3つの領土問題の「違い」について考える

北方領土、竹島、尖閣諸島―。いずれも、日本の領有権が侵害されているという「共通点」のある事例ですが、しかし、日本に対する影響という意味では、全く異なる問題です。本日は、日本が抱える「領土問題」について、私自身の考え方を示してみたいと思います。

改めて示す、領土問題

まず、一番重要な点を申し上げておきます。それは、「領土問題はどの国にとっても譲ることができない問題である」、ということです。

英国は1980年代に、海外領の一つである南大西洋上のフォークランド諸島をアルゼンチンから取り戻すために、軍艦を派遣して戦闘を行いました(いわゆるフォークランド紛争)。私の記憶では、ある政治学者は「民主主義国家同士では戦争は発生しない」という法則を提唱していたはずですが、実際には「領土問題」で、英国とアルゼンチンという「民主主義国家同士」が、1980年代という「近代」において、戦争を行っているのです。我々は、この事例をしっかり覚えておく必要があるでしょう。

そのことを踏まえたうえで、本日の本論に入っていきます。外務省のウェブサイトから引用・加工しておきます(図表)。

図表 日本が抱える領土問題
問題概要紛争相手国
北方領土問題北方領土問題とは、択捉島、国後島、色丹島の3島、及び歯舞群島を、1945年8月28日から9月5日までに占領したとされる問題ソ連→ロシア
竹島問題サンフランシスコ平和条約発効直前の1952年1月、韓国が「李承晩ライン」を一方的に設定し、その後、竹島に警備隊員などを常駐させるなどの不法占拠を続けているもの韓国
尖閣問題1968年秋の国連調査で東シナ海に石油埋蔵の可能性があるとの指摘がなされた後の1970年代以降、中国ないし台湾が、尖閣諸島の領有権を主張するようになったもの中国、台湾

ところで、この図表は外務省のウェブサイトから作成したのですが、皮肉なことに、これらの問題のうち多くは、外務省の不作為により放置され、それどころか、より問題が大きくなってきたという側面があります。これについて、じっくりと見て参りましょう。

北方領土問題は棚上げを!

日本が抱える領土問題の中で、私個人的に、最も取締役会であると考えているのは「北方領土問題」です。なぜなら、この問題に「戦後日本の外務省の不作為」が詰まっているからです。

事実関係を確認しておきます。第二次世界大戦後に日本が失ったのは、主に次の地域です。

  • 南樺太
  • 千島列島(得撫(うるっぷ)島以北の部分)
  • いわゆる「北方四島」(択捉、国後、色丹の3島と歯舞諸島)

しかし、このうち日本が領有権を主張しているのは、南千島部分のみです。まず、日本はソ連が「日ソ不可侵条約」を一方的に破って、長崎に原子爆弾が投下された1945年8月9日に突如、侵攻してきたことを糾弾すべきです。

旧ソ連の国際法違反・不法行為はいくつかありますが(例:日本兵のシベリア抑留)、ここでは領土問題に絞って申し上げることとします。南樺太にソ連が進行したのは8月11日ですが、北方四島が占領されたのは8月28日以降であり、歯舞諸島全域が占領されたのは「降伏文書調印」後です。このように考えていくならば、日本が既に戦闘停止し、武装解除した後で侵攻するという、「火事場泥棒」のようなことをされたという事実を、まずは我々日本人が忘れてはなりません。

ただ、外務省は「北方四島は日本の固有の領土だ」という理屈でソ連(現・ロシア)に領土返還を要求していますが、外交交渉のみで返還を求めるのであれば、正しくは「南樺太と千島列島の全域の返還」を問題にすべきでした。さらに、1991年のソ連崩壊直後など、平和的に取り返そうと思えば取り返せるチャンスはいくらでもあったにもかかわらず、現在に至るまで、日本は北方領土の返還を受けていません。

では、これについてどのように考えるべきでしょうか?

