テレビ局のビジネスモデルは行き詰った

テレビ局の経営は、主にスポンサーからの広告料収入で成り立っています。この辺の事情は、読者からの購読料とスポンサーからの広告料収入双方で経営が成り立っている新聞社と大きく異なる点です。昨今のインターネットの発達により、最近では動画サイトを通じて情報を提供する、いわゆる「インターネット番組」が、多数、出現し始めています。インターネットが発達すれば、既存のマス・メディアの経営が圧迫されることは容易に想像できます。こうした中、購読料収入のある新聞社よりも、広告料収入に依存するテレビ局の方が、早く経営難に陥る可能性があるでしょう。

テレビの参入障壁が崩れた!

当ウェブサイトで「グーグルを使った広告」の挿入を開始した、という話題を紹介したばかりですが、もう一つ、興味深い話があります。最近、硬派な情報提供番組が、YouTubeをはじめとする動画サイトで配信され始めているのです。私が個人的に気に入っているのは、「真相深入り!虎ノ門ニュース」という番組です。これは、化粧品・健康食品等で有名な「株式会社DHC」がスポンサーの番組らしいのですが、確認したところ地上波テレビでは放送されておらず、あくまでもニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトでしか閲覧できないようです。そして、木曜日朝8時からの番組は、毎回、参議院議員の青山繁晴さんが出演するため、私は最近、毎回欠かさずに視聴するようになりました。

冷静に考えてみると、この手の「動画配信」がビジネスとして成立するとは、すごい時代になったものです。ニュース・スタジオから生放送しているという意味では地上波テレビで放送される情報提供番組とそっくりですが、最大の違いは、何といっても「通常のテレビ局の放送と比べてコストが安いこと」です。極端な話、マイクとカメラさえあれば、さしたるスタジオ設備なしに事業を始めることができるため、参入障壁が極めて低いのが特徴です。また、視聴者側としても、地上波放送と異なり、テレビ受信設備等を整える必要などありませんし、地方在住者であっても、あるいは地球の裏側にいても、高速インターネット環境さえあれば、世界中どこにいても番組の視聴が可能です。さらに、スポンサー企業としても、自分の会社の広告をリアルタイムで誰が視聴しているかを把握することができるため、出稿した広告の効果があるのかどうかよくわからない地上波テレビと比べると、非常にメリットが大きいと言えます。これをまとめると、図表1のとおりです。

図表1 インターネット番組の特徴
項目内容
設備投資コストがかからない地上波放送設備を整える必要もないし、放送法の認可等も必要ない。その気になれば個人でも始められる
全世界に発信可能極端な話、高速インターネット環境さえあれば、世界中どこにいてもリアルタイムで視聴可能
ユーザーデータ視聴者の属性(年齢・職業・居住地等)別のデータ収集が可能であり、広告出稿者としても広告の効果測定が容易

つまり、動画サイトの起業が相次ぐとともに、インターネットによる高速回線網が普及したことにより、事実上、「テレビ局」への参入障壁が崩れてしまったのです。それだけではありません。テレビ局は原則として都道府県単位で経営しているため、全国ネット番組でもない限り、番組は自局の県内・地域内でしか流すことができません。さらに、同じ時間帯に1つの番組しか流せないテレビ局と異なり、これらのウェブメディアには同時並行的に多数の「インターネット番組」チャネルが存在しています(図表2)。

図表2 テレビがインターネットに敗ける!?
項目内容
視聴可能地域特に地方のテレビ局は自社が存在する県でしか放送できない
同時放送民間テレビ局は1局が1チャンネルしか保有していないため、同じ時間帯に異なる番組を放送することはできない

そうなると、もはやテレビ局がビジネスモデルとして成り立たなくなり始めているのです。

他人より儲けるための三つの方法

ところで、ありとあらゆるビジネスに共通のことがあります。それは、「幸運によらずに他人よりも稼ぐためには三つの方法がある」、ということです。一つ目は「他人よりも努力すること」、二つ目は「他人と競争しないこと」、そして三つ目は「不正をすること」、です(図表3)。

