です。米国を相手にこれをやったことで、米国市民の中国に対する印象は、相当に悪化したのではないでしょうか?

    WSJが報じる中韓首脳会談

    さて、東アジアといえば、最近の話題の一つは、北朝鮮によるSLBM発射実験に代表される、軍事的緊張の高まりです。これについては今年7月に、在韓米軍への「高高度ミサイル防衛システム」(THAAD)の配備が突如、発表されました。しかし、これに対して中国とロシアが強硬に反発。特に中国は、韓国に対して「THAADを推進する政治家とその家族が中国でビジネスを行うことを禁止する」などの制裁をちらつかせるなどしています。韓国にとっては「北朝鮮の脅威」への対処かもしれませんが、中国にとっては、THAAD自体が軍事バランスの均衡を崩すものと受け止められている格好です。

    WSJでは、「南朝鮮(South Korea)」が中国に対し、ミサイル防衛システムを巡って「懇願した」、と報じられています。

    South Korea Pleads With China Over Missile Shield(米国時間2016/09/05(月) 05:26=日本時間2016/09/05(月) 18:26付WSJオンラインより)

    G20会合に合わせて訪中している韓国の朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領は、習近平・中国国家主席に対し、「THAADは北朝鮮のミサイルの脅威に対する抑止として働く」として理解を求めたものの、習主席は「THAADは地域の軍事バランスを崩す」として、中国としてはTHAADの配備自体に反対するという姿勢を崩していません。いわば、「北朝鮮の無法に備えるため」のTHAADミサイル配備を巡って、事実上の「宗主国」となりつつある中国から強く牽制された格好です。

    ところで、今のところ、朴大統領の任期が満了するのは2018年2月ですが、米軍がTHAADを配備するのは2017年12月を予定しています。この朴大統領の外交力のなさをみると、もしかするとTHAADの配備が当初予定より遅れ、朴大統領の在任中のTHAAD配備が実現しない可能性は十分にあるでしょう。その場合に備えて、日本としても、今からいろいろな準備をしておく必要がありそうです。いずれにせよこの問題は深刻ですので、また別途、稿を分けて議論したいと思います。

    まとめ:G20の形骸化は鮮明に

    ところで、そもそもG20会合は必要なのでしょうか?

    確かに、G20会合は、2008年に発生した世界的な金融危機に一致団結して対処する際には非常に機能しました。しかし、それはあくまでも「百年に一度の金融危機」という例外的な時期に機能しただけの話であり、世界経済が平常を取り戻しつつある昨今においても同じように機能すると考えるのには無理があります。

    G20を構成する国は、G7諸国(日米英独仏伊加)に加え、「BRICS」(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やサウジアラビア、トルコ、オーストラリア、韓国などであり、国家の体制も異なれば、主義・主張・宗教も様々です。実際、中国はいまだに「共産党一党独裁」体制を維持していますし、サウジアラビアは王家の独裁体制です。これに対し、G7諸国は成熟した民主主義社会を形成しており、政治的にも地理的にも全く異なる国が、同一の会議体を構成して世界経済の重要課題を議論するというのにも、無理があります。

    もちろん、世界にはASEM(アジア・ヨーロッパ協力会議体)やAPEC(アジア太平洋協力会議)のような会議体も存在しますし、主義・主張が異なる国が同一の連合を形成しているASEANのような例もあります。それであれば、G20が形骸化しているという事実を踏まえ、あくまでも国連と同じような「象徴的な会議」という位置付けにするのが正しいでしょう。ただ、莫大なコストをかけ、主要国の首脳を一堂に集める会議体が無駄に乱立することが、果たして世界の平和と発展にどの程度寄与するのかが、私にとっては極めて大きな疑問ではありますが…。

    ※本文は以上です。

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    著者のコンタクト先:info@shinjukuacc.com

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