もちろん、私個人的には、旧ソ連の「火事場泥棒」のような行為に強い怒りを抱いていますし、そのことを我々日本人は忘れてはならないと思っています。しかし、北方四島を今になって返還してもらったとして、どうすれば良いのでしょうか?確かに、この海域の漁業資源は豊かです。しかし、北方四島には、現実問題として、日本の本土にあるような電力、水道、舗装された道路、港湾、空港といったインフラ施設が存在しませんし、日本人コミュニティは事実上、消滅してしまっています。

私は前職在職中に、全国各地を津々浦々、頻繁に出張していましたが、日本の国土であれば、どこに行ってもだいたい郵便局や金融機関(地銀や信用金庫等)、コンビニエンスストアがありますし、どんな田舎でもたいていの道は舗装されています。しかし、貧しいロシアに何十年も実効支配されてきた北方四島では、道路、港湾、空港などのインフラが不十分です。さらに、日本人の元島民も高齢化しており、いまさら領土の返還を受けたところで、「日本人の元島民(やその子孫)が直ちに入植する」とという状況にありません。

もう一つ、問題があります。それは、現にそこに住んでいるロシア国籍の住民の取り扱いです。日本に返還されたら、その地域に住むロシア国籍住民は全て退去しなければならないのか、それとも引き続き北方領土に居住する権利を得るのか、という問題があります。あるいは、日本語・ロシア語という言語の問題をどう解決するのでしょうか?非常にハードルが高いのが実情です。

そこで、私自身は、たとえば北方領土の主権が日本に帰属することを認めさせ、ロシアに租借権を認める、といった「現実的な解決」を探ることが必要だと思います。ロシアでは現在、クリミア半島の強制併合の影響で、欧米諸国から厳しい経済制裁を受けていますが、今のところロシア国内でのプーチン政権に対する支持率は高く、このことは、ロシア国民が「領土問題で一歩も引かない現政権を支持している」という証拠です。「強権」で知られるプーチン大統領も、結局のところは民主的手続で選出された大統領であり、ロシア国民の理解が得られない領土返還は非現実的でしょう。

そうであるならば、日本としては「北方領土の領有権の主張自体はやめないが、いったんこの問題を棚上げし、東シベリアでの資源開発などを通じたロシアとの(限定的な)経済協力を進める」というのが、一番無難かつ現実的な選択肢であるに違いありません。

竹島・尖閣は管理と放置

一方、竹島問題と尖閣問題については、北方領土問題と真逆に、何としてでも「日本の主張を百パーセント相手に飲ませる」ことが必要です。というのも、竹島も尖閣諸島もいずれももともとは無人島(あるいは人が居住するには不適な土地)です。そして、韓国や中国がこれらの無人島の領有権を主張しているのは、ソ連(とその後継国家であるロシア)が北方領土を不法占拠したこととは全く別の狙いがあるからです。

それは、ずばり「日本を屈服させること」、です。

日本は本質的に、韓国が逆立ちしても敵わない国であり、それだけに、韓国は竹島問題だけでなく、歴史問題、日本海呼称問題、慰安婦問題など、ほかのあらゆる機会を使って日本を侮辱し、貶め、そして屈服させようと必死になっています。そうであるならば、韓国に対しては「相手が怒っているのだから、この場はとりあえず謝っておいこう」という対応が誤っていることは明らかです。

また、中国は「偉大なる中華帝国の再興」を掲げており、アジア全域を属国として支配するうえで、日本の存在が邪魔で仕方がありません。当然、中国はあらゆる手段を使って日本を弱体化させようと努力しています。米国のクリントン夫妻にチャイナ・マネーが流れていることは米国内では有名ですが、遠く離れた米国でロビー活動をするくらいであれば、既に日本国内でも中国共産党の工作員は多数、活躍していると見るべきでしょう。もしかして、日本国内に存在する左翼メディア、左翼政治家らは、中国共産党からの資金供与を受けているのかもしれませんね。

ただ、現実問題として、竹島を韓国から武力で奪還することなどできませんし、中国公船が尖閣周辺海域に出現しても、外務省が中国大使を呼び出して抗議するくらいのことしかできません。なぜなら「日本国憲法」の制約があり、日本は外国を相手に戦うことが禁じられているからです(日本国憲法第9条第2項)。