図表3 他人より儲ける三つの方法
項目内容
①他人より努力をすること他人よりも早起きする、他人より長時間働く、他人よりも創意工夫を凝らすなど、努力・苦労すること
②他人と競争しないこと資格を取る、新規参入が規制されている産業で働く、雇用が守られている仕事に就く、など
③不正をすること犯罪、詐欺まがい商法、他人を騙す仕事などで楽をして儲ける

私が一番尊敬するのは①のパターンであり、一番軽蔑するのは③のパターンです。先日も「取材商法に関する注意喚起」に関する記事をこちらのウェブサイトに掲載したばかりですが、たとえば「起業したばかりの会社を狙う悪質な取材商法」、「PCや電化製品に疎い高齢者から高額の代金を徴収するサポート・ビジネス」などのように、「明確な詐欺」ではないものの、信義にもとる行為がその典型例です。

マス・メディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の場合は、この三つの類型でいえば、②、つまり、「規制産業」に該当します。もちろん、東京には民放テレビ局が6社あり、NHKを含めたこれらのテレビ局が「地上波テレビ放送」の世界で競争しているのは事実ですが、ただ、放送業の世界では、いったん放送免許を取得してしまえば、滅多なことで廃業の憂き目に遭うことなどありません。何より、放送免許を新規取得するためのハードルは極めて高いため、新規参入が生じないのです。

その結果、どのテレビ局も「横並び」で似たような番組を制作して放送する、という珍現象が発生します(もっとも、在京テレビ局の中には個性的なテレビ局もあるようですが…)。別に差別化を図らなくても、面白い番組を作らなくても、情報を提供する手段がテレビしか存在しなければ、視聴者は必ずテレビを見てくれるからです。この辺りの事情は、「宅配制度」と「再販売価格維持制度」に守られた新聞業界も似たようなものでしょう。

ただ、長年の寡占競争にアグラをかいてきた結果、テレビ業界が苦境に陥っていることも事実です(図表4)。

図表4 テレビ業界の苦境
項目内容
負のスパイラルと視聴率レベルの低い番組を作って垂れ流した結果、知的階層がテレビを見なくなった結果、テレビ番組の品質全体のレベルが低下する、という「負のスパイラル」に陥り、前世帯視聴率が低下する
他メディアとの競合インターネットが急速に普及したことを受けて、人々がテレビではなくインターネットを通じて情報を受け取り始めている
地上波設備負担の増大地上波テレビ放送に切り替わったことに伴う設備の償却負担が経営の重しとなり始めている

そして、こうした状況の中で「インターネット番組」が急激に増え始めたことで、テレビが得意とする「動画」という土俵でも、テレビ局が競争に巻き込まれ始めたのです。これが、テレビ局が直面する最大の脅威でしょう(図表5)。

図表5 テレビ局の最大の脅威はインターネット番組

20160904I-nET

今のままでは、経営体力の乏しい地方局を中心に、早ければこれから数年以内に、経営破綻する会社が相次ぐことは間違いありません。そして、経営危機に陥る可能性があるという意味では、在京テレビ局も例外ではありません。

「新聞社」と「テレビ局」はマス・メディアの双璧を形成していますが、新聞社の場合は読者からの購読料収入があるため、広告料収入が激減しても、ただちに倒産するとは限りません。しかし、テレビ局の場合、売上高の大半はスポンサーからの広告料収入に依存しています。よって、テレビを視聴者する人が激減すれば、スポンサーもテレビへの広告出稿を控えるようになる可能性が高く、そうなれば、テレビ局は収入を失い、倒産への道が見えてきてしまいます。

こうした中、テレビ局が視聴者の支持を回復するために何をしなければならないかは明白です。それは、「面白いコンテンツを作ること」に尽きます。長年の独占競争に安穏としてきたテレビ局に、簡単にそれができるとも思えないのですが、いずれにせよ、民間テレビ局の経営がどうなるのかについては、私自身としても非常に興味をもって関心を払っている論点の一つなのです。

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