そうであるならば、仮に私自身が首相の立場にあったとしたら、竹島問題にしても尖閣問題にしても、「事態が悪化しない程度に管理しつつ、基本的に放置する」という対応が望ましいと考えます。なぜなら、日本国民に対して「日本政府としては日本国憲法の理念に従い、中韓に対して話し合いでの解決を求めているが、彼らは国際法を無視して軍事的に日本領を侵略している」と説明できるからです。要するに、「憲法をさっさと変えましょう」、と主張するのです。

そして、実際に安倍総理は、少なくとも尖閣問題については、その通りのことをなさっています。尖閣諸島は日本が実効支配しており、日本政府は「領土問題など存在しない」とする姿勢を維持。8月の大規模な中国船侵入事件の際は、中国大使に口頭で抗議しつつ、米国に「尖閣諸島は安保条約の適用対象」と言わしめるなど、事態が悪化しないように管理しつつも、基本的に放置しているからです。その意味で、安倍政権の現在の尖閣問題に対する対処はパーフェクトです。

冒頭に示した、「領土問題はどの国にとっても譲ることができない問題である」という命題を改めて考えてみましょう。現在の中国では、経済で行き詰まり、政治的自由もなく、環境破壊が進み、社会格差が深刻な状況にまで至っています。こうした中、中国共産党が「振り上げたこぶし」は、なかなか下すに下せない状況にあります。したがって、中国人民解放軍が東シナ海海域で「暴発」するリスクがありますし、日本が尖閣事態管理に成功したとしても、中国人民解放軍は東シナ海ではなく、南シナ海でフィリピンやベトナムとの戦争に入る可能性が出てきます。つまり、早晩、中国の暴発は避けられないと見るべきでしょう。

どうして韓国を追い込まないのか?

ただ、竹島問題については、やはり安倍政権の韓国に対する「追い込み」が足りません。なぜなら、韓国が竹島を不法占拠しているという事実がある一方、日本としては竹島領有の確固たる法的根拠を持っているわけですから、「法に基づいた解決」を図るなら、さっさとハーグにある国際司法裁判所(ICJ)に単独提訴すべきだからです。

昨年冬の慰安婦合意にしてもそうですが、どうも安倍政権は、2015年春先ごろから韓国に対する外交を大きく軟化させたように思えます。おそらくその理由は、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権を懐柔し、少なくとも朴大統領が在任中(2018年2月まで)は、絶対に韓国が日本に逆らえないような状況を作るためでしょう。実際、今までのところ、朴大統領による「告げ口外交」は影をひそめていますから、こうした安倍総理の狙いは、今のところ奏功していると言って良いと思います。

ただ、韓国が日本に対して抱いている邪(よこしま)な意図を考えるなら、短期的に韓国を懐柔するよりも、やはり長期的にはこの国を「処理」していくことが重要です。

さて、「領土問題はどの国にとっても譲ることができない問題」であるという命題は、韓国にも該当します。そして、韓国の場合、軍事力は日本より遥かに弱く、竹島を支配するだけの国際法上の根拠もなく、日本が竹島の武力奪還、もしくはICJへの単独提訴の措置に出てしまえば、韓国は竹島を失い、韓国の「時の政権」は間違いなく崩壊するでしょう。

その意味で、日本が韓国を「今、追い込まない理由」は、追い込んだらすぐに韓国が崩壊しかねないからです。私など性格が悪いですから、「さっさと追い込んで国を崩壊させてやればよいではないか」などと言ってしまいますが、少なくとも米国の軍事的同盟国というステータスにある状況で韓国を崩壊に追い込むと、日本は米国との関係を損ねることになりかねません。

その意味で、現在の安倍政権は、「韓国を崩壊させるトリガー」を引くタイミングを待っているのだとしたら、それはそれで賢明な判断と言えるかもしれません。2020年の東京五輪を成功させ、日本国憲法改正を実現し、日米同盟を強化し、米韓同盟を終了させ、次期政権への引き継ぎを万全なものとし、韓国が中国の「属国」に戻ったのを見極めたうえで、韓国を崩壊させるためのトリガーを一気に引くというのなら、一応、理解できなくはありません。

その意味で、私自身、現在の安倍政権の対韓政策には強い不満もあるものの、もう少し、安倍政権の対韓政策を見極めたいと考えています。ただ、欲を言えば、安倍総理ご自身が、対韓政策について直接、国民に対して説明して欲しいな、という希望もあるのですが…。